「シンポジウム・野鳥と洋上風力発電 -野鳥保護と自然エネルギーの共存を目指して」
(2013年1月13日(日)開催 於 立教大学)
立教大学と共催で、野鳥保護の観点から日本に適した洋上風力発電の在り方を考えるために、事業者、行政、研究者、民間団体など、すべての利害関係者を集めたシンポジウムを開催しました。
国内外のアセス制度やその課題、日本の海鳥の生態、洋上風力発電が野鳥に与える影響や海鳥の調査手法の国内外事例に関して、12名のゲストから講演をいただきました。
講演内容
- NEDOにおける洋上風力の取り組みについて(NEDO 大重 隆)
- 環境省における洋上風力発電への取り組み (環境省・地球温暖化対策課 吉田諭史)
- 洋上風力発電の技術研究開発・浮体式実証事業における環境影響評価手法の確立のうち鳥類調査(イーアンドイーソリューション株式会社 高橋 牧、芙蓉海洋開発株式会社 杉岡伸一)
- 英国の洋上風力発電計画において鳥類へのリスク低下をもたらす戦略的初期投資の仕組み (海洋エネルギーコンサルタント Chris Lloyd)
- 風力発電事業に関わる国内の環境影響評価制度 (環境省・環境影響評価課 田中 獏)
- 風力発電所に関わる環境影響評価の現状とその課題 (電力中央研究所 北村 亘)
- 日本に生息する海鳥の特徴・点在する営巣地と柔軟性の高い繁殖行動への配慮 (名城大学 風間健太郎)
- 洋上風力発電所と日本近海の海鳥のキーワード (知床海鳥研究会 福田佳弘)
- 根室半島における海鳥調査の結果と調査手法の検討 (日本野鳥の会 浦達也)
- 船舶レーダーを使った海上の鳥の調査-その可能性と限界- (バードリサーチ 植田睦之)
- 野鳥と洋上風力発電-デンマークでの経験から- (オーフス大学 Mark Desholm)
利害を超え、関係者が一緒に自然エネルギーと野鳥保護を考えていくための一歩
最後のディスカッションでは、国外事例と比較しながら今後日本ではどのような情報整備が必要か、導入や改善が必要な制度や仕組みがあるか、導入すべき調査手法や評価技術などについて6名のパネラーが議論しました。
海洋に関しては海鳥をはじめ生物に関する基本的な情報が不足しているので、今後は行政、研究者、民間団体などの利害関係者が一緒になって、海洋生物の情報整備や共有を進めることが必要であるとまとめられ、洋上風力発電と野鳥に関して、今後も当会が果たす役割は大きいと、あらためて認識しました。
また、会場からは風車そのものの耐用年数に関する質問や、国内の情報共有だけでなく、渡り鳥が飛来する関係国との情報の共有も重要ではないかという意見がでました。
連休の中日にもかかわらず、北は北海道、南は鹿児島など遠方から300名近くにご来場いただき、多くの方から”事業者、行政、研究者、民間団体すべての利害関係者が一つの方向を目指して議論したことは、自然エネルギーと野鳥保護が共存するための大きな一歩となった”、”このようなシンポジウムを継続的に開催してほしい”などの声をいただきました。当会では今後も自然エネルギーに関する国内外の最新事例の情報収集を続け、定期的に情報提供していきたいと思います。
なお、本シンポジウムの内容についてまとめた『野鳥保護資料集29』を今夏に発行する予定です。発行に際しては、野鳥誌および当会ホームページにてお知らせいたします。
※尚、このシンポジウムは地球環境基金の助成と(公財)WWFジャパン、(公財)日本自然保護協会、(公財)自然エネルギー財団、環境省の後援により開催しました。
講演内容の詳細
- NEDOにおける洋上風力の取り組みについて (NEDO 大重 隆)
銚子と北九州で実証研究を行なうことで、塩害や洋上特有の技術課題の克服、気象・海洋条件や発電量の日・月・年変動など洋上風力発電が持つ特性を把握する。また、環境調査を設置前、設置後に実施することで、環境影響調査手法の確立を目指している。 - 環境省における洋上風力発電への取り組み (環境省・地球温暖化対策課 吉田諭史)
環境省では2030年までに再生可能エネルギーを現状の3倍まで拡大することを目標にしており、風力発電においては陸上よりポテンシャルの高い洋上での導入が必要と考えている。遠浅の海が少ない日本では着床式より浮体式の洋上風車が有望であり、長崎県・五島での実証実験では実用化に向けて、風速や波浪の観測のほか、水質や海流、鳥類のバードストライクなど様々な環境への影響調査を行なっている。 - 洋上風力発電の技術研究開発・浮体式実証事業における環境影響評価手法の確立のうち鳥類調査
(イーアンドイーソリューション株式会社 高橋 牧、芙蓉海洋開発株式会社 杉岡伸一)
NEDOの実証実験における鳥類調査(事前調査)では、銚子沖でオオミズナギドリ6500羽、ウミネコ600羽、アジサシ350羽と1年を通してオオミズナギドリが多かった。北九州市沖では春はヒヨドリ600羽、オオミズナギドリ200羽、夏にはウミネコ300羽、オオミズナギドリ200羽となり、季節によって見られる鳥類の種に変化があった。
また、環境省の実証実験における鳥類調査(事前調査)では、1シーズンでのべ28種類、1518個体が確認され、いずれの季節もオオミズナギドリ、カモメ属の1種が多いという結果となった。 - 英国の洋上風力発電計画において鳥類へのリスク低下をもたらす戦略的初期投資の仕組み (海洋エネルギーコンサルタント Chris Lloyd)
The Crown Estateは、事業者の環境調査への初期負担を軽減させるため、初年度の調査費用を負担をしている。また、イギリスの環境影響評価は風力発電施設の建設場所を検討し、どの程度環境影響評価が必要かを評価する戦略的環境評価(SEA)、計画地において重大な環境影響があるかということを調べる環境影響評価(EIA)、EUと国内法により保護生息地に指定されている場所であるかなどを評価する生息地規制評価の3種類の異なる評価が義務化されている。 - 風力発電事業に関わる国内の環境影響評価制度 (環境省・環境影響評価課 田中 獏)
風力発電では、事業者による自主アセスだけではバードストライクなどの環境影響が起きるようになったこと、また地元住民との合意形成にも課題がみられるため、環境省は平成24年10月より風力発電事業を法アセスの対象とした。事業規模の割に費用が掛かりすぎると事業者が訴える法アセスの手続きの迅速化に向け、現在、環境影響が大きいと予想される地域での建設をあらかじめ避けるための情報整備を行なっている。 - 風力発電所に関わる環境影響評価の現状とその課題 (電力中央研究所 北村 亘)
アセス法改正によって、風力発電も他の電気事業と同様のアセスメントが求められるようになった。風力発電における今後の課題として、複数の発電所を同一地域に設置する際の累積的複合影響をどのように評価するか、新たに加わった手続きである「配慮書」と「報告書」への対応、複数地点案のあり方の検討などが考えられる。 - 日本に生息する海鳥の特徴・点在する営巣地と柔軟性の高い繁殖行動への配慮
(名城大学 風間健太郎)
海流や餌となる海洋生物の量に応じて餌場が変わるなど、変動の激しい海洋環境で生きる海鳥の行動は、非常に変わりやすい。洋上風力発電が海鳥に与える影響を評価するには、海鳥の行動変化の大きさを考慮すべきである。建設前の短期的な調査と影響予測だけでなく、建設後の長期的なモニタリング調査も必要だ。 - 洋上風力発電所と日本近海の海鳥のキーワード (知床海鳥研究会 福田佳弘)
海鳥の調査において、セスナ(固定翼の普通の飛行機)よりもヘリコプターに対する攪乱の影響が非常に強かった。船舶では、海鳥から100m以内に接近した場合に興奮行動などの影響が多く出ることを踏まえ、調査を行なうべきである。 - 根室半島における海鳥調査の結果と調査手法の検討 (日本野鳥の会 浦達也)
季節、調査海域、離岸距離、飛行高度よって海鳥の出現傾向に違いがみられた。環境影響評価での海鳥調査においては、詳細に海鳥の状況を把握するにはライントランセクト法が適しており、概要を把握するスナップショット法では希少種があまり把握できなかった。 - 船舶レーダーを使った海上の鳥の調査-その可能性と限界- (バードリサーチ 植田睦之)
レーダー調査は夜間や濃霧の日でも鳥の飛行状況を把握でき、長期間のデータ収集も可能であることから、目視では不可能な鳥の行動も把握できる。その一方で、波が高い日や雨の日は調査ができず、また種までは判別ができないなどの欠点がある。 - 野鳥と洋上風力発電-デンマークでの経験から- (オーフス大学 Mark Desholm)
洋上風力発電所は、回避(障壁効果)、生息地の喪失、衝突死など野鳥にとって危険をもたらす。デンマークでは、洋上風力発電所近辺に生息していたアビが、建設後、発電所内2km内の生息地を放棄した。また、あるカモ類の多くはウインドファーム全体を回避していることがわかった。これらのデータは目視観察だけでなく、レーダーなどの遠隔調査技術を用いることで収集できる。