北九州響灘洋上ウィンドファーム(仮称)に係る環境影響評価準備書に対する意見書
令和2年8月17日
ひびきウインドエナジー株式会社 御中
「北九州響灘洋上ウィンドファーム(仮称)に係る環境影響評価準備書」に対する意見書
日本野鳥の会北九州支部
支部長 川﨑 実(公印省略)
公益財団法人日本野鳥の会
理事長 遠藤孝一(公印省略)
- 1.風力発電機の設置数について
- 風力発電機(以下、風車という)1基の出力が当初より大きくなったことで全体の設置数が減り、鳥類にとっての障壁効果が減少したことになるが、依然として以下のような問題がある。
- Aエリアにおける船舶定点調査地点P1・P2では、希少な集団繁殖地(白島)に生息するオオミズナギドリ、そして重要種のヒメウ、その他シギ科、カモ科、カモメ科等、各季節ともエリアの中では最も多くの個体数が確認されていることから、これらの鳥類にとって15基の設置数は大きな障壁となり、また、風車への大規模な衝突死(以下、バードストライクという)が起きるおそれがある。
- 響灘埋立地北岸には既存の10基の陸上風力発電機が稼働中であり、これまで留鳥・渡り鳥のバードストライクが発生しており、また、障壁になっている。それに加え、Dエリアの2基により、さらに障壁影響が増すことになる。
- 2.鳥類の飛翔高度について
- 調査の結果から、多くの鳥類が高度Ⅼ(0~20m)を飛翔しているとしているが、海上の天候と波高によっては、ブレード回転範囲を鳥類が飛翔する可能性がある。特に秋季調査においては、高度10~20mを飛翔するカモメ類等が多く、高度20~30mを飛翔する個体数に近い数となっている。よって、高度Ⅼを飛翔する鳥類もブレード回転範囲を飛翔する可能性があるものとして影響を評価する必要がある。
- 3.渡り鳥調査について
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- ハイタカ
山口県から北九州におけるハイタカの渡りピークは3月下旬~4月中旬であり(関門タカの渡りを楽しむ会による調査)、比較対象地点での調査といえども、5月7日~12日の調査は適切な時期ではなく、参考にはならない。 - ハチクマ
北九州では9月初旬から10月初めのほぼ1ヵ月間に及ぶハチクマの秋季渡りにおいて、調査は5日間のみで、さらに響灘海上をハチクマが通過する気象条件である南もしくは東寄りの風の日は9月23日のみと推定できる。よって、対象事業実施区域(海域)上空を通過するハチクマの渡りの実態を把握できているとは言えず、影響を予測できるデータ - オオミズナギドリ
準備書には注目すべき生息地として本種の繁殖地である白島に言及しており、白島に近いAエリア内の船舶定点調査においても本種が多く確認されているところから、数年前のNEDO実証研究のデータに頼ることなく、事業者自身による白島における最新の生息状況とその行動実態を調査するべきであった。そうすればさらに精度の高い影響予測ができたはずである。
- ハイタカ
- 4.風車への鳥類の予測衝突回数について
- そもそも風車一基当たりの衝突確率が年間何羽以下であれば影響が軽微であるという基準などについて国内ではこれまでに一切論じられたことは無く、あくまでも事業者独自の見解である。さらに、日本国内に生息する鳥類の個体群に対して回避率を算出した報告事例が無いことや、回避率は立地環境や気象に大きく影響を受ける(※「鳥類衝突リスクモデルによる風力発電影響評価~竹内 亨」)ことから、この計算はオオミズナギドリ等には当てはまらない。いかにもバードストライクの確率・衝突数が極めて小さいことを印象付けるための計算であり、予測衝突数を検証する手段も方法も無く、衝突予測の手法としては極めて不適切である。
- 5.調査回数について
- 国内では、沖合に風力発電施設を設置した場合に発生する鳥類への影響に関する知見が乏しいため、知見の多い海外の洋上風力発電計画に対する海鳥調査を参考にし、実施する必要がある。例えば、
- 1年を通して十分長い期間を確保し、一時期(春と秋のみなど)に集中させない。
- 最低2年間以上
- 船舶による調査は年12回以上(年間を通じて毎月実施)
など。(「海外の洋上風力発電計画に対する海鳥調査の考え方」A.d.Fox et al 2006.I.Ⅿ.D.Ⅿaclean et al 2009)
この度の事業における事前調査としては、- 船舶定点調査:平成30年5月から平成31年2月までの春、夏、秋、各3日間、そして冬季4日間に実施された調査では、実態が十分に反映されているとは言えない。
- 渡り鳥調査:平成30年5月に6日間、9月に5日間に実施された調査は一時期に集中し、夏鳥と冬鳥の渡去・渡来に重要な時期(4月、8月末、10、11月)の調査が実施されておらず、
その調査結果は実態が十分に反映されているとは言えない。
- 6.影響予測について
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種名など 準備書における影響予測 影響予測が不十分な理由 カモ科 対象エリアの利用頻度少。
飛翔高度Lを確認。
影響は小さい。調査回数は少ないが、トモエガモ61羽も確認されている。カモ科の国内・海外での衝突事例は多く、長距離移動の際は高度Mが多く、影響が小さいとは断定できない。 カラスバト 内陸方向への飛翔は確認なし。
影響は小さい。白島と藍島間など、島嶼間の移動の可能性は十分あり、事業対象区域を高度Mで飛翔すると推測できるため、影響が小さいとは断定できない。 ヒメウ
クロサギ飛翔高度Lを確認。
影響は小さい。2種共に対象エリア内外で確認されており、移動の阻害・遮断の可能性があり、影響が小さいとは断定できない。 オオセグロカモメ 採餌行動と移動の際、風車に接触の可能性あり。
調査では飛翔高度Lが多かった。影響は小さい。接触(衝突)の可能性があるなら、影響は小さいとは言えない。少ない調査回数では信頼性に乏しい。
カモメ科は国内・海外ではタカ科に次いで衝突事例が多く、影響を過小に予測している。コアジサシ 採餌行動と移動の際、風車に接触の可能性あり。
沖合の利用頻度は低く、飛翔高度Lを確認。
影響は小さい。接触(衝突)の可能性があるなら、影響は小さいとは言えない。少ない調査回数では信頼性に乏しい。 カンムリウミスズメ 飛翔高度Lを確認。
影響は小さい。建設工事による影響で移動経路の変更を余儀なくされ、生息放棄の可能性がある。また、北九州市環境影響評価審査会委員によって白島で繁殖の可能性があることが指摘されているため、調査が必要。 ミサゴ 船舶定点調査では23羽、渡り鳥定点調査では63羽確認。
予測衝突回数がやや高いが、回避可能である。
影響は小さいと予測するが、不確実性を伴う。事業対象区域内に広く生息し、確認回数も多い。タカ科特有の高度Mを飛翔する頻度も多く、風車に接触(衝突)の可能性が高い。不確実性を伴うのであれば、影響は小さいとは言えない。過小に計算された予測衝突回数は影響予測を誤らせる結果となる。 ハチクマ 渡り鳥定点調査では事業対象区域上空で256羽確認。その飛翔高度は半数以上がM。
主な渡りルートは対象区域外であり、影響は小さい。秋の渡り時期5日間だけの調査では、事業対象区域を通過する本種の実態を把握できない。専門家の意見として「風車を避ける(論文)」、「海上を渡る数は少ない」とあるが、事業対象区域上空通過が10%であれば、秋の渡りで1万羽近くをカウント(高塔山2017年)した際は、1000羽ほどが通過したということになり、この数は決して少ない数ではない。本種への影響を過小に予測している。 ハイタカ 調査では確認なし。
事業対象区域を通過している可能性もあるが、風車への接触(衝突)の可能性は低い。不確実性が伴う。本種が確認できる時期に調査を実施していないため、影響を予測できるデータがない。よって、風車への接触の可能性が低いというのは誤りである。 ハヤブサ 主な餌場は沿岸部。風車への接触(衝突)の可能性は低い。 Aエリアに近い女島で繁殖の可能性が高く(2014~2015三洋テクノマリン)、海上を渡るヒヨドリ等を狙う際、ブレードに接触(衝突)の可能性がある。 ウミネコ 船舶定点調査では事業対象区域で広く多数確認されているが、影響予測はしない。 カモメ科はタカ科に次いで風車への衝突が多く、鳥類の多様性を守る上からも影響軽減を図らなければならない。
重要種でないという理由は、鳥類の多様性を軽視している。予測衝突回数も高いため影響予測をするべきである。オオミズナギドリ 船舶定点調査で、春~秋に事業対象区域内で多数確認されているが、採餌場所は事業対象区域外。飛翔高度は全てL。
風車への接触(衝突)の可能性低い。本種が生息する春、夏、秋の各3日間の少ない回数では、様々な気象条件下における飛翔高度の違いは十分把握できない。
Aエリアで確認数が多く、風車の設置数も多いため、衝突のリスクが高い。
調査データ不足が否めない中での本種に対する影響予測は誤っている。 - 6.評価の結果について
- ★影響評価は極めて不十分であり、以下の理由により、現時点ではこのまま事業計画は進めるべきではない。
- 洋上風力発電における知見が多い海外の調査方法に比べ、調査回数が全く少ない上に、事業者自身が責任を持てるトランセクト調査を実施していないため、実態が十分に反映されているとは言えない。(再調査が必要)
- AエリアとDエリアの風力発電機は鳥類の大きな障壁となるおそれがある。(設置数削減が必要)
- 実効性ある鳥類衝突防止策が無い。
- 予測衝突回数を検証することができるのか、示されていない。
- 事後調査における鳥類衝突確認と死骸回収の方法が示されていない。
- 「バードストライクの懸念が著しく生じると判断したときには・・・」の判断基準が示されていない。
以上