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第8回 マイクロプラスチック汚染の脅威1 “生態系汚染”
毎年約4億トン生産されているプラスチックのうち、一部が適切に処理されずに海に流出して漂い、地球規模で大きな問題となっています。海に流出したプラスチックは、海洋生物が誤って食べ内臓が傷つくなどの影響のほか、細片化した「マイクロプラスチック」(5mm以下の大きさ)【写真1】となり、有害化学物質を吸着したり、あるいは添加されている化学物質によって海洋生物に悪影響を及ぼすことが、最近の研究で明らかになっています。本連載の最終章となる2号にわたり、特にマイクロプラスチックの弊害について取り上げます。
文・高田秀重(東京農工大学 農学部 環境資源科学科)
PROFILE
高田秀重(たかだ・ひでしげ)
東京農工大学農学研究院環境資源科学科教授。専門は環境中の人工化学物質の分布と輸送過程の解明。1998年からプラスチックと環境ホルモンの研究を開始し、2005年以来、「International Pellet Watch」を主宰。2012年から19年まで、国連の海洋汚染専門家会議のマイクロプラスチックワーキンググループのメンバー。「現場百ぺん、予防原則、No single-use plastic!」を信条としている。
海を汚染するプラスチック
誤飲などによる海洋生物被害の実態
世界中で推定27万トンとされる陸から海に流れ込んだプラスチックは、生物によって分解されにくい性質から、長期間ごみとして海洋を漂い、汚染しています。そして、多くの海洋生物がプラスチックをエサと間違えて誤食することで、生体に悪影響を及ぼしていることが明らかになっています。
一般にプラスチックは水面に浮くことが多く、比較的大きなプラスチック片は、ウミガメや大きな魚などの口から直接取り込まれます。鳥類では、アホウドリなどの海鳥が海面を漂うプラスチックをイカやクラゲと間違えて食べ、消化管を傷つけたり、さらにはヒナに与えることで胃に固形物として残留することで満腹感が生じ、最終的に栄養失調などの弊害が起きています【イラスト・写真2】。
また、マイクロプラスチックになると、小魚がプランクトンと間違えて食べています。プラスチックの加工時に使われる添加剤には内分泌撹乱(かくらん)作用を起こす疑いのある化学物質が含まれるため、影響が懸念されています(次号で掲載)。
写真1/日本列島から1,000km離れた太平洋上で、気象庁が採取したマイクロプラスチック(写真:高田秀重)
写真2/ミッドウェー島のコアホウドリのひなの死骸にはいっているプラスチック。死因は不明(写真:綿貫 豊)
プラスチックごみをエサと間違えて誤食したりヒナに与えることで、栄養失調などにより命を落とす
マイクロ化すれば回収不可能
海への流出防止のためには、まず削減
マイクロプラスチックの抱える問題のひとつは、いったん海に入ると回収が非常に困難になることでしょう。海水、砂や泥、プランクトンと混在したマイクロプラスチックを取り除くことは、ほぼ不可能です。
マイクロ化が起こるのは、河川や海岸で紫外線にさらされたり、波によって粉砕されることが主な原因と考えられていますが、最近では、陸上で微細化し、雨水と共に排水溝から河川、最終的に海へ流出している量も無視できないということがわかってきました【図1】。
海への流出を減らすためには、陸域で、川に入る前や、微細化する前に回収すること、海岸でのごみ清掃の活動等が有効ですが、より大切なことは、私たちが日常生活の中で出す、使い捨てプラスチックの量を削減することです。マイクロ化する前のプラスチックごみを回収することと、ふだんの私たちの暮らしの中で使われ、廃棄されているプラスチックを減らしていくだけでも、海洋汚染を抑えることができます。
世界中の海で観測
消費量が増えたころから蓄積
私は東京湾や多摩川で調査を行なっていますが、1970年代以降に河川などから海へ流出したマイクロプラスチックの多くが、東京湾の海底の泥に蓄積していると推定されています。
また、東京の皇居の濠(ほり)の泥のマイクロプラスチックの溜まり方を調べた結果、1950年代の泥からは微量でしたが、2000年にはその10倍の量が検出されました。このことはプラスチックによる汚染が消費量の急増と呼応していることを示しています【図2】。
現在、50兆個ものマイクロプラスチックが世界中の海を漂っているとされていますが、このまま手を打たなければ、海に流出するプラスチック量は年々増え、20年後には10倍になるという推定もあるほどです。
私が世界各地で採取した泥を分析した結果、タイのタイランド湾、マレーシアのジョホール海峡、南アフリカのダーバンなどでも観測されました。マイクロプラスチックによる汚染は世界規模で広がっています。
食物連鎖で蓄積する化学物質
数多くの生物から検出
微細化したプラスチック片は、生物にとって取り込みがいっそう容易になります。
マイクロプラスチックは動物プランクトンにも摂取され、食物連鎖を通じて有害な化学物質が蓄積されて生態系全体に汚染が拡がる可能性が大きくなっています。
プランクトンに取り込まれたマイクロプラスチックは、二枚貝や小魚が摂食します。私たちが多摩川河口で行なった生物調査では、ハゼ、貝類、カニなど、生態系のさまざま生きものから検出されています。東京湾で捕獲されたカタクチイワシやサバからも見つかっており【図3・写真3】、イワシ類などを捕食する、より高次の生物種への移行が懸念されます。
また、海鳥の胃の中からのプラスチック検出頻度は年々増えてきており、現在までにすべての海鳥の78%でプラスチック摂取が確認されており、2050年までに99%に達するとも予測されています。
海鳥の個体数は世界的に減少しており、国際自然保護連合(IUCN)によれば、海鳥346種のうち約28%は絶滅危惧種であり、海洋プラスチックの地球規模、かつ長期的な影響は、これらの海鳥の危機をさらに加速させる可能性があります。
次回は、体内に取り込まれたプラスチックに含まれる有毒化学物質が生きものに与える影響について紹介します。
会誌『野鳥』2021年5・6月号(No.852)より(会誌『野鳥』の詳細はこちら)
海洋プラスチックごみ問題 特別連載企画
- 第1回 プラスチックの大きな割合を占める容器包装と、容リ法の問題点
- 第2回 日本のリサイクル率と廃プラスチック処理の現状と課題
- 第3回 日本政府はなぜ、海洋プラスチック憲章に署名しなかったのか
- 第4回 サーキュラー・エコノミーに基づくプラスチックごみ問題の解決
- 第5回 バイオプラスチックは廃プラ問題の活路を開くのか?
- 第6回 代替品や熱回収より「総量削減・リユース」を!
- 第7回 脱プラスチック、どう進める?
- 第8回 マイクロプラスチック汚染の脅威1 “生態系汚染”
- 第9回 マイクロプラスチック汚染の脅威2“化学物質による生物への影響”
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