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bU21(1999/6月号/P.4〜15)

ゴミを散らかす、人を襲う…身近ゆえのカラス問題、
だけどカラスにしてみれば当たり前のくらしを送っているだけ。
身近ゆえに見過ごしがちだが興味は尽きない、おもしろい!
厄介者と決めつける前に、もっとカラスをよく知ろう。


日本で繁殖する黒いカラスはハシブトガラスとハシボソガラス。
「カラス」で一括されがちだが、例えば生息環境も森林にはハシボソ、
開けた農地や草原にはハシボソ、そして都市にはハシブトと大きくすみ分けがある。
2種が一緒に生息したり、地方によっても傾向は違うので、
自分のフィールドではどうか調べるのも観察テーマになる。
(写真/平野伸明)



1.そもそもカラスはこんな鳥 (松原 始)
2.こんな楽しみ方もあるカラスウォッチング
 カラスは最高の生きた教材だ  (宇都宮 保)

3.心して見つめよ!
 カラスは日本人の行動を写す鏡 (岡本 久人)


 
 
 

「カラス」もいろいろ


カラスは黒い?−黒いだけがカラスじゃない

 カラスといえば真っ黒け、と思いがち。でも、黒い羽もよく見てみると…緑や紫、藍色といった、光沢のあるなんとも艶やかな色だとわかる。カラスの羽を拾うこともよくあるので、手に取って光に反射させて見てみるのもおもしろい。
 世界に約120種いるカラス科の鳥の中には、ホントにカラスの仲間?と思うほど色鮮やかなものもいる。日本のカラス科の鳥には、ルリカケス、カケス、オナガ、カササギ、ホシガラス、そしていわゆる「黒いカラス」に、コクマルガラス(後頭部と腹が白い淡色型もいる)、ミヤマガラス、ワタリガラス、ハシボソガラス、ハシブトガラスがいる。

 

カラスなんてみな同じ?−鳴き声やすみかにも違いあり

 身近なカラスといえば「ハシボソガラス」と「ハシブトガラス」。ハシボソガラスはガーガーと濁った声で鳴き、ハシブトガラスはカーカーと澄んだ声で鳴くことが多い。両者の間にはすみ分けがあり、大きく見ると農村部などの開けたところにはハシボソ、そして都市になるとハシブトが多く生息している。この傾向は関東でははっきりと見られるが、他の地方都市や環境の入り交じるところでは2種とも生息しているようだ。
 英語で“Jungle Crow”と呼ばれるハシブトガラスは、もともとは森林性の鳥と考えられている。そのためか、都市にくらしていてもねぐらは基本的に本物の緑地に作る。一見すみにくそうな都市を好むのは、ビルが林立する環境、いわばコンクリートジャングルが森林に似ているからともいわれている。


ハシブトガラス(上)はハシボソガラス(下)に比べて
くちばしが太く、おでこがでっぱっている。
カラスの羽色は光に反射すると光沢のある緑や紫などに見える。
(写真/平野伸明)


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カラス的ライフスタイル


 京都大学大学院でカラスを専門に研究している松原始さんに、ハシブトガラスの生活様式について伺ってみた。
 「カラスは昼行性なので、昼間に餌を食べ夜は寝ています。たまに夜中にカラスが騒ぐことがあります。不吉だとか言われますが、これはねぐらに侵入者が来たなどの理由で驚き、しばらく飛び回っているものと考えられます」。
 秋冬の間カラスは、夕方になるとねぐらに集まり、大きな集団を作って眠る。しかし繁殖期になると、若い鳥やなわばりを持てないもの、弱い個体など以外は、ペアで自分たちのなわばりを持ちそこで眠ることが多くなる。繁殖可能になるのは生後2年目以降といわれ、ペアにならない若い鳥は夏でもねぐらを作り、群れていることが多い。また、8月頃から若鳥を連れた親がねぐらに戻ることもあるようだ。

人を襲う恐い鳥?−子を守りたい気持ちはカラスも同じ

 ペアを作ったカラスは自分たちのなわばりを守ろうとする。特に子育て中は、敵の可能性があるすべてのものからヒナを守るため、お父さんお母さんは必死なのだ。
 「巣立ち後10日くらいの時期は、特に気が立っています。カラスは不審な侵入者に、まず音声の威嚇をします(鳴き声のくり返しのペースが速くなる)。もちろんケースバイケースで常に怒るわけではなく、個体によって性格も違います。しかし、カラスはいったん怒るとしばらく止まず、八つ当たり的に他の人を攻撃する場合もあるので、怒りだしたら立ち去ったほうが無難です」。
 身近な鳥であるにもかかわらず、カラスの研究はあまり進んでいない。カラスの警戒心の強さと頭の良さがネックになって、観察しているとすぐに気づかれ、その上、成鳥(なわばりを持つ個体)の捕獲・バンディングなどが困難で、通常の鳥類研究の方法がほとんど通用しないのだという。故に、松原さんは見つけたら追いかけられるだけ追いかけるといった研究を続けているそうだ。
 人を襲うのは通常、繁殖上の問題に限ったことである。中にはごくまれに意味不明の攻撃をするものもあるが、普通に遊んでいる非繁殖群やねぐらに集う大群は危険ではない。

 

ゴミを散らかすイタズラ者?−目の前のえさを食べて何が悪い

 カラスは雑食性で、サバンナのハイエナ同様、自然界の掃除屋さん(スカベンジャー)でもある。死体、小動物、果実など食べられそうなものは何でも食べる。おまけに、餌が豊富にあれば、「貯食」といって、隠しておいて後で食べる。
 「都市のハシブトガラスも同じです。樹の上など高いところから視覚で餌を探しますが、都市には餌になるゴミがごろごろあります。貯食をする鳥は、どこに何があるかという「認知地図」が発達しているとされ、いったんゴミ袋の中に餌を発見すれば、“ゴミ置き場にはごちそうがある”と覚えてしまいます」。
 松原さんによれば、カラスがゴミをあさるのは森で死体を食べることとなんら変わりはないという。カラスは鳥のヒナを襲って食べることもある。憎い!と思う方もいるだろうが、もともと小動物や卵を食べる鳥なのだ。また、都市の生態系において、カラスが捕食者として他の種が増えすぎるのを抑えているとも考えられる。ネズミなどはかなりの数が食べられているだろう。カラスが増えすぎたというのは、都市がそれだけカラスに餌を与えている環境だということで、問題はこのような環境自体にあるのだ。


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お騒がせカラスのおもしろ行動


 カラスは前記したように貯食をするが、隠した食べ物を腐りやすいものから先に食べていくという研究結果がある。以前、鉄道のレール上に石が置かれ電車が止まるという事件が話題になったが、東京大学教授の樋口広芳さんらの観察により、カラスが敷石の下の貯食を取り出す時に、たまたま石をレールの上に置いたことが原因だったとわかった。
 松原さんは次のようなハシボソガラスを観察したことがある。ゴミ缶から引き出した煎餅をくわえて歩き出したが、立ち止まって“考え込み”、缶に戻ると、その煎餅を置いてもう一枚引き出した。そして始めの煎餅とぴったり重ねると、二枚一度にくわえて水辺に持っていき、水中にほうり込んでふやかしてから、ちぎって食べたという。松原さんも、運びやすいよう並べるのは初めて見たそうだ。
 都市にくらすようになり、豊富な餌を手に入れた結果、カラスは余裕ができて「遊ぶ」ことを覚えたといわれる。電線にぶら下がったり、滑り台を滑ったり…。カラスが妙な行動をとっていたら、もしかしたらお腹がいっぱいになって遊んでいるのかもしれない。
 ところで、カラスが巣材にパイプハンガーなどの人工物を使う例が知られているが、弘前支部支部長の小山信行さんは「カラスはハンガーをどのように運ぶか」というおもしろい考察をしている。
 小山さんが見たカラスは、みな図Fをくわえていた。そこで自分もカラスがくわえるように親指と人差し指ではさんでみたという。Aの場合、飛ぶのに風の抵抗があり巣への搬入の時にC・Eがじゃまになるだろうし、C・Eだと樹などの枝の多い場所で扱いづらい。またDをくわえれば垂れ下がったAが何かに引っかかる可能性がある。BだとAの先が頭や目にじゃまかもしれない。そうなると、残るFがよさそうなのである。






カラスの天然(?)の巣とハンガーを素材にした巣。「七つの子」という童謡があるが、実際には4〜5個の卵を産む。卵を抱くのはメス。
(写真/平野伸明)


 観察対象としてこんなに身近で、しかも興味のつきない鳥はいない。また、地域によって生息環境なども違う。皆さんも、自分なりのテーマを持って観察してみてはいかがだろうか。

監修 松原 始、 まとめ(財)日本野鳥の会編集局

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「美しい」「珍しい」野鳥をみるだけがバードウォッチングじゃない。
人間のもっとも身近にいる最高の生きた教材−それがカラスだ。
日本野鳥の会事務局から代々木公園(東京都渋谷区)まで歩いて20分足らず、
ネイチャースクール所長・安西英明の案内でカラスウォッチングを満喫した。

ガニマタスタイルで「ワッ!」…これ?


 平日の午後、この日はおだやかな快晴に恵まれて絶好のバードウォッチング日和となった。
 −いいですか、みていてくださいね。
代々木公園近く、木の上にたむろする7〜8羽のハシブトガラスをみつけると、安西さんは素知らぬ顔でひたひたと近づいて行く。
 と、その次の瞬間だ。手を横に大きく広げ、足はガニマタスタイルの(ちょうどカエルが空に向かって跳びはねる時のような)格好で、安西さんが頭上のカラスに向かって「ワッ!」と叫んだのだ。
あっけにとられること数秒、周囲の通行人もあ然。ただ、カラスだけがあわてふためきバタバタと逃げていく。シャッターチャンスもしっかり逃してしまった。いったい何が起きたのか…この事態を理解するには安西さんの解説が必要だ。
 「彼らにとって人間は怖い存在なんです。だからしっかりマンウォッチングをしています。一人ひとりの行動を気にしていたらきりがありませんが、通常の行動と違う動きをする人間をみると、彼らは敏感に反応するんです」
 つまり、カラスとたわむれていたということ?
 「ええ(笑)。でもさすがに人前でやるのは勇気がいるんですよ」と安西さん。と、その喉元も渇かない側から、鉄塔の上のカラスをみつけサッと壁に身を潜め(まるで忍者だ!)すり足を始めた。
「こっちが隠れるとブト(ハシブトガラスのこと)は途端にそわそわし始めます。
“あの人間はどこに行ったんだろうって”って顔つきでね」
 「面白いでしょう」とでもいわんばかりに安西さんはククッと笑う。気がつくと、これまた一枚もシャッターを切っていなかった。


カラスがとまる木の下で、突然両手をあげる安西さん。
カラスは何げなくマンウォッチングしている。
普通に通行する人は気にしないが、
人が普通と違う行動を取ると、
気にしてそわそわするようになる。



ハシブトガラスの視界から突然姿を消すと…
カラスはキョロキョロしながら安西さんが見える位置まで移動した。


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カラスは怖い?

 ギャングと呼ばれ嫌われることの多いハシブトガラス。彼らの東京での代表的な集団ねぐらのひとつが明治神宮で、隣接するこの代々木公園でも木の枝に巣を作ってくらしている。
 代々木公園の管理事務所では、春から夏にかけての繁殖期に、巣の下を歩いた通行人が“襲われる”という理由から、環境庁の許可をとってヒナや卵を捕獲することも多いという。東京都の鳥獣保護係に寄せられるカラス被害の苦情も年間数百件にのぼるそうだ。
 しかし、安西さんは「カラスは怖くない」といいきる。人間を襲っているようにみえるのは繁殖期における卵やヒナを守るための自己防衛反応だというのだ。
「東京のような大都市ではブトが急激に増えすぎて街路樹にも巣を作るようになりました。繁殖期にその巣の下をたまたま人が通ると、卵やヒナを守ろうとして通行人を“襲う”のです。それは彼らにしてみれば種を守るための当然の行動です。同時に彼らは学習能力をもっています。通行人が彼らに危害を加えないとわかれば、そうした被害は減ってくると思います」
 そもそも大都市でハシブトガラスが増えたのは、「彼らの冬の死亡率が減ったから」と安西さんはみる。年間を通し豊かすぎるほどの生ゴミが彼らを“繁栄”させたというのだ。
 「確かに彼らの増え方は異常です。しかし、スズメやカルガモの卵やヒナを彼らが食べることで都市での野鳥の増えすぎを抑えている面もありますし、都内では彼らの影響で何かの種が絶滅に追いやられているという報告もありません。その点、人間の方がはるかに危険です」


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カラスは意外にすごい

 カラスの学習能力が優れていることは、代々木公園を歩いて行くうちにすぐに理解できた。一度脅かしたハシブトガラスは、遠巻きにこちらをみているだけで近寄ってこないのだ。
 安西さんのような“怪しい人物”でなければ、ポケットに手を入れただけで、カラスは餌を貰えるものだと思ってキョロキョロするという。よく観察してみると他にも興味深いことがたくさんある。
例えば、カラスの瞳は瞬間的に白っぽくみえる。これは瞬膜(しゅんまく)と呼ばれる膜で他の野鳥にもみられるというが、カラスは顔が大きいためこの動きがよくわかる。
 公園に落ちていたハシブトガラスの羽を拾った。光に反射させてみると黒というよりキラキラとした深いブルーだ。黒だと光を吸収するが、光沢によって光を反射させることで暑さ対策になっているのではないかと安西さんは考える。手に持ってみると軸の中は空洞になっていてふんわりと軽い。ゆるやかなカーブを描いているのは飛行に適しているためで自然の芸術品という形容がぴったりだ。
 電線にぶら下がったり、滑り台で滑ったりなどの遊びとしか思えない行動は、なぜかハシボソガラスで観察例が多いそうだが、安西さんは一度だけ木の枝にぶら下がるハシブトガラスをみたという。普通は「カラス」で一緒にされてしまうブトとボソの違いというのもおもしろそうだ。愛情表現するときに相手の羽をつくろってあげる姿も人間をみているようで愛らしい。


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先輩としてのカラスから学ぼう

 公園内の高い木立ちが並ぶ場所に着くと、枝の上に十数羽のハシブトガラスがとまっている。ここでも、安西さんのカラス遊びが始まった。
 手を叩く、叫ぶ、隠れる、両手を羽のように広げて天敵(?)の真似をする…。あの手この手でカラスと遊ぶ「変な人」をみていたアベックは奇妙そうにその場を立ち去っていったが、写真はばっちり撮ることができた。
 安西さんによれば「カラスは怖いと思う人にとっては怖い存在だが、楽しいと思えば楽しくなる」そうだ。その分かれ目はその人の「気合い!」。
 ウトナイ湖のレンジャー時代、自分のなわばりを守るため侵入者との戦いに一度も負けたことのないアカモズの姿を安西さんはみてきた。カラスも天敵であるオオタカが来ると集団で身を守るそうだ。「自然界の勝負は気合い!で決まる。だから気の弱い人はカラス遊びはやらないほうがいい」と言う。
 東京杉並区に住んでいた小学校4年生の時から、カラス観察を続けてきた安西さんは、このカラスとの「気合い」比べでは「一度も負けたことがない」と胸を張る。こうなったら意地の世界とも思える。その安西さんも「繁殖中のカラスをからかうのはフィールドマナーに反するので勧められない。カラスの反応をデータに取るためにあえて巣に近づくことはあるが、原則としてからかうのは繁殖期以外か繁殖していない若鳥にしている」と断言する。

 (あァ、友だちなのだ!)日も陰り始めたころ、代々木公園をあとにして思った。野鳥を脅かさない、そのバードウオッチャーのマナーを破っているような安西さんの行動は友だちだからできること。安西さんは言う。
 「カラスの行動は人間に似ているというがそれは違います。野生生物は、地球に生きるものとして人間より先輩。我々はその先輩から生命の原点や歴史を学ぶべきです。歴史を大切にすることは資源を、そして地球を大切にすることと同じです」
 生き物を観賞するだけならペットでもできる。しかし、野性の高等動物で、しかも人の生活圏で暮らし、体が大きく、人間と同じ昼間に行動するカラスの存在は「環境教育を考えるうえで最高の生きた教材」だと安西さんは言う。
 その安西さんがカラスに魅かれた理由は?  を最後に問いかけてみた。
 「ハハハ、単純に楽しいからですよ」
 哲学者は一転、子どものような瞳で笑った。

文・写真/宇都宮保


ウォッチングの楽しみは足元にもたくさんある。カラスのフン(上)や羽(左)も、 鳥の生活や体のしくみなどを知るための材料となる。「なぜ?」という視点で 見れば、身近な鳥も興味が尽きることはない。
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進化の先頭を走るヒトとカラス

 哺乳類の中で一番進化した動物はいわずと知れた霊長目ヒト科、すなわち我々であることに一応なっている。一方、鳥類の中で一番進化しているのは燕雀目カラス科といわれている。生物の進化の意味は、形態や生理機能、行動を変えることにより、環境変化に適応してきたということである。そのような視点でみれば、先進国といわれる環境で生活する現代人類は少し以前の人類とは大きな違いがあり、分類学上別種として取り扱うべきだと思われるほど、特殊な進化をしてきたように思われる。そこでまず現代人類(以後、「現ヒト科」と呼ぶ)の進化の特殊性の証<あかし>をトレースしてみたい。
 現ヒト科動物は、大脳機能を異常に進化(?)させ、その外観、食性、行動様式、社会構造等を急激に変えてきた。その結果、彼等の行動圏は拡大し地球のあらゆる環境に進出するようになった。新たな環境での適応は、まずその自然環境・物理環境・化学環境を変える行動により成立する。先進国といわれる地域では環境変化が行き過ぎて、自ら変えた悪環境への適応をむりやり強いられるという、おかしな現象もみられる。また現ヒト科動物は、一世代当たりの資源消費量を際限なく増加し続ける(より便利な生活志向)唯一の種である。その結果、地球の資源循環能力を超えた資源を消費し、ゴミ・廃棄物を大量に発生させている。このことと相まって、個体数(人口)を急激に増加させ続けていることが、地球上の生物(森林等)再生産の能力を低下させ資源枯渇をまねいている。このような現ヒト科動物の変化を進化と定義するかは別にして、とりわけその変化速度が速いことに注目すべきである
 ここで鳥類の進化の頂点、ハシブトガラスをみてみよう。彼等で注目すべきは都市という環境で生活する一群である。彼等も現ヒト科動物と同様に、急激に食性、行動様式や社会構造を変え続けており、この意味で別種または別亜種として分類すべきであるかもしれない。外観(形態)まで変えたという報告は未だないが、これを仮に都カラスとでも呼ぶことにしよう。

   彼等はヒト科が創りだした巨大コロニー・都市という新環境に適応することで、個体数を増加させてきたのである。都カラスは現ヒト科動物と同様に、行動の多様化や文化の発達をみることができる。新しい食料の開発(ゴミ袋の利用技術)や新素材を利用した住宅(巣)開発など、多岐にわたる新技術の開発もやる。中でもゴミ袋の利用という高能率食糧需給システムの開発は、食物や好みの多様化だけでなく、生活の自由時間を生み、「遊び」という文化を創出した。「遊び」という行動をとることを高等動物の証とする意見があるが、この視点をとれば都カラスはすでに高等動物に進化したといえる。
 だが都カラスは自ら環境を変えることはできない。都市の環境を変えてきたのは現ヒト科動物である。すなわち都カラスへの進化は人間が創出したものだとみることができる


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種絶滅のシナリオ−人間社会を生物原理で眺めると…

 生物進化の歴史の中では普通の現象であるが、「種の絶滅」という大きな落とし穴がある。種の絶滅には一定のパターンがあるようだ。それを大別すると次のようになる。

  • 急激な環境変化→適応変化が間に合わない(氷河期などの気候変化が突然来る例)
  • 器官の異常進化→環境に適応しなくなる(サーベルタイガーの巨大な牙/環境変化に比べ器官の変化の速度は遅いから、大きな獲物が減ったら餌がとれなくなる)
  • 急激な個体数の増加→環境の収容能力限界(餌を食べ尽くし自滅)等である。だが通常これには自動制御機構が働き、危機は回避される。例えば島にすむシカの個体数が増え過ぎた場合、冬に弱い個体が死ぬことで数が調整される。
 しかしながら数の増加が急速で、増えたシカが草の根まで食べ尽くすようなことになればシカも植物も存続の機会を失い、環境は砂漠化して破局に陥る。要は何かの変化が急速で、調整に間に合わない場合に「絶滅」は発生するということだ。

 さて、そのようにみると、現ヒト科動物の生態(経済・政治・文化)は絶滅のシナリオに実によくマッチする。例えばこういう見方もできる。まず「大脳」という器官の異常進化があり科学技術の急速な発達が起こった。その結果、産業・経済を急速に発達させ自ら急激な環境変化を創りだし、環境破壊や資源枯渇等の問題を起こしてきた。また総個体数(世界の人口)を急増させたのも、大脳進化が医学や農業技術を急速に発達させたからだ。それらの行動が問題であることは分かっていても、大脳の発達が生み出したもう一つの特性である欲望に基づく(エンドレス形の)行動原理から、人類はそれらの行動を止めることができない。これは条件が満たされれば行動が止まる自然の動物が持つ欲求に基づく行動原理とは対照的である。
 もちろん現ヒト科動物も、自然の生物と同様に自動制御機構を準備してきたようだ。その「大脳」は核兵器などの人口急減の手段も一方では産み出している。今日の環境ホルモン問題も同じ位置づけができるかもしれない。しかしながら、そのような調整機構は同時に破局を引き起こすモデルでもある。



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心して見よ!−カラスは日本人の行動特性を写す鏡

 私達はゴミ袋をあさりハリガネで巣を作る都市のハシブトガラスをみて、「自然ではない」とか「かわいそう」と考えたりする。だが彼等が便利な生活を享受していることは疑いない。人間は便利で快適で楽しい生活を求めて社会を発達させてきた(と考えている)。その社会環境を利用して都カラスは大躍進してきたのだ。
 私はヨーロッパで長年生活した。その後は中国や東南アジアでも仕事をしてきた。その間、郊外の生ゴミ処理場のカラスやカモメはみたことがあるが、大都市でカラスの大群をみたことはない。従ってこの現象は日本人の社会行動が生み出した特有の現象かもしれない。だとすれば、鳥類のカラス科都カラス種の行動と哺乳類のヒト科ニホンジン種の行動の間には極めて強力な相関関係があると考えてもよい。
 Think globally, Act locally!などといわれる。だが人間社会が今日のように急速に変化し急激に多様化が進む中では、社会全体をグローバルに認識することすら難しい。だから都カラスをみつめよう。彼等の行動や社会は私達日本人の行動や社会を映す鏡なのだから。映るのは環境問題だけではない。人類は生物原理から逸脱しながらも著しい発展を続けてきた動物だが、不況・失業等にあえぐ日本経済、教育問題、高齢化社会等、様々な問題を解く糸口もみつけ出せないでいる。そんな日本社会も、都カラスと対照しながらヒト科ニホンジン種の生態学や行動学として眺めると、問題の本質がよく理解でき、また具体的な解決策も明快になるはずだ。
 私達はToday birds, Tomorrow human!といってきた。今、この言葉が実味を帯びてきた。カラスは人間より世代交代の速度が速い。そのため彼等の生態や行動を眺めることで、環境問題をはじめどことなく漠とした私達の社会の将来も、事前に予測することができるかもしれない。私達が創りだした環境の中で大繁栄を続けている種は、カラスだけでなくドバト等ほかにも沢山ある。根気よく私達の身の回りの動物を眺める習慣を持とう。もし形態(外観)が他と異なる個体が現れたとしたら、それは変化した環境への適応の姿か、絶滅への前触れと考えてもよさそうだ。

(おかもと・ひさと/新日鉄関連企業地球環境プロジェクトリーダー)



 
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