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第2回 日本のリサイクル率と廃プラスチック処理の現状と課題
私たちがごみとして出したプラスチックは、回収された後、どれくらいの割合が、どのような方法で処理されているのでしょうか。今回は、その内訳がどうなっているのか、また、日本で主流である「熱回収」という焼却処理がベストの処理方法かどうか、抱えている問題点を解説します。
文・三沢行弘(WWFジャパン プラスチック政策マネージャー 兼 シーフード・マーケット・マネージャー)
PROFILE
三沢行弘(みさわ・ゆきひろ)
企業等で国内外の事業の企画・推進に携わった後に、WWFジャパンに入局。「2030年までに世界で自然界へのプラスチックの流入をゼロにする」というWWFのビジョン実現に向け、政策決定者や企業関係者に働きかけ、プラスチックの大幅削減を前提とした資源循環型社会の構築に向けて取り組む。また、水産サプライチェーンの改善を通じた国内外での持続可能な漁業・養殖業への転換も推進する。
WWF
約100か国で活動している環境保全団体。WWFとは「World Wide Fund for Nature(世界自然保護基金)」の略。地球上の生物多様性を守り、人の暮らしが自然環境や野生生物に与える負荷を小さくすることによって、人と自然が調和して生きられる未来をめざしている。
廃プラ処理の優先順位
プラスチックを含めたごみの処理には国際的に合意された優先順位があり、プラスチックで特に考慮すべき代替品への切り替えを含めて考えると、【図1】のようになります。絶対的な削減(リデュース)を最優先し、次に同じものを繰り返し使用する再使用(リユース)、そして、新たに製品を作り直す再生利用(リサイクル)、及び、持続可能な素材を自然の再生能力の範囲内で使用した代替品への切り替えとなります。これらで対応できない場合に、熱回収(エネルギー回収)、管理された埋め立て、及び、単純焼却の順で検討されるべきです。そして、このように管理された方法で処理されない廃プラが世界全体で約3割あり、自然界に流出しています(※1)。
プラスチックのリサイクルには、「マテリアルリサイクル」と「ケミカルリサイクル」という2つの方法があります。マテリアルリサイクルは、廃プラを原料としてプラスチック製品に再生する方法です。廃プラを化学的に分解するなどして、化学原料に再生する手法がケミカルリサイクルです【図2】。現在の技術水準では、処理過程でよりエネルギーの消費が少ないマテリアルリサイクルのほうが望ましいと言えます。
なお「熱回収」とは、ごみを燃料にしたり、焼却して生じた熱エネルギーを利用する処理方法です。日本では、「サーマルリサイクル」と呼ばれるなど、誤ってリサイクルのひとつと位置づけられることもある「熱回収」ですが、資源を回収して再生利用するリサイクルのことではありません。
日本における廃プラ処理の内訳
日本の廃プラ発生量は、アメリカ、中国に次いで世界で3番目ですが、日本での処理体制はある程度整備されており、陸域からの海洋プラスチックの推定流出量は、世界で30位です(※2)。しかし、それでも推定で年間3万6千トンものプラスチックが日本の陸域から海洋流出していることには、注意が必要です。
処理について、詳しく見ていきます。日本で2018年に発生した891万トンの廃プラの内、56%となる503万トンが熱回収処理、28%の247万トンがリサイクル(マテリアルリサイクル及び、ケミカルリサイクル)処理されています(※3)【図3】。
日本政府が2019年5月に策定した、プラスチックの資源循環を総合的に推進するための「プラスチック資源循環戦略」において、リサイクルと熱回収を合わせた数値を有効利用率としており、これを2018年の実績に当てはめると、84%となります。有効利用率をリサイクル率と勘違いする人が多いかもしれません。しかし、上述の通り、熱回収はリサイクルではありません。
海外輸出が中心だった日本のリサイクル
それでは、日本の現状をどのように考えればいいのでしょうか? 廃プラの国内でのリサイクル率は、18%でしかありません(※4)【図3】。
リサイクルは輸出が中心でした。2016年のマテリアルリサイクルの67%(138万トン)がリサイクル用の原料としての海外輸出でした(※5)。アジアを中心としたこれら輸出先の国々の多くでは、廃プラを管理する仕組みが十分整備されていません。もちろん輸出されたものが直接自然界に流出していたわけではありませんが、主な廃プラの受け入れ国が、海洋プラスチック発生の上位を占めているのです。
輸出される廃プラには、国内でのリサイクルに適さない汚れたものも多く含まれていました。世界で発生する廃プラの約半分を輸入してきた中国では、リサイクルに際しての廃プラ洗浄による河川の汚染や従事者への健康配慮などから、2017年末より生活系の廃プラの輸入を禁止し、その後禁止対象を拡大しています。この分をマレーシアやタイ、ベトナム等に受け入れてもらおうとしましたが、これらの国々でも同様に輸入の禁止や規制が始まっています。
これにより、国内での廃プラ処理に支障が生じています。そこで環境省は2019年5月に、産業廃棄物の廃プラの焼却処理を受け入れる市町村に対し、交付金を支給する通知を出しています。さらに、有害廃棄物の輸出入を規定するバーゼル条約の2019年5月の締結国会議において、リサイクルに適さない汚れた廃プラを規制対象とする改正案が採択されました。2021年1月より、汚れた廃プラを輸出する際に相手国の同意が必要となることから、これまでのような輸出は実質的に不可能となります。
熱回収は地球温暖化を加速させる
日本では熱回収が主流であり、単純焼却とあわせて廃プラの64%が、焼却に基づいた処理をされています。熱回収は、廃プラを焼却する際に発生する熱エネルギーの一部を活用できるという利点があります。しかし焼却することで、プラスチックは資源として循環せず、新たな大量生産に結びつきます。プラスチックは、その製造過程と焼却処理過程の双方で、温室効果ガスである二酸化炭素を発生させ、地球温暖化を加速させることになります。よって熱回収は、リデュ―ス、リユース、リサイクルで対応できない場合に検討すべき処理手法です。
輸出に頼ることができなくなったこともあり、日本で発生する廃プラの量は、すでに処理能力の限界を超えています。そして地球温暖化への対応を考慮すると、二酸化炭素を継続的に発生させる大量生産と焼却の双方を助長することになる熱回収処理施設を、中長期的に維持・増設していくという選択肢をとるべきではありません。そこで国内でのリサイクル体制を拡充していく必要がありますが、世界で3番目に多い廃プラの発生量を減らさずに、現状で2割にも満たない国内でのリサイクル率を100%にすることは不可能です。原則通り、まずリデュースとリユースにより廃プラの発生量を抑制した上で、確実にリサイクルをしていくことが求められます。
代替品の使用をプラスチックのリデュースと主張している事例が散見されますが、「絶対的な削減」を意味するリデュースととらえることはできません。確かに紙などは、自然界へ流出した場合の生態系への影響は、プラスチックよりも限定的です。しかし紙や生物由来のバイオマスプラスチックに切り替えたとしても、これら代替品の使用により、新たな環境負荷が生じます。
代替品の使用については次の3つを総合的に考慮すべきです。
代替品の原料の持続可能性:たとえば第三者認証を受けたFSC認証の紙や木材は、持続可能な原料を使用していると言えます。
代替品の資源循環:使用後に回収されリユースやリサイクルされなければ、代替品の資源が循環していることになりません。
適正範囲内での使用:年間4億トンも生産されるプラスチックを他の素材で代替することは不可能です。たとえ適正な範囲内で使用すれば持続可能である原材料であっても、使用量が自然の再生能力を超えた時点で、環境への負荷は深刻なものとなります。
熱回収による処理をストップするわけにはいきませんが、中長期的には廃プラ処理の主流として熱回収を位置づけていくことは避けなければなりません。プラスチックの使用を抑えることを基本としつつ、過度に代替品に頼らずに着実にリサイクルを推進していくことが、今後の日本の廃プラ処理には求められています。
※1:de Souza Machado et a(l. 2017)
※2:Jambeck et a(l. 2015)
※3、4:プラスチック循環利用協会(2019)
※5:プラスチック循環利用協会(2017)
会誌『野鳥』2020年7月号(No.846)より(会誌『野鳥』の詳細はこちら)
海洋プラスチックごみ問題 特別連載企画
- 第1回 プラスチックの大きな割合を占める容器包装と、容リ法の問題点
- 第2回 日本のリサイクル率と廃プラスチック処理の現状と課題
- 第3回 日本政府はなぜ、海洋プラスチック憲章に署名しなかったのか
- 第4回 サーキュラー・エコノミーに基づくプラスチックごみ問題の解決
- 第5回 バイオプラスチックは廃プラ問題の活路を開くのか?
- 第6回 代替品や熱回収より「総量削減・リユース」を!
- 第7回 脱プラスチック、どう進める?
- 第8回 マイクロプラスチック汚染の脅威1 “生態系汚染”
- 第9回 マイクロプラスチック汚染の脅威2“化学物質による生物への影響”
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