(仮称)出水水俣ウィンドファーム事業環境影響評価方法書に対する意見書

日野鳥発第2020-039号
令和3年3月1日

日本風力サービス株式会社
代表取締役 倉田 隆広 様

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

(仮称)出水水俣ウィンドファーム事業環境影響評価方法書に対する意見書

現在、貴社が意見募集をしている(仮称)出水水俣ウィンドファームに係る環境影響評価方法書(以下、方法書という)に対して、環境影響評価法第8条に基づき、環境の保全の見地から下記のとおり意見を述べる。

(1)鳥類保全の観点からの意見

貴社が作成した方法書に示されている対象事業実施区域(以下、計画地という)は、環境省版レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類、および国際希少野生動植物に指定されているナベヅルとマナヅルの集団越冬地である出水平野に近く、これらのツル類の移動分散の経路になっている可能性がある。環境省は2020年度から出水平野で越冬するツル類に対する給餌量の削減を実施し分散の促進事業を進めるなど、関係各者はツル類の集中的な越冬地からの分散を促しているところであるが、貴社による風車の建設により生じる影響により、ツル類の越冬地への移動や分散を阻害することがないよう、飛翔の位置や時期等について詳細に調査する必要がある。そして、ツル類の分散経路等の確保の観点から、仮にツル類の飛翔が確認された場所に風力発電施設(以下、風車という)の設置予定地がある場合は、そこでの風車の建設を取り止めるべきである。

また、計画地には個体数が非常に減少しており保護が急務とされているサシバ(環境省 2013)やチュウヒ(環境省 2016)の移動経路が存在する可能性もあり、上記のツル類を含め渡り鳥にとって重要な場所になっていると考えられる。サシバは風車の建設により障壁影響が生じることが国内でも確認されている(Ura 2017)。また、浦ほか(2020)では、チュウヒの飛翔行動の種類によってはバードストライクが発生する危険性が高いことを指摘している。これらのことから、サシバやチュウヒは風車建設による影響を受けやすい鳥類であると考える。そのため貴社は、サシバやチュウヒなど希少猛禽類の渡り時期における飛翔の位置等について詳細に調査し、もしこれら鳥類の飛翔が確認された場所に風車の設置予定地がある場合は、そこでの風車の建設を取り止めるべきである。

そして、計画地とその周辺には環境省により絶滅危惧ⅠB類および国内希少野生動植物種に指定されているクマタカが生息している可能性があるが、クマタカはすでに国内でバードストライク(浦 2015)および繁殖等が阻害される生息地放棄(三宅 2020)の発生が確認されている。そのため、貴社が計画通り風車を建設すると、計画地とその周辺においてクマタカのバードストライク、または生息地放棄が生じる可能性がある。

このようにナベヅルやマナヅル、サシバやチュウヒ、クマタカが計画地とその周辺に生息している可能性、および適切な調査の実施が必要であることは、計画段階環境配慮書に対する経済産業大臣意見および鹿児島県知事意見にも記載されているところである。

それらを踏まえて希少鳥類等の保全の観点から考えると、貴社が計画する風車の建設がこれらの希少鳥類に影響を与えることがないよう、詳細な調査を実施したうえで影響評価を実施し、もしこれらの鳥類が生息する場所に風車の設置予定地がある場合は、そこでの風車の建設を取り止める等の保全措置を講じるべきである。

(2)鳥類調査の方法について
  • 方法書6-37(407)には、渡り鳥調査を春季(2~4月)と秋季(9~11月)に各季に3回実施するとある。しかし、1回あたりの調査日数が記載されていないので、適切な項に記載すべきである。また、計画地周辺でツル類の渡り時期となる2月中旬から3月中旬および10月、越冬初期で出水から分散の可能性の高い10月~11月の調査は区別して別途行うべきである。
    サシバの渡りのピークになると考えられる3月下旬~4月上旬および9月下旬~10月半ばについては、悪天候時以外は毎日調査を実施し、ツル類とサシバ等の希少鳥類の渡りの状況を詳細に把握したうえで、風車建設による影響を評価すべきである。なお、渡り鳥の飛翔状況の把握には、レーザーレンジファインダー等の鳥類の飛翔位置を正確に計測できる機器の使用を検討すべきである。
  • 計画地とその周辺にクマタカが繁殖している可能性があるが、クマタカは場所によっては3年に1回程度しか繁殖が成功しないことが知られている。そのため、現地調査においては、2営巣期内で繁殖成功が確認できなかった場合には、3営巣期にわたり調査をすべきである。
  • 方法書6-37(407)には、希少猛禽類調査は各月1回3日間程度を基本とすると記載されているが、希少猛禽類の繁殖期においては造巣期から巣立ち期および巣外育雛期までの生態や行動を詳細に把握したうえで影響を評価する必要があることから、各月1回3日間程度という頻度にこだわらず、繁殖ステージごとに適切な調査時期を選定し、できるだけ多くの日数で調査を実施すべきである。また、留鳥となっている希少猛禽類の生息が認められれば、通年で詳しい生態や行動のデータを取得できる調査計画に変更すべきである。希少猛禽類の飛翔状況の把握には、レーザーレンジファインダー等の鳥類の飛翔位置を正確に計測できる機器の使用を検討すべきである。
  • 計画地周辺には環境省が絶滅危惧ⅠB類に指定するブッポウソウが生息している可能性があることから、一般鳥類調査ではそのことに留意すべきである。

以上


【引用文献】

  • 環境省.2013.サシバの保護の進め方.環境省,東京.
  • 環境省.2016.チュウヒの保護の進め方.環境省,東京.
  • 三宅 武.2020.風力発電開発で営巣地を放棄したクマタカ.野鳥841(2020年1月号):26-27.(公財)日本野鳥の会,東京.
  • 浦 達也.2015.風力発電が鳥類に与える影響の国内事例.Strix 31: 3-30.
  • Ura T., Kitamura W., Yoshizaki S. 2017. Case examples of barrier effects of wind farms on birds in Japan. Conference on Wind energy and Wildlife impacts 2017 Book of Abstracts: 246-247.
  • 浦 達也・長谷部 真・平井千晶・北村 亘・葉山政治.2020.繁殖期のチュウヒが風力発電施設の建設により受ける影響とその行動‐日本野鳥の会サロベツ湿原チュウヒ研究グループ.自然保護助成基金助成成果報告書 28: 50-57.