(仮称)球磨村風力発電事業環境影響評価方法書に対する意見書

令和3年2月22日

株式会社エルゴジャパンエナジー
代表取締役 齋藤 稔 様

日本野鳥の会熊本県支部
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公益財団法人 日本野鳥の会
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(仮称)球磨村風力発電事業 環境影響評価方法書に対する意見書

貴社が作成された(仮称)球磨村風力発電事業に係る環境影響評価方法書(以下、方法書という)に対し、下記のように意見を提出いたします。

(1)計画地とその周辺の自然環境および鳥類全般について

方法書に記載されている対象事業実施区域(以下、計画地という)およびその周辺は、石灰岩が隆起して形成された地形から成り、北には球泉洞などの鍾乳洞が見られるほか、北西から西部にかけて石灰岩の露頭が見られる地域一帯にある。計画地は、山口県秋吉台や福岡県北九州市の平尾台などと同様に丘陵地を形成する草原地帯であると考えられ、熊本県内では阿蘇地域と同様に数少ない草原性鳥類が生息する特別な生態系が維持されており、自然環境の保全上とても重要な地域である。

また、計画地は草原と保安林からなる譲葉鳥獣保護区内にあり、保護区の面積の約7割にあたる草原部の全域を覆うように風車の建設を計画しており、その空間で風車が稼働することで、さえずり飛翔を行う草原性のセッカおよび熊本県の鳥にも指定されているヒバリをはじめ、クマタカなどの希少猛禽類や多くの野鳥がバードストライク等の影響の危機にさらされる。さらに、計画地とその周辺地域は、現在日本で非常に減少している草原環境と森林環境を併せもつ貴重な地域である。また、芋川、庄本川、告川、漆川内川、佐敷川などの源流部を有する水環境が豊かな重要な地であり、鳥類以外にも昆虫や爬虫類、両生類、哺乳類などの数多くの生物が生息しており、生物多様性に富んだ貴重な地域である。

方法書3章の表3.1-27「文献その他の資料による動物の重要な種」では、16目35科85種の鳥類が確認されている。しかし、計画地では稀にしか出現しないと思われる水鳥やシギ・チドリなどが記載されている一方で、当該地域では真っ先に記載すべきと考えられる草原性鳥類の種名の記載がないことは大きな問題である。特に、計画地では優占種と考えられるセッカや夏鳥のホトトギスの記載がないのは、文献調査で参照した文献に不足があったからだと考える。以上のような観点から、文献調査を含めて調査方法等を再検討する必要がある。

(2)計画段階の配慮事項

方法書4章の4.3.1騒音及び超低周波音のうち3.評価では、「…騒音及び超低周波音の影響の程度を把握し、必要に応じて環境保全措置を検討する。」と記載されているが、保全措置の内容について具体的な記述がない。保全措置の前提として、特に超低周波音の人への影響だけでなく、野鳥や牧場で肥育されている牛等の家畜への影響事例の記載が必要であると考える。もし事例がない、または不足する場合は、貴社が現地で調査する必要がある。

(3)環境影響の考え方について

方法書4章の4.3.3動物の3.評価では、「鳥類は風車の稼働に伴うバードストライク等の重大な環境影響を受ける可能性がある」と記載されている。しかし、影響の回避又は低減が将来的に可能であるものと評価する根拠として、「クマタカ等の猛禽類調査や渡り鳥の移動状況調査の実施」について触れており、また、鳥類やコウモリ類が上空を利用することへの影響を想定し、「風力発電機設置位置等の情報が必要となるため、事業計画の熟度が高まる方法書以降の手続きについて適切に調査、予測及び評価を実施する。」と記載されている。しかし、熟度が高まるとはどのような状況を指すのかが明らかでなく、また、具体的な影響の回避・低減策や保全措置をどのようにとるのか等の記載がないため、新たに方法書に記載すべきである。

(4)経済産業大臣と県知事意見の順守について

方法書の5章および7章に記載されている経済産業大臣および県知事の意見を順守した調査や保全措置を行うことは必須である。特に経済産業大臣は「クマタカの衝突事故と移動阻害による希少猛禽類への影響」「サシバの渡り経路と渡り鳥への影響」を取り上げ、県知事は、「低周波音が、野生動物の生存や繁殖、個体数等に対して及ぼす影響」「猛禽類の中には、熊本県西部、中部及び東部を通過するルートで渡りを行う個体群も存在するため、事業実施により影響を及ぼさないよう検討すること」を意見している。計画地が鳥類にとって重要な繁殖地となっているという視点を踏まえ、質、量ともに十分な調査を実施し、鳥類への影響を貴社が見解で示すような低減ではなく、回避することが必須である。それを順守するには、自然環境全般に対する幅広い視野を持った詳細な現地調査を実施する必要がある。

(5)鳥類調査の方法について

方法書の6章にある調査、予測及び評価の手法(動物)では、希少猛禽類と渡り鳥において定点観察法による調査の実施が計画されている。特に計画地ではクマタカの生息地およびサシバの渡り経路の存在が懸念されるが、計画地周辺には水田を有する貴重な里山環境もあり、サシバやツミなどの希少猛禽類が繁殖していることも視野に入れて調査を実施し、それらの繁殖状況を詳細に把握する必要がある。

一般鳥類調査における任意観察調査とラインセンサス法による調査では、特に近年個体数が減少していると言われるアカショウビンやヤイロチョウ、オオルリ、クロツグミ、サンコウチョウなどの夏鳥が、水源を有する保安林で繁殖し、計画地を飛翔する可能性が高く、留意しなければならない。また、カッコウ、ホトトギス、ツツドリなどのトケン類の生息の可能性にも十分留意して調査すべきである。なお、熊本県レッドリストで絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定されているコジュリンは、冬期に湯浦川河川で確認されていることから、夏期に草原環境で繁殖している可能性に注視して調査する必要がある。また、計画地は熊本県レッドリストで絶滅のおそれのある地域個体群に指定されているホオアカの繁殖地の南限となっている可能性があるので、留意する必要がある。

また、計画地は、悪天候時に渡り鳥の緊急避難先になっていることも考えられる。そのため貴社は、希少種だけでなく一般種や渡り鳥を含めた鳥類全般の空間飛翔調査等を実施し、この地域の鳥類の生息空間に与える影響を評価することは重大な責務である。

さらに、鳥類が夜間も移動していることは広く知られるようになっているが、計画地でも夜間に鳥類が飛翔する可能性がある。夏鳥のヨタカをはじめ、特にフクロウ類の夜間調査は繁殖期だけでなく、年中実施する必要がある。また、冬期はコミミズクやトラフズクなどに対する調査も必要である。他にも渡り鳥の存在も考えると、年間を通して夜間レーダー調査を実施したうえで、風車建設による鳥類への影響を評価すべきである。

いずれにしても、計画地ではクマタカやサシバをはじめ、ハチクマやノスリ、ハイタカやツミなど上昇気流を利用して生活する鳥類が多いため、その生息地利用の状況を詳細に把握することが、バードストライク等の鳥類への甚大な影響の回避の観点から重要となる。

さらに、計画地周辺には貴社の他に、大関山、亀嶺峠、矢筈岳、宮ノ尾山にかけて風力発電事業の計画がある。自社の計画地における影響評価を実施するだけでなく、他社とも互いに情報を共有して累積的影響を評価するという視点で、繁殖する希少種はもちろんのこと、一般種や渡り鳥等を含めて風車の建設がこの地域一帯の鳥類に与える影響を評価すべきである。

(6)アセス図書の縦覧方法について

アセス図書の閲覧は、環境影響評価法により定められているとは言え、縦覧期間が1~1.5か月と短く、また、縦覧場所も限られており、インターネット上で閲覧は可能であるが、印刷ができないことが多いのは不便である。数百ページもあるアセス図書を縦覧場所、またはパソコン上のみで閲覧しながら意見書を作成することは、現実的ではない。貴社はPDFでの提供をしているとはいえ、作成した意見書の内容の誤りの有無をアセス図書と整合して確認するのに、パソコン上では不合理である。アセス図書の内容が、実際の計画地の状況と齟齬がないかを地域住民や利害関係者等が精査できることこそが、環境影響評価の信頼性を確保し、地域住民等との合意形成を図るうえで不可欠である。そのため、閲覧可能期間に限らず、縦覧期間後も地域の図書館などで、アセス図書を常時閲覧可能にし、また、随時インターネットでの閲覧とダウンロード、印刷を可能にすべきである。すぐにはアセス図書を常時公開することが難しいようであれば、多くの事業者が実施しているように、関係する自然保護団体等に紙媒体でのアセス図書を提供すべきである。

以上