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第1回 プラスチックの大きな割合を占める容器包装と、容リ法の問題点
発生するプラスチックごみの多くが容器や包装に使われており、ごみの削減のためには、容器包装リサイクル法の改正が不可欠です。さらにプラスチックによる環境汚染が海洋にも及んでいることが明らかになっており、容器包装にとどまらないプラスチックの発生抑制に踏み込む対策、法整備が必要です。その問題点について考えてみましょう。
文・中井八千代(容器包装の3Rを進める全国ネットワーク運営委員長)
PROFILE
中井八千代(なかい・やちよ)
中央環境審議会循環型社会部会 容器包装の3Rに関する小委員会委員。環境カウンセラー。廃棄物資源循環学会評議員。
容器包装の3Rを進める全国ネットワーク( 3R全国ネット)の活動
容器包装リサイクル法への拡大生産者責任(EPR)(※1)の確立を求める請願運動をきっかけに、全国のごみ問題、環境問題に取り組む団体・個人のネットワークとして設立。その後、名を変えて、3R(※2)、なかでもリデュース(発生抑制)とリユース(再使用)の2Rを広げ、持続可能な循環型社会の実現をめざして、調査・啓発、制度提言など活動しています。生産者責任の強化など、容器包装リサイクル法の見直しを引き続き求め、近年の海ごみ問題にも取り組んでいます。
ホームページ:容器包装の3Rを進める全国ネットワーク
今日、海洋プラスチック汚染問題をきっかけに、プラスチックごみの発生抑制が叫ばれるようになってきました。海洋プラスチック汚染の問題は、プラスチックに依存する今日の大量生産・大量消費の社会に根源的な問題を投げかけるものです。
これを解決するためには、私たち消費者の便利な暮らしを見直すことはもちろんのこと、生産の見直しも不可欠で、産業のあり方や暮らし方を、これまでにないほど大きく変革すること(SDGsに掲げられたTransforming)が必要です。
海洋プラスチックの8割が、川を通して流れ込んだ容器包装類
年間3.8億トンものプラスチックが生産され、その約半分を容器包装類が占めています。ここ25年間で約200倍に増え、毎年800万トン以上のプラスチックがごみとして海に流れ込んでいます。これにより、マイクロプラスチックを捕食してしまう魚をはじめとする海洋生物や海鳥などの生態系も脅かされています。
容リ法は、なぜ作られた?
→ プラごみを減らすため
1970年代以降、戦後の経済成長から急増を続けてきたごみ問題は、埋め立て処分場の逼迫(ひっぱく)という緊急課題を招きました。そこで、家庭から出されるごみの容積のうち6割を占める容器包装ごみを、リサイクルすることで減らそうと、1995年、「容器包装リサイクル法(容リ法)」が制定されました。
容リ法は市民には容器包装の素材別の分別排出を求め、最もコストがかかる回収は自治体の役割とし、自治体が集めて中間処理をしたもののリサイクル責任だけを、容器包装を利用する事業者に課すというもの(事業者は指定法人容器包装リサイクル協会が再商品化事業者にリサイクル委託する費用を支払う)。これまで自治体の責務とされてきた廃棄物の処理に、はじめて製造・利用事業者の責務を導入した画期的な法律です【図1】。
参考:環境省ホームページ
課題 減るはずのごみが増えた
→ 生産者の負担が軽いから生産拡大
しかし、生産者の責務は十分とは言いがたく、総リサイクル費用の8割以上を占める収集、運搬、分別、保管費用は自治体が負い、事業者の負担は約2割弱と軽いことから、容器包装材の発生抑制を誘導するまでには至らず、むしろ、リサイクルできることを免罪符にPETボトルの生産量が増大するなど、減るはずのごみが増えつづけてきました。
とくに注目すべきは、1996年に、自主規制の緩和で500ミリリットル以下の小型サイズのペットボトル飲料の販売も解禁されたことです。これにより1996年時点では年間17万2千902トンだった生産量が、2005年には53万2千583トンまで増加しています(出典:PETボトルリサイクル推進協議会)。
3R全国ネットではこの実態を明らかにし、ごみを減らすには、製品の回収、再生、再利用を行なう責任を製造者に課す拡大生産者責任(EPR)の確立が必要と訴えてきました。不要になったものの処理費用を内部化して製品が流通するEPRのしくみを作ることによって、環境に負荷のある製品をできる限り作らず、また製造段階から再使用を考慮した製品作りを進めることに繋がります。ものの生産のあり方を変え、ものを大事に、繰り返し使うことが奨励される社会に変えていくことができるはずです。
二度の見直しで、何が変わった?
全国の市民団体が結集し、容リ法の改正を求めて、二度にわたる国会への請願運動が取り組まれました。
2004年から開始された容リ法見直し審議は、中間のまとめでは、「事業者は自治体収集費用の一部を負担する」ことが盛り込まれ、拡大生産者責任を強化する方向が示されました。
しかしこの後、事業系委員や経団連からの「自主行動計画で対応する。」との意見が入れられ、新たに「事業者から自治体に資金を拠出するしくみ(年々減少)」に決着してしまいました。
今度こそと臨んだ2013年開始の見直し審議も、強固な姿勢は変わらず、大きな成果なく、終了してしまっています。
成果 不法投棄や埋め立て量は減
→ しかし、ごみ量の減りはわずか
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容リ法が制定され家庭ごみの回収・リサイクルのしくみが作られたことで、容器の散乱が少なくなり、埋め立て量も減りました。しかし自主的取り組みでは容器の肉薄化や軽量化はすすんだものの、ごみ量は微減にとどまったまま、使い捨てプラスチックの一人一日当たりの排出量は、アメリカに次いで、世界第2位となっています。さらに、容リ法が施行されて20年も経過しているにも関わらず、プラ容器の分別収集を完全実施している自治体は、全国で約7割にとどまっています。(→任意取り組みのため)
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収集費用の負担が重いため、プラの分別収集を完全実施している自治体のなかでも、焼却に転換する動きが出ています。
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プラスチックを燃やすと、CO2を増大させるため、気候変動の加速に拍車をかけています。
生ゴミや紙ごみとともに燃やす自治体が増えることにより、どれほどのCO2を増やしているのか、パリ協定の約束やSDGsの目標に照らしても問題は大きいと思います。
抜本的な法改正を
海洋プラスチック汚染をもたらしている原因は、プラスチックの大量生産、大量消費にあるといっても過言ではありません。循環型社会への転換のため、3R全国ネットでは、次の法改正を含む抜本的な対策を提案しています。
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容リ法で拡大生産者責任を徹底する
事業者の「自主的取り組み」には限界があるので、容リ法改正でEPRを徹底し、税金でリサイクルするのではなく、事業者責任を明確にすることが必要です【図2】。 -
容リ法を2R促進法に改正
容リ法を2R(リデュース・リユース)促進法に改正し、廃棄物を大幅に削減するための国レベルの基本計画を策定することを求めます。その上で、「2030年までに、陸上からの廃棄物である“散乱ごみ”の全廃」を国家目標にし、使い捨てプラスチックの禁止やデポジット等を進めていく必要があります。 -
関連業界が一丸となって取り組むことを義務づける法制度が必要
EPR徹底の考え方は、関与するさまざまな企業、漁具製造事業者やプラスチックレジンメーカー等々にも適用し、関係する事業者が一丸となって解決に取り組むことを制度化するべきです。 -
カーボンプライシングを法制化する
「気候危機」対策としてCO2(プラスチック焼却由来含む)を削減するため、産業界や私たちの暮らしに変革を促すためにも、欧州や米国の一部、中国でも導入が進んでいる「カーボンプライシング(※2)」を法制化することも必要と考えます。 -
EUではすでに主流、サーキュラーエコノミー(CE)への取り組みを
CEとは、最新のデジタル技術を使って、今ある製品や使われていない資産を最大限に活用して価値を高め利益を生み出す「環境+経済政策」です。「もったいない」精神を世界に発信している我が国こそ、資源のむだ、製品のむだをなくすCEに官民を挙げて取り組むべきです。
私たち自身の暮らしを見直し、持続可能な循環型社会&社会的コストを最小化できる社会への転換をめざしましょう。
※1 拡大生産者責任制度(Extended Producer Responsibilities: EPR)
※2 3R:Reduce(リデュース)は、製品をつくる時に使う資源の量を少なくすることや廃棄物の発生を少なくすること。Reuse(リユース)は、繰り返し使用すること。Recycle(リサイクル)は、廃棄物等を原材料やエネルギー源として有効利用すること。3Rとは、この3つのRの総称
※3 カーボンプライシング:炭素価格制度のこと。二酸化炭素(CO2)に価格を付け、企業や家庭が排出量に応じて負担することで、CO2の排出削減を促す施策の総称。主な施策に、化石燃料の使用に伴うCO2排出量に応じて課税する「炭素税」と、CO2の排出超過分や不足分を国同士や企業間で取引する「排出量取引制度」がある。
会誌『野鳥』2020年6月号(No.845)より(会誌『野鳥』の詳細はこちら)
海洋プラスチックごみ問題 特別連載企画
- 第1回 プラスチックの大きな割合を占める容器包装と、容リ法の問題点
- 第2回 日本のリサイクル率と廃プラスチック処理の現状と課題
- 第3回 日本政府はなぜ、海洋プラスチック憲章に署名しなかったのか
- 第4回 サーキュラー・エコノミーに基づくプラスチックごみ問題の解決
- 第5回 バイオプラスチックは廃プラ問題の活路を開くのか?
- 第6回 代替品や熱回収より「総量削減・リユース」を!
- 第7回 脱プラスチック、どう進める?
- 第8回 マイクロプラスチック汚染の脅威1 “生態系汚染”
- 第9回 マイクロプラスチック汚染の脅威2“化学物質による生物への影響”
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