「串間風力発電所(仮称)建設計画 環境影響評価準備書」に関する意見書を提出しました
「串間風力発電所(仮称)建設計画 環境影響評価準備書」に関する意見書
平成27年5月27日
串間ウインドヒル株式会社 御中
〒889-1605
氏 名 日本野鳥の会宮崎県支部
支部長 前田(まえだ) 幹雄(みきお)
〒141-0031
住 所 東京都品川区西五反田3-8-23 丸和ビル
氏 名 公益財団法人日本野鳥の会
理事長 佐藤(さとう)仁(ひと)志(し)
連 絡 先 03-5436-2630
この度、貴社が作成された「串間風力発電所(仮称)設置計画」に係る環境影響評価準備書について、環境影響評価法第8条の規定に基づき、環境の保全の見地から、次の通り意見を提出します。
記
Ⅰ.対象事業計画で確認されている鳥類について
『日本野鳥の会の方法書についての意見』に対する回答の中で、クマタカが対象事業実施区域及びその周辺で複数のペアを確認しているとされている。準備書では3ペア(A、B、C)いるとしているが、どこに生息し、どのエリアを行動範囲としているか、何も述べられていない。
また、『宮崎県知事の方法書についての意見』に対する回答の中で、「準備書の作成にあたって各種データや根拠とした数値等について具体的に記載し、分かりやすい表現、説明に努めたい。」としている。
しかしながら、今回、貴社が提出した準備書では、「宮崎県の保護上重要な野生生物」(宮崎県版レッドデータブック)による重要種と述べただけで、飛翔や止まり場所など、その生態に関する内容は何ら記載されていない。これは県知事の意見への回答に明らかに反するものであり、事業実施者として説明責任を果たしていない。
さらに、クマタカなど猛禽ばかりでなく、アカショウビン(宮崎県版レッドデータブック)ヤイロチョウ(同)など希少な野鳥についても、一切、飛翔図等の掲載がない。風力発電建設におけるアセスメントとして、これら希少な野鳥に関する飛翔図等も示されないまま、一方的に「バードストライクの影響はない」と結論づけていること自体、説得力はなく信憑性もない。
Ⅱ.計画変更についての説明がない
当初計画では27基を建設するとされていたが、今回、4基を減じて23基建設とされている。しかしながら、クマタカによるものが2基とりやめたとしているが、残り2基を削減した理由が述べられていない。
Ⅲ.鳥類に関する調査内容について
- クマタカについて
準備書によると、クマタカについては、9月~10月、3月~6月に調査を行い、実施予定区域内で、飛翔と止まりを37回、区域外で飛翔と止まりを83回確認したとされている。また、調査区域での飛翔78回のうち、ブレード回転高度での飛翔は65回とし、これをもって「バードストライクも小さく問題ない」としている。
一方、準備書の中で、対象事業実施区域及びその周辺で3ペアを確認しているとしているが、が、どこに生息し、どこを行動範囲としているか等、詳細な内容は何も述べられていない。さらに、もともと行動範囲が広いクマタカの調査において、飛翔図の作成が最も重要にも関わらず、行動範囲を示す飛翔図等を明らかにしておらず、建設予定地点やその周辺に何番のクマタカが生息しているのか、また、どこに営巣等についてもまったく分からない。しかも、実施予定区域内で37回の飛翔を確認したとしながら、ブレード回転高度内の飛翔があったのかなかったのか等の記載もない。
Aペアについては行動範囲やテリトリー部分が対象事業実施区域と重なる。B、Cペアは重ならないとしている。クマタカに関する調査の場合、飛翔図を作成し、さらに巣の場所や行動範囲を記録することは必須の要件と言うべきであり、その点からすれば、今回の準備書は、最も重要な飛翔図をはじめ、行動範囲も示されておらず、クマタカの生態を把握する調査結果としては全く信憑性に乏しい。
最後に、クマタカについて、生態系の指標種として扱って、評価がなされている様子であるが、「繁殖への影響を低減するため影響を与える可能性のある工事は繁殖の期間行わない」としているものの、施設が完成し、稼働を開始した後の配慮については何ら述べられていない。 - サシバについて
サシバに関しては、平成○○年9月~10月、平成○○年4月~6月の間に調査し、対象区域内で、飛翔や止まりを70回、対象区域外で渡り個体の飛翔を90回確認したとされている。
また、調査区域内で確認した渡り個体の飛翔93回のうち、ブレード回転域高度での飛翔を72回確認する一方、渡り以外では、確認された16回の飛翔のうち、ブレード回転高度での飛翔は6回確認されたと報告されていながら、サシバについても、「バードストライクも小さく問題はない」と結論付けられている。
とりわけ、サシバについてもクマタカ同様、一番重要な飛翔記録を記載した飛翔図が添付されていないことは問題であり、建設予定地が南北5㌔と広範囲な中で、飛翔図もない状況下では、準備書がいう「バードストライクも小さい」という結論には何ら説得力がない。
さらに、秋の渡り(9、10月)に関して、区域外での飛翔を93回と報告しているが、これは1日平均で16羽となり、予定地近郊の金御岳(都城市)での平成○○年秋における飛翔観察記録(9月23日~10月16日。計24日間)に当てはめて試算すると、同建設予定地及びその周辺を384羽ものサシバが飛翔通過した計算になる。しかも、飛翔高度の記録と比較すると、ブレードの高度付近を約80%のサシバが飛んだこととなる。こうした観点からみると、対象区域内でのブレード高度付近の数がないとすることはきわめて不自然であり、データとしての信ぴょう性も乏しいと言わざるを得ない。
なお、県支部が2013年10月13日に現地で行った調査では、サシバ5、ハヤブサ2、ハイタカ3、チョウゲンボウ2、ミサゴ3を記録し、その飛翔方向は多くが東から西に向かうものであった。この調査は僅か1日だけのものではあるが、同調査の結果だけをみても、かなりのサシバが計画区域内外を飛んでいることが推察され、バードストライクの危険は高いものと懸念される。
いずれにしても、今回の貴社の報告には、サシバに関する飛翔図が欠落している上、対象区域でのブレード回転高度での飛翔回数も記載されておらず、何の根拠やデータをもって、「本計画がサシバの飛翔等に影響ない」と結論づけたのか、全く理解できない。 - ハイタカについて
ハイタカについては、平成○○年10月~同○○年4月に調査を行い、対象事業区域内では飛翔や止まりを66回、対象区域外で126回確認したとされている。また、調査地域で確認した129回の飛翔のうち、ブレード回転高度での飛翔を113回確認したとしているが、ここでも、対象事業区域でのブレード回転高度での飛翔回数の記載はない。
ところで、県支部が2013年10月13日に行った調査では、3羽のハイタカが確認されており、それらはいずれも北から南の方角に飛んでいたことからも、ハイタカの飛翔図も掲載しないまま、「建設がハイタカに影響を及ぼさない」とする結論には、まったく説得力がない。 - チゴハヤブサについて
チゴハヤブサについては平成○○年9月~10月に調査し、対象事業地域内で52回、対象区域外が72回の飛翔を確認したとされている。また、調査区域内で確認した飛翔77回のうち、ブレード回転高度は70回とされているが、チゴハヤブサについても飛翔図がなく、対象事業区域でのブレード回転高度の回数も記載しないまま、「建設によるチゴハヤブサへの影響はない」とする根拠は乏しい。 - ミサゴについて
ミサゴについては、平成○○年7~10月,同年12~平成○○年3月、ならびに同5月に調査し、対象事業区域内で32回、対象事業区域外で43回の飛翔を確認したとされ、また、調査地域内で確認した45回の飛翔のうち、ブレード回転高度での飛翔を43回確認したとされている。ミサゴについても対象事業区域内でのブレード回転高度での飛翔回数が示されておらず、飛翔図もない中で、どの程度バードストライクがおこるか、影響を評価することは困難である。
なお、2013年10月13日、県支部が行った現地調査では、ミサゴの飛翔を3回確認し、それらは東西を行き来していた。さらに、その飛翔高度も、もっぱらブレード回転高度付近であったことから、ミサゴに対する影響は、むしろ大きいのではないかと懸念している。 - 猛禽以外の鳥種について
同準備書では猛禽以外についても調査がなされているが、アカショウビン(宮崎県版レッドデータブック)やヤイロチョウ(同)、アオバズク(同)など、絶滅が危惧される等の理由で、その生息環境保全が強く求められている鳥種に関して、いずれも飛翔図も示さないまま「影響はない」としており、信憑性に著しく欠けるものと言わざるを得ない。
Ⅳ まとめ
- 貴社の準備書によれば、最も重要なクマタカについて、その行動範囲、飛翔図といった重要な調査結果が一切記入されておらず、これを科学的な調査結果とするにはあまりにも粗雑な内容と言わざるを得ない。
- 準備書において、一般住民から意見を聴取するに当たっては、事業の妥当性を懇切丁寧に説明すべきである。とりわけ、希少種に関しては、一律に情報を伏せるのではなく、文章や位置情報をぼやかすなど一定の配慮をしながら、市民が納得できるよう、詳細な調査結果を基にした説得力あるものでなければならない。また、渡りのサシバの飛翔位置情報などまで非公表扱いとしているが、公表できるものと公表を控えるものを区分しつつ、公表可能な資料は適切に作成・公表すべきであり、現状は、第三者に分かりやすく説明するとした貴社の方法書の意見に対する回答と相反するものとなっている。
- 最後に、日本野鳥の会は、環境保全の見地から自然エネルギーを推進する立場をとっており、野鳥をはじめ野生生物と風力発電事業の共存を目指し、様々な工夫と取り組みを行っている。
そのためにも、本来であれば準備書段階で、詳細な調査結果に基づく検討を行わなければならないが、今回の準備書では、調査結果で一番重要な内容が欠落しており、極めて不十分な内容と言わざるを得ない。ついては、クマタカなど猛禽類をはじめ、必要な鳥種について再度調査しなおし、第三者が納得できる準備書を再提出すべきである。