福島県楢葉町および広野町沖「浮体式超大型風力発電機設置実証事業環境影響評価方法書」に対する意見書を提出しました
2013.3.18
福島県日本野鳥の会連携団体連合会と公益財団法人日本野鳥の会(事務局:東京都品川区、会員サポーター数5万人)は、超大型としては国内初となる沖合型浮体式洋上風力発電であり、国内では海鳥への影響が未知である、福島県楢葉町および広野町沖での洋上風力発電施設の建設計画に関して、適切な環境影響評価が行われるための調査手法を提案する観点から、事業者である資源エネルギー庁(長官 高橋 一郎 氏)に対して、下記の内容で意見書を提出しました。
意見書提出先
資源エネルギー庁
本件問合せ連絡先
公益財団法人日本野鳥の会(自然保護室・浦 達也) TEL 03-5436-2633
日野鳥発第102号
平成25年3月11日
資源エネルギー庁
長官 髙橋 一郎 様
福島県日本野鳥の会連携団体連合会
会長 白岩 康夫
公益財団法人 日本野鳥の会
福島県福島市松川町字古天神27-2
理事長 佐藤 仁志
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
「浮体式洋上超大型風力発電機設置実証事業((仮称)三菱重工業風力発電所及び
(仮称)ジャパンマリンユナイテッド風力発電所設置事業環境影響評価方法書」に対する意見書
この度、貴庁が作成された「浮体式洋上超大型洋上風力発電機設置実証事業」に係る環境影響評価方法書について、次のとおり意見を提出します。
記
1.全体的な問題点
2011年3月11日に発生した東日本大震災及びその後の地震(以下「東日本大震災」という。)、並びに同時期に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「福島原発事故」という。)により生じた、人的・経済的、さらには環境に及んだ影響等が一切反映されていないため、同報告書の内容は、現状ときわめて大きなかい離がある。
とりわけ、予定地の楢葉町は「避難指示解除準備区域」に、また広野町も「緊急時避難準備区域」に指定されており、送電施設や後方支援施設など、今回の計画施設に関連する施設の整備やそれに伴う要員配置等にも大きな制約があると懸念されること等をみても、同震災・同原発事故による様々な影響や変化等を反映した評価方法書としなければ、同報告書は全く意味をなさないものと考える。
2.個々の項目に関する問題点
(1)「Ⅰ 【3.1 自然的状況】 3.1.2水環境の状況」について
1)「(2)水質の状況」のうち、「(a)海域」「b)河川」「(c)地下水」「(d)水質汚濁に係る苦情の発生状況」について、福島原発事故以降、多大な放射線の影響を受けている現状とまったくかけ離れている内容となっている。
例えば、「(a)海域」に記載されている健康項目(カドミウム、全シアン等)についても、「すべての項目で環境基準に適合している」としているが、放射線の影響を大きく受けている現状を踏まえた記載内容に見直すべきである。
2)「(3)水底の底質の状況」のうち(a)底質の状況および(b)底質に係る苦情の発生状況についても、放射線の影響を大きく受けている現状を踏まえ、記載内容を見直すべきである。
3)「3.1.3土壌及び地盤の状況」について
「ダイオキシン類に係る環境基準」について記載があるが、これについても放射線の影響を多大に受けている現状を踏まえ、記載内容を見直すべきである。
4)「3.1.5動植物の生息又は成育、植生及び生態系の状況」について
東日本大震災並びに福島原発事故の影響による、地形や土地利用の大幅な改変および環境汚染による影響で、動植物の生息状況は大きく変化していると考えられるため、それらを踏まえた記載内容にすべきである。
(2)「Ⅱ. 【3.2社会的状況】」について
1)「3.2.1人口及び産業の状況」および「3.2.3河川、湖沼、海域の利用並びに地下水の利用の状況」について
「3.2.1」および「3.2.3」全般に係る記載内容について、東日本大震災や福島原発事故等による影響を踏まえた記載内容にすべきである。
(3)「Ⅲ.対象事業計画で確認されている希少鳥類」について
「野鳥の記録 東京から釧路航路の30年‐1997年~1999年を中心として」によれば、対象事業実施区域周辺では、一般鳥類はもとより、下記に掲げる希少な鳥類も生息していることが分かっている。そのため、これらの希少な鳥類についても、風力発電施設の建設が与える影響を評価、予測するための十分な調査計画と適切な実施が必要である。
・事業実施区域周辺の絶滅危惧種(野鳥の記録 東京から釧路航路の30年より)
アホウドリ(環境省・絶滅危惧Ⅱ類)
コアホウドリ(環境省・絶滅危惧ⅠB類)
クロコシジロウミツバメ(環境省・絶滅危惧ⅠA類)
ヒメクロウミツバメ(環境省・絶滅危惧Ⅱ類)
オーストンウミツバメ(環境省・準絶滅危惧種)
アカアシカツオドリ(環境省・絶滅危惧ⅠB類)
ヒメウ(環境省・絶滅危惧ⅠB類)
ハヤブサ(環境省・絶滅危惧Ⅱ類)
ホウロクシギ(環境省・絶滅危惧Ⅱ類)
コアジサシ(環境省・絶滅危惧Ⅱ類)
ウミガラス(環境省・絶滅危惧ⅠA類)
ウミスズメ(環境省・絶滅危惧ⅠA類)
カンムリウミスズメ(環境省・絶滅危惧Ⅱ類)
(4)「Ⅳ.【4.2調査、予測及び評価の手法の選定】」について
1)「表4.2-2表(4)調査、予測及び評価の手法」について
①トランセクト調査においては、全数調査やスナップショット法による調査など、どのような手法を用いるかを具体的に記載すること。
②ウミスズメ類等小型鳥種の見落としおよび誤識別を避けるため、各トランセクトの観察幅は両舷200mとすべきであること。
③観察・記録する項目については、鳥類の種や個体数だけでなく、海面に着水している個体も含め、飛翔高度、飛翔個体の飛翔方向、さらに、着水個体が飛立った場合には船からの距離等も記録すること。
④航空機トランセクト調査については、航空機の飛行高度によっては、動画撮影データを得るために搭載するカメラに写る前に、海面に着水している鳥類を飛去させるなど、正確な個体数を把握することができない場合がある。そのため、航空機トランセクト調査を行う際には、その飛行高度も記載すること。
⑤航空機トランセクト調査時に、動画撮影カメラに写る前に飛去した鳥類の個体がいた場合は、その個体の種・数・位置も別途記録すること。
⑥鳥類の重要な種および注目すべき生息地があった場合、別途詳細な調査をすること。また、その旨を記載すること。
⑦日本では沖合域での鳥類の生態はよく把握されておらず、不明な点が多い。そのようなことから、本事業は実証実験ではあるものの、建設後の事後調査にも資するデータとするため、対象事業実施区域及びその周辺での鳥類の状況等をできるだけ詳細に把握すべきである。それらの観点からも、トランセクト幅は1kmとし、全部で7本程度を用意すべきであること。また、トランセクト1本の距離は15kmとすべきであること。
⑧調査時期については、春夏秋冬ではなく、繁殖期前期・繁殖期後期・移動期(春・秋)・越冬期に調査すること。また、調査回数は、越冬期に2回、その他は1回、年間で少なくとも計6回の調査を行うべきであること。
⑩1回の調査は、3出航日分であることを記載すること。
⑪トランセクト調査時の船舶の航行速度を記載すること。なお、海外での同様の調査事例をみると、一般的には6~10ノットとみられる。
⑫トランセクト調査にあたり、出航できない気象・海象条件等がある場合はその内容を記載すること。
⑬トランセクト調査を実施するにあたり、必要な人数を記載すること。
⑭トランセクト調査を実施するにあたり、観察が困難な逆光状態を避けるよう留意すること。
2)「表4.2-2表(5)調査、予測及び評価の手法」について
①予測地域は、上記Ⅱ-1-⑦で示した範囲とすること。
②予測対象時期等は、工事期間中および風力発電機が稼動する時点だけではなく、運転開始後も対象とすること
③評価の手法として衝突確率モデルを用いる場合は、専門家による意見聴取等を行い、最新の衝突確率計算モデルを用いること
④鳥類は常に一定の高度を飛行するのではないことから、飛行高度に関する評価を行う場合や飛行高度を衝突確率モデルに用いる場合は、高度L(0m~ローター下)は高度M(ローター下端~ローター上端)として計算すること。
以上