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第5回 バイオプラスチックは廃プラ問題の活路を開くのか?
廃プラスチック問題の解決策のひとつとして、最近注目されているバイオプラスチック。しかし、なんとなくよさそうだというイメージが先行するばかりで、どういうものかを正しく理解している人はまだ多くありません。今回は、バイオプラスチックの特性を中心に紹介します。
文・横尾真介(日本バイオプラスチック協会事務局長)
PROFILE
横尾真介(よこお・しんすけ)
1980年早稲田大学卒業、三菱化成工業株式会社(当時)に入社。主に石化系樹脂の販売部門を歩む。2017年より現職。
日本バイオプラスチック協会
バイオプラスチックの普及促進、試験・評価制度の確立などを目的に、1989年に設立された民間団体。主な活動としては、識別表示制度の運営・国際規格ISOへの対応・JIS原案作成・バイオプラジャーナルの発行や展示会への出展等による啓発活動・会員への情報提供・行政への提言、協力など。当協会はバイオプラスチックの普及促進を通じて、持続的な循環型社会形成に寄与すべく取り組んでいます。英文名Japan BioPlastics Association(略称JBPA)。
ホームページ:日本バイオプラスチック協会
バイオプラスチックには2種類ある
「バイオプラスチック」は、「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の2つのプラスチックの総称です【図1】。
バイオマスプラスチックは、その名の通り、バイオマス(再生可能な有機資源)を由来としたプラスチックのことです。サトウキビやトウモロコシ、ヒマなどの原料からデンプンや糖、油脂を抽出し、発酵や合成により化合物のポリマーを作り出します。ただし、世の中に流通しているバイオマスプラスチックすべてが100%バイオマス由来とは限らず、石化由来の原料(※1)と併せて部分的に使われているのも多くあります。
一方、生分解性プラスチックはその名の通り、自然界の微生物によって分解されるプラスチックのことです。原材料は、「生物由来」のものと「石化由来」のものがあります。使用後は微生物の働きにより、水と二酸化炭素に分解されます【図2】。「土に還る」と思われていますが、これは誤解です。土になるわけではありません。
- バイオプラスチックとはバイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総称であること
- バイオマスプラスチックは原料がバイオマスを使ったプラスチックのことで生分解するかどうかは関係ない
- 生分解性プラスチックは生分解するという機能を持ったプラスチックのことであり、原料が石化由来かバイオマス由来であるかは関係ない
- バイオマスプラスチックのなかには生分解する機能を持ったものもある
となります。
少し複雑ですが、ここが、バイオプラスチックを理解するうえで重要なポイントになります。
環境問題への貢献の形がちがう
「バイオマス」と「生分解性」のそれぞれのプラスチックは、環境問題に対して果たす役割も違います。
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1.バイオマスプラスチックは、地球温暖化の防止に役立つ
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石化由来のプラスチックは、焼却処理の段階で地球温暖化効果ガス(CO2)を排出してしまい、地球温暖化促進が懸念されています。しかし、植物などを由来としたバイオマスプラスチックは、燃焼時に排出するCO2がゼロとしてカウントされます(それまで光合成によって吸収された分が排出されるという意味。カーボンニュートラルと言われる)。また、限りある化石資源の使用削減にも貢献します。
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2.生分解性プラスチックは、廃棄時の環境負荷を軽減
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生分解性プラスチックは、土中に埋めたり、きちんと分別したうえで回収され、コンポストで適切に処理されれば、水と二酸化炭素に分解され、そのまま自然に還ります。食品廃棄物などの有機物とも一緒に処理が可能なので、その後、農業用の堆肥として利用することもできます。バイオプラが土に還ると誤解を受けているのは、生分解性プラスチックは土に埋めることで分解の特性を発揮するというイメージからでしょうか。
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最適な用途と、価格を上回るメリット
従来の石化由来のプラスチックに比べ、価格が割高であるバイオプラスチックが使われているのはどのような分野なのか、その一部の例をご紹介します。
バイオマスプラスチックにはある程度の強度が期待できるため、買い物用のレジ袋やペットボトル、繊維に加工されて使われたり、中には電子製品の一部になっていたりします。
一方、生分解性プラスチックは、分解するという特性から、従来のプラスチックと同様の耐久性を求めることはできません。食料廃棄物を入れるためのコンポスト袋や、育苗ポットなどへの利用には非常に適しています。もっとも代表的なのは、農業用のマルチフィルムや農業資材のネットやロープで、使用後、不要になったら耕運機でそのまま土に漉(す)き込んでしまえるので、廃棄の手間が省けます。また、本来産業廃棄物として出す経費も削減できることから、高齢化が進んでいる農家にとって多少のコスト高を上回るメリットもあるようで、年々市場でのシェアが拡大しています。
なお、海洋プラスチック問題の解決にも期待されがちな生分解性プラスチックですが、海中(※2)では分解されにくく、今後の研究に期待されるところです。
生分解性プラスチックは、可燃ごみとして焼却されると生分解性という機能を発揮することができませんし、生分解するということでポイ捨てされてそのまま放置されるといった不適切な処理をされては、プラゴミを増やすことになりかねません。適切に管理された環境で機能を発揮するということに留意するべきです。
歴史は古くとも長く続く不遇の理由
従来の石化由来のプラスチックに比べて環境負荷が少ないバイオプラスチックですが、あまり利用されていないことには理由があります。
バイオプラスチックの研究の歴史は古く、1920~30年代より欧米で研究されてきました。これまでに何回か注目を集めることもありましたが、期待される性質や特性を発揮することができず、社会実装化は進みませんでした。
2018年以降、地球温暖化効果ガスの削減や海洋プラスチックごみの問題により、バイオプラスチックは社会の大きな関心を集めていますが、直近では、2005年に愛知県で開かれた「愛・地球博」の開催とともに高まった環境意識の向上により注目されました。
2005年ごろには多くの企業がバイオプラスチックの研究開発に参入していたのですが、コストや性能面で石化系プラスチックとの差は大きく、また、2008年にリーマンショックが起こったことで撤退する企業が相次ぎ、バイオプラスチック業界は低迷期に入ってしまいました。
しかし、今回は、世界的な環境意識の高まりによってバイオプラスチックが再認識されたものであり、一過性のものではないと考えています。
バイオマスプラスチックの原材料のサトウキビなどは、膨大な量の確保が必要ですが、海外のような大規模事業でないと量産できず、日本においては現在、ゼロ生産と言っても過言ではありません。2年前くらいから起きているバイオプラスチックブームはEUを中心に世界規模で拡大しているため、いくつかのバイオプラスチックによっては玉(原料)不足の状態が続いています。国内の市場におけるバイオプラスチックの使用量は5万トンに足りず、国内市場でのシェアはわずかに0.4%程度です。少しずつ割合は増えてきていますが、まだまだ存在感があるとは言えません。
バイオプラスチックは使い捨てにこそ利用されるべき
廃プラスチック問題は3R(※3)が大原則です。なるべく使わず、使った場合はリサイクルする。リサイクルも、マテリアルリサイクルがだめなら、ケミカルリサイクルでもいいでしょう。しかし、なかにはそこからこぼれおちてしまう使い捨ての製品などが出てきてしまいます。そこにバイオプラスチックを充てることで、環境負荷を少なくして、循環経済社会の一部を担うことができるのではないかと思います。
EUを中心に、需要が急激に伸びているバイオプラスチックですが、現在、世界で統一された認証規格はありません。昨年、経済産業省は海洋生分解性プラスチックについてわが国から国際標準規格(ISO)(※4)を提案し、制定するという計画を発表しました。日本におけるバイオプラスチック市場の拡大には、需要の高まり、つまり消費者の意識の高まりも大切な要因となります。みなさんの身の回りにも、日本バイオプラスチック協会の認証ロゴ【図1】のついた商品があるかもしれません。ぜひ、気にしてみてください。
※1 石油から作られた化学製品
※2 海洋生分解性を持つ製品として国際認証を得ているのは、世界でも数製品しかない。そのなかのひとつ、カネカ社製の植物由来生分解性ポリマーPHBHだけが、世界で唯一商業ベースで生産されている製品であり、ヨーロッパなどで容器として利用されている
※3 Reduce(リデュース)Reuse(リユース)Recycle (リサイクル)の3つのRの総称
※4 スイスのジュネーブに本部を置く非政府組織International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略称。その目的は国際的な標準となる規格を制定することで、ISOが制定した規格を「ISO規格」と呼び、制定や改訂は日本を含む世界162か国の参加国の投票によって決定する
※5 2021 年7月より、グリーンプラという名称を廃止し、「生分解性プラ」に名称を変更。グリーンプラマークを廃止し、新たに「生分解性プラマーク」、「生分解性バイオマスプラマーク」の 2 種類が制定されました。詳しくは、以下のサイトをご覧ください。
・グリーンプラ識別表示制度の変更について
会誌『野鳥』2020年11・12月号(No.849)より(会誌『野鳥』の詳細はこちら)
海洋プラスチックごみ問題 特別連載企画
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