- 日本野鳥の会
- 当会の活動
- 自然保護
- 意見書・要望書
- ブラックバスの規制・対策強化について自然保護4団体と2つの学術学会と連名で国などに要望書を提出しました
- 特定外来生物オオクチバス・コクチバスの規制・対策についての要望書(山梨県知事・神奈川県知事宛て)
特定外来生物オオクチバス・コクチバスの規制・対策についての要望書(山梨県知事・神奈川県知事宛て)
2022年8月4日
山梨県知事 長崎 幸太郎 殿
神奈川県知事 黒岩 祐治 殿
特定外来生物オオクチバス・コクチバスの規制・対策についての要望書
公益財団法人日本自然保護協会 理事長 亀山 章
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン 会長 末吉 竹二郎
公益財団法人日本野鳥の会 理事長 遠藤 孝一
一般社団法人日本魚類学会 会長 瀬能 宏
日本トンボ学会 会長 苅部 治紀
全国ブラックバス防除市民ネットワーク 会長 高橋 清孝
( 公 印 省 略 )
- 【要望1】
-
2023年度の共同漁業権免許切替に当たり、特定外来生物オオクチバスを第五種共同漁業権対象魚種に加えないことを強く要望します。
北米原産の外来魚オオクチバス・コクチバス(通称ブラックバス)は、米国より導入されたバス釣りの人気の高まりとともに各地で密放流され、全国的に生息域を拡大させ、深刻な生態系破壊や漁業被害を招いたこと、及びそれらが生息する状況が積極的に経済利用されることにより拡大が止まらないことが問題視され、2005年の外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)施行時に特定外来生物に第一次指定されています。その際、同法が成立する以前からオオクチバスに第五種共同漁業権が免許されていた4湖(神奈川県芦ノ湖、山梨県河口湖、同西湖、同山中湖)に対しては、当該漁業権が設定されている内水面(湖)を「特定飼養等施設」として扱い、一定の基準を満たせば飼養等の許可を受けることができる「特例」とみなして、第五種共同漁業権がそのまま継続されました。この特例としての扱いは、その後、2013年の共同漁業権免許切替時もそのまま踏襲され、外来生物法施行後17年が経過する今日もなお継続しています。このままでは2023年度に迫った次回の漁業権免許の切替の際にも、オオクチバスに対する第五種共同権が継続される可能性が高いことを憂慮します。
私たちは、生態系や農林水産業等への被害が甚大である外来生物を特定外来生物に指定し積極的にその防除を進めるという外来生物法の趣旨を踏まえ、山梨県及び神奈川県が2023年度の第五種共同漁業権免許の切替時に、オオクチバスを漁業権魚種とする漁場計画を作成することがないこと、及びオオクチバス漁業権を免許しないことに伴って生じると想定される諸問題の解決を、当該漁協は当然のことながら、外来生物法を共管する環境省、農林水産省(水産庁)とともに図っていただくことの2点を強く要望いたします。
- 【要望2】
-
2023年度の漁業権切替において、諸般の事情から、やむを得ずオオクチバスに対する漁業権を継続させるような場合にあっても、第五種共同漁業権を免許する立場である山梨県及び神奈川県におきましては、次の点について当該漁協に対して示し、その実行を強く指導することを、要望いたします。
- 1.オオクチバス増殖事業における収支に関する事項
-
- 特定外来生物であるオオクチバスの遊漁料金は、他の漁業権対象魚種とは別途に、増殖経費や漁場管理に見合った遊漁料金を設定すること。
- 公共水面を利用して基本的に防除の対象となる特定外来生物から収益を得るのであれば、公共的見地から、その収支について公開すること。
山梨県からは、漁協に対してオオクチバスの増殖量を暫時低減するように指導していると伺っており、オオクチバスに対する増殖経費はあまり多くかからない一方で遊漁料の収入は大きいと考えられることから、各漁協が外来魚に依存する漁場管理から抜け出しにくくなっているものと思われます。また、神奈川県ではオオクチバス増殖量に関し特段指導が行われていないと認識しています。いずれも外来生物法の趣旨に沿った指導と、その根拠を確認するための調査が行われるべきと考えます。
- 2.漁業権を設定しなくなった際の漁場管理方針に関する事項
-
- 漁場計画の立案についての通知を行うに際して、漁業権を設定しなくなった場合の漁場管理方針を当該漁協に対して明示すること。
漁業権を設定しなくなった際に、現在、外来生物法に基づいて実施されている流出防止措置等に関する漁場管理の方針が、環境省と水産庁双方から示されていないため、関係者が未来図を描けていない現状にあると聞いています。私たちは環境省と水産庁に対し、オオクチバス漁業権を設定しなくなった場合の漁場管理方針を県に対して明示するよう要望していますが、山梨県及び神奈川県におきましても、両省庁と連携の上、この漁場管理方針を明確にし、当該漁協に対して指導するべきと考えます。
- 3.漁業権免許の期間に関する事項
-
- 外来魚に頼らない漁場管理への移行を進めるのであれば、切替後の漁業権の継続期間が満了する10年を待つことなく、外来生物法に定める飼養等の許可の有効期間に合わせて3年ごとにその進捗を見直すこと。
外来生物法では、オオクチバス漁業権漁場の特例としての飼養等の許可の有効期間は3年間(「第五種共同漁業権に係る特例を定める件(平成17年告示第5号))とされている一方、第五種共同漁業権の存続期間は10年です。しかし、漁業調整上必要な場合にあっては短期免許が可能となっています。漁業権免許を設定しないよう要望がある中一律10年間の漁業権を設定するのは、問題の先延ばしに繋がるものと考えます。
- 【付記】
-
本年2022年5月11日、第208回国会で成立した外来生物法改正法の3つの柱のひとつには、各主体による防除の円滑化が盛り込まれています。地方公共団体においても外来生物の防除のノウハウが蓄積されてきている一方で、現行法上は国のみが主な防除主体とされているのを転換し、国、都道府県、市町村(特別区を含む。)、事業者及び国民に関する責務規定も創設されました。山梨県及び神奈川県におかれましてはこれにのっとり、現状のブラックバス(オオクチバス、コクチバス)対策の捩じれを正してください。
なお、外来生物法の改正につきましては、その附帯決議に、オオクチバス・コクチバスに関し対策の実効性を高めることが「適切な措置を講ずべき事項」として盛り込まれました。(附帯決議については下記参照)
衆参両院における質疑でもブラックバス問題が取り上げられ、これに対して環境大臣や水産庁審議官・部長が前向きに対策することを明言されています。
ブラックバスは外来生物法施行時、特定外来生物に第一次指定されたにもかかわらず、最も対策の進んでいない特定外来生物として知られています。要望1にも記載したように漁業権を免許された特例的水域があり、その増殖義務を果たすために今日なおオオクチバスが輸入・養殖、放流されています。また、バス釣りにおいては、捕獲した個体の駆除に貢献する機会でありながら、釣った魚を再放流する「キャッチ&リリース」が釣り人にとって常識のままです。たとえ密放流の結果であっても「居る魚を釣るのは自由」といった受益者側の認識が法規制後も継続していることから、オオクチバス、コクチバスとも生息する水域が増え続けています。
私たちは環境省と水産庁に対し、外来生物法改正法の附帯決議に記載された事項、及び、衆参両院における質疑への回答に沿って、特定外来生物のオオクチバス・コクチバスに対して、以下に示す効果的な対策を講じることを要望しています。
- 特定外来生物オオクチバス・コクチバスによる生態系や漁業への被害の実態と違法放流の実態を把握してください。
- 地方公共団体・民間団体等と連携して、違法放流の撲滅を目指した対策と防除の取組を強化してください。
- 基本的に防除をすべき対象である特定外来生物に対して、積極的に有効利用するための漁業権を認め続けることの是非を検討することに加え、法施行後も違法行為が継続しその撲滅が求められている状況に鑑み、「オオクチバス等に係る防除の指針」等の内容を点検し、オオクチバス及びコクチバス防除の方針を見直し、対策の実効性を高めてください。
<外来生物法改正法の附帯決議からの抜粋>
政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずべきである。
「六、特定外来生物オオクチバス・コクチバスによる生態系や漁業への被害の実態と違法放流の実態を把握するとともに、地方公共団体及び民間団体等と連携して、違法放流の撲滅を目指した対策と防除の取組を強化すること。また、特定外来生物を対象とした漁業権の在り方や「オオクチバス等に係る防除の指針」等のオオクチバス対策の方針を見直し、対策の実効性を高めること」
以上
[本要望書のPDF版はこちら/247KB]