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第4回 サーキュラー・エコノミーに基づくプラスチックごみ問題の解決
プラスチックの原料となる石油などの化石燃料も、地球上の限りある天然資源の一つです。天然資源の利用を含めて経済や社会全体を、従来の一方通行型(リニア)のものから、循環型(サーキュラー)なものへと転換していく「サーキュラー・エコノミー」というコンセプトが、ヨーロッパを中心に世界に普及しはじめています。これに基づいたプラスチックごみ問題の解決について考えてみましょう。
文・三沢行弘(WWFジャパン プラスチック政策マネージャー 兼 シーフード・マーケット・マネージャー)
PROFILE
三沢行弘(みさわ・ゆきひろ)
企業等で国内外の事業の企画・推進に携わった後に、WWFジャパンに入局。「2030年までに世界で自然界へのプラスチックの流入をゼロにする」というWWFのビジョン実現に向け、政策決定者や企業関係者に働きかけ、プラスチックの大幅削減を前提とした資源循環型社会の構築に向けて取り組む。また、水産サプライチェーンの改善を通じた国内外での持続可能な漁業・養殖業への転換も推進する。
WWF
約100か国で活動している環境保全団体。WWFとは「World Wide Fund for Nature(世界自然保護基金)」の略。地球上の生物多様性を守り、人の暮らしが自然環境や野生生物に与える負荷を小さくすることによって、人と自然が調和して生きられる未来をめざしている。
新たな資源採取をせず、循環(サーキュラー)を
世界の天然資源採取量は、1980年の400億トンから、2020年には820億トンへと倍増する見込みです。そしてプラスチックの原料となる化石燃料は、同期間に80億トンから150億トンへと増加します。(マンガ内表参照・※1)世界の人口の急激な増加に伴う需要の急増のためですが、一人当たりの需要量も増え続けていることに注意が必要です(1980年の9.1トンから2020年の10.6トンへと増加)。
天然資源も含めて、自然環境が私たちの経済活動や豊かな暮らしを支えています。このまま一次原料の使用拡大を前提に経済活動を続けていくと、限られた天然資源しかもたない地球は、持ちこたえることはできません。そこで、経済や社会の仕組みを広範にわたり大きく転換することが急務となっています。
そして近年、「サーキュラー・エコノミー」という概念が急速に注目を集めるようになってきました。「新たに採取した原料により製造し、使用後にそのまま廃棄する」という従来からの一方通行の仕組みに対して、サーキュラー・エコノミーは、天然資源利用と廃棄物の発生を最小化し、資源を長く維持する「循環型」の仕組みです。
この仕組みは、資源の生産性、効率性、部品や素材の追跡可能性(トレーサビリティ)、製品のライフサイクル後の再利用性をそれぞれ向上させます。共有(シェアリング)、リースやレンタル、リマニュファクチャリング(※2)、修理(リペア)、リサイクルなどの広がりは、このサーキュラー・エコノミーへの移行の一環と言えます。アイデア自体は目新しいものではありませんが、いよいよ本格的に推進しなければならない時代が来ています。
サーキュラー・エコノミーの原則
WWFでは、サーキュラー・エコノミーの推進が適切に行なわれるためには、以下の6つの原則が満たされる必要があると考えています。
- 地球の再生産能力の限界内で推進され、SDGsの達成に真に貢献するものであること
- 経済的な成長のみを目的とせず、グリーン経済(※3)、効率性の向上、持続可能なライフスタイルへの転換などの視点が組み込まれていること
- ビジネス、市民社会、政府、消費者などすべてのステークホルダー(※4)の参加が、設計から実施段階に渡って組み込まれていること
- 政策の枠組みに、これを推進する仕組みが組み込まれていること
- イノベーションや新たなビジネスモデルを超えたものをもたらすこと
- 天然資源、素材や製品が、豊かな生態系維持のためのコスト、社会問題解決のためのコストを含めるように値づけされること
次に、「サーキュラー・エコノミーへの移行を加速させること」をミッションに掲げ、世界でその推進をリードするイギリスのエレン・マッカーサー財団の3つの基本原則をご紹介します。
- 廃棄物と汚染の発生を、設計段階で排除する
- 製品や素材を使い続ける
- 自然のシステムを再生する
「1.設計段階での廃棄物と汚染発生の排除」が、特に大切です。これができないと、「2.製品や素材を資源として使い続ける」ことが不可能となり、結局、絶えず新たな資源を大量に投入し、大量発生したごみを廃棄し続けることになります。これにより、自然環境への負荷が増大することで「3.自然のシステムの再生」も実現できないという悪循環に陥ります。
繰り返しての利用が困難な製品を作って一旦流通させてしまえば、それは必ずごみとなり、その後で「さて、このごみをどう処理しようか」と考えても、すでに遅いのです。製品やサービスを設計する段階から課題解決を進める重要性を指摘しておきます。
WWFとエレン・マッカーサー財団いずれの原則においても、地球の再生産能力の限界内で機能する循環型の経済を構築することで、天然資源開発への需要を減少させ、汚染やごみを極力減らした健全な生活環境の実現につながることを示しています。
サーキュラー・エコノミーに基づくプラスチックごみ問題解決の視点
最後に、サーキュラー・エコノミーの考え方を、世界のプラスチックごみ問題の解決に適用していきます。
プラスチック廃棄物処理で最優先するのは、削減(リデュース)できるものはそもそも作らないことです。生産する場合は、再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)、持続可能な代替品への切替え、熱回収(焼却後、発生する熱エネルギーの再利用)、単純焼却及び埋め立て、の順で進めるべきです。
世界で発生するプラスチックごみの47%が容器包装用(UNEP,2018)ですが、これらのほとんどが、使い捨てされています。【図1】は世界の容器包装用プラスチックのマテリアルフローです。
世界での生産の98%に新たな一次原料であるバージンプラスチックが使用され、生産後には、実に32%が自然界に流出してしまいます。つまり、処理が可能な能力を3割以上超過して生産されているとも言えるでしょう。
次に処理の内訳を見ていくと、埋め立てと焼却をあわせ54%となっていますが、これらの処理は前述の通り優先されるべきものではありません。生産された14%がリサイクル用に回収されますが、回収後に実際のリサイクルの対象となるのは10%です。さらに、プラスチックのリサイクルでは素材の品質が落ちる場合が多く、同様の質のものに生まれ変わるのは、全体のわずか2%です。このように、サーキュラー・エコノミーの実現からは程遠い現状なのです。
リユース・リサイクルを前提に設計段階から全体をデザイン
サーキュラー・エコノミーの観点から、複雑なプラスチックごみ問題の全体像をみるためには、システム思考を用いるのが有用です。システム思考とは、さまざまなレベルでものごとのつながりと全体像をみる、ものの見方です。(枝廣・小田,2010)。【図2】は、システム思考によるプラスチックごみ問題の解決アプローチです。
まず、必ずしも必要でないものは生産をしないことで、新たな化石燃料の投入を大幅に減少させることができます。次に、生産されたプラスチックがより長い間使用され、使用後にも長くリユース、リサイクルし続けるように、設計段階から、マテリアルフロー全体を見てデザインしていきます。これにより、新たな資源投入による生産量をさらに減らすことにもつながります。
そして、使用後も含めて長い間資源が循環し続けることで、ごみとなるプラスチックも大幅に減らすことができます。その上で、循環できない状況になってしまったごみを適切に処理することにより、自然界への流出をゼロに近づけることが可能になります。
前述の通りサーキュラー・エコノミーでは、廃棄物と汚染の発生を設計段階で排除することが重視されますが、プラスチックにおいても、商品を生産する前に、「そもそも、どうすれば無駄な生産を行なわないでビジネスができるか」を考えるところから始めるべきです。
さらに、リユースやそれが難しければリサイクルすることを前提に、商品やサービス、物流、回収方法、回収後の再利用まで、マテリアルフロー全体をデザインするのです。これが、サーキュラー・エコノミーに基づいた、プラスチックごみ問題の基本的な解決アプローチとなります。
サーキュラー・エコノミーを正しく理解し、プラスチックのマテリアルフロー全体に適用することで、深刻なプラスチックごみ問題の解決を加速させていくことが、社会全体に求められています。
※1 引用元「エレン・マッカーサー財団(2013)」
※2 使用された製品や部品を分解、洗浄、修理などを行なって、新品と同じ水準の製品として販売すること(小島,2014)
※3 環境問題にともなうリスクと生態系の損失を軽減しながら、人間の生活の質を改善し、社会の不平等を解決するための経済のあり方
※4 利害関係者
会誌『野鳥』2020年9・10月号(No.848)より(会誌『野鳥』の詳細はこちら)
海洋プラスチックごみ問題 特別連載企画
- 第1回 プラスチックの大きな割合を占める容器包装と、容リ法の問題点
- 第2回 日本のリサイクル率と廃プラスチック処理の現状と課題
- 第3回 日本政府はなぜ、海洋プラスチック憲章に署名しなかったのか
- 第4回 サーキュラー・エコノミーに基づくプラスチックごみ問題の解決
- 第5回 バイオプラスチックは廃プラ問題の活路を開くのか?
- 第6回 代替品や熱回収より「総量削減・リユース」を!
- 第7回 脱プラスチック、どう進める?
- 第8回 マイクロプラスチック汚染の脅威1 “生態系汚染”
- 第9回 マイクロプラスチック汚染の脅威2“化学物質による生物への影響”
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