(仮称)大分南風力発電事業に係る環境影響評価 方法書に対する意見書
令和 2年 12月14日
ジャパン・リニューアブル・エナジー(株)御中
日本野鳥の会大分県支部
支部長 谷上和年 (公印省略)
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公益財団法人日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一 (公印省略)
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(仮称)大分南風力発電事業に係る環境影響評価 方法書に対する意見書
■基本的な考え方
私どもは、風力発電施設(以下、風車)の導入促進が、地球温暖化対策やカーボンニュートラル等に果たす役割や重要性について十分に理解しています。
しかし、現在、九州電力管内においては、風力発電のバックアップ電源として常に火力発電が稼働しているなかに、貴社が計画している大型蓄電池を併設しない大規模風車群の建設が実現すれば、更に火力発電の需要が増えることになり、二酸化炭素削減効果については期待できないものになってしまいます。また、発電施設の建設により、椿山から冠岳、楯ヶ城山にわたる稜線とその周辺地域において現在維持されている観光資源としても重要な自然景観およびその自然環境については確実に悪化することとなり強く懸念しています。なかでも、上記の地域において生態系の頂点にあるクマタカ等の希少猛禽類の生息環境が大きく損なわれてしまい、この点もきわめて憂慮すべき点です。
さらに、環境影響評価方法書(以下、方法書という)に記載されている対象事業実施区域(以下、計画地という)を源流域としている一級河川の番匠川流域(佐伯市側)および大野川流域(臼杵市側)において、今後永きにわたり水質汚濁や土砂災害等が発生する可能性を高めてしまうことも強く懸念しています。
そのため、下記のとおり、方法書に対し「鳥類調査の方法等」に関する大幅な修正および住民向け説明会を再度開催することを強く求めます。
■希少猛禽類の調査期間および方法について
- ①調査期間の明示について
- 方法書では、希少猛禽類の調査時期は「繁殖期と非繁殖期に実施する。各月1回3日間程度の調査を基本とする」となっていますが、何月何日から某月某日までのように、できる限り詳細に調査の実施期間を示すべきです。そうしないと、調査期間が希少猛禽類調査にとって適切な時期であるかどうか判断できません。
- ②クマタカの繁殖調査期間と方法について
- 希少猛禽類の中でもクマタカについては、計画地とその周辺で繁殖している場合には最低でも2営巣期の調査を実施することが求められます(参照:環境省「猛禽類保護の進め方〔改訂版〕」。しかし、クマタカは1回の繁殖期間にほぼ1年を必要とし、はっきりとした非繁殖期はなく(環境省「猛禽類保護の進め方〔改訂版〕19頁)、また、隔年で繁殖することが多く、繁殖を行う年であっても何らかの原因で繁殖が失敗したり途中で放棄してしまうことがあります。そのため、クマタカの繁殖状況を詳細に調査し把握するために、少なくとも3年間の調査を行うべきです。
- ③サシバやハチクマ等の希少猛禽類の渡り調査の期間と方法について
- 方法書では、渡りを行うサシバやハチクマ等の希少猛禽類については「繁殖期と非繁殖期に実施する。各月1回3日間程度の調査」とし、また、「春季(3月~5月)および秋季(9~11月)の各月3日間実施」と記載されています。渡りを行う希少猛禽類は、渡りを行う際の気象条件(気圧配置、風向、風力、天候など)により移動経路の位置が大きく変わり、また、渡りを一時的に休止することもあるため、一回の調査が3日間程度では、計画地および周辺地域の渡り鳥の状況を把握するには不十分です。したがって、1回の調査では、少なくとも1週間程度の連続した調査を複数年実施すべきです。
■バードストライク(鳥類の衝突)発生確率の定量的な予測方法について
方法書では、風車に対する鳥類の衝突確率に関しては「鳥類等に関する風力発電施設立地適正化のための手引き」等に基づき定量的に予測するとしていますが、その手引きは、作成時点での研究者等による調査研究の結果を紹介しているものであり、衝突確率の予測手法を検討する際の参考資料に過ぎません。そのため、貴社がバードストライクの発生確率を予測するのであれば、現時点でもっとも定量的に予測することができていると考えられる研究結果や論文を参考にすべきです。
■風車建設による両流域の土砂災害等の発生可能性の明示と事前防止策について
計画地周辺の佐伯市・臼杵市側ともに、降雨の際に水害発生の大きな原因となっている急峻な山地と細長い平野部の地形を有する割合が非常に大きな地域です。
近年の地球温暖化による降雨量の増大傾向に加え、風車の建設工事に伴う稜線上の保安林を含む多くの森林植生の消失により、保水力と地盤安定力の低下が引き起こす砂泥流出や土砂崩れなどの発生が懸念されます。また、万一それらの災害が発生すれば、計画地に源流を有する番匠川水系および大野川水系において、水質汚濁が発生するのは必至です。
そのため貴社は方法書に、このような発生しうる人的災害の可能性を積極的に明示し、かつ、それを予防、回避するための措置や対策の方法を示したうえで、どのような事前調査を実施するのか具体的な調査方法を記載すべきです。また、責任をもって災害発生を予防、回避するという貴社の姿勢等も方法書に示すべきです。
貴社は方法書および地域住民向けの説明会で、災害の発生の可能性について明示、言及するものと期待していましたが、残念ながら当会の知る限りにおいては、貴社がそのような姿勢を示した個所や発言を見出すことはできませんでした。
■風車の建設がもたらす公益的なメリットの明示について
貴社は地域住民向けの説明会において、風力発電事業の受け入れによる自治体や地元自治会、住民における様々なメリットとして、下記のように説明しました。
- <自治体へのメリット>
- ①自治体への固定資産税の増加、
- ②建設時の地元企業への工事発注やそれに伴う雇用の創出、
- ③建設後の保守・点検作業の地元業者への発注、
- ④風車建設時に敷設した作業道の林道として活用可能性、
- ⑤工事関係者による地元宿泊施設や飲食店の利用による経済効果
- <地元自治会と住民へのメリット>
- ①風力発電施設見学など再生可能エネルギーの環境学習、
- ②地元の祭事や災害復旧ボランティアへの参加、
- ③地元への区費協力や祭事への協賛金、
- ④新たな観光資源の創出
しかし、これらに示されたメリットは、実現可能性に乏しく、不確実性が高い内容が多く、また、当該事業を含む再生可能エネルギー導入における本来の公益的メリットである「地球温温暖化防止のための二酸化炭素削減効果」が示されていません。また、誠に残念なことに、説明会は地域等が享受できる確実なメリットの明示を避けたものとなりました。野津中央公民館(臼杵市)での説明会においては、参加者からの質問に対して貴社は、「データは自社で有しているが非公開としている」と、きわめて消極的な回答に終わっています。
したがって貴社に対し、この事業が地域等にもたらす確実なメリット、および本来の公益的メリットを方法書に明示し、現時点における「二酸化炭素削減効果に関する定量的な予測量」について、責任をもって明確に答えることを求めます。
■地域住民向け説明会の再度開催について
貴社が既に佐伯市や臼杵市で実施した説明会はあまりにも短時間であり、説明も不十分な点が多く、また、これまでに当会が貴社に伝えている疑問や質問に対して明確な回答をいただくためにも、現地で鳥類等の環境調査を開始する以前に、再度、方法書の内容に関する説明会を開催することを強く求めます。