(仮称)秋田県由利本荘市沖洋上ウィンドファーム事業に係る計画段階環境配慮書に対する意見書

令和2年10月15日

九電未来エナジー株式会社
代表取締役社長 水町 豊 様

日本野鳥の会秋田県支部
支部長 佐々木 均
秋田県横手市前郷一番町1-21

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

日本雁を保護する会
会長 呉地正行
宮城県栗原市若柳川南南町16

「(仮称)秋田県由利本荘市沖洋上ウィンドファーム事業に係る計画段階環境配慮書」に対する意見書

現在、貴社が公告・縦覧および住民意見を募集している(仮称)秋田県由利本荘市沖洋上ウィンドファーム事業に係る計画段階環境配慮書に対して、鳥類の保全の観点から下記の通り意見を述べる。

対象事業実施区域に設定されている海域(以下、当該海域という)は、海鳥の重要生息地(マリーンIBAs)の指定海域および渡り鳥の重要な経路と重なっていること、ガン・ハクチョウ類等の国内でも重要な渡り移動経路となっていること、計画地の周辺で繁殖する希少猛禽類であるミサゴやハヤブサの採餌海域となっていることなどから、鳥類の保全の観点から考えて、当該海域は事業実施想定区域から除外されるべきである。そのため、本事業は環境影響評価方法書の作成に進まずに、現段階をもって事業を中止すべきである。
以下に当該海域における鳥類の生息状況と事業の中止を求める理由および配慮書中の予測評価と環境保全措置に対する意見を述べる。

●当該海域における鳥類の生息状況等と事業の中止を求める理由

ガン・ハクチョウ類の渡り
  • 配慮書の図3.1-35(2)、図3.1-36によれば、計画地はガン・カモ・ハクチョウ等の渡り経路と重なっているが、実際に沿岸から沖合数キロまでの洋上を相当数のこれらカモ科鳥類が渡ることが地域住民および当会会員により観察されている。また、飛翔高度はその時の天候や目的地によって異なるが、高い割合でブレード回転域の高度を飛行していることも当会会員が確認しおり、バードストライクが発生する可能性が非常に高いため、鳥類保護の観点から当該海域に洋上風車を建設すべきではない。
  • 由利本荘市内各地(大内地区・子吉地区・西目地区等)の田畑およびため池の大堤はガン・ハクチョウ類の渡りの中継地としても利用されている。洋上を通過する群が休息・滞在のために子吉川河口付近等から内陸に入ったり、逆に滞在している群が移動のために洋上に出たりすることが頻繁に観察されている。離岸距離が近い風車の建設により、この動きを阻害する障壁影響が発生し、また、天候によってはバードストライクの発生確率が非常に高くなる可能性があるため、ガン・ハクチョウ類保護の観点から当該海域に洋上風車を建設すべきではない。
  • ガン・ハクチョウ類の秋の渡り時期は10月から11月下旬がこの数年での傾向である。ただし、秋は計画地周辺に長く滞在する群も存在し、風車の建設により生息地放棄や日々の障壁影響が生じる可能性が高い。また、日によって行動や天候等が違うことで飛翔高度や移動ルートの選択が変わり、シーズンを通しては多くのバードストライクの発生が懸念されるため、ガン・ハクチョウ類保護の観点から当該海域に洋上風車を建設すべきではない。
  • 12月~2月の越冬期は天候や降雪量によって由利本荘市を含む越冬地と中継地である大潟村の間をマガンやヒシクイ、ハクチョウ類が頻繁に往来し、また、環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠA類のハクガンおよびシジュウカラガンの往来も確認されており、特に降雪等の悪天候時にバードストライクの発生が懸念されるため、これらガン・ハクチョウ類の保護の観点から当該海域に洋上風車を建設すべきではない。
  • 本支部の会員が、計画地に隣接するにかほ市の漁港に、天然記念物及び環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類のコクガンが冬季に渡来することを確認している。このガンは主に海域を生息場所としており、洋上風車による衝突や生息地放棄等の被害が生じることが危惧されるため、コクガンの保護の観点から当該海域に洋上風車を建設すべきではない。
カモ類の渡りについて
当該海域は多くのカモ類の渡り経路になっていることが、当会会員により確認されている。この中には海ガモだけでなくオナガガモ・マガモなどの淡水ガモが多数含まれている。当該海域でのカモ類の渡りは11月に多くなるが、かつてはこの海域で11月の狩猟解禁に合わせて沖合でのマガモ猟が盛んに行われていたとの狩猟関係者の証言もあることから、当該海域もカモ類にとって重要な渡り経路になっている可能性がある。カモ類は渡る個体数の多さ、休息のために飛行の途中で着水するなど、飛翔高度を0m~200mで頻繁に変えるという飛び方の特徴から、洋上風車の建設の影響を大きく受けることが予想されるため、カモ科鳥類の保護の観点から当該海域に洋上風車を建設すべきではない。
カモメ類について
由利本荘市沖には、ハタハタの卵であるブリコを採食するために冬期にカモメ類が集まり、大群を形成する。当該海域に飛来するカモメ類で大部分を占めるオオセグロカモメおよびウミネコは近年、個体数の大幅な減少が報告されており1)、北海道では準絶滅危惧種に指定されている。カモメ類は世界的にもバードストライクが発生しやすい種群であることが知られるが、主要な越冬地である北海道~東北の日本海側に洋上風車が建設されれば、オオセグロカモメやウミネコなどの飛行が阻害されるほか、バードストライクが頻発する可能性がある。これ以上のカモメ類への人為的影響は最小限に抑える必要があることから、当該海域に洋上風車を建設すべきではない。
ミサゴについて
  • 当該海域の沿岸部は環境省レッドリストで準絶滅危惧種に指定されているミサゴの繁殖地となっており、当該海域は複数のつがいや幼鳥、亜成鳥にとって重要な採餌場所となっている。日本でもすでに複数羽のミサゴがバードストライクに遭っており、計画地周辺の由利本荘市内沿岸でも1件、風車による衝突例がある(2018年)。ミサゴはバードストライクの発生率が高い鳥類であると考えられることから、ミサゴが利用する海域では洋上風車を建設すべきではない。
  • 子吉川河口は当該海域周辺に生息するミサゴの利用頻度がもっとも高い場所である。それらミサゴの採餌場所を確保するため、特に河口周辺には洋上風車を建設すべきではない。
ハヤブサについて
当該海域の沿岸部は環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されているハヤブサの繁殖地になっており、当該海域は重要な採餌場所となっている。特にハヤブサは洋上を渡る小鳥類を頻繁に狙うことが知られているが、捕食に集中することで風車の存在に気付くことができず、バードストライクに遭う危険性があるため、ハヤブサの採餌場所になり得る海域には洋上風車を建設すべきではない。
その他の重要種について
由利本荘市および隣接するにかほ市にはナベヅル、マナヅル等のツル類が度々立ち寄っており、洋上を飛翔している可能性がある。また、沖合に位置する飛島は、春季及び秋季の渡りの時期に、多くの種類の鳥類が観察される場所である。春季の飛島で毎年確認されるヤツガシラが由利本荘市内で確認されたことがあり、飛島経由で洋上を飛翔している可能性が高いため、これらの鳥類が利用する可能性がある海域に洋上風車を建設すべきではない。
その他の海鳥について
計画地は洋上風力発電施設の建設による生息地放棄が頻繁に確認されているアビ、オオミズナギドリをはじめ、多くの海鳥の生息地・採餌地と重なっている。また、アジサシ類が渡りの時に通過するのも目撃されている。
海外の洋上風力発電では育雛期に多くのバードストライクが生じるコアジサシが由利本荘市本荘浜において2011年と2012年に繁殖した経緯がある。条件が整えば再び計画地近隣で繁殖する可能性があるため、繁殖を始める兆候を事前に確認した場合は、事業の中止を含めてその繁殖を阻害しないよう十分に配慮するべきである。

●予測評価と環境保全措置について

具体的な保全措置を明記すること
配慮書4.3-38(308)に「影響の程度を適切に予測し、必要に応じて環境保全措置を検討する」とあるが、具体的な保全措置を明記することを求める。
協議会の設置について
上記で述べた調査の結果から得られたデータを地元団体や鳥類保護関係者および鳥類や風力発電の専門家等と共有し、風車の設置位置を決定するための公開の協議会を設けることを求める。
住民意見は概要ではなく原文を記載すること
配慮書に対して提出された住民意見は、概要としてまとめられたうえで方法書に記載されるが、今回の意見書に記載されている意見等は概要としてまとめることなく、原文のまま掲載することを希望する。

以上

1)
論文名 Long-term declines in common breeding seabirds in Japan(日本における普通海鳥種の長期的減少)
著者名 先崎理之1,照井 慧2,富田直樹3,佐藤文男3,福田佳弘4,片岡義廣5,綿貫 豊6(1北海道大学大学院地球環境科学研究院,2ノースカロライナ大学グリーンズボロ,3山階鳥類研究所,4知床海鳥研究会,5NPO法人エトピリカ基金,6北海道大学大学院水産科学研究院)
雑誌名 Bird Conservation International(鳥類保全学の専門誌)
DOI 10.1017/S0959270919000352
公表日 2019年8月28日(水)(オンライン公開)