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福島の声―3・11から7年 忘れないで。 福島に来て、現地を見てほしい
文=柵さち子 会員室
①帰還困難区域の風景。震災直後から放置されて、時間が止まったまま。田んぼだったところには木が生え、茂ってきている
激減した福島関連のニュースと現状
ここ数年、テレビや新聞での東日本大震災の被災地や福島第一原発についての報道が少なくなりました。また、放射能漏れ事故への明確な対応策がないまま、再稼働を開始した原子力発電所もあります。日本野鳥の会では、地元の生の声を知ってもらおうと、独自の放射線調査の結果や地域の人々の声を発信し続けています。昨年春、南相馬市や浪江町、飯舘村、富岡町の避難指示区域の一部が、追加解除されたのを受けて、現地を取材してきました。
避難指示解除を受けて、人は戻ったか
宮口勝美副町長によると、浪江町の居住人口は、今年2月時点の約500人から3月には約700人へと増加しました(震災前は約2万1千人)。これまでは子どもを通わせる学校がないことで、戻るに戻れなかった若い家族が、4月から学校を再開したことで、戻ってきてくれたのではないか、ということでした。現在の児童数は、小学校8人、中学校2人、隣接するこども園などに13人と少ないですが、今後、増えていくことを期待しているということです。
福島における食材の放射線量の検査は、非常に厳格に行なわれています。しかし、食の安全が実証されていても、福島県産食材への風評被害には、根強いものがあります。2014年から毎年、実証栽培で作っている浪江町産のお米からは、放射能は不検出でしたが、なかなか売れませんでした。しかし、復興支援として販売をしてくれるNPO団体の協力が得られ、すべて完売したそうです。
避難住民の多くが農家や漁師だったことを考えると、風評被害は深刻な問題です。生産物が売れなければ、生計が立てられません。住民が帰ってくるには、産業が成り立ち、雇用も担保され、医療施設や買い物環境が整うなどソフト面の充実が必要でしょう。しかし、人がたくさんいないと商業も成り立たず、逆に商業施設などが整わないと、人も戻ってこないという悪循環が改善できていません。宮口副町長も、道路整備や除染などのハード面は、国の援助などもあり、行政でカバーできるが、商業などのソフト面には手が出せず、もどかしい、とおっしゃっていました。
6年の空曰。無人状態が復興をさまたげる
南相馬市においても同様で、「人が先か商業施設が先か」という状況が続いています。街並みだけを見れば、震災前に戻ったところもありますが、人口も、賑わいもまだまだ戻っていません。漁師の佐藤敬次さんと蒔田豊美さんによると、震災翌年から開始した試験操業においても、福島漁連は国が定めた基準値(100ベクレル)よりも厳しい50ベクレルをクリアした魚種を出荷してきました。請戸(うけど)漁港は昨年9月に開港しましたが、船を出しても、福島産ということで魚が売れない状況が続いています。
結局、生計が成り立たないので、帰還できるのは年金で生活できる高齢者が多い、という声もあります。南相馬市役所では、働き盛りの世代の雇用確保のために、風評被害に影響を受けることがなく、機械工業が盛んな市の特性も活かすことができる「ロボット産業」を推進すべく、津波被害を受けた海岸沿いの萱浜(かいばま)地区に、約12haという広大な復興工業団地建設を予定しています。
帰還困難区域の静寂と、動物や自然の状況
当会では、野鳥への放射能の影響を継続して調査しています。今回も許可を取り、浪江町の2つの帰還困難区域に入りました。家々はイノシシに侵入され、見るも無残に荒らされていました。人間がいなくなった里に、本来奥山にすんでいるニホンザルやイノシシが進出し、ツバメの姿は見ることができませんでした。一方、避難指示解除区域では、人が戻ってきたことでツバメも少しずつ戻り、かつて出没していたイノシシも見かけなくなりました。
現地の望みでもあり、だれにでもできる応援は、現地を訪問することです。帰還困難区域以外は、だれでも訪問し、観光できます。現地に宿泊し、お土産を買うことも復興に貢献します。そして、自分の目と耳で感じた福島の現状を、現地から遠く離れた周囲の方々に、ぜひ伝えてほしいと思います。
② 阿武隈山系を源流とする高瀬川渓谷は、震災前までは福島県で有数の景勝地として知られていた。以前よりも放射線量は減っているためか、キビタキなどの野鳥が戻ってきているようだ
③ 帰還困難区域の1つ、浪江町小丸内にて。このポイントは、当会の調査員が知るなかで最も線量の高い地点。表示されている数値は、99.3マイクロシーベルト毎時。水素爆発時に何か高線量の発生源が飛んできたのかもしれない
④ 無人となった帰還困難区域の住宅地には、サルが山から下りてきている
避難指示区域の解除の要件(一部抜粋)
「空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること」
「日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスが概ね復旧すること、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること」