(仮称)虫ヶ峰風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書

令和3年3月1日

ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社
代表取締役 中川 隆久 様

日本野鳥の会石川
代表 中村 正男
〒929-1125 石川県かほく市宇野気1-71

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一 (公印省略)
〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル

(仮称)虫ヶ峰風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書

現在、貴社が意見募集をしている(仮称)虫ヶ峰風力発電事業に係る環境影響評価方法書(以下、方法書という)に対して、鳥類の保全の見地から下記のとおり意見を述べます。

1.累積的影響評価の実施の必要性について

貴社が作成した計画段階環境配慮書(以下、配慮書という)に対し2020年9月2日付で提出した意見書でも同様のことを述べましたが、対象事業実施区域(以下、計画地という)の周辺には下記のように既設、建設中、計画中の事業(以下、他事業という)が多く存在します。したがって、既設の風力発電施設(以下、風車という)を全機撤去したうえで新たな風車に建て替えを行うリプレイス事業であろうとも、貴社は他事業の事業者と協力または情報の共有を図りながら累積的環境影響評価を実施し、能登半島中部全体における鳥類や自然環境への影響の回避・低減策を講じなければ、輻輳する風車の存在やその設置工事により、生態系の破壊や鳥類のバードストライクおよび障壁影響を含む生息地放棄などの重大な影響が能登半島中部全体で生じる可能性があります。

しかし、方法書には累積的影響評価に関する具体的な方針や考え方、評価手法等が記載されておらず、不十分な内容となっています。貴社は海外事例を参考にするなどして累積的影響の予測および評価を行い、計画地の周辺に他事業が多く存在することにより生じる鳥類をはじめとした自然環境への重大な影響を回避するための方針や方法を示すべきです。また、風車の運転開始後は事後調査を行い、その結果を示すべきです。それらを実施すること、また、具体的な手法等を記載できない限り、本事業の規模を縮小するか、計画を撤回すべきです。

【計画地周辺の他事業】

  • 既設:福浦風力発電所(9基)、酒見風力発電所(1基)、あいの風酒見風力発電所(5基)、富来風力発電所(4基)、JRE志賀西海風力発電所(3基)
  • 建設中:百浦赤住風力発電所、矢駄風力発電所
  • 計画中:(仮称) 中能登ウインドファーム事業(最大15基)、(仮称)能登中風力発電事業(最大16基)、(仮称)志賀風力発電事業(最大7基)、(仮称)西能登ウィンドファーム事業(最大30基)、(仮称)七尾志賀風力発電事業(最大12基)、(仮称)能登里山風力発電事業(最大17基)、(仮称)志賀風吹岳風力発電事業(最大9基)

2.当該事業は、リプレイスおよび事業の拡大である。そこで稼働中の風車の環境影響を評価し、影響の大きい風車については位置の変更を行うべきである。また、スケジュールについては既設風車の撤去も含めて明示し、必要に応じて評価すべきである。

3.鳥類調査の方法等について

【表 6.2-12(1)〜(4) 調査、予測及び評価の手法】、【表 6.2-13(1) 動物の調査方法及び内容】、【表 6. 2-13(2) 動物の調査方法及び内容】、【表 6.2-13(3) 動物の調査時期の選定根拠】に記載されている内容について、下記のように意見を述べます。

  • 計画地全体はKBA(Key Biodiversity Area)に含まれています。そのため、貴社は風車の建設により発生する土砂の扱いには十分留意し、土砂流出等により、ホクリクサンショウウオの生息地をはじめ、地域の生態系や、鳥類を含めた地域の生物多様性に影響を与えることのないよう、事業を計画、実施すべきです。
  • 鳥類の繁殖状況や渡り鳥の渡来・通過・渡去の状況は年変動が大きいことは既知のことです。貴社はこの年変動も考慮して、鳥類調査全般の実施期間は少なくとも2年間実施する必要があります。
  • 鳥類調査(一般鳥類)の各調査において調査時期と頻度がそれぞれ記載されていますが、それが適切であるかどうか専門家等の意見を聞くべきです。当会としては、現地の鳥類の状況を詳しく把握するために、繁殖期(5~6月)は調査地において出現種数が飽和するまで実施し、それ以外の時期は各月1~2回程度の調査が必要と考えます。
  • 貴社は、観察地点からの視野を示す視野図を作成し、観察地点の設置位置の妥当性を検討すべきです。希少猛禽類調査および渡り鳥調査においては、各観察地点からの視野が重なって計画地全体を覆うようになっている状態で調査を実施し、影響を評価すべきです。
  • 鳥類(渡り鳥)調査において、夜間録音調査の実施が記載されていません。春季には夜間(22時から翌朝4時頃)に渡り鳥が多く見られるとの報告*もあるため、夜間調査も検討すべきです。ただし、録音調査では、録音機材により確認できる鳥類の飛翔状況の距離が短いことがあるため、レーダー調査を実施するなどして、計画地における渡り鳥の利用状況等を詳細に把握したうえで影響を評価すべきです。
  • 鳥類(希少猛禽類)調査では、オオタカの繁殖状況を詳しく把握するために、2月調査を「繁殖期」の調査とすべきです(2月も2季実施)。また、計画地とその周辺における希少猛禽類のペアの生息および繁殖状況をより的確に把握するために、定点観察法だけではなく、適宜、移動観察(早朝の声聞きなど)を交えるなど、対象種や環境に合わせて柔軟に調査を実施すべきです。
  • 鳥類(希少猛禽類)調査および鳥類(渡り鳥)調査では、鳥類の飛翔位置を正確に把握するため、レーザーレンジファインダー等の機器を使用すべきです。

4.アセス図書の縦覧方法について

貴社が作成した方法書は、配慮書を含めて貴社が作成したアセス図書がダウンロードや印刷できないのは、著作権者である貴社の意向によるものです。しかし、パソコン上にダウンロードおよび印刷して閲覧できないことは非常に不便であることから、貴社は利用者から申請があれば、ダウンロードおよび印刷を可能にすべきです。

今回は、貴社のアセス図書の縦覧期間が意見書の提出期限前に終了していますが、利用者の利便性のために意見書の募集期間中はインターネットで閲覧できるようにしていただくことを要望いたします。

以上

*鳥類調査結果を用いた影響予測手法等について(参考)
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/files/tyouruityousa2.pdf