都会におけるカラス問題
野鳥誌掲載記事
● <活動>
都市のカラス問題−人と野鳥との共存をめざして
bU48(2001/12月号/P.40〜41)
昔からカラスは人間と近い場所にすみ、「七つの子」といつた童謡に歌われ親しまれてきた反面、「権兵衛が種まきゃカラスがほじくる」などやっかいないたずら者というイメージもありました。ところがここ数年、東京を中心とする都市圏で生活被害という新たな問題が取り上げられるようになりました。東京発で全国的に報道される機会も多くなつてきましたので、ごらんになった方々も多いと思います。東京都では、知事自らがこの間題を重視し、重要政策の対象として取り上げています。
問題になっている被害は、(1)ゴミの散乱、(2)攻撃を受ける、の2点が主要なところです。、(1)は、「権兵衛がゴミ出しゃカラスが散らかす」という状態で、ゴミ収集袋の中の生ゴミをカラスが引っ張り出して食べる際に他のゴミが散らかり、ゴミが道幅いっぱいに散らばってしまうこともあります。(2)は、子育ての季節に、ヒナを襲われると思った親鳥が巣や巣立ちビナの近くを通る人を威嚇したり飛びながら蹴ることで、これをやられると確かにびっくりします。ところが、TVなどでカラスが襲ってくるシーンが強調されるあまり、カラスが近くにくるだけで怖いとか、攻撃を受けたと思う人が増えてしまっています。この他、最近は小規模のねぐらが住宅地に作られることも多くなり、朝・夕の声がうるさいという声も大きくなりつつあります。
都市部に多いのはハシブトガラスですが、確かに、東京周辺のハシブトガラスの生息密度は高く、巣と巣の間隔が100m以下のこともあります。これは、家庭からゴミ収集場所に出される生ゴミを食物源として開拓した結果、生息可能数が増えたことによると考えられます。例えば都立井の頭公園における調査では、公園にいたカラスの食物のうち7割近くが人に由来する食べものでした。
東京支部が冬季にねぐらに集まってくる数を調べたところ、2000年には東京都内だけで3万羽以上のカラスが生息していることがわかりました。10年で3倍以上に増えたと考えられ、周辺地域まで含めれば約8万羽が首都圏に生息していると推測されます
●駆除では数は減らない
カラスによる被害を減らすためには、ゴミの減量や、収集場所への出し方を改善して、カラスにゴミを食べられないようにすることが必要です。ところが、多くの人々は、野生生物が問題を起こすと駆除して数を減らせばよいと単純に考えてしまいがちです。9月末に公表された東京都の「カラス対策プロジェクトチーム」によるカラス対策案(後述)も、ゴミ対策の必要性は認めているものの、駆除を優先て実施する内容になっていました。しかし、駆除では数を減らすのは簡単ではないのです。
第一に、現在でも多くが自然状態で死亡しているので、駆除で数を減らすためには自然死亡数以上の数を捕らなくてはいけないということ。ひとつの巣から巣立つヒナを2羽として、このヒナが毎年すべて生き延びていたら、前年の倍ずつ増えていくことになります実際にそれほどの速度で増えていないのは、実際には巣立つたヒナの多くが死んでいるということです。人為的に駆除して一見その数だけ減ったように見えても、その数が自然の死亡率の範囲内であれば、もともと死ぬはずだったものをお金をかけて殺していることになります。
第二に、野生の生きものは、食物の量に見合った数まで増えようとするということ。駆除で数を減らしても、潤沢に食物があれば、残った個体の栄養状態はかえってよくなりますから、次の繁殖期にヒナをたくさん育てることができ、数は元に戻っててしまいます。捕食によって数が抑えられる場合もありますが、カラスの場合は体のサイズから考えて捕食による死亡がそれほど多いとは考えられませんから、おもに食物の量がカラスの数を制限していると思われます。
これは、椅子取りゲームのようなものです(図参照)。都市のカラスの場合、椅子の数が食物、つまりゴミの量で、生き残りをかけてカラスたちが椅子を狙っています。椅子を残してカラスを駆除しても代わりのカラスが座るだけ(図のA)で、椅子(ゴミ)そのものを減らさなければ(図のB)、カラスは減りません。
第三に、カラスは羽があって移動能力が大きいこと。駆除で数が減っても、食物があればまわりから集まってきます。ドバトの例ですが、スイスのバーゼル市では駆除で数を減らしたあと、周辺から流入してかえって数が増えてしまったといった失敗例もあります。
●日本野鳥の会のカラス対策
この問題にいち早く注目した東京支部は、これまでカラスについてのシンポジウムを4回行い、都市のカラス被害の解決にはゴミ問題への取り組みが必要であることを示してきました。本会では、このシンポジウムを後援するとともに、シンポジウムでの提起を受けけてカラスの生息状況について東京支部や奥多摩支部と共同で調査を行い、ゴミの散乱とカラスの数との関係など基礎的な資料を蓄積してきました。昨年度は、環境省からの委託で、『自治体担当者のためのカラス対策マニュアル』作成のための調査を実施しました。その一環としてカラス対策に効果の
あるゴミ政策を実施している東京都内や周辺の自治体に参加していただき、その効果の検証を行いました。そして、カラス問題に直面する自治体間で情報を共有してもらうため、都市のカラス問題に自治体はどう取り組むのかをテーマに、2001年3月、日本教育会館で「カラスフォーラム2001」を開催しました。 これらの結果を集約した環境省の『自治体担当者のためのカラス対策マニュアル」は10月に全国の自治体へ配布されています。このマニュアルでは、駆除の効果はあまり見込めないこと、ゴミ対策の様々な事例、カラスの行動に対する誤解をなくすための教
育活動の重要性を、カラスの生態ともにわかりやすく解説しています。参考資料として各支部にもお送りしましたが、個人向けには、環境省のホームページから自由にダウンロードできるようになっています。
このように、効果が見込めず、命の軽視となりかねない駆除を避け、都市で問題化したゴミ対策を進めることによって、自然の摂理にしたがってカラス被害を軽減するべく働きかけを行っています。
●東京都への働きかけ
カラス被害急増している東京都では、昨年と今年の繁殖期に「緊急捕獲対策事業」として人を攻撃したカラスの巣・卵・ヒナを行政の費用で駆除する措置をい行いました。また、本年9月には都職員の公募によって特別に編成された1か月限定の「カラス対策プロジェクトチーム」により、対策案についての報告書をまとめました。この報告書では、ゴミ対策に言及されているものの、中心は捕獲による駆除策です。
本会はこれに対し、10月24日に意見書を提出しました。この中で、(1)カラスの生息密度を減らすには食物である生ゴミを減らすことが最も有効であること、(2)ゴミ対策よリ先に駆除を行っても、周辺からの流入などで、効果がなく結果として税金の無駄づかいとなること、(3)区市町村や研究者と連携し、教育活動なども含めて幅広く効果的な対策を検討すること、(4)対策の効果測定調査を実施し、その結果により対策内容を改善していくことを提言しています。
●野鳥と人との共存に向けて
都市のカラス問題はゴミ問題と関係が深いということで、都市特有の課題が大きいことは確かです。しかし、対策立案の考え方、効果測定とその活かし方などは、11月号で紹介したカワウなど全国で問題になっている野鳥と人とのあつれき問題に共通する点が多くあります。
本会としては、人と野鳥の共存を図るためには何が必要なのかを考えて、東京都など行政の施策を監現しつつ、今後具体的な提案を行っていきます。
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