「国立・国定公園内における風力発電施設設置のあり方に関する検討会」で意見発表

環境省自然環境局国立公園課が設置した「国立・国定公園内における風力発電施設設置のあり方に関する検討会」の第2回(2003年10月20日開催)において本会は関係団体として出席を求められ、鳥類への影響防止の観点から意見発表を行いました。

現在、国立公園特別地区では風力発電施設の設置には許認可が必要ですが、自治体等からは規制緩和の要望も出ています。しかし野鳥の衝突や風車を避けるための行動変化といった影響やその回避方法については科学的なデータがなく、また手続き的にも未整備といってよい状況です。これらを踏まえ、次のような意見を述べました。

2003.10.20
2003.12.09部分修正
(財)日本野鳥の会

風力発電施設の設置基準についての(財)日本野鳥の会の基本的な意見

(現状認識)

  • 新エネルギーである風力発電は、クリーンなエネルギーとして注目され、国が設定した2010年までの導入目標値300万kwに向け、ここ数年設置計画が急激に増えている一方、風力発電事業は環境影響評価法の対象外であり、環境影響評価に関する十分なガイドラインも未整備であることから、鳥類等の野生生物についての十分な事前調査や影響評価は実施されていない。
  • 野鳥の風力発電への衝突や生態系への影響について、現在ある風力発電施設においても系統的な調査が行われていない。
  • 風力発電施設への鳥類の衝突事故は、国内外でも事例が散見される。施設の立地選択においては無視できないと思われる。
  • 猛禽類の繁殖地、渡り鳥の渡りのルート(猛禽類、大型水鳥類)においては特に、衝突事故による影響が懸念される。
  • 国内各地のNGOから懸念の声が上がっている。
  • 国際的にも、風力発電施設の与える影響について評価が定まったとはいえない状況(資料3参照

(風力発電施設設置にあたって整備すべき事項)

  1. 立地の選択にあたっては、鳥類の衝突事故が発生しそうな場所においては設置を避けること。渡り鳥の渡りのルートや集団生息地、希少な鳥類の生息地や猛禽類の繁殖地及びその周辺についてはあらかじめ調査を行い、区域を特定しておくべき。こうした調査にあたっては、気象レーダーを用いた調査研究といった、新たな技術開発も行うべき。
  2. 1の条件を満たして選定された予定地においても、鳥類等の野生生物の生態系への影響について事前の環境影響評価、事後調査を事業者に対して義務づけること。環境影響評価を行うにあたっては、事業者、専門家、自然保護団体、住民等からなる公開された検討の場を設けること。
  3. 既に設置されている風力発電施設においては、鳥類への影響評価と、その回避方法について系統的に調査・研究すべき。
  4. 国土の中で優れた自然が残っている国立・国定公園に手をつけるのは慎重にすべき。国立・国定公園は、83ヶ所しかなく、その面積は国土面積の約9.0%にすぎない。自然公園法では、新たに国及び地方公共団体の責務として、「自然公園における生物の多様性の確保を旨として、自然公園の風景の保護に関する施策を講ずること」が追加されていることから、自然公園内における風力発電施設の設置においては野生生物に悪影響の出ることのないよう、特に慎重な検討過程を設けるべき。

資料1 風力発電施設における事故例の一部

国名 内容 出典
イギリス 1992年から1997年1月までの間に港で合計63個体のケワタガモ死体が見つかった。うち、12個体は、ウィンドファームに衝突したものと証明され、8個体は、他の構造物に衝突したものであった。他の43の死亡個体の死因は、飢餓および漁網によるものだった。 Blyth Harbour Wind Farms and Birds. Europian
Wind Energy Conference, October 1997
デンマーク 風力発電に衝突する鳥の数を羽数/風車1基あたり/年で表し、衝突して発見されない個体数について2.2の補正因数を用いると、最も高い数は6~7羽/風車1基あたり/年である。3,500基の風車では、年間20,000-25,000羽の鳥が衝突によって死ぬことを意味する。 Impact of Wind Turbines on Birds. Europian
Wind Energy Conference, May 1996
オランダ Joke Winkelman が1992年から1994年にオランダで行った調査では、18基の風車がある所で、1日1羽が事故死しているとしている。 Windpower 9月号
アメリカ 米国カルフォルニア州オルトモントパスは、7000基あまりの風車が立ち並ぶウィンドファームがある。ここでは1980年代後半からワシやタカが風車のプロペラや送電線に衝突して年間25羽のイヌワシが死亡した。 エコシステム2000年5月号.(財)日本生態系協会
日本 神奈川県三浦市の風力発電施設(ミーコン社製、400kW/h、2基)について、設置してから半年は、トビが少なくとも週1回以上のペースで被害に遭っており、市民からの通報で市役所から死体を回収に行っていた。風車は岬の突端近くに位置し、数百mの距離にゴミ埋立て処分場があって、ゴミをあさるためにトビが周辺に集まってきている、という立地。その後の衝突事故は減っている。 (2001.12. 三浦市役所からの聞き取り)
日本 長崎県生月島の風力発電(三菱重工製、490kW/h、1基)について、設置後1羽のトビが衝突し、死亡したのを付近住民が目撃したとの証言があった。 (2002.3 現地での住民からの聞き取り)
日本 2003.5 長崎県五島列島福江島岐宿町の風力発電施設(ミーコン社製、400kW/h、3基)でトビが衝突し、死体を回収。 (日本野鳥の会愛媛県支部 井上勝己氏 私信)
デンマーク デンマークの環境省(Danish Ministry)からの研究によると、ウインド・ファームに結びつく送電線を含む送電線が風力タービンそれら自身より鳥へのはるかに大きな危険であるとしている。 Birds and Wind Turbines. http://www.windpower.org/en/tour/env/birds.htm

資料2

National Wind Coordinating Committee(NWCC). Studying Wind Energy
Bird Interactions : A Guidance Document. 目次と概要の一部(仮訳)

アメリカにおいてバードストライクの問題が1980年代後半から取り上げられはじめ、環境団体、風力発電の開発者、その他関係者が協力し、提案されている予定地に建設された場合の鳥への潜在的な影響を評価することの重要性を指摘している。原文は以下のサイト参照のこと。
National Wind Coordinating Committee http://nationalwind.org/

第1章 概要

1-1 はじめに

1-2 本書の目的と範囲

1-3 風力発電の生い立ち

1-4 調査基準、調査方法、調査計画

第2章 発電所建設予定地の生物学的評価

2-1 はじめに

2-2 建設予定地の評価

2-2-1 既存の情報源

2-2-2 現地情報の収集

2-2-3 既存の情報で十分に対応できるか

2-3 追加情報の収集

2-3-1 現地情報の追加収集計画

2-3-2 短期の現地踏査とモニタリング調査

2-4 調査報告書の作成

2-4-1 生物学的情報は十分か

2-5 厳密な調査計画の策定

第3章 基礎的な実験計画とレベル1の調査

3-1 はじめに

3-1-1 伝統的な実験計画の策定方法

3-2 調査手法の理念

3-2-1 調査方法・データに基づく解析

3-2-2 モデルに基づく解析

3-2-3 調査方法・データに基づく解析とモデルに基づく解析の組み合わせ

3-2-4 調査レベル

3-3 調査方法・データに基づく手法

3-3-1 対照(比較)地域を設定した調査手法

3-3-2 影響区・対照区比較法(建設後)

3-3-3 比較地域を設定しない調査手法

3-4 調査手法の信頼度を高める

3-4-1 複数の比較地域の利用

3-4-2 データの複数回収集

3-4-3 調査地域と時間の相関関係の解析

3-4-4 モデルに基づいた解析と調査地に特有の補助的な変数の利用

3-4-5 調査地域の選択

3-4-6 サンプル抽出の手法

3-5 データ解析

3-5-1 一変量解析

3-5-2 多変量解析

3-5-3 メタ解析

3-5-4 生息地の選択

3-5-5 累積効果の解析

3-5-6 統計の解析力と証拠の重さ

3-6 事例研究

3-6-1 建設予定の風力発電施設-ミネソタ州、バッファロー・リッジ

3-6-2 既存の発電施設-カリフォルニア州のテハチャピ峠とサン・ゴーゴニオ峠

3-7 要約と結論

第4章  高度な実験計画とレベル2の調査

4-1 はじめに

4-1-1 操作実験の手法

4-1-2 個体群が受ける影響とモデルを用いる手法

4-2 操作実験の手法

4-3 個体群モデルの概念的枠組み

4-3-1 個体群統計学

4-3-2 遺伝

4-3-3 環境のゆらぎ

4-3-4 生活史の要因

4-3-5 生態学的要因

4-3-6 付加的死亡と補償的死亡

4-4 モデルを用いた研究・調査

4-4-1 モデルの利用

4-4-2 モデルの種類

4-4-3 事例研究

4-4-4 有効個体群サイズ

4-4-5 モデルの評価

4-5 生存率と個体数の推定

4-5-1 個体群存続可能分析

4-6 累積的影響の評価

4-7 調査計画に対する提言

第5章 危険を減らすための調査

5-1 まえがき

5-2 野鳥が直面する危険の評価

5-2-1 外因性の危険率と救済可能な率

5-2-2 危険要因の測定

5-3 風力発電所で野鳥が直面する危険の考察

5-3-1 直接的相互作用

5-3-2 間接的相互作用

5-4 危険の削減

5-4-1 風力発電所の建設場所の設定

5-4-2 現地での危険削減

5-5 調査計画

5-5-1 基礎的な実験の手法

5-5-2 処理地域と比較地域(対照地域)

5-5-3 統計の概念

はじめに

1980年代には、大規模な風力発電所の建設が環境に及ぼす可能性のある影響については、ほとんど知られていなかった。アメリカでは、何世紀にもわたって、農業や僻地において風車が使用されてきた。しかし、それらの散在する風車が野鳥に与える影響については、報告がなかった。したがって、初期の風力発電所は、野鳥に及ぼす潜在的な影響を考慮することなく、建設計画が立てられ、許可が与えられ、建設が行われ、操業された。
その後、風力発電所が野鳥に与える影響が、多くの利害関係者の間で懸念されるようになった。今日まで行なわれた調査から、野鳥の事故死が問題になるほど高い水準にあるのは、米国では1ヶ所の大規模な商業用風力発電所だけであることがわかった。風力発電所と野鳥との関わり合いに関する調査は、調査方法も水準もばらばらである。そのため、各種の調査の間で結果を比較し合うことが困難である。その結果、風力発電所が野鳥に与える可能性のある影響について、関心や混乱、懸念があとを絶たない。タービン(回転翼)を大きくして回転速度を遅くし、風力発電施設の設置密度を低くするという技術的な変更により、タービンに衝突して死亡する野鳥を減らすことができるという仮説がある。しかし、他方、そのようにしても、タービンの先端の速度は変わらないか、または、かえって早くなるので、野鳥の死亡事故は減らないか、むしろ増える可能性があるという仮説もある。それらの仮説を検証するためには、科学的に厳密な調査を行なって、統計的に有意なデータを多く収集する必要がある。

本書の目的と範囲
野鳥の死亡事故は心配の種であるが、風力は環境に優しい、きれいな電力の潜在的な供給源である。したがって、風力発電所と野鳥との関わり合いを調査することはきわめて重要である。風力発電所と野鳥の問題を理解し、野鳥に及ぼす潜在的な影響を評価するための重要な最初のステップは、同じ用語を使用して調査を行ない、信頼のできる比較可能な結果を出すことである。本手引書では、下記の事項を目的とする

  1. 下記の役に立つ情報を提供する、すべての利害関係向けの参考書とする。
    • 野鳥の保全を視野に入れて、風力発電所建設予定地の適性を評価する
    • 風力発電所が野鳥に及ぼす潜在的な影響を評価する
    • 風力発電技術が野鳥に与える潜在的な影響を評価する
  2. 風力発電所と野鳥の関わり合いに関する調査に使用する、詳細でわかり易い方法、基準、用語の定義を示す。
  3. 比較可能なデータを収集でき、将来の調査の必要性を全般的に削減する役に立つ、効率がよく費用効果の高い調査の計画、方法、基準の開発を促進する。
  4. 既存および将来の風力発電所で野鳥がさらされる危険の削減に役立つ情報を収集するための、調査の計画および方法を提示する。

調査には「教科書」的な進め方があるわけではない。風力発電所の建設を許可するに際して、すべての行政機関が野鳥や野鳥の調査に関する情報を必要としているわけではない。調査を計画し実施する方法について、建設場所に固有の知識や専門家の助言が必要なケースが多々ある。本書では、風力発電所と野鳥の関わり合いに関心のある行政担当者や利害関係者に概要を説明するとともに、風力発電所と野鳥の関わり合いについて調査するための基本概念と手法を技術的にさらに掘り下げて説明する。

資料3 移動性野生動物の種の保全に関する条約(通称ボン条約、CMS)第7回締約国会議(2002.11.17~24、ボン)における風力発電施設の建設に関する決議について(CMS Bulletin 16, Dec. 2002より仮訳) 移動性野生生物の新たな脅威、風力発電(決議7.5)

加盟国会議で、風力発電と移動性野生生物に関する決議が新たに採択された。決議7.5は風力を二酸化炭素排出量の大幅削減につながる自然エネルギーと位置付けている。特に、海上風力発電はエネルギーの大量生産を可能にする新しい技術であるが、一方、餌資源と生息環境だけでなく、渡り鳥や回遊性の哺乳類自身にも予測のつかない影響を与える恐れがある。現在のところ、自然環境や野生生物に及ぼす影響の評価は完全ではない。したがって、大規模な海上風力発電が環境に及ぼす影響を考慮に入れる必要がある。
海上の渡りや飛行の経路に建設された風力発電施設は、鳥の衝突事故の危険性を高めている。特に、夜間や霧の発生時に、回転翼が最大の脅威となる。海上に建設された数百ヵ所の風力発電基地(高さが150mに達する風力タービンもある)で、渡り鳥や海鳥が衝突の危険にさらされている。衝突は死を意味するであろう。衝突を避けるために、渡りの経路を変えると、採食地、休息地、繁殖地を失うことになるかも知れない。風力発電によって生じる振動や騒音は、海洋哺乳類や魚類にとって、生息地の縮小や行動の変更、ストレスを意味する。送電ケーブルから生じる磁場や電場は、方位の確認や採餌方法に悪影響を与える可能性がある。
決議7.6は様々な影響の可能性を認識し、風力発電基地の建設には慎重に取り組むことを要望している。特に、加盟国には海上および沿岸地域に建設された風力発電基地の影響調査を行なうことを求めている。この調査は、鳥類だけでなく、イルカやクジラなどの回遊性哺乳類にも役に立つと思われる。
加盟国には、風力発電施設の建設が移動性野生生物に甚大な影響を与える地域を特定することが強く求められている。建設予定地の選定や建設の許認可前に、綿密な環境影響評価を行なうことが望ましい。移動性野生生物の生態に悪影響を及ぼす可能性が認められる場合は、環境影響データに基づいて、風力発電開発を行なうべきである。科学委員会が海上風力発電開発の指針を策定する。
この革新的決議に基づき、CMSは移動性野生生物の障害物を減らし、風力発電が自然環境に及ぼす可能性のある悪影響を最小限に押さえることを目指して、国際的な法整備を進めている。

鳥類の感電事故防止策(決議7.4) 〈参考〉

 感電死は渡り鳥の大きな死因になっている。多くの鳥が送電鉄塔を止まり場、見張り場、営巣場所、休息場所、風を見る場所として利用している。鳥が2本の送電線、または送電線と鉄塔に同時に接触すると、感電死を起こす。
新しい環境法に基づき、電力会社が危険なタイプの鉄塔を解体して、鳥に安全なタイプを使用している先進国がある一方で、憂慮すべき問題が発生している先進国や中進国もある。例えば、ポーランド、エストニア、チェコ、ハンガリー、スロバキアでは、この10年間に経済が高度成長を遂げた結果、電力供給の基盤整備が進み、送電鉄塔が増加した。鉄道の線路沿いに敷設された送電線は、ねぐらや止まり場として鳥に好まれるので、とりわけ危険である。しかし、こうした国には、絶滅が危惧されている鳥類種の主要な繁殖地や渡り経路、休息地があるだけでなく、欧州を通過する渡り鳥の重要な飛行地域も含まれている。
送電線・送電鉄塔の脅威の重大さが認識され、加盟国会議で決議7.4が採択されたが、この決議は絶滅が危惧される鳥類種に対する危険を減らすことを行政に求めている。ドイツ自然保護協会(NABU)の協力を得て、ドイツ環境省が準備したこの決議は、加盟国と非加盟国に対して、渡り鳥の飛行地域に建設された中圧送電鉄塔などの施設の危険個所を改善するように強く求めている。また、安全な送電鉄塔を整備すれば、感電事故による鳥類の大量死を地球規模で防止するのに役立つはずである。
最近、修正され今年の4月に実施されたドイツの自然保護法では、新しい中圧送電鉄塔の建設には、「鳥にやさしい」施工法を採用することや、既存の鉄塔には感電事故の防止策を施すことを具体的に定めている。さらに、渡り鳥が飛行や繁殖に利用している地域から送電線を移動することを勧告している。
ドイツ自然保護協会は中圧送電施設の建設や感電事故防止に必要な技術的な基準を示している。感電事故を完全に防止するために、ドイツの電力会社は2年ほど前に、中圧送電線を地下に埋めることを決めた。送電線に絶縁ケーブルを使用することも感電事故の防止策になる。
主要な渡り経路に敷設されていたために、野鳥の大量死を招いていた送電線の改良が、鳥類の保護に献身的な人々の尽力により、進められていることをCMSの事務局は高く評価したい。CMSはスロベニアやカザフスタンでの成功例を紹介しているが、本決議が世界の意識を高め、具体的な対応を促すことを期待している。

(原文は以下のサイトを参照のこと http://www.wcmc.org.uk/cms/