(仮称)由利本荘洋上風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書
令和3年2月1日
日本風力開発株式会社
代表取締役社長 塚脇 正幸 様
日本野鳥の会秋田県支部
支部長 佐々木 均
秋田県横手市前郷一番町1-21
(公印省略)
公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
(公印省略)
日本雁を保護する会
会長 呉地 正行
宮城県栗原市若柳川南南町16
(公印省略)
「(仮称)由利本荘洋上風力発電事業に係る環境影響評価方法書」に対する意見書
現在、貴社が公告・縦覧および住民意見を募集している(仮称)由利本荘洋上風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対して、鳥類の保全の観点から下記の通り意見を述べる。
記
既に2020年8月17日付で貴社に提出した当該事業に係る環境影響評価配慮書に対する意見書の中で述べたように、対象事業実施区域(以下、計画地という)に設定されている海域(以下、当該海域という)は、海鳥の重要生息地(マリーンIBAs)の指定海域および渡り鳥の重要な経路と重なっていること、また、計画地の周辺で繁殖する希少猛禽類であるミサゴの採餌海域となっていることなどから、鳥類の保全の観点から考えて、当該海域は計画地から除外されるべきである。そのため、本事業は環境影響評価準備書の作成に進まずに、現段階をもって事業を中止すべきである。
この海域であえて事業を進めようとするのであれば、鳥類および海洋生態系に対する影響が回避されていることを確実に証明できなければならない。それを実現するためには、綿密な調査に基づいた環境影響評価を行うことが必要であり、その結果として甚大な影響があることが予想された場合は、計画の大幅な見直しを行うべきである。
以下に現地調査を行う場合の注意点を述べるが、本項以降の意見は、前述の立場に立ったうえで、方法書の記載内容について意見を述べるものであり、準備書の段階に進むことを容認するものではない。
1.方法書に記載されている鳥類調査の方法について
- (1)渡り鳥調査(定点観察法による調査)について
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計画地および当該海域の渡り鳥の状況を調べるのに、方法書に記載されている春(3~5月)・夏(6~8月)・秋(9~11月)・冬(12~2月)の各季1回・計4回という調査回数では不十分である。計画地および当該海域における渡り鳥の状況は下記の確認状況のように、それぞれの鳥種により渡りの時期が異なるため、定点観察調査は毎月行うことが望ましい。特に春(2月中旬~5月下旬)と秋(10月中旬~11月中旬)は渡り鳥が多く計画地周辺を移動しているため、調査回数・日数ともに他の時期の月一回よりも多く実施し、風車の建設による渡り鳥への影響を評価するべきである。また、夏(6~8月)および冬(12~2月)は、本来渡り鳥の渡来・渡去の時期ではないため、夏および冬に実施する鳥類調査は、例えば一般鳥類調査、任意定点調査、越冬鳥類調査など、別に調査項目を設定したうえで調査すべきである。
- 【日本野鳥の会秋田県支部による計画地および当該海域における渡り鳥の確認状況】
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- (春)
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- 2月~4月上旬はガン類(写真1)・カモ・ハクチョウ類がそれぞれ少しずつ時期をずらしながら計画地および当該海域を通り、北へ移動する。特に淡水ガモと海ガモは飛去の時期が半月から1か月くらい異なる。またオオセグロカモメ等のカモメ類がこの時期飛去する。
- 3月~5月には希少猛禽類オジロワシ(環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類)が由利本荘から飛去し、ミサゴ(環境省レッドリスト準絶滅危惧)が飛来する。またノスリ、サシバ(環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類)・ハチクマ(環境省レッドリスト準絶滅危惧)が飛来・北上する。さらに、ミズナギドリ類(写真2)、サギ類、シギ・チドリ類、アジサシ・コアジサシ(環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類)、ヒヨドリ(写真3)等の渡りが計画地および当該海域で確認されている。
- (秋)
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- 8月中旬~9月下旬にはシギ・チドリ類が計画地および当該海域を南下する。また、サギ類が南下する可能性がある。
- 8月下旬~10月にはサシバ、ハチクマ等のタカ類が計画地および当該海域を通って南下することを確認している。
- 10月~11月中旬にはハクチョウ類、淡水ガモ類、ダイサギ(写真4)の渡りが計画地および当該海域で確認されている。またノスリ等の渡りが計画地沿岸で確認されており、当該海域も利用する可能性がある。
- 11月~12月にはガン類が南下するがこの時に計画地および当該海域を利用することが確認されている。また由利本荘市内にシジュウカラガン(環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類)が飛来するが、この時に計画地および当該海域を利用する可能性がある。
- 11月~12月には由利本荘市内にオジロワシが飛来するが、この時に計画地および当該海域を利用する可能性がある。
- (2)越冬期の鳥類調査の実施の必要性について
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12月~2月にはガン・カモ・ハクチョウ類が天候や積雪量によって越冬地間の移動を繰り返す。また、ミツユビカモメ、カモメ、ワシカモメ、シロカモメ、セグロカモメ、オオセグロカモメ等のカモメ類は餌動物の移動や天候に応じて港湾・沿岸から沖合間で移動を繰り返す。そのため、貴社は12月~2月にも毎月定点調査を実施し、こういった冬期の鳥類の生息状況を把握したうえで、風車の建設による鳥類への影響を評価すべきである。
2.その他、調査の実施にあたり留意すべき点について
- ガン・カモ・ハクチョウ類の春の渡りや移動の時期や経路は、その年または時期の積雪量や気温によって大きく変わる。また、鳥類でも特にガン・カモ・ハクチョウ類は晴天時のみならず、強風や降雪などの悪天候の日でも飛翔することがある。そのため貴社は、これらの鳥類の生息状況を調査するにあたり、2月中旬から3月下旬までの間は計画地および当該海域周辺において、任意の定点調査を複数回実施できるような体制を準備すべきである。なお、調査は悪天候の日にも実施し、鳥類が風車を視認しづらい悪天候時の行動に関するデータについても取得し、影響を評価すべきである。
- 貴社が設置予定の風車は、海面からの高さ270m、ローター直径が220mという巨大なものであり、計画地および当該海域を飛翔するガン・カモ・ハクチョウ類の飛翔高度と重なる。これらの鳥類がこの風車の高さを越えるため、または迂回するために飛ぶことで、かなりのエネルギーロスが生じる。英国の研究では、鳥類が風車等の障害物を10km迂回すると、一日に消費する飛翔のためのエネルギーの20%を無駄に消費することが分かっている。鳥類への影響を詳細に把握および予測するためには、まず、鳥類の飛翔高度および飛行経路を正確に調べ、どの程度の迂回距離等が生じる可能性があるかを予測する必要がある。これを実現するためには、Vector21AERO(SAFRAN 社製)のような、レーザーにより対象物の位置(緯度・経度、標高、対象物までの距離、仰角)や対地高度を算出することができるレーザー測距機等を使うことが望ましい。
- ミサゴは、由利本荘市付近へは3月上旬に飛来し、11月初旬から中旬頃になると南へ移動する。魚食性であり、当該海域はこのミサゴの重要な採餌場となっている。ミサゴの行動圏と設置予定の風車の影響の有無を適切に把握するためには、単に計画地での飛翔状況だけでなく、営巣位置や巣場所の環境、繁殖状況等を知っておく必要があり、その際にはミサゴの繁殖を阻害しないように慎重に調査を行うべきである。
なお、この意見は概要にまとめる際に原文を掲載し、添付写真も掲載または添付することを希望する。
以上
<添付資料>
(写真1)2018年2月22日 ガンsp.本荘浜沖1~1.5km 本荘浜より撮影
(写真2)2000年4月30日 オオミズナギドリ 象潟沖約10km付近 飛島航路にて撮影
(写真3)1997年5月3日 ヒヨドリ 象潟沖約10km付近を北上 飛島航路にて撮影
(写真4)2020年11月6日 ダイサギ 本荘浜沖約600m 本荘浜より撮影