(仮称)七尾志賀風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書
令和3年2月22日
AR風力発電株式会社
代表取締役 大橋 純 様
日本野鳥の会石川
代表 中村 正男
〒929-1125 石川県かほく市宇野気1-71
公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一 (公印省略)
〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル
(仮称)七尾志賀風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書
現在、貴社が意見募集をしている(仮称)七尾志賀風力発電事業に係る環境影響評価方法書(以下、方法書という)に対して、環境影響評価法第8条に基づき、鳥類の保全の見地から下記のとおり意見を述べます。
- 1.累積的影響評価の実施の必要性について
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- (1)(仮称)志賀風吹岳風力発電事業、(仮称)能登里山風力発電事業との間の累積的影響について
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(仮称)七尾志賀風力発電事業は方法書により対象事業実施区域(以下、計画地という)の範囲の変更が明らかになりましたが、 (仮称)能登里山風力発電事業(以下、重複他事業という)の計画段階環境配慮書(以下、配慮書という)、および(仮称)志賀風吹岳風力発電事業の方法書に示されている計画地と本事業の計画地は大きく、あるいは一部重複しています。ほぼ同じ場所に違う事業者の風車が建設されることは一般的には想定し難いですが、現段階で計画地が重複している以上、貴社は重複他事業の事業者と協力、または情報の共有を図りながら累積的環境影響評価を実施したうえで影響の回避・低減策を講じなければ、輻輳する風力発電施設(以下、風車という)の存在やその設置工事により、生態系の破壊や鳥類のバードストライクおよび障壁影響を含む生息地放棄などの重大な影響が生じる可能性があります。
しかし、方法書には経済産業大臣の配慮書に対する意見(令和元年11月11日)でも述べられている累積的環境影響評価に関する具体的な方針や評価手法が記載されておらず、不十分な内容となっています。計画地が重複することにより生じる鳥類をはじめとする自然環境への重大な影響を回避するための方法等が示されない限り、本事業は実施すべきではありません。
- (2)計画地周辺に多く存在する他事業との間の累積的影響について
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計画地の周辺には(仮称)志賀風吹岳風力発電事業および(仮称)能登里山風力発電事業以外にも、下記のように既設、建設中、計画中の事業(以下、他事業という)が多く存在します。貴社は他事業の事業者と協力または情報の共有を図りながら累積的環境影響評価を実施し、能登半島中部全体における鳥類や自然環境への影響の回避・低減策を講じなければ、輻輳する風車の存在やその設置工事により、生態系の破壊や鳥類のバードストライク、および障壁影響を含む生息地放棄などの重大な影響が能登半島中部全体で生じる可能性があります。
しかし、方法書には累積的影響評価に関する具体的な方針や考え方、評価手法等が記載されておらず、不十分な内容となっています。貴社は海外事例を参考にするなどして累積的影響の予測および評価を行い、計画地の周辺に他事業が多く存在することにより生じる鳥類をはじめとした自然環境への重大な影響を回避するための方針や方法を示すべきです。さらに、風車の運転開始後は事後調査を行い、その結果を示すべきです。それらを実施すること、また、具体的な手法等を記載できない限り、本事業の規模を縮小するか、計画を撤回すべきです。
【計画地周辺の他事業】
- 既設:福浦風力発電所(9基)、虫ヶ峰風力発電所(10基)、酒見風力発電所(1基)、あいの風酒見風力発電所(5基)、富来風力発電所(4基)、JRE志賀西海風力発電所(3基)
- 建設中:百浦赤住風力発電所、矢駄風力発電所
- 計画中:(仮称)能登中風力発電事業(最大16基)、(仮称)中能登ウインドファーム事業(最大15基)、(仮称)志賀風力発電事業(最大7基)、(仮称)虫ヶ峰風力発電事業(最大13基、現10基は撤去)、(仮称)西能登ウィンドファーム事業(最大30基)、 (仮称)能登里山風力発電事業(最大17基)、(仮称)志賀風吹岳風力発電事業(最大9基)
- 2.鳥類調査の方法等について
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【表 6.2-1(20)〜(22) 調査、予測及び評価の方法(動物)】に記載されている内容について、下記のように意見を述べます。
- 計画地全体はKBA(Key Biodiversity Area)に含まれています。そのため、貴社は風車の建設により発生する土砂の扱いには十分留意し、土砂流出等により、KBAの指定根拠となっているホクリクサンショウウオの生息地をはじめ、地域の生態系や、鳥類を含めた地域の生物多様性に影響を与えることのないよう、事業を計画、実施すべきです。
- 希少猛禽類調査では「繁殖期については2期実施する」とありますが、鳥類の繁殖状況や渡り鳥の渡来・通過・渡去の状況は年変動が大きいことは既知のことです。貴社はこの年変動も考慮して、鳥類調査全般の実施期間は少なくとも2年間実施する必要があります。
- 鳥類調査のうちポイントセンサス法による調査と任意観察調査は、春・夏(繁殖期)・秋・冬の4季に実施するとあります。しかし、方法書には具体的な調査頻度が記載されていません。そのため貴社は、各季の中でどのくらいの回数で調査を実施する予定なのかを記載し、それが適切であるかどうか専門家等の意見を聞くべきです。私ども2団体としては、現地の鳥類の状況を詳しく把握するために、繁殖期(5~6月)は調査地において出現種数が飽和するまで実施し、それ以外の時期は各月1~2回程度の調査が必要と考えます。
- 貴社は、希少猛禽類調査および渡り鳥調査のための観察地点からの視野を示す視野図を作成し、観察地点の設置位置の妥当性を検討すべきです。希少猛禽類調査および渡り鳥調査においては、各観察地点からの視野が重なり計画地全体を網羅する調査を実施し、影響を評価すべきです。
- 希少猛禽類調査および渡り鳥調査では、鳥類の飛翔位置を正確に把握するため、レーザーレンジファインダー等の機器を使用すべきです。
- 3.アセス図書の縦覧方法について
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貴社が作成した方法書は、配慮書を含め貴社が作成したアセス図書がダウンロードや印刷できないのは、著作権者である貴社の意向によるものです。しかし、パソコン上にダウンロード、および印刷して閲覧できないことは非常に不便であることから、貴社は利用者から申請があれば、ダウンロードおよび印刷を可能にすべきです。
今回、貴社のアセス図書の縦覧期間が意見書の提出期限前に終了していますが、利用者の利便性のためには意見書の募集期間中はインターネットで閲覧できるようにしていただくことを要望いたします。
以上