プレスリリース:全国約1万巣を分析 都市化と人口減の双方がツバメの子育てに影響
2021年6月17日
~日本野鳥の会ツバメ全国調査(2013~2020)~
(公財)日本野鳥の会(事務局:東京、会長:上田恵介、会員・サポーター数:約5万人)では、近年減少が示唆されているツバメの現状を明らかにするため、全国に呼びかけて、2012年から市民参加型の調査を開始しました。2012年のこの調査では約4割の方が「ツバメが減っている」と感じ、その一因として不衛生を理由に人が巣を落としてしまうケースがありました。
そこで2013年からは当会ホームページ上に「ツバメの子育て状況調査」を設置してツバメの子育ての様子の情報を集め、昨年(2020年)までの8年間に、のべ5,351人の方から10,586巣の観察情報をお寄せいただきました。この全国規模のデータの分析結果から、ツバメの子育ての現状について、以下のことがわかってきました。
年 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 計 |
参加者数(人) | 666 | 888 | 915 | 797 | 670 | 531 | 380 | 504 | 5,351 |
巣の数(個) | 1,296 | 1,940 | 1,723 | 1,673 | 1,409 | 1,055 | 686 | 804 | 10,586 |
都市化や過疎化など、人の暮らしがツバメの子育てに影響
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1つの巣から雛が巣立つ平均数(8年間の全国平均)=約4羽。
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ただし市街地では3.8羽、それ以外では4.2羽と、都市化した場所は子育てに適さない可能性がある。
図1 営巣環境別の平均巣立ち雛数の経年変化
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子育ての失敗の要因の多くは、カラスやヘビの捕食、巣の落下など自然のなかで起こる出来事だが、1割弱が人による巣の撤去であることが報告されている。
図2 ツバメの子育ての失敗要因
- 過疎化により人口が減少した地域では、人がいないことによって、ツバメの卵や雛が捕食される危険性が高くなり、ツバメの営巣が減っている可能性がある。
調査の詳細は 「日本野鳥の会 ツバメ全国調査」詳細 をご覧ください。
ツバメの子育てを優しく見守り、共に暮らせる社会を
古くからツバメは農作物の害虫を食べる益鳥として、また、巣をかけた家には幸福を招く鳥として親しまれてきました。しかし、近年の開発やライフスタイルの変化等とともにツバメが子育てできる環境が減り、都市部での巣立ち雛の減少と、過疎地域での営巣の減少が進んでいることが明らかになりました。
都市部でツバメが子育てをするには、水辺環境と緑地が必要で、かつ、ツバメの存在を見守る人々の思いが大切です。環境を改善していくには時間がかかりますが、私たち一人ひとりがツバメの子育てを優しく見守っていくことは可能です。
日本野鳥の会は、引き続き、市民参加によるツバメの全国調査を実施しモニタリングをするとともに、ツバメを観察する際の注意点、ポイント等をまとめたパンフレット「ようこそツバメ」の配布や、観察会などを通じて、ツバメを温かく見守ってくれる人々を増やし、人と自然の共存の象徴であるツバメが、いつまでも日本で子育てできるような社会をめざしていきます。
参照:消えゆくツバメをまもろう
日本野鳥の会 組織概要
組織名:公益財団法人 日本野鳥の会(会員・サポーター 約5万人)
代表者:理事長 遠藤孝一
所在地:〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
URL:https://www.wbsj.org/
問い合わせ先
(公財)日本野鳥の会
〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル
担当:自然保護室 葉山政治/山本裕
E-mail:[email protected]
TEL:03-5436-2633
日本野鳥の会のツバメに関する活動
ツバメ観察のパンフレット 『ようこそツバメ』の無料配布
パンフレット『ようこそツバメ』 |
ツバメを取り巻く環境を知っていただくとともに、ツバメを温かく見守る気持ちを広めることを目的に、ツバメを観察する際の注意点、ポイント等をまとめたパンフレットを希望者全員に無料で配布しています。
ツバメの見守りありがとう 全国16の団体を表彰
日本野鳥の会では、この先もツバメと人との共存が続くことを願い、2019年度からツバメの巣や生息環境を温かく見守っている団体に感謝状を贈呈しています。
2021年度は、全国の当会支部等連携団体から贈呈先を推薦してもらい、京王電鉄(株)をはじめとする9都府県16の団体に贈呈を決めました。
詳細:プレスリリース:「ツバメの見守りありがとう」全国16の団体に感謝状を贈呈
〈別紙詳細資料〉
公益財団法人日本野鳥の会プレスリリース(2021年6月17日)
「日本野鳥の会 ツバメ全国調査」詳細
8年間(2013年~2020年)の調査結果の概要
「ツバメの子育て状況調査」には、8年間で、のべ5,351人にご参加いただきました。前半の3年間(2013年~2015年)は、2013年に設置した特設ページ「ツバメの子育て状況調査」において、ツバメの子育ての様子の情報を集めました。その結果を2016年にまとめたところ、ツバメを取り巻く状況として、
- 全国の都市部でツバメの子育てが困難になっていること
- ツバメと人のつながりの消失が都市部で顕著であること
- 都市部でのツバメの子育てには水辺環境と緑地が大切
ということが明らかになりました(「日本野鳥の会ツバメ全国調査 2013-2015」(※1))。
そして、2016年以降も毎年調査を継続し、2020年までの8年間に観察記録が寄せられたツバメの巣ののべ数は10,586巣となりました(表1)。これらのデータを用いて、日本のツバメの子育ての現状を分析しました。
年 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 計 |
参加者数(人) | 666 | 888 | 915 | 797 | 670 | 531 | 380 | 504 | 5,351 |
巣の数(個) | 1,296 | 1,940 | 1,723 | 1,673 | 1,409 | 1,055 | 686 | 804 | 10,586 |
1.巣立ち雛の平均は、1巣あたり4羽
無事に巣立った、のべ4,868巣の観察データから、その年1回目の繁殖(=1番仔)を対象にして、平均巣立ち数の経年変化を求めました。
その結果、2013年から2020年の間の平均巣立ち雛数は、2018年にやや少なかったものの毎年の変動は少なく、1巣あたりほぼ4羽が巣立っていました(図1)。
図1.一番仔の平均巣立ち雛数の推移(エラーバーは標準偏差を示す)
2.営巣場所による巣立ち雛数の違いについて
次に、営巣場所によって巣立ち雛数に違いがあるかどうかについての分析を行ないました。巣のある場所が、市街地(都市計画法の市街化区域にある2,941巣を対象)と、それ以外の区域(1,206巣)で、平均巣立ち雛数を比較しました。
その結果、市街地では巣立ち雛数は平均3.8羽であるのに対し、それ以外の場所では平均4.2羽となり、市街地では平均0.4羽少なくなり、都市化により子育てをする環境としては適さなくなる可能性が示唆されました(図2)。図1では2018年に巣立ち雛数がやや少ない傾向がありますが、市街地と市街地以外に分けてみると、特に市街地での巣立ち状況が少ないことがわかりました(図3)。
図2.営巣場所別の平均巣立ち雛数
図3.営巣場所別の平均巣立ち雛数の経年変化
3.子育ての失敗要因
寄せられた観察記録から、繁殖に失敗した例のコメント欄に書かれた記述をもとに、その要因を集計しました(図4)。その結果、子育ての失敗要因でもっとも多いのは、カラス類やヘビ類などの捕食者によるもので約35%を占め、次いで、巣が壊れて落下したり、雛が巣から落ちたりしてしまう例が22%でした。また、巣の撤去など人に起因する失敗例が約9%も見られ、今後、私たちの暮らしに身近なツバメとのかかわりを改めて見つめ、改善していくことが必要、と考えさせられました。
図4.ツバメの子育ての失敗要因
4.巣が見られなくなった場所と人口との関係について
現在、日本では人口が減り、各地で過疎化が進んでいます。こうした人口の増減とツバメの子育てとの関係について、調査期間を前半3年間(2013~2015年)と後半5年間(2016~2020年)に分けて、検討してみました。調査年によって報告された巣の数が異なるため、できるだけ巣の数を揃えるために、前半2,426巣、後半2,882巣、計5,308巣を分析の対象としました。
統計等の解析によく使われる2次メッシュ(10km×10kmのメッシュ)内で、前半、後半の両期間に、メッシュ内に1つでも巣があれば「営巣あり」のメッシュとし、営巣の変化の比較を行ないました。
その結果、人口の増減は(図5, オレンジ色棒グラフ参照)、変化率-1%の減少をピークに、おおよそ12%減少幅までの比率が高くなっていました。
これら人口の増減のグラフに「営巣しなくなったメッシュ数」と「営巣が変わらないメッシュ数」を重ねたところ、「営巣が変わらないメッシュ」での人口の分布はどちらもピークが-1%にあり、変化の傾向も類似していました。一方で「営巣しなくなったメッシュ数」は人口5%減のところにピークがありました。これらの結果は人口が減少した地域では、ツバメの営巣が減っている可能性があることを示しています。
ツバメは、古くから人との関わりがあり、農家や人の出入りが多い商店の軒先などをよく利用します。その理由として、ツバメはカラス類などの捕食者を避けるために、人通りの多い人家の近くで子育てをすると考えられています。
人口が減った地域では、人がいないことによってツバメの卵や雛の捕食圧が高くなり、子育てへの影響が出た可能性が考えられます。ツバメの子育てが人口の減少している山間地域の集落などで減少していることは、すでに藤田(2015)※2により報告されており、今回の結果はこの報告と矛盾せず、人とツバメの密接な関わりを示しているものといえます。
※2 藤田剛(2015)日本のツバメが減ったのは山林の環境変化が原因? 全国鳥類繁殖分布調査ニュースレター No.3 2-4.
図5. 人口の増減とツバメの営巣との関係
人口は1kmメッシュ
別将来推計人口(H30国政局推計)を使用