プレスリリース:勇払原野の安平川下流域に整備予定 河道内調整地(遊水地)で、今年も7種の希少鳥類を確認

2020年12月23日

公益財団法人日本野鳥の会は、今年の繁殖期(4~8月)にウトナイ湖サンクチュアリ(北海道苫小牧市)で実施した勇払原野での鳥類調査で、国内レッドリストに挙げられた絶滅危惧ⅠB類を3種、同Ⅱ類を2種、準絶滅危惧を2種、計7種の絶滅のおそれのある鳥類の生息を確認しました。(別紙資料1もご参照ください。)

現在、当会は勇払原野の苫小牧東部開発地域に整備される河道内(かどうない)調整地の、ラムサール条約湿地登録をめざして保全活動を行なっており、その一環として、希少鳥類の調査を毎年実施し、結果の一部を公表しています。(これまでの活動については、別紙資料2をご参照ください。)

なお、調査結果の公表によって希少鳥類の繁殖に悪影響が及ばないように、繁殖を終えたこの時期に発表いたしました。また、希少鳥類の生息撹乱を防ぐために、詳しい確認位置等の公表は控えさせていただきますのでご了承ください。

■確認された希少鳥類について

●タンチョウ

タンチョウ
タンチョウ

絶滅危惧Ⅱ類のタンチョウは、安平川(あびらがわ)下流域に整備される河道内調整地において、これまで7年連続で1羽の生息を確認していましたが、今年は4~7月に、つがいと思われる2羽を初めて継続して確認しました。同地域には、タンチョウの繁殖・子育て場所に適している広いヨシ原があるため、今後、同地域を含む勇払原野はタンチョウの重要な生息地になるものと考えられます。

●アカモズ

絶滅危惧ⅠB類に指定されているアカモズは、昨年と同数の2つがいを確認し、幼鳥も2地点で2羽以上確認しました。近年生息数の減少が著しいアカモズの国内の繁殖分布域は、長野県と北海道に限られ、過去100年間で90.9%縮小したという研究成果が発表されました(Kitazawa et al. 2020)。当地では定期的に2つがいが確認されており、現在利用されている繁殖地であるこの地域を保全することは、この研究結果を受けてさらに重要度が高まりました。

●河道内遊水地の重要性 ラムサール条約登録湿地をめざして

今回の調査で確認された7種は、ほとんどが湿原や草原に生息し、また、全国でも限られた地域にしか生息しない鳥類です。特に湿原や草原といった全国的にみても希少な鳥類が生息する自然環境が、苫小牧市内に残されていることが、あらためて明らかになりました。

当会は、これらの湿原性鳥類にとって重要な生息地である、安平川河道内調整地のラムサール条約湿地の登録を、2016年から提案しています。また、河道内調整地に設置される周囲堤の工事は、今後約10年間の予定で行なわれますが、この間に希少鳥類の生息地に影響を与えずに自然環境の保全と治水の両方面が進められるように、当会は今後も関係機関と連携し、保全活動を進めていきます。

<引用文献>
KITAZAWA M, SENZAKI M, MATSUMIYA H, HARA S, MIZUMURA H (2020) Drastic decline in the endemic brown shrike subspecies Lanius cristatus superciliosus in Japan. Bird Conservatin International, First View , pp. 1 – 9 (DOI: https://doi.org/10.1017/S0959270920000556)

■「日本野鳥の会」について

「野鳥も人も地球のなかま」を合言葉に、野鳥や自然の素晴らしさを伝えながら、自然と人間とが共存する豊かな社会の実現をめざして活動を続けている自然保護団体です。
独自の野鳥保護区を設置し、シマフクロウやタンチョウなどの絶滅危惧種の保護活動を行なうほか、野鳥や自然の楽しみ方や知識を普及するため、イベントの企画や出版物の発行などを行なっています。会員・サポーター数は約5万人。野鳥や自然を大切に思う方ならどなたでも会員になれます。

<組織概要>
組織名:公益財団法人 日本野鳥の会
代表者:理事長 遠藤孝一
所在地:〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
創立: 1934(昭和9)年3月11日 *創立86年の日本最古にして最大の自然保護団体
URL: https://www.wbsj.org/

報道関係者様 問い合わせ先:(画像の提供も下記にお問い合わせください)
公益財団法人日本野鳥の会 ウトナイ湖サンクチュアリ
担当:中村 聡 
善浪(ぜんなみ) めぐみ
TEL:0144-58-2505

〈別紙詳細資料1〉今回の調査で確認された希少鳥類

絶滅危惧ⅠB 類

●シマクイナ(ツル目クイナ科 全長13cm)

シマクイナ

  • 主に湿地や水田を利用し、繁殖期にはシベリア南東部やモンゴルで確認され、国内では勇払原野や青森県仏沼など、北海道と青森県の限られた場所で少数の観察記録がある。冬期には青森以南でも少数が確認されている。越冬地となるヨシ原が全国的に減少していることから、絶滅危惧種に指定されている。
  • 2020年に「国内希少野生動植物種」に指定され、種の保存法に基づき保護される対象種となった。
  • アジア周辺には1万羽未満しか生息しないと考えられているが、詳しい生息状況はわかっていない。
  • 勇払原野では、2012年から毎年繁殖期に確認しており、今回の調査では2羽の声を確認した。


●アカモズ(スズメ目モズ科 全長20cm)

アカモズ

  • 夏鳥として九州~北海道の原野、灌木のある草原、河川敷等で繁殖し、東南アジア等で越冬する。
  • 近年急激に個体数が減少したことで、2006年の環境省第3次レッドリストで、準絶滅危惧から絶滅危惧ⅠB類に2つランクが上がった。
  • 今後「国内希少野生動植物種」に指定され、種の保存法に基づき保護される対象種となる見込みとなった。
  • 近縁種のモズより自然度の高い場所に生育するため、生息地や個体数が少ない。
  • ウトナイ湖周辺では2004年以降確認できなくなったが、勇払原野では毎年2~4つがいを確認し、今回の調査では幼鳥も確認できた。
  • また、国内における現在の繁殖つがい数は149つがい、個体数は332個体と推定されている。
    (Kitazawa et al.2020)


●チュウヒ(タカ目タカ科 全長:オス48cm、メス58cm)

チュウヒ

  • 主に、北日本の草原、湖沼や河川敷周辺の湿原のヨシ原などで繁殖し、本州中部以南で越冬する。国内繁殖数は136つがいのみ、国内最少のタカ科鳥類である。(当会まとめ)
  • 2017年に「国内希少野生動植物種」に指定され、種の保存法の法令に基づき保護される対象種となった。
  • 勇払原野では、20つがいが繁殖、その内苫小牧東部開発地域では、2000年代以降6つがい前後が繁殖していると推定され、日本の重要な繁殖地のひとつと考えられる。

絶滅危惧Ⅱ類

●タンチョウ(ツル目ツル科 全長:140cm)

タンチョウ

  • 主に北海道東部の湿原で繁殖し、冬は鶴居村などの給餌場に集まる。
  • 一時は絶滅したと考えられたが、1924年の再発見以来、地元の方々の保護活動が奏功し、現在は約1800羽まで回復している。
  • 1993年に「国内希少野生動植物種」に指定され、保護増殖事業が進められている。
  • 個体数の回復に伴い、近年はサロベツ原野やむかわ町などで繁殖するなど、分布域も拡大しつつある。
  • ウトナイ湖でも2020年5月に、ヒナ1羽を含む3羽の親子が確認された。近い将来、苫東地域で繁殖する可能性は高く、同地域は北海道西部における個体数や分布域分散の基盤となる可能性がある。


●オジロワシ(タカ目タカ科 全長:オス84cm、メス94cm)

オジロワシ

  • 北海道の北部や東部などで少数が繁殖するが、多くは冬鳥としてユーラシア大陸東部より渡来し、海岸、河口、湖沼に生息する。
  • 1993年に「国内希少野生動植物種」に指定されている。
  • 近年、苫小牧地方でも周年観察されるようになり、勇払原野で繁殖が確認されている。

準絶滅危惧

●マキノセンニュウ(スズメ目センニュウ科 全長12cm)

マキノセンニュウ

  • 夏鳥として北海道の海岸草原、湿原、牧草地で繁殖する。越冬地は東南アジア。
  • 2012年8月の環境省第4次レッドリストで新たに掲載された。
  • 繁殖環境である低茎湿生草原が減少するなか、苫東地域は道内でも特筆すべき生息密度であると推察される。


●オオジシギ(チドリ目シギ科 全長31cm)

オオジシギ

  • 北海道の草原では夏鳥として普通に繁殖するが、国内でも世界的にも分布が局所的で個体数が少ない。越冬地はオーストラリア。
  • 繁殖期における勇払原野での個体数調査では、2001年には107羽が確認されたが、2017年の調査では77羽となり、約3割減少していた。さらに2019年には、個体数が63羽とさらなる減少を確認した。
  • 苫小牧市内の弁天沼では、2001年8月に標識調査によって合計400羽以上が確認されており、長距離飛行のエネルギーを蓄積する中継地として、秋の渡りの前に集結することが知られている。2016年の衛星追跡調査では、苫東地域を出発後1週間でニューギニア島まで渡ったことが確認された.2020年には新たに5羽に衛星追跡用送受信機を装着、渡りの経路を調査している。また、2016年の捕獲調査において、環境省の足環を装着して放鳥したオオジシギの幼鳥(当時)を、2020年6月に4年ぶりに勇払原野で確認した。この個体は、越冬地と繁殖地の間を4往復したと考えられ、オーストラリアと日本(北海道)での湿地の保全が重要であることを再確認した。

■写真提供 シマクイナ/宮 彰男 チュウヒ・オジロワシ/新谷幸嗣
アカモズ・タンチョウ・マキノセンニュウ・オオジシギ/ウトナイ湖サンクチュアリ
*写真の無断転載禁。使用については必ずご相談ください。画像のデジタルデータで提供が可能です。

■参考
○絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)
○環境省レッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)
カテゴリー(ランク)の概要 ※環境省HP より
・絶滅危惧ⅠB 類(EN):近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
・絶滅危惧Ⅱ類(VU):絶滅の危険が増大している種
・準絶滅危惧(NT):現時点での絶滅の危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
○日本鳥類目録 改訂第7版

〈別紙詳細資料2〉日本野鳥の会の苫東地域での自然環境保全活動

勇払原野は北海道三大原野のひとつとして、釧路湿原、サロベツ原野と並び数えられています。原野を構成する湿原の面積は、過去90年で約8分の1となり著しく減少しているものの、残された自然環境は、ラムサール条約湿地であるウトナイ湖を含み、水鳥、草原性鳥類、絶滅のおそれのある鳥類の生息地として重要な役割を果たしています。一方、同所では1960 年代の高度成長期に、第三次全国総合開発計画の一環として苫小牧東部開発計画がスタートしました。しかし、その後の社会情勢の変化により、当初計画の約1万700ha の土地の多くが未利用地域として残され、また農地として開拓された場所が放置され原野化し、結果として鳥類の良好な生息地となっています。

当会はこの優れた鳥類の生息環境を将来にわたって維持していくために、2000 年度から当該地域において鳥類調査を実施し、その生息状況から生息環境としての特徴を把握し、社会環境を考察して保全構想をまとめ、2006 年に「ウトナイ湖・勇払原野保全構想報告書」を発行しました。以来、希少種の調査や弁天沼周辺での自然観察会を通じ、同所一帯の保全活動を行っています。近年の主な活動は以下の通りです。

・2006年 苫東地域におけるアカモズ生息状況調査を実施し、同地域がアカモズの国内有数の繁殖地である可能性が明らかになった。
・2006年 弁天沼周辺の畑等の土地利用の変化が鳥類相に与える影響調査を実施し、同所における耕作地化は、草原性鳥類の繁殖を阻害し個体数を減少させ、一帯の鳥類相をも変化させる可能性があることが明らかになった。
・2006年~ 弁天沼周辺での自然観察会を毎年実施。
・2007年~ 苫東地域におけるシマアオジの生息状況調査を毎年実施し、道内各地の生息記録が途絶えるなか、同地域には継続して渡来していたことが明らかになった。しかし、2012年の1羽を最後に、それ以降確認されていない。
・2008年 北海道知事宛てに「弁天沼周辺の土地利用に関する要望書」を提出。
・2009年 勇払原野で衛星電波発信機によるチュウヒの行動圏追跡調査を実施し、同種の繁殖期の行動範囲や生息に重要な環境が明らかになった。
・2012年 日本野鳥の会3支部との連名で、北海道知事宛てに「苫小牧東部開発地域内の鳥獣保護区指定に関する要望書」を提出。
繁殖期における希少鳥類の生息状況調査を毎年実施。結果を記者発表。
・2014年 弁天沼周辺約950ヘクタールが河道内調整地となることが決定。
・2016年 弁天沼で行った調査でオオジシギの渡りルートの一部を解明
ウトナイ湖サンクチュアリ35周年記念シンポジウム~勇払原野をラムサール条約湿地に~を開催。
・2017年 勇払原野でオオジシギ個体数調査を実施。2001年と比較し、個体数が約3割減少。開発と樹林化が減少要因だった。
・2019年 柳生博と学ぶ勇払原野の魅力~安平川河道内調整地の賢明な利用を考える~を開催。
・2020年 オオジシギの個体数調査を実施し、数の減少とオーストラリアでの異常気象の影響について推察した。また衛星追跡送受信機をオオジシギに装着し、現在渡りの経路を追っている。

以上

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