(仮称)えりも町風力発電事業 計画段階環境配慮書に対する意見書を提出しました
日野鳥発2019-034号
「(仮称)えりも町風力発電事業 計画段階環境配慮書」に対する意見書
令和元年8月8日
名前 遠藤孝一
(公益財団法人日本野鳥の会 理事長)
住所 〒141-0031
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
環境影響評価法第3条の7に基づき、環境の保全の見地から次のとおり意見を述べる。
1.全体について
1)本事業実施想定区域には、シマフクロウ、タンチョウ、オオワシ、オジロワシ、クマタカなどの希少種の生息地が含まれているため、事業実施地として不適切であり、環境影響評価方法書の作成に進まずに、現段階をもって事業を中止すべきである。
なお、本項以降の意見は、前述の立場に立ったうえで、配慮書の記載内容について意見を述べるものであり、方法書の段階に進むことを容認するものではない。
2)配慮書ではゼロオプションは設定しないとされているが、希少種の生息地を含むことから、調査、予測、評価の結果、環境影響の回避、低減を検討してなお影響が大きいと判断される場合は、ゼロオプションを検討すべきである。特に絶滅の恐れの高い希少種が隣接地に生息している場合には、生息地の直接の改変がなくても慎重に対応すべきであり、事業目的にあるような事業の価値を高めるためにもゼロオプションは設定すべきである。
また、本事業は想定される区域が約7,545ヘクタールと広大であるため、環境影響の回避、低減が適切に行えるよう、十分な時間と人員を配置する調査が必要である。加えて、本事業が実施されれば新たに送電線を敷設することになるため、送電線設置を計画する際には自主的環境影響評価も不可欠である。
3)シマフクロウは北海道東部を中心に分布し、国内の生息数は160羽程度とされており、計画地を含む日高地方に生息するシマフクロウは遺伝学的多様性確保に重要であることに加え、分布域の西限に位置することから今後の生息地分散を進める上でも重要である。計画地の近隣に位置する河川での繁殖や生息が確認されていることから、前述の通り、計画地の適切な選定またはゼロオプションを含めた計画規模の縮小も検討すべきである。
※シマフクロウの生息情報については、希少種であることから取扱いに注意されたい。
4)タンチョウは北海道東部を中心に生息し、国内の生息数は1800羽程度である。計画地に近い百人浜では2016年からタンチョウが営巣しており、2018年には初めて繁殖に成功した。このつがいは日高地方唯一のつがいであり、この場所が十勝地方から道央圏への繁殖地の自然分散の過程上で重要なルートとして位置づけられる。また、タンチョウが繁殖している環境は計画地周辺の環境と類似しており、実際にタンチョウの観察事例があることから、今後、計画地周辺で繁殖する可能性が高い。タンチョウへの影響を避けるため、ゼロオプションを加えて計画地の選定を行い、計画地周辺の繁殖可能性と風力発電施設(以下、風車という)が与える影響についても検討するべきである。
5)有識者ヒアリングにもあるとおり、計画地周辺にはクマタカが生息しており、クマタカも風車、高圧鉄塔への衝突例がある。とくに求愛造巣期のつがいはディスプレイフライトを行うため、衝突のリスクが高まると考えられる。さらに、クマタカは伐採跡地など開けた環境でも狩りを行うことから、風車の設置によって創出された草丈の低い草地的な環境に誘引される可能性もある。クマタカの生息状況調査を実施し、計画地の適切な選定またはゼロオプションを含めた縮小も検討すべきである。
2.個別の項目について
2-44(46)
工事開始予定が2023年4月であるので、計画書の作成時期などを考慮すると調査と評価を行うことができる期間は最大でも3年である。各季節での鳥類の生息状況を的確に把握できるよう、1回あたりの調査期間を長めに設定する必要がある。
3-29(79)
北海道の猛禽類を引用してクマタカは生息していないと記載されているが、専門家等へのヒアリングにある通りクマタカは生息しているので、記載すべき。
また、EADASの注意喚起レベルA3(根拠:シマフクロウ、オジロワシ、オオワシ)に含まれるメッシュでは、事業は実施すべきではない。
3-77(127)
陸生の生態系、水域の生態系とも高次の捕食者としてフクロウが挙げられているが、地域特性からシマフクロウを記載すべき。そうすることで次ページの図との整合性も取れると思われる。
4-1(213)
方法書以降の手続きにおいては、「工事用資材の搬入、建設機械の稼働及び造成等の施工による一時的な影響」にかかる環境影響評価を実施するとあるように、十分な調査と評価が行われることを希望する。
4-3(215)
計画段階評価事項の選定理由において、動物、植物、生態系のいずれも重大な影響の恐れのある環境要素として選定されているように、環境影響の評価と予測の際には、重大な影響の恐れがあることを念頭に実施されることを希望する。
4-32(244)~4-34(246)
本書では重要種としてシマフクロウが挙げられているが、シマフクロウの研究者へのヒアリングが行われていないと思われる。この地域を調査地としているシマフクロウ研究者にヒアリングを実施し、シマフクロウの生息状況や立地選定のあり方について意見を求めるべきである。
4-39(251)、4-41(253)
樹林・水辺(海岸等)・水域に生息する8種への影響としてバードストライクの可能性があると記載されている通り、とくに生息数が少ないシマフクロウに対してもその懸念があるのであれば、本計画地は事業予定地として適切ではないと考える。
4-42(254)
「方法書以降の手続きにおいて留意する事項」には、鳥類ではクマタカ等の猛禽類について調査を実施するとあるが、同様にシマフクロウの生息状況に関する調査も、この地域を調査対象地としている研究者の助言、監修を得たうえで実施すべきである。
また、風車の上空を通過する猛禽類、渡り鳥については発電機の設置位置等の情報が利用できるようになってから調査、予測、評価を実施するとあるが、そもそも発電機の位置を決めるためには猛禽類や渡り鳥の利用状況に関する情報も必要である。位置が未定であれば、実施を先送りにするのではなく、計画地全体を対象として方法書の段階から記載すべきである。
以上