ツバメ全国調査2013~2015 中間報告

 2013年に全国に呼びかけてスタートした「ツバメの子育て状況調査」は、今年で3年目を向かえました。のべ2,500人以上の方にご参加いただき、全国各地からツバメの巣作りや子育ての情報をお寄せいただきました。調査にご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました!
 3年間にわたる調査の総合的な解析結果は、後日改めてご報告させていただきますが、とりいそぎ2013~2014年と今年の調査結果の一部を中間報告いたします。

調査にご協力いただいた人数とツバメの巣の数

2013年 674人 1313巣 376市町村 (455市区町村)
2014年 923人 1958巣 486市町村 (562市区町村)
2015年 938人 1771巣 461市町村 (554市区町村)
*3年間で全国796市区町村を調査

ツバメの分布域は昔と変わった?

グラフ
図1.この10年間で見かけるツバメの数は変化しましたか?(2012年アンケート調査)

 2012年に実施したアンケート調査の結果では、約4割の方が「見かけるツバメの数が減った」と回答しました(図1)。そこで、まずはツバメの分布域が変化しているのかを調べるために、環境省が1970年代と1990年代に実施した全国の繁殖分布調査の結果と、当会が2012~2014年に実施した調査でツバメの巣が目撃された地域を比較してみました(図2,表1)。
 その結果、日本国内におけるツバメの分布域はこの約30年では大きな変化はなく、分布域が縮小しているといった傾向はみられませんでした。また、当会の調査では1970年代の調査と比べて、北海道の北~東部からも営巣記録が寄せられました。

過去と現在のツバメの分布域の比較
図2.過去と現在のツバメの分布域の比較

表1.図2におけるツバメ確認件数の凡例内訳

赤(ランクA) オレンジ(ランクB) 緑(ランクC) 合計
1974-1978 509 135 136 780
1997-2002 359 186 168 713
2012-2015 592 18 610

ランクA:繁殖を確認した ランクB:繁殖している可能性がある ランクC:生息を確認した

巣立つヒナの数は昔と変わった?

 日本では古くからツバメに関する調査研究が数多く行なわれてきました。しかし、過去に全国規模で調査した研究事例はなく、各地で行われた調査結果と今回得られた2013~2014年のツバメの繁殖に関するデータを比較してみました(表2)。

表2.年代ごとの巣立ちヒナ数の比較

調査年 調査地 一番仔の平均巣立ちヒナ数(羽) 二番仔の平均巣立ちヒナ数(羽)
1953,1958 三重県 4.91 4.36
1956~1958 東京都 4.47
1957,62,63 奈良県 4.31 4.36
1972~1981 北海道 3.75 4.00
2013 全国 3.97 2.99
2014 全国 4.04 3.13

※出典の記載は後述

この結果を見ると、巣立ちヒナ数については年々減少しているようにみえますが、調査している地域の違いなど誤差も含まれていると考えられます。
都市部と郊外のヒナの数を比較した2013年の結果はこちら

ツバメの繁殖が失敗した原因は?

ツバメが繁殖に失敗した原因とその割合
図3.ツバメが繁殖に失敗した原因とその割合(2013~2014年の結果から)

2013~2014年の調査結果からツバメが子育てに失敗した原因をまとめると、天敵(ネコ、ヘビ、スズメ、カラス、イソヒヨドリ等)に襲われた割合が35%と最も高くなりました(図3)。次いで人間が巣を落としたり、巣を作らせなかったりしたケースが10%を占めました。
 農作物の害虫を食べてくれるツバメは益鳥として古くから親しまれ、ツバメが巣を作った家には幸福が訪れると歓迎されてきました。しかし、こうした関係が時代の変化と共に薄れ、私たち人間の行為もツバメの子育ての脅威となりつつある現状が浮き彫りとなりました。

3年間のツバメ子育て状況データ、よりくわしく解析中!

 2013~2014年の調査結果では、2012年に実施したアンケート調査を基に、より詳細なツバメの子育て状況を把握することができました。都市部からの情報が多く寄せられた2013年の調査結果からは、関東地方において開発が進んだ地域ほど巣立つツバメのヒナの数が少なく、残された小さな緑地に依存してかろうじて子育てを成功させていることが分かってきました。しかし、まだまだ解明すべき課題が多く残っています。
 2014~2015年の調査では、参加された皆様のご協力により都市部以外の地方からも多く情報が寄せられ、データを充足させることができました。現在、こうして蓄積された3年間のデータをもとに、ツバメの子育てが上手くいっている地域の特徴、逆に子育てに失敗してしまう場合の特徴など、全国の子育て状況をより詳細に分析しています。得られた結果は2016年2月頃に発表する予定ですので、楽しみにお待ちください!

※表2 出典
①三重県:千羽晋示(1972)三重県桑名郡多度町におけるツバメ(Hirundo rustica)の繁殖記録(自然教育園資料のまとめ).自然教育園報告(3):35-42.
②東京都:金井郁夫(1960)ツバメの生態(第3報).山階鳥類研究所研究報告 2:30-40.
③奈良県:Mizuta K (1963) Local distribution of two swallows of genus Hirundo, and breeding success of H. rustica. Res. Popul. Ecol. 5(2): 130-138.
④北海道:飯嶋良朗(1982)北海道十勝南部におけるツバメの繁殖記録.鳥 31(1):17-21.より巣立ち記録をを独自に算出

調査で得られた成果を日本鳥学会2015年度大会で発表しました

2013年に得られた全国のツバメの子育て状況のデータを用いて、2015年9月18日~21日に兵庫県立大学で開催された「日本鳥学会2015年度大会」で当会職員が発表しました。掲示されたポスターには100人以上の参加者が訪れ、これほど大きな市民調査を実施し、全国のツバメの繁殖状況を詳細に明らかにしたことについて称賛の声が寄せられました。調査にご参加いただいた皆様から寄せられた貴重な記録をもとに成果を発表できましたことを、この場をお借りして御礼申し上げます。

鳥学会での当会職員によるポスター発表のようす
写真.鳥学会での当会職員によるポスター発表のようす

ツバメは減っているのか?-全国調査から見えてきたこと-
発表ポスターを詳しく見たい方はこちら(PDF 1.6MB)

日本野鳥の会の自然保護活動をご支援ください
自然保護活動のご支援を お願いします!
  • 入会
  • 寄付