産業用地民間開発募集エリアから曽根干潟後背地を除外することを求める要望書

福岡県北九州市は現在、環境省が選定する「日本の重要湿地500」に選ばれている「曽根干潟」の後背地を「産業用地民間開発募集エリア」に指定し、企業誘致を進めています。しかし、曽根干潟とその後背地には多くの鳥類が生息しており、これまで300種近い鳥類が確認されています。さらに絶滅危惧種等の重要種は100種に近く、まさに、北九州市の生物多様性を象徴する場所となっています。

そのため当会は「日本野鳥の会北九州支部」および「日本カブトガニを守る会福岡支部」と連名し、北九州市長宛に「産業用地民間開発募集エリアから曽根干潟後背地を除外することを求める要望書」を提出いたしました。

令和7年1月20日

北九州市長 武内 和久 様

日本野鳥の会北九州支部 支部長 川﨑 実

公益財団法人 日本野鳥の会 理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3丁目9番23号丸和ビル

日本カブトガニを守る会福岡支部 支部長 髙橋 俊吾

<賛同団体>
日本野鳥の会筑豊支部 支部長 梶原剛二
日本野鳥の会福岡支部 支部長 小野 仁
日本野鳥の会筑後支部 支部長 松富士将和
ラムサールネットワーク日本 代表 原野好正
北九州インタープリテーション研究会 代表 原賀いずみ
ジオ&バイオ研究会 会長 杉野広利
ウエットランドフォーラム 代表 松本 悟

産業用地民間開発募集エリアから
曽根干潟後背地を除外することを求める要望書

時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
武内市長におかれましては、ご就任以来の精力的なご活動に敬意を表したいと思います。

さて、小倉南区の曽根干潟は、1999年に北九州市が「曽根干潟保全利用計画」を策定し、その後2010年から現在まで、市の「生物多様性戦略」において重要な湿地であることが掲げられています。また、2001年に環境省の「日本の重要湿地500」の一つに選定され、現在では「生物多様性の観点から重要度の高い湿地(略称『重要湿地』)」としても選定されています。曽根干潟が自他ともに認める重要な自然環境であることを、まずはじめに申し上げておきます。

市長もご承知のように、曽根干潟とその後背地では多くの鳥類が生息しており、これまで300種近い鳥類が確認されています。さらに絶滅危惧種等の重要種は100種に近く、まさに、北九州市の生物多様性を象徴する場所となっています。ギラヴァンツ北九州の「ギラン」こと、絶滅危惧種のズグロカモメも後背地を回遊し、採餌しています。

曽根干潟に飛来する多くの鳥類にとって、後背地は満潮時の休息地や採餌場所としての役割を果たし、その後背地では多くのカモ類や、天然記念物のマガン、ヒシクイの大型ガン類も越冬地として干潟と後背地を利用しています。また、種の保存法指定種であるチュウヒの採餌場所であり、マナヅル、ナベヅル、そして、ハクチョウ類などの重要種も飛来しています。さらに、世界的希少種のクロツラヘラサギも休息地として利用しています。

このような鳥類にとって、曽根干潟後背地の田んぼや畑は満潮時の休息地・採餌場所の役割を果たしているため、産業用地民間開発募集エリアから除外することが必要です。

曽根海岸においては、517ヘクタールの干潟部分が注目され重要視されていますが、それと同じように後背地の曽根新田は、人や車が往来するエリアと干潟との緩衝エリアとして重要です。
また、曽根干潟には広範囲にわたって湧水が見られ、生態系が支えられているものの、大きな流入河川がない曽根干潟において、用排水路を通じた曽根新田経由の流水が現在の干潟を保つ上で大きな役割を果たし、飛来する鳥類と、300種以上といわれる底生生物を豊富にしているといわれています。「生きた化石」と呼ばれるカブトガニが曽根干潟の河口部で産卵しているのも、後背地がある程度健全に保たれてきたからと言えるでしょう。後背地が開発され、決して大きくない4つの河川による流水だけでは河口付近でしか生態系を維持できません。(一部引用:九州国際大学経営経済論集22巻1号より)

現状においては、曽根干潟を分断する漁業用仮設道と、新設された都市計画道路6号線によって、曽根干潟と後背地の鳥類や底生生物への影響が起きていると推測でき、その上に、この度の産業用地開発は計り知れない影響を与え、北九州市の生物多様性戦略に汚点を残す結果となるでしょう。
まさに、北九州市の生物多様性戦略における、「第1の危機(開発など人間による危機)」を北九州市自らが行おうとしていることは看過できません。

産業用地民間開発募集エリアから曽根干潟の後背地を除外することは、生物多様性戦略に叶うことです。武内市長の賢明なご判断を求めます。

なお、本要望書に対する武内市長のご回答を2025年1月末日までに頂ければ幸いです。

以上

<参考資料>
「曽根干潟と後背地の鳥類記録リスト」
「曽根干潟と後背地の鳥類重要種」

※個人情報に該当する箇所は非表示となっております。

本件に関する問い合わせ先:
(公財)日本野鳥の会 自然保護室 浦(うら)
TEL: 03-5436-2633
E-mail: [email protected]


九州の重要野鳥生息地(IBA, Important Bird and Biodiversity Areas)
JP135 曽根干潟(そねひがた)