「度会・南伊勢風力発電所建設計画に係る環境影響評価方法書」に対する意見書

令和2年12月25日

電源開発株式会社
代表取締役社長 渡部 肇史 様

日本野鳥の会三重
代表 平井 正志
(公印省略)

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
(公印省略)

「度会・南伊勢風力発電所建設計画に係る環境影響評価方法書」に対する意見書

貴社が作成された度会・南伊勢風力発電所建設計画に係る環境影響評価方法書(以下、方法書という)に対し、環境保全の立場から下記のとおり意見を提出いたします。

(1)工事車両の進入経路に関する設計等の欠落について

貴社が作成した計画段階環境配慮書(以下、配慮書という)では工事車両の進入経路が示されていたが、方法書にはその記載がない。本計画では1基あたり4,300kwの大型風車を12基設置する予定であるが、山林内にそれらの建設資材を搬入するには作業道路を大きく拡幅整備または新設する必要があると考える。道路を整備するにあたっては、土砂の採掘や樹木の伐採等で周辺の自然環境を大きく改変することになるにもかかわらず、方法書ではそれに係る環境影響を評価する手法が記載されていない。また、工事に伴い発生する土砂の処理方法についてもふれられていない。特に対象事業実施区域(以下、計画地という)の北東側は風車の設置予定がないためか、一般鳥類の調査地点が配置されていない(図5.3-11)。しかし、ここも計画地として広く確保されていることから、ここには計画地への進入経路および送電線等が整備されるものと考える。そのため、風車の設置予定の有無にかかわらず、計画地内のすべての範囲で鳥類等の生物や自然環境に対する影響を評価すべきである。

(2)鳥類に対する影響について
①ヤイロチョウ

方法書に記載されている先行調査において計画地にヤイロチョウが生息していることを確認しているが(表3.1-30)、ここで繁殖しているものと考えられる。ヤイロチョウは環境省レッドリストで絶滅危惧IB類 (EN)に指定されるが、全国的にみても分布は局所的で、個体数が少ない種である。

しかし、方法書にはヤイロチョウの生息状況を把握するための調査方法についてまったく記載されていない。この鳥の生息状況を詳しく知るために、貴社は、専門家等の意見を踏まえ、現地調査を行って繁殖つがい数、行動圏サイズ、繁殖に必要な植生や餌動物などを把握し、本事業がヤイロチョウの繁殖を阻害しないことを証明すべきである。また、本種の希少性を鑑みて、少しでも繁殖に影響があると判断された場合は、事業を中止すべきである。

②クマタカ
1)調査地点について

方法書に記載されている先行調査において計画地にクマタカが生息していることが確認されているが(表3.1-30)、ここで繁殖しているものと考える。計画地内における希少猛禽類の調査地点は中心付近に一か所あるだけであり、特に計画地が広がる西側には調査地点が乏しく、調査地点数が不足していると言わざるを得ない。また、計画地内に1か所ある調査地点からは、計画地西側の斜面はほとんど観察できないと考える。さらに、計画地外に調査地点が6か所あるが、そこから計画地の西側の希少猛禽類の生息状況を確認できるとは考えにくい。かつ、それぞれの調査地点からの視野図がないことから、調査地点の設定場所が適切であるかを判断できない。そのため、貴社は計画地内における希少猛禽類の調査地点を増やすか、視野図を作成して、現状の調査地点で計画地内外のほとんどを観察可能であることを示すべきである。

2)調査期間について

環境省による「猛禽類の保護の進め方」の対象となっているクマタカの繁殖が計画地で確認された場合、2営巣期を含む1.5年以上において生息状況を調査すべきとされているが、クマタカは普通でも2年に1回しか繁殖せず、2年連続して繁殖しない場合もある。つまり、1年間の調査でクマタカの繁殖を確認できなかったからといって、計画地にクマタカが繁殖していない、ということにはならない。そのため、先行調査でクマタカの繁殖の可能性を確認している以上、1年目の調査でクマタカの営巣等が確認されなかったとしても、最低でも2営巣期を含む1.5年以上、可能なら3営巣期を含む2.5年以上にわたり調査を実施し、繁殖状況や行動を精査することを求める。

3)衝突確率の計算について

クマタカの風車への衝突確率の計算については、風車施設群全体で衝突確率を算出するだけでなく、現状の設置予定位置において風車ごとに算出し、環境影響評価準備書等でその結果を公表すべきである。風車ごとに衝突確率を算出することで、どの風車の建設を取り止め、または位置を変更することで施設群全体での衝突確率を下げることができるかを議論できるようになる。風車ごとの算出結果の公表に際しては、風車の機体番号を伏せることで高度利用域の特定が難しくなり、クマタカの巣の位置を推定しにくくなるため、カメラマン等の来訪を防ぐことが可能となる。

4)生息地放棄による繁殖への影響について

風車の稼働によるクマタカの営巣地放棄については、日本野鳥の会徳島県支部の報告(「大川原ウインドファームにより営巣地を放棄したクマタカ」野鳥徳島No.490 2019年7月)がある。これによると営巣木から1㎞以内に風車を建設後、2ペアのクマタカが営巣放棄したとある。今後の調査でクマタカの営巣地から1km以内に計画地が含まれる場合、その場所での風車の建設は取り止めるべきである。なお、1㎞以上離れていれば風車建設の影響により営巣放棄をしないこと必ずしも担保されるものではなく、営巣地から1㎞以上離れている場合でも、近隣に高頻度利用地や営巣適地がある場合はそこでの風車の建設を避けるべきである。

クマタカの繁殖を確認した場合、風車への衝突確率を算出するだけでなく、風車周辺で起きる生息地放棄等の影響によって繁殖成功率がどのように変化する可能性があるかについても評価すべきである。また、その評価手法については方法書に記載すべきである。

③渡り鳥調査について

三重県ではサシバなどの猛禽類の渡りや移動の経路が複数存在することが知られているが、その位置はその日の上昇気流の発生位置や風向、天候等により変わり、固定していない。そのため、計画地においても1年間の調査だけでは渡り経路の位置を把握するには不十分であり、最低でも3年程度は実施する必要がある。

なお、計画地周辺にあると考えられるサシバの渡り経路は三重県内では南側にあたり、年により、多くの渡り鳥が通過する可能性があることが知られている。日本野鳥の会三重では1985年10月に計画地西側にある藤坂峠でサシバを含め多数の鳥類の渡りを観察している(日本野鳥の会三重会報・しろちどり72号6ページ:Web上で閲覧可能)。そのため、渡り鳥に対しても詳細な調査を行うことが必要である。

以上