(仮称)那賀・海部・安芸風力発電事業に係る環境影響評価方法書 に対する意見書

令和2年12月18日

JAG国際エナジー株式会社
代表取締役社長 坂根 多加弘 様

日本野鳥の会徳島県支部
支部長 三宅 武

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一

(仮称) 那賀・海部・安芸風力発電事業に係る環境影響評価方法書 に対する意見書

環境影響評価法第3条の7に基づき、希少鳥類の保護および環境保全の見地から下記の通り意見を述べる。

1.土砂災害の発生等に対する懸念について

環境影響評価方法書(以下、方法書という)に示されている対象事業実施区域(以下、計画地という)は日本有数の豪雨地帯となっている。そこで実施する、風力発電施設(以下、風車という)の設置に係る管理用道路や搬入路の新設や拡幅、風車基部の掘削や周辺植生の伐開などの土木工事により、土砂災害の発生や河川堆砂の増加を起こすことが下記の理由1、2、3により懸念される。

それにも関わらず貴社の作成した方法書には、土木工事が土砂災害等を引き起こすことがないという根拠、森林伐採や山地掘削による大規模な植生や生態系の破壊による自然環境への影響の回避・低減策あるいは代償措置のあり方が示されていないので、明記すべきである。

  1. 德島県内に大きな土砂災害・豪雨災害を与えた2004年の台風10号では、計画地の下流部にある海川(カイガワ)で、当時、日本最多記録となった1日あたり降水量1,317mmが観察されている。また、計画地に近い山間部の気象観測地点の最近5年間(2015~2019年)の年間降水量は、木頭で3032,5~5016.5(平均3711.5)mm、魚梁瀬では3776~7194(平均5068)mmと非常に多い。
  2. 方法書によると、工事ヤード70m×60m×30カ所と計画地にある主稜線(延長約15km)沿いに開設される管理用道路、さらに急斜面で屈曲した谷間に開設あるいは拡幅される搬入路は、Aコース・Bコースともに10km以上となり、路面以上に掘削される斜面の面積が大きいものとなる。
  3. 計画地西部の槙木屋谷西部の山地の斜面の崩落・陥没 ・流失などの発生により、林道湯桶平井線は通行不能となっていた。林道霧越平井線は現在も通行不能となっている。また、小見野々ダムが移設されることになった那賀川では堆砂問題が発生し、現在、大規模に実施されている海部川の川床掘削工事も計画地周辺で進んでいる。これらのことから、計画地の地盤や斜面の表層が脆弱と考えられる計画地で本事業を実施することは、周辺の自然環境のみならず周辺住民等の生活環境にも大きな影響を与えると考える。

以上の理由により、本事業の実施は計画地およびその周辺の自然環境や住環境等に多大な影響を与えるため、事業を中止すべきである。

2.鳥類調査の問題点について

貴社が計画段階環境配慮書に記載されたとおり、計画地およびその周辺はクマタカ(環境省版レッドリストの絶滅危惧ⅠB類)およびヤイロチョウ(同ⅠB類)の生息地となっており、また、サシバ、ハチクマ、ハイタカなど希少猛禽類の渡り経路となっている。そのことを鑑みて、貴社が方法書に示す鳥類の調査方法については、下記のような問題点があるので、改善すべきである。

(1)クマタカの調査方法

希少猛禽類調査について、観察定点の数は多いが、風車が設置予定の尾根部周辺にある複数の大きな谷部が観察できない地点配置となっている。
方法書の図6.2.2-8(1) 生態系調査位置(クマタカ:生息状況調査)では、海川谷東股、海川谷西股、大谷川上流、王余魚谷川、後谷などが視野範囲外となっている。

(2)ヤイロチョウの調査方法

調査期間および調査地点数が少なすぎる。中規模の谷ごとに5月中旬から6月上旬にかけて、少なくとも5日以上、未明から夜明け頃の鳴き声調査を実施する必要がある。

(3)猛禽類の渡り調査

調査日数が不足している。計画地およびその周辺地域を利用する猛禽類の渡りの状況を把握するためには、3月中旬~5月中旬および9月下旬~11月上旬の日の出から日没まで、雨天以外の日において1週間程度の連続観察を毎月、複数年実施する必要がある。

要約書の90頁にある「鳥類、渡り鳥 定点観察法による調査」には、「調査時間は日の出前及び日没前後とする」と記載されているが、計画地で猛禽類の渡りの状況を調査するには不適切な時間帯である。

以上