種の保存法と当会で保護事業を進めている種

当会の絶滅危惧種保護の基準と目的

種の絶滅を防ぐことは、生物多様性を維持するにはもっとも効果的な手法です。また、その種の生息環境を保全することは、その生態系に棲む多くの種を守ることにつながるという考えのもとに、当会ではさまざまな絶滅のおそれのある種の保護事業を行なっています。

保護に取り組む種を選ぶ基準は、

  1. 環境省版レッドリストおよび国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅のおそれが高いこと
  2. 日本が主要な生息地であること
  3. 国など他の主体による保護が不十分な種であること

などです。

シマフクロウやタンチョウなどは国等が保護事業を行なっていますが、生息地が私有地の場合には、買い取り等の保護手段がとれないため、当会では野鳥保護区の設置という手法で保護事業を実施しています。また、ナベヅル・マナヅルでも環境省による保護事業が行なわれていますが、鹿児島県出水市での鳥獣保護区の事業としてしか位置づけられていないため、新たな越冬地を形成する事業を当会が担っています。

絶滅から守るための法律「種の保存法」が作られたきっかけ

種の絶滅を防ぐための法律に、平成5年に施行された「絶滅のおそれのある野生動植物種の保存に関する法律」(以下「種の保存法」)があります(図1参照)。もともとレッドリスト掲載種数に対して、種の保存法で取り扱う国内希少野生動植物種の数が少なすぎるという批判があったため、2013年に法改正があった際に、2020年までに新規に300種を追加指定することになりました。また2018年の改正の際には、さらに2030年までに700種を追加指定することを目指すとされました。

【図1】絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律の概要
(平成4年6月制定・平成5年4月施行)

表1 を見ると鳥類は他の分類群に較べて国内希少野生動植物種に指定されている割合が高く、一見手厚く保護されているように見受けられます。これは、種の保存法の成立以前にあった「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律」に指定されていた種が、種の保存法成立に伴い、そのまま指定されたことによります。この法律は「日米渡り鳥保護条約」の締結を機に鳥類の保護をより進めるために作られた法律ですが、種の保存法の成立に伴って廃止され、対象の種は種の保存法の国内希少野生動植物種に移行されました。

【表1】種の保存法指定種数と環境省レッドリスト指定種数一覧

分類群 A種の保存法
国内希少野生動植物種
B環境省レッドリスト
絶滅のおそれのある種
A/Bの割合 保護増殖事業
(計画数)
生息地等保護区
(箇所)
鳥類 39 98 40% 15
哺乳類 12 33 36% 4
爬虫類 8 37 22% 1
両生類 13 29 45% 1 2
魚類 7 169 4% 4 1
昆虫類 46 363 13% 10 1
陸産貝類 19 616 3% 14 1
甲殻類 6 65 9%
植物 143 2,266 6% 16 3

平成5年以降の施行開始後に追加指定された種は、ヘラシギ、チュウヒ、シマアオジ、クロコシジロウミツバメ、オガサワラヒメミズナギドリ、ワシミミズクの6種にとどまっています。

レッドリストと種の保存法のちがい

では、国内希少野生動植物種はどのようにして選ばれているのでしょうか。絶滅のおそれのある種のリストとして、レッドリストがあります。レッドリストは評価の時点で得られているデータを用いて科学的な見地から選定されているものです。そのため環境アセスメント等では重要種として評価の対象になります。

アメリカのように絶滅のおそれのあると評価された種を自動的に指定種とするという考え方もありますが、国の予算や人員には限りがあり、指定しても捕獲・流通の禁止以外はなんの対応もできないということが考えられます。また、種の指定は法律による禁止などを伴いますので、他の省庁との調整も必要です。

国内希少野生動植物種に選ばれる基準

国内希少野生動植物種の候補を選定する基本的な考え方は、次のように示されています。

(1)希少野生動植物種保存基本方針
(ア)絶滅のおそれが高い種
(イ)生息地等が消滅しつつあることにより、絶滅のおそれがある種
(ウ)分布域が狭くかつ、生息環境の悪化により、絶滅のおそれがある種
(エ)分布域が限定されており、かつ、生息地等における過度の捕獲又は採取により、絶滅のおそれがある種

国内希少野生動植物種は、これら4つの条件で選定された候補種のなかから、国として保護施策に取り組んでいく種として指定されます。

さらに、これらの種の中でも、以下のような種は優先度が高いとされています。

  1. 捕獲・採取圧が減少要因となっており、全国的に流通する可能性がある種
    鳥類は鳥獣保護管理法で捕獲が禁止されており、この条件はあまり当てはまりらないが、マニアが多い高山蝶やランの仲間などが該当する。
  2. 固有種が多く生物多様性が豊かな島嶼等、国内でも特に重要な生態系が見られる地域に分布する種
    最近多くの陸生巻き貝が小笠原で登録されたのは、この例。
  3. 分布範囲や個体の行動範囲が都道府県境をまたいで広域に及ぶ種イヌワシなどの猛禽類は、この視点で登録されている。
  4. 国境を越えて移動する種や国際的に協力して保全に取り組む必要がある種
    シマアオジやヘラシギが2017年に指定されたのは、この例。一見、国内では有効な保護施策がないよ
  5. 有効かつ汎用性のある保全施策の手法や技術を確立するために先駆的に取り組む意義がある種
    最近、生息地での人工飼育の試みが行なわれているライチョウなどはこの例に該当。

この他、その種の生息地を保全することで、同じ場所に生息する複数の絶滅のおそれのある種が保全されることが期待できる種であることも判断要素となっており、例として、チュウヒの指定が挙げられます。

国内希少野生動植物種に指定されると行なわれる保護策の例

では、国内希少野生動植物種に指定されると、どのようなことが行なわれるのでしょうか。

1.捕獲や譲渡し等、輸出入の禁止

すべての指定種について、捕獲や譲渡し等、販売目的での陳列又は広告が禁止されます。また、輸出入も禁止されます。「譲渡し等」という言葉はふだん聞かない言葉ですが、生死にかかわらずその個体そのものや羽などの器官や加工品の譲り渡し、販売、貸す、もらう、借りる等の行為全般を指しています。羽などの利用のための捕獲を抑制する効果があります。

2.生息地等保護区

また、生息地が局所的でかつ良好な状態が保たれている場合には、「生息地等保護区」の指定が行なわれます。生息地等保護区では、環境を改変する行為が原則として禁止されているほか、場合によっては立ち入りの規制や、その種の餌生物の捕獲や車の乗り入れ、薬剤散布などが禁止されます。規制が厳しく、現在全国で9か所しか指定されていません。

鳥類の場合は行動範囲が広いことと、鳥獣保護区の特別地区という仕組みが使えることから、生息地等保護区の指定例はありません。

なお、種の保存法の第34条には、生息地等保護区に限らず「土地の所有者又は占有者は、その土地の利用に当たっては、国内希少野生動植物種の保存に留意しなければならない。」、第35条には、「環境大臣は、国内希少野生動植物種の保存のため必要があると認めるときは、土地の所有者又は占有者に対し、その土地の利用の方法その他の事項に関し必要な助言又は指導をすることができる。」との条文があり、オオタカが国内希少野生動植物種の指定が解除される際に、里山の開発との関連が議論されました。

3.保護増殖事業

種によって積極的な保護手法がある場合には、保護増殖事業が行なわれます。鳥類では、現在15種で保護増殖事業が行なわれています(表2)。保護増殖事業は環境省だけでなく、農林水産省や国土交通省などの他省庁や自治体も関与して取り組みが行なわれています。

【表2】 「種の保存法」対象鳥類44種のリスト( 赤字 は保護増殖事業計画策定種) *亜種

種名 種名 種名
シジュウカラガン オジロワシ アカコッコ
エトピリカ オオワシ オオトラツグミ*
ウミガラス クマタカ ヤイロチョウ
ヘラシギ カンムリワシ チシマウガラス
アマミヤマシギ ハヤブサ オオヨシゴイ
カラフトアオアシシギ ライチョウ オーストンオオアカゲラ*
コウノトリ タンチョウ ミユビゲラ
トキ シマアオジ ノグチゲラ
クロツラヘラサギ シマクイナ アホウドリ
キンバト ヤンバルクイナ クロコシジロウミツバメ
アカガシラカラスバト* オガサワラカワラヒワ* オガサワラヒメミズナギドリ
ヨナグニカラスバト* ハハジマメグロ* セグロミズナギドリ
イヌワシ オオセッカ ワシミミズク
オガサワラノスリ* アカヒゲ シマフクロウ
チュウヒ ホントウアカヒゲ*

4.国際希少野生動植物種

種の保存法には、国内希少野生動植物種と国際希少野生動植物種とよばれる指定種があります。種の保存法は、もともとワシントン条約の批准に伴い、国際的に流通が禁止されている種の国内流通を規制するためにつくられた法律で、国際希少野生動植物種には、ワシントン条約の附属書1に掲載されている種と渡り鳥保護条約等で相手国から保護の要請のあった種が指定されています。

附属書1にはコンゴウインコなどが含まれており、登録をしたもの以外は流通が原則禁止されています。象牙などの流通規制もこの制度によるものです。後者にはトキやマナヅル、ナベヅルが含まれていて、国内希少野生動植物種と同様に譲渡し等販売のための広告陳列が禁止されます。日本は、中国、アメリカ合衆国と並ぶペットの輸入大国で、渡り鳥保護条約等での取り組みも海外の絶滅危惧種の保全には重要な仕組みです。

近年の、種の保存法の改正と改正のポイント

種の保存法は、1993年に法律が施行されて以来、20年間そのままでしたが、最近は2013年(図1 参照)と2018年(表3 参照)の5年おきに改定が行なわれました。

【表3】 2018年改定のポイント

特定第二種国内希少野生動植物種の制度を創設
里山の管理作業などの人為的な撹乱を受ける事によって維持されている二次的な環境に生息する絶滅危惧種 の保全に関して、調査研究や里山の管理作業、環境教育が重要なことから、販売や頒布目的についてのみ捕 獲や譲渡し等の規制を設ける。

認定動植物園制度の創設
一定の基準を満たす動植物園を認定動植物園に認定し、譲渡し等の規制を解除

国際希少野生動植物種の登録義務
登録票の更新手続きを創設、可能な種についてはマイクロチップ等の装着を義務付け、象牙の取引業については届出制から登録制変更

その他
第二種特定国内希少野生動植物種の保全のために対象種名を伏せた生息地等保護区を設置できるように変更、 国際希少野生動植物の国民からの提案制度の創設、科学委員会の法定化


2018年の改定の際に、衆参両院で付帯決議として5年後の見直しが記述されていますので、次は2022年の通常国会で改定の議論が行なわれます。

国民からの提案制度は2013年の改定の際に付帯決議に書かれたため、運用で行なわれていましたが、今回の改定で法制度化されました。シマアオジとチュウヒ、アカコッコの国内希少野生動植物種の指定は、当会の提案によるものです。

今後見込まれる課題と海外の例との比較

2018年の法律改正に伴って行なわれた科学委員会の設置は、国内希少野生動植物種の指定の経緯が不透明で問題があると、当会をはじめとしたNGOが設置を求めていたものです。2018年12月に第1回の希少野生動植物種専門家科学委員会として開催されましたが、本格的な議論はこれからです。また、現在の議論では、検討過程がどの程度透明なものになるかがまだわかりません。
議論を不透明なものにしている理由は、国内希少野生動植物種への指定検討の情報が広まることで駆け込みでの捕獲や採取が行なわれるおそれがある、ということです。アメリカなどでは保護を行なう民間のNGOが多数あり、監視が十分に行なわれるため、検討中の情報も公開されています。それに比べると、日本はまだ残念な状況です。また、新設された特定第二種国内希少野生動植物の指定と、これに基づく規制の緩やかな生息地等保護区の指定は、里地・里山の保全に関して重要と考えています。

さらに現在、環境省版レッドリストのほかに、2017年に公表された海洋生物レッドリストが存在しています。漁業対象種を水産庁が評価し、底生生物やサンゴなど水産資源以外を環境省が評価し、別々に公表されています。
環境省版は国際自然保護連合のIUCNに準拠した評価を行なっていますが、水産庁版では評価基準が異なっており、94種を評価したうち、データ不足の1種を除き、すべてランク外となっています。マグロなど中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)など別の仕組みで評価されているものも対象外となっています。将来的には、海洋保護区の設置や洋上風力発電の影響の検討のために、この2つのレッドリストを統一していくことも重要と考えます。

国内希少野生動植物種に指定された後、その指定が解除された種は5種のみです。そのうち、ルリカケスとオオタカ以外のダイトウノスリ、ウスアカヒゲ、シマハヤブサはレッドリストで絶滅と評価されて指定が解除されています。これらのことは、いちど絶滅のおそれのある状態に陥ると、ふたたび状況が改善するのは困難なことを示しています。いちばん大切なことは、種が絶滅のおそれのある状態になる前に、対策をとることです。