(株)電源開発の「せたな大里風力発電事業(仮称)」について、環境影響評価準備書へ意見書を提出しました
日野鳥発第 51 号
平成26年7月31日
電源開発株式会社
取締役社長 北村 雅良 様
日本野鳥の会道南檜山
代表 奥田 孝一
北海道函館市湯川町2丁目11-17-406
公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 佐藤 仁志
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
せたな大里風力発電事業(仮称)に係る環境影響評価準備書に対する意見書
平素より、日本野鳥の会道南桧山ならびに(公財)日本野鳥の会の環境保全活動に関し、ご理解とご協力を賜り、深く感謝申し上げます。
ところで、この度、公表されました「せたな大里風力発電事業(仮称) 環境影響評価準備書」について、次のとおり意見を述べます。
記
1.【巨大風力発電機と乱気流の発生】に関して
①計画によれば、発電機は単機出力が2,300~3,300kWという国内最大級の発電機を最大22基設置する計画とのことだが、計画どおり整備が進めば、今までとはかなり異なる気流の乱れが生じると考えられる。このため、想定される新たな気流の乱れ(後流渦・カルマン渦)について、シミュレーションを行い、結果を提示すること。
②巨大風車の設置、ならびに上記のような気流の乱れにより、対象事業実施区域や周辺の自然環境、野鳥の行動に対して、どのような影響が出ると予測しているのか、その予測結果を提示すること。
③牛山(2002)によると、風力発電機は相互に十分な距離を置いて設置しないと発電効率が悪く、その間隔については、左右にローター直径の3倍以上、風向きの風上・風下に関しては、ローター直径の7~10倍以上離すべきとされている。それらの知見からすれば、今回の風力発電機の配置計画図を見る限り、特に左右の間隔が狭く、効率的な発電は困難とみられるが、実際にこのような配置の適切性について説明すること。
2.【風力発電予定地の鳥類等環境調査】に関して
計画区域を含む道南地方は、脊梁山脈に沿って希少猛禽類が出現する自然豊かな地域である。実際、毎年行われている当会の「せたな町浮島公園探鳥会」でも、いくつかの希少鳥類が出現している。計画区域及び周辺の河川には秋から冬にかけてサケ・マスが遡上することから、越冬期には対象事業実施区域(以下、計画区域と言う。)周辺の海岸から川の上流にかけて、オオワシ、オジロワシが多く見られる。
また、計画区域及びその周辺の河川の周りを、ハイイロチュウヒやチュウヒが渡りの中継地として、ミサゴ、ハチクマが夏に採餌場として活用し、さらに通年ではハヤブサ、クマタカ、オオタカ、ハイタカ、ツミ、ノスリ等の多くの猛禽類が見られる。
また、小鳥類も春には津軽海峡を越え、白神岬を通過し北上して北海道各地に、またあるものはさらにユーラシア大陸へ移動する。一方、秋には同じようなルートを逆に南下することからも、「せたな」はそれらの渡り鳥の中継地や採餌場として利用されている重要な地域である。ついては、
①多くの野鳥が渡りの際に、休憩、採餌、繁殖地としてこの地域を利用していることから、春の渡り時期(3~5月)、秋の渡り時期(8~11月)について、特にしっかりした調査を行うべきである。
なお、近年、特に渡り鳥の種や個体数が年によって大きな差のあることが見受けられるため、単年のみの調査では実情を把握できない可能性が高い。このため、現時点で予定している1年間の調査期間を少なくとも2~3年以上は継続して実施するべきである。
また、重点調査対象についても、対象を希少猛禽類だけではなく、ガン・カモ類、シギ・チドリ類、サギ類、ハクチョウ類等の水鳥類にも広げるべきである。
②調査方法について
- ラインセンサス法によるルート設定数について
ラインセンサス法による調査ルートとして11ルートを設定しているが、ルート数を増やして、より緻密に調査を行うべきである。特に、上昇気流の起こりやすい沢筋から尾根にかけておよび海岸段丘面上に予定されている風車の設置予定場所付近に調査ルートを設け、重点的に見直すべきである。 - ラインセンサス法による調査回数について
ラインセンサス法による調査は、最低でも月2回を少なくとも2年間継続して実施し、毎月の調査では1つのコースについて6回程度のセンサスを行うべきである。 - 定点センサスの調査時間について
定点センサスについて、1回の調査につきどのくらいの時間を行ったのか示すこと。なお、同センサスにあたっても、月2回を少なくとも2年間継続して実施すべきである。 - 空間飛翔調査について
空間飛翔調査については、調査定点が発電機設定場所より高台に取られている(S1,S2,S4)。その結果、発電場所を見下ろす形で記録を取ることになり、飛翔高度が回転域より低いように観察されがちであるため、必ずしも正確な調査結果を生むとは言えない。ついては、実際の風車設置予定位置と同高度か、海岸段丘面より下から観測される場所に調査定点を変更して再度、調査をすべきである。
また調査時間も30分間では短すぎであり、最低のべで3時間は必要と考える。とりわけ、上昇気流および下降気流が現れる時間帯が適切であると考える。 - 空間飛翔調査でのレーザー距離計の活用について
空間飛翔調査にあっては、目視では背景によって錯覚を起こしてしまう可能性が大きいため、レーザー距離計を活用して実施すべきである。 - 風雪や濃霧時の調査の充実について
風雪時や濃霧時こそ野鳥における風車への衝突事故が起こる可能性が高い。このため、これらの悪天候のもとで、むしろ十分に調査を行うべきである。 - レーダーや暗視スコープの積極的活用について
中小の鳥類が渡る夜間や濃霧、大型猛禽類の衝突事故が多い降雪時の調査にあっては、レーダーや暗視スコープなどを積極的に用いて調査すべきである。なお、欧米各国ではすでに夜間や悪天候時の調査にこれらの機材が活用されている。
3.【風車への衝突事故防止対策】に関して
①2009年11月24日に瀬棚臨海風力発電所でオオワシの衝突事故(以下、バードストライクと言う。)が起こったが,その原因などを踏まえ、どのような保全対策を採ってきたのかを示し、また、今回の風力発電事業においてはどのような予防措置を講じるつもりか、具体的に示すべきである。
②バードストライク防止対策としての積極的防護策の提案
a)レーダーを用いた鳥類の行動監視の導入。
b)バードストライクが発生する可能性が高い時期での風車の運転停止。
c)一部の風車にでもバードストライクが発生した場合、直ちにすべての風車の運転を停止し、専門家を交えた検討会を開催し、その後の保全策について検討すること。なお、要請等があれば、当会としても積極的に対応する用意がある。
d)バードストライクが発生した場合、直ちにその内容を公表すること。
4.【生物多様性】に関して
①せたな地域は、植物相に関しては北海道の黒松内低地帯線にきわめて近く(ブナ林の北限等)、それ故、植物の緻密な環境調査が必要である。また、自然環境は、生物多様性の考えからみても、多くの生物相の相互関係を基にして成り立っているので、多くの学識者や自然環境団体等の幅広い意見を聞く必要がある。
ついては、どのような専門家の助言を受けてこれまで調査を進めてきたのか、調査項目や手法について具体的に提示すること。
②北海道では、北海道らしい自然共生社会の実現を図るため、自然環境を守る取り組み全般を「生物多様性の保全と持続可能な利用」という視点でまとめ直し、今後の北海道における目標と方針を示した「北海道生物多様性保全計画」を2010年7月に策定した。そのことを踏まえ、貴社における「生物多様性の保全」のあり方について、自然エネルギーの普及やバードストライク等の鳥類への影響が実際に発生している事実を関連づけて提示すること。
5.【送電線】に関して
せたな大里風力発電事業においては、付帯する送電線は既存のルートを利用せず、今金変電所まで送電線を新設し、そこから函館幹線へ連係する計画であり、また、送電線は埋設するとのことで、野鳥には優しい計画だと思われることから、賛意を表するものである。
しかし、植物等にとっては工事部分で重要種が消滅する危険が多くなることから、その点を十分考慮し、現行の電気事業法上の枠組み以上、自然環境に配慮した計画を立案実施するよう要望する。
6.【累積的影響を考慮した立地選定・規模の適正化】に関して
「せたな大里風力発電事業」の計画区域ではすでに「瀬棚臨海風力発電所」が大型風車を6基(12,000kW)、また「せたな海上風力発電所」が2基(1,200kW)を稼働中である。
さらに、「北檜山ウィンドファーム」が太櫓地区を中心に60基(120,000kWh)の風車新設を申請中であり、貴社の22基(50,000kW )を加えると、90基の風力発電機がせたな町の海岸沿いに立ち並ぶことになる。
これらのことから、計画区域の選定にあたっては、地域の全体像を俯瞰する中でそれらの風力発電所が環境に与える影響を十分考慮する必要がある。
また、野鳥の渡りや生態系に対してだけでなく、野生動植物、さらに騒音や低周波による人体や家畜への被害、景観の破壊など、様々な悪影響を与えることも懸念されることから、本事業がどのような影響をこの地域に与えるのか、その効果を累積的に見積もること。
以上