プレスリリース 2012.05.09

2012年5月9日

バードウィークに因み、日本野鳥の会は
近年減少傾向にあるツバメの目撃情報を広く呼びかけます。
併せて原発事故による放射性物質の影響も調べます。

 ツバメは、誰もが知る身近な夏鳥です。しかし近年、ツバメは全国的に減少傾向にあり、その数は40年前の半分になったというデータもあります(※1)。
その背景には、農業の衰退により採餌場である水田や畑の減少及び宅地化の進行、河川の護岸化、巣作りができる軒のある日本家屋の減少などがあります。

 昨年3月に起きた福島第一原子力発電所での放射性物質の漏出事故により、警戒区域内で高濃度の放射性物質に汚染されたツバメの巣が発見され(※2)、チェルノブイリ原発事故の例(※3)のように泥を巣材とするツバメへの放射性物質の影響も心配されます。また、現在議論が進むTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加により、外国産の農作物の需要が増し、国内においてさらに耕作放棄地が増える可能性も懸念されます。
 古来よりツバメは、日本人の農山村の営みの中で共存してきた「人と自然との共存を象徴する野鳥」です。ツバメの減少は、私たち日本人の暮らしが大きく変わってきていることを物語っています。

 そこで、ツバメのおかれた現状を明らかにし、その背景にどのような減少原因があるのか把握することを目的に、(公財)日本野鳥の会(会長:柳生博,会員・サポーター数:約5万人)は、バードウィークを機に広く国民にツバメの目撃情報について協力を呼びかけます。お住まいの周辺にツバメはいるのかいないのか、昔に比べてその数はどう変化しているのかを是非お知らせください(※4)。また、当会会員及び支部を通じて、放射性物質による影響についても情報を収集していきます。
 寄せられた情報は、日本野鳥の会のホームページを通じて、広く公開していきます。
 なお、この調査に併せて、ツバメの生活史を紹介した小冊子『消えゆくツバメ』を無料でプレゼントいたします。ぜひお問い合わせください(※5)。

 私たちの暮らしと共にあったツバメを、私たちの力で守っていきましょう。

本件に関するお問い合わせは
公益財団法人 日本野鳥の会
担当:自然保護室 山本 裕  [email protected]
   会員室   篠木秀紀  [email protected]
〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
TEL:03-5436-2632  FAX:03-5436-2635  http://www.wbsj.org

補足説明資料

■ツバメについて
※1:ツバメの減少傾向について
※2、※3:ツバメへの放射性物質の影響について
※4:広く一般に呼びかけたツバメの調査について
※5:ツバメの小冊子『消えゆくツバメ』について
■バードウィークについて
■公益財団法人日本野鳥の会について

ツバメについて

 ツバメは、全長17㎝程度、長く切れ込みの入った尾が特徴。ユーラシア大陸と北米の広い範囲で繁殖して、冬季は熱帯に渡って過ごします。日本では種子島以北の日本全土に夏鳥として渡来します。北海道では南部をのぞき、その数は少ないです。
 ツバメはめったに地上に降りることはなく、餌とする昆虫(ハチ、ハエ、アブ、トンボなど)といった昆虫を空中で飛翔しながら捕食します。また、飛翔しながら水面をひっかくように口を開けて水を飲みます。
 繁殖期は4月から8月で、一夫一妻で年に1回から2回繁殖をします。巣立ち後、数日間は巣の近くにいて、親から餌をもらいます。2週間ほどたつと、親から離れて、水辺のヨシ原などで、集団で夜を過ごすようになります。集団ねぐらは数千~数万羽になることもあります。東京近郊では6月中旬ごろから集団ねぐらに集まるようになり、7月下旬~8月上旬が最大になります。
 8月頃から10月頃に東南アジアに渡っていきます。


水田を飛翔しているツバメ(写真/佐藤信敏)

※1:ツバメの減少傾向について

●図A.環境省データ

環境省が行ったツバメの繁殖分布調査によると、1974年-1978年と1997年-2002年の調査結果を比較すると全国的に減少傾向にあることがわかります(図A)。
出典:環境省HP


http://www.biodic.go.jp/reports2/6th/6_bird_species/pdf/tsubame.pdf

図B.石川県データ

石川県健民運動推進本部が昭和47年から行っている『ふるさとのツバメ総調査』によると、1972年(昭和47年)の調査開始時と比較して、2007年(平成19年)には成鳥の確認数が約半数まで減少しています。また、比例するように石川県の耕地面積も約3割減少しています(図B)。


出典:石川県HP「第39回ふるさとのツバメ総調査結果」と農林水産省HP「耕地及び作付面積統計・石川県」より作成

図C.大阪府吹田市データ

NPO法人すいた市民環境会議が1998年と2010年に営巣数を調べた結果を比較すると、2010年には3分の1にまで減少しています(図C)。


出典:環境省HP 出典:NPO法人 すいた市民環境会議 調べ

※2、※3:ツバメへの放射性物質の影響について

 2012年3月23日には、環境省自然環境計画課により、福島第一原子力発電所から約3キロ離れた福島県大熊町にある建物の壁で採取したツバメの巣から、1キログラム当たり約140万ベクレルの放射性セシウム(セシウム134と137の合計)を検出したことが発表されました。
 1986年に発生したチェルノブイリ原発事故では、放射性物質の影響により、ツバメに部分白化や尾羽の不均一な個体が生じたことや、放射線量の多い地域では雛の数が少ないなどの現象が報告されています。
 その調査では「部分白化」と呼ばれる、色彩異常を起こしたツバメの割合が、汚染地域周辺ほど高いことがわかっています。調査結果によると、羽色を鮮やかに保つのに使われる「カロテノイド」という色素をもつ鳥が、地味な羽色の鳥に比べて大きく減少していることが分かりました。また、オレンジ色と茶色の羽色に使われる「フェオメラミン」という色素に対し、放射線物質量が強い影響を与えることがわかりました。

(写真/Timothy Mousseau)

 非汚染地域に比べツバメの親鳥の生存率が下がり、繁殖していない個体の割害が増えました。また、1巣あたりの産卵数や孵化率が低下したことで、ヒナの数も減りました。同時に、ツバメの血しょうや肝臓、卵の中の抗酸化物質が低くなっていることもわかりました。放射線量が高い地域の個体ほど、精子の奇形率が高いこともわかっています。
 今後、福島の原発事故でも同様の異常が生じる可能性があり、全国的な規模でこれらの状況を把握しておく必要があります。
 2の出典:環境省自然環境計画課の調査結果/3月23日発表による
 3の出典:(公財)日本野鳥の会 会誌『野鳥』2011年7月号 特集記事

※4:広く一般に呼びかけたツバメの調査について

<ツバメの目撃調査について>
 この調査は、ツバメの置かれている状況を、インターネットや配布するツバメ小冊子等を通じて情報を集め、得られた情報を分析し、公表するものです。
 広く一般のみなさんに参加を呼びかける「わたしの町のツバメ情報(一般目撃調査)」と、主に当会会員から情報提供をいただく「ツバメの営巣環境調査(詳細調査)」に分かれています。「わたしの町のツバメ情報」はどなたでも参加できるかんたんな調査で、ツバメの目撃や営巣、周辺の環境について情報を募るものです。当会会員や関心の高い方に呼びかけて行う「ツバメの営巣環境調査」は、ツバメの営巣状況の把握と併せて、放射性物質がツバメに影響を与えているかどうかを調べます。

<調査参加方法について>
 調査については、5月10日から当会ホームページに開設する「ツバメ特設サイト」にアクセスいただき、入力後送信していただくか、「ツバメ特設サイト」にある調査用紙のPDFファイルをダウンロードいただき、ファックスや郵送で当会まで送付していただきます。
 また、小冊子『消えゆくツバメ』巻末のハガキにある「わたしの町のツバメ情報」の調査事項を記入して返送すると、誰でもツバメ調査に参加が出来る構成となっています。
 ※調査項目については別添資料をご参照ください。

※5:ツバメ小冊子『消えゆくツバメ』について


写真.ツバメ小冊子

 ツバメについて多くの方に知っていただくため、小冊子『消えゆくツバメ』1万部を無償で配布します。
 この小冊子は、ツバメが現在直面している問題や、ツバメの生態的特徴などを、美しい写真、図表を使用して、分かりやすく解説しています。巻末のハガキを使って誰でもツバメ調査に参加が出来る構成となっています。
 報道関係各位におかれましては、告知・報道へのご協力をお願いいたします。

≪申し込み先≫
①住所 ②氏名 ③電話番号
*可能であれば、④どこでこのプレゼント企画をご覧になったか
を明記して、次のいずれかの方法で「ツバメ小冊子プレゼント」係
にお申し込みください。

  • 電話:03-5436-2630
  • FAX:03-5436-2636
  • ハガキ:〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
  • 公益財団法人日本野鳥の会 ツバメ小冊子プレゼント 係
  • ホームページ:当会ホームページ(http://www.wbsj.org/)のツバメ特設ページより


バードウィークについて

 野鳥と親しみ、野鳥を通じて自然を大切にする心をはぐくむために設けられた一週間で、1894年アメリカのペンシルバニア州で4月10日を「バードデー」としたことが始まりです。日本では戦後間もない1947年4月10日に第一回「バードデー」が実施され、各地で野鳥と親しむイベントなどが開催されました。その後、北海道など北国では4月上旬にまだ雪が残っていること、より多くの方に親しんでもらうことを考慮し、1950年から期間を5月10日から16日までとし、「バードウィーク」と改められました。

公益財団法人 日本野鳥の会について

 ※詳しくは当会ホームページをご参照ください
 自然と人が共存する豊かな社会の実現を目指し、野鳥や自然のすばらしさを伝えながら、自然保護を進めている民間団体です。全国約5万人の会員・サポーターが、自然を楽しみつつ、自然を守る活動を支えています。

  • 会長:柳生博 会員、サポーター約5万人
  • 創設:1934年 ・創始者:中西悟堂 ・連携団体:全国90団体
  • 1970年 財団法人に改組。 ・2011年4月 「公益財団法人日本野鳥の会」として登記

<野鳥や自然を大切に思う心を伝える普及活動>

  • 自然観察の森など、全国9ヵ所の自然系施設に訪れる、年間約30万人のビジター対して野鳥や自然の素晴らしさを伝えています。
  • 東京バードフェスティバルなどの大規模イベントへの参加や野鳥図鑑などの発行を通して、バードウォッチングの楽しさを伝えています。
  • 野鳥や自然のすばらしさを伝える雑誌や小冊子を発行しています。

<野鳥や自然を守る保護活動>

  • タンチョウ、シマフクロウ、カンムリウミスズメなど絶滅の恐れのある野鳥の保護と生息地の保全を行っています。
  • 北海道東部のタンチョウの営巣地を中心に、土地の買い取りや協定により野鳥保護区として生息地の保全を進めています。現在、野鳥保護区の面積は33か所、2938.9haで、自然保護団体としては国内最大級です。
  • 国際的に重要な鳥類等を指標にした重要度の基準(ⅠBA基準)を満たした野鳥の重要な生息地の選定、リストの公表を行い、保全の推進、ネットワーク化を行っています。

<公益財団法人に登記>

  • 日本野鳥の会は、内閣総理大臣より「公益財団法人」に認定されており、個人や法人が支出した寄付金に対し、「特定公益増進法人」として税制上の優遇措置が設定されています。

本件に関するお問い合わせは
公益財団法人 日本野鳥の会
担当:自然保護室 山本 裕  [email protected]
   会員室   篠木秀紀  [email protected]
〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
TEL:03-5436-2632  FAX:03-5436-2635  http://www.wbsj.org