- 日本野鳥の会
- 当会の活動
- 自然保護
- 保全のための調査・研究
- 消えゆくツバメをまもろう
- 全国ツバメ繁殖状況調査(2013~2022年)報告
全国ツバメ繁殖状況調査(2013~2022年)報告
(2023年6月)
1.調査の状況
日本野鳥の会では2012年に会員向けのアンケート調査を行ないました。その結果多くの方が身の周りでツバメが減っているとの思いを持たれていることから、2013年ウェブサイト「ツバメの子育て状況調査」を公開し、2022年度までに4,199名の方に調査に参加登録をいただきました。この場をかりて御礼申し上げます。
当該サイトに巣の情報を寄せられた人数と観察記録が得られた巣の数を、表1に示します。ツバメのキャンペーンを行なっていた2014年前後をピークとして、どちらも徐々に減少していましたが、2020、2021年には若干回復していました。
年 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 計 |
観察者数(人) | 674 | 923 | 971 | 829 | 693 | 526 | 388 | 510 | 531 | 398 | 6,443 |
観察された巣の数(巣) | 1,314 | 1,937 | 1,835 | 1,696 | 1,439 | 1,015 | 687 | 802 | 886 | 740 | 12,351 |
2.ツバメの繁殖成績は年によって変動するか
ツバメは条件が良いと同じ年に2、3回繁殖することが知られていますが、サイトに寄せられた報告では2回目以降の繁殖を巣立ちまで報告いただいたものは少ないため、巣立ちヒナ数の報告が得られたのべ5,565巣のデータから、1回目の繁殖成績を用いて検討を行ないました。1巣あたりの巣立ちヒナ数は図1に示すように、1羽から9羽の幅がありましたが4羽を巣立たせた巣が最も多くなりました。1羽や2羽の例のほとんどは産卵数が少ないのではなく、巣から落ちるなどして最後に残ったヒナが巣立ったという報告が多くありました。
平均巣立ち数(1番仔)の経年変化を図に示す。
平均巣立ちヒナ数の年ごとの差はなく平均4羽で変化は見られなかった。
図1 一番仔の平均巣立ち数の推移(エラーバーは標準偏差)
3.営巣場所
ツバメは人の住む場所で子育てをすると言われています。10年間に報告のあった巣の88%が都市(都市計画法の対象地域)に位置し、更にその70%以上が市街化区域に位置していました。(図2参照)もちろん、サイトに報告いただいた方のお住まいの場所の偏りに依存していることも考えられますが、やはりツバメは人とともに暮らしている鳥と言えます。
区域区分 | 前期 | 後期 | 全期間 |
市街化区域 | 72.13% | 73.42% | 72.57% |
市街化調整区域 | 12.81% | 11.98% | 12.53% |
その他用途地域 | 5.91% | 5.80% | 5.87% |
用途未定 | 9.16% | 8.80% | 9.03% |
前期:2013~2017年
後期:2018~2022年
図2 ツバメの巣が作られた場所と都市の重なり
ツバメの繁殖の報告が都市に集中している一方で、都市は農村部などと比較して食料となる飛翔性昆虫が少なかったり、巣の材料となる泥や植物質などを得ることが難しかったりすると考えられます。都市化の程度が巣立ちヒナ数に影響があるか、同じ都市部の中で、開発行為が抑制された市街化調整区域と、より都市化の進んだ市街化区域とで、一番仔の巣立ちの状況を比較しました。(図3)
10年間の平均で、市街地の巣では巣立ちヒナ数が3.86羽であるのに対して、それ以外の場所では、4.27羽となっており、市街化調整区域のほうが多くのヒナを巣立たせることができていました。(p<0.01)また、年による変動も市街化調整区域が大きくなっていました。
都市部でも過度な市街化を行なわず、適度に緑地や都市農地などが存在する都市とすることで、都市にも生物多様性を取り戻し、ツバメとの共存を続けることができると考えられます。
図3 営巣場所による巣立ち数の経年変化
4.巣が見られなくなった場所
ツバメの営巣が調査期間で見られなくなった場所について検討を行ないました。繁殖の成否にかかわらず、巣が作られた場所を統計等に使われる2次メッシュ(10km四方のメッシュ)で検討しました。調査期間を前期(2013~2017年)、後期(2018~2022年)にわけ、それぞれの期間で1つでも巣が作られていれば「営巣あり」のメッシュとしました。もちろん報告の有無に基づくものであるため本当に繁殖しなくなったわけではなく、その地域で調査参加者が観察を取りやめた場合もあります。
前期に営巣の見られた815メッシュのうち41%にあたる348メッシュで営巣の確認がなくなった一方で、後半の営巣メッシュのうち26.5%のメッシュでは新規に営巣が確認され、全体の48.7%では前後期をとおして、営巣が確認されました。
営巣の有無 | 前期のみ | 後期のみ | 前後期 |
営巣メッシュ数 | 348 | 181 | 503 |
メッシュの各期における割合 | 40.9% | 26.5% | 48.7% |
どのような場所で営巣が確認できなくなっているかを見るために、データの多い関東地方を例として地図表示をしてみると、都市中心部では前後期ともに営巣が継続しています。これに対して、その周辺部で後半の期間に営巣が確認できなくなったり、新たな繁殖メッシュが確認されたりして変動が大きく、巣立ち数も「3.営巣場所」で見たように変動が大きくなっていました。
図4 営巣が確認されたメッシュの位置
ツバメの繁殖は人の生活と密接なつながりがあり、山間の集落などで減少が進んでいることが指摘されています(藤田,2015,全国鳥類分布調査ニュースレター Vol.3)。そこでメッシュごとの人口の増減とツバメの繁殖が見られなくなったメッシュとの関連を見てみました。
1kmメッシュ別将来推計人口データ(H30国政局推計)より2015年の国勢調査および2020年の推計人口を2次メッシュに集計して用いました。
前期、後期と引き続き営巣の見られたメッシュのピークは、人口の変化とほぼ同様でしたが、営巣に変化の見られたメッシュは人口が4~5%減少している場所にピークがあり、都市周辺部で人口密度の変化とツバメの巣の消失が関連していると考えられます。
図5 営巣確認メッシュとそのメッシュにおける人口動態
5.失敗要因
調査では、何らかの要因で巣立ちに至らなかった例に加えて、一部の卵やヒナが失われた例も「繁殖失敗」として報告されています。報告ではコメントとしての状況報告と、わかるものについては失敗の要因を書き込んでもらいましたが、実際の失敗原因の特定は困難で、多くの推測が含まれています。「巣が壊れる」の中にも巣材の泥が少なかったり壁が新建材のためヒナがある程度大きくなった時点で巣が落ちたりした例や、カラスやネコによって巣が落とされた例を区別するのは困難で、観察者の主観によるものとなります。そうしたことを前提に失敗要因を集計すると、カラスやヘビなどの天敵によるものが約36%と最も多くなりました。その中でも60%がカラスによるものと疑われていました。次いで多かったのはスズメによる巣の乗っ取りで14%あり、ツバメとともに都市で生活する鳥でした。また、巣の撤去など人に起因する失敗例も12%見られました。
図6 繁殖失敗の要因の割合図
6.最後
10年間多くの皆様のご協力を得て全国のツバメの繁殖状況の調査を行うことができました。その結果ツバメはやはり身近な野鳥であり、人の増減や都市の土地利用の変化を受けていることがわかりました。人の近くで子育てをすることで、巣材や食料などに苦労している様子も伺えました。昨年決まった昆明・モントリオール生物多様性枠組みのなかにも、都市部のターゲット12にも緑地や親水空間の確保や生物多様性に配慮した都市計画を進めるということが挙げられています。ツバメの住みやすい都市を作ることで私達にとっても住みやすい都市になること期待します。