(仮称)稲子峠ウインドファーム 環境影響評価方法書に対する意見書

(仮称)稲子峠ウインドファーム 環境影響評価方法書に対する意見書

令和3年1月22日 提出

項 目 記入欄
氏 名
  1. 日本野鳥の会宮城県支部  支部長  竹丸 勝朗
  2. 公益財団法人日本野鳥の会 理事長  遠藤 孝一 (公印省略)
住 所
  1. 〒982-0811 宮城県仙台市太白区ひより台20-7
  2. 〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル
環境影響評価方法書についての環境の保全の見地からの意見

この度、貴社が作成された「(仮称)稲子峠ウインドファーム 環境影響評価方法書」について、次のとおり意見を提出します。

現在、環境影響評価方法書(以下、方法書と言う)を縦覧している(仮称)稲子峠ウインドファームについて、対象事業実施区域(以下、計画地と言う)に風力発電施設(以下、風車と言う)を建設した場合、クマタカの生息地と重なることが予想され、衝突死(以下、バードストライクと言う)が発生する危険性が高い。また、サシバやハチクマなど希少猛禽類の渡り経路に対しても障壁影響等が発生することが懸念される。

方法書には鳥類に対する調査方法等を記載しているが、希少猛禽類や渡り鳥等への影響を適切に評価し得る調査データを取得するという観点から、下記のことを実施するよう求める。

  1. 私たちの普段の観察により計画地およびその周辺ではクマタカが生息していることを確認しており、また、繁殖の可能性が高い。クマタカは場所によっては3年に1回程度しか繁殖が成功しないことが知られていることから、現地調査においては、2営巣期内で繁殖成功が確認できなかった場合には、3営巣期に渡り調査をすべきである。国内ではクマタカでバードストライクが起きた事例があることから、計画地に風車を建設した場合、バードストライクが起こる可能性が高いと考える。そのため、繁殖期におけるクマタカの飛翔行動等の調査は、方法書に記載されている希少猛禽類調査よりも質、量とも十分なものを求める。また、強風時にはクマタカは飛翔行動を行わないことが知られているので、調査は悪天候時には実施すべきではない。
  2. 方法書には鳥類調査における任意観察、希少猛禽類、渡り鳥の調査地点(定点)が記載されている。ただし、この定点では計画地およびその周辺は地形や樹木の繁茂により見通しが悪く、また、広大であるため、調査に十分な視野、視界を確保することは困難であると考える。各定点から計画地をどのように見渡せるかが分かる視野図を作成し、もし、見通しが悪い定点があれば、その位置を適切な場所に変更すべきである。また、希少猛禽類と渡り鳥の定点が計画地内には少ない。前述のように計画地は見通しが悪く、現状の定点の配置では、計画地内における鳥類の飛翔行動などを十分に観察できないと考える。そのため、希少猛禽類と渡り鳥の定点を観察地内にもっと増やすべきである。
  3. 方法書には、希少猛禽類調査は各月1回3日間程度を基本とすると記載されているが、希少猛禽類の繁殖期においては造巣期から巣立ち期および巣外育雛期までの生態や行動を詳細に把握したうえで影響を評価する必要があることから、各月1回3日間程度にこだわらず、繁殖ステージごとに適切な調査時期を選定し、できだけ多くの日数で調査を実施すべきである。また、留鳥となっている希少猛禽類の生息が認められれば、通年で詳しい生態や行動のデータを取得できる調査計画に変更すべきである。希少猛禽類の飛翔状況の把握には、レーザーレンジファインダーの使用を検討すべきである。
  4. 方法書では、専門家等の意見としてミゾゴイの生息の可能性が指摘されている。また、当会会員の観察結果から、ヨタカが生息している可能性もある。これらのような日出や日没の前後などの薄明薄暮時や夜間に活動する鳥類の生態や行動を把握できるよう、適切な時間、時期、地域、頻度、ICレコーダーなどの機材を利用して調査を実施することを求める。
  5. 秋の渡り鳥調査にあたっては、夏鳥と冬鳥で南下時期が異なるため、9~11月の各月複数回(上旬・中旬・下旬)の調査回数では不十分である。夏鳥は早いもので7月下旬に渡りを開始し、冬鳥は12月でも渡ってくるため、その程度の期間は渡り鳥の調査を実施する必要がある。夏鳥であるサシバやハチクマなどの希少猛禽類および冬鳥の小鳥類やガン・カモ・ハクチョウ類の渡りについては、現地の鳥類の状況に詳しい者から情報を得るなどして、適切な時期に適切な回数の調査を実施し、計画地およびその周辺を通過する渡り鳥全般の飛翔状況を明らかにすべきである。なお、サシバおよびハチクマの移動時期は、宮城県では9月上旬から始まり、約一ヶ月続くことが観察、公表されている。しかし、ピークの時期は短く、それはその年の気候に左右される。そのため、このピークの時期を外さない調査方法での実施が必要となる。また、計画地は広範囲であるため、その日の風向きや日射量等により上昇気流の発生位置が峰の東になるか西になるかが変わる。上昇気流の発生位置や風力によって鳥類の飛翔コースや高度が変わることも考慮して、適切な調査方法を取る必要がある。なお、ハクチョウ類等の大型鳥類の渡りの状況を把握するのに、レーザーレンジファインダーの使用を検討すべきである。加えて、夜間に計画地およびその周辺の上空を移動、通過する小鳥類やガン・カモ・ハクチョウ類も存在するため、レーダー等を用いて渡り鳥調査を夜間にも実施すべきである。

以上