幌延風力発電事業更新計画 計画段階環境配慮書に対する意見書を提出しました
平成31年1月31日
幌延風力発電株式会社 御中
「幌延風力発電事業更新計画 計画段階環境配慮書に対する意見書」について
以下のとおり意見書を提出いたします。
特定非営利活動法人サロベツ・エコ・ネットワーク
代表理事 吉村 穣滋
(北海道天塩郡豊富町字豊富東2条5丁目)
風力発電の真実を知る会
代 表 佐々木 邦夫(公印省略)
(稚内市はまなす2丁目7番18号)
道北の自然と再生エネルギーを考える会
代 表 富樫 とも子(公印省略)
(北海道天塩郡幌延町字下沼853番地1)
日本野鳥の会 道北支部
支部長 小杉 和樹 (公印省略)
(北海道利尻郡利尻町沓形字栄浜142 佐藤里恵方)
北海道ラムサールネットワーク
代 表 小西 敢 (公印省略)
(北海道厚岸郡浜中町琵琶瀬60 NPO法人霧多布湿原ナショナルトラスト内)
公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一 (公印省略)
(東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル)
■基本的な考え方
利尻礼文サロベツ国立公園には、どこまでも何もない平原やそこから眺める雄大な利尻山の景観を求めて多くの人が訪れます。また、渡り鳥にとっては国内有数かつ国際的にも重要な渡り経路が存在し、特に水鳥にとって国際的に重要な生息地であるラムサール条約登録湿地やバードライフ・インターナショナルと(公財)日本野鳥の会が指定する重要野鳥生息地(IBA)があることは、この地域がいかに豊かな生態系を有しているかを示しています。
私たちは風力発電施設(以下、風車という)のの導入が地球温暖化対策等に果たす役割や重要性を理解していますが、他の風力発電事業を含め、宗谷地方を覆うような風車建設計画全体に対しては、様々な問題点があると考えます。加えて、現状ではこの地域において、豊かな生態系が織りなす景観の重要性が十分に認識されておらず、また、渡り鳥の生態等について明らかになっていない点が多く存在します。
このような中で、急激な風車建設が宗谷地方に集中することにより、今後、永きに渡って同地域において利用可能な観光資源としての自然環境を大きく損なう恐れがあると懸念します。
風車の建設により、宗谷地域の自然環境にとって大きな影響が懸念されるため、協議会などの開かれた場で、地域住民や関連団体が内容を充分に理解したうえで、十分に時間をかけて風車建設の是非を協議すべきと考えます。
■縦覧方法
環境影響評価図書の公開のあり方、一般住民への説明のあり方などの問題により、事業に対して地域住民による理解が不十分なため、事業実施後に混乱が起こることが懸念されます。
1.周知
環境影響評価図書の縦覧と意見書募集は、貴社のホームページに限らず、回覧やポスター掲示、チラシ配布、関係機関のHP上掲載などの協力を得ることで、より多くの人に周知するよう努めるべきです。
2.縦覧場所
環境影響評価図書の縦覧場所が土日・祝日夜間に閉鎖されている役場等に限られているため、平日の日中に仕事をしている住民などが閲覧する機会がありません。土日・祝日夜間に開館している公共施設を縦覧場所として選択すべきです。
3.オンラインでの閲覧方法
オンラインでの環境影響評価図書の閲覧はブック形式になっていますが、画面が小さいパソコンの場合、拡大しないと大変読みづらくなります。1ページ単位で見るよりもかえって見にくいため、1ページずつ読めるようにすべきです。また、オンラインの閲覧ではパソコン等へのダウンロードや印刷ができません。数百ページもある環境影響評価図書をパソコン上のみで閲覧しながら意見書を作成することは、現実的な方法ではありません。電子閲覧されている図書の内容が、実際の現地の状況と齟齬がないか精査することは、影響を適切に評価するうえで極めて重要です。このため閲覧期間に限らず、随時、公共施設やインターネットで閲覧可能にすべきです。図書の信頼性の確保するためには、透明性・公平性が不可欠です。
■関係者との情報共有
環境影響評価を行う目的の一つである地域住民との合意形成のためには、情報を広く共有することが不可欠です。環境保全団体である私たちは、図書による情報を持っても、その情報の漏洩や環境に悪影響を及ぼすことはありませんので、関係団体にはすべての環境影響評価図書を提供すべきです。
■全体的な調査
既存のオトンルイ風力発電所は、風力発電事業が環境影響評価法の対象事業になる前に建設されたものです。現行のアセス制度と比較すると十分な環境影響評価が行われているとは言い難いので、本件は新規事業としてアセス法の対象事業として扱うべきです。以前に行った自主的な環境影響評価の結果を図書に載せたうえで、現状と比較し、評価を検証すべきです。そして、以前は調査をしなかったすべての項目を評価対象にすべきです。また、既存の風車を取り壊した段階で、その存在による影響を評価するため、1年程度風車がない状態で調査を行うべきです。
■景観
既存のオトンルイ風力発電所の風車は海岸沿いに建っているため、サロベツ湿原等から利尻山を眺める場合においては特に、景観への影響が極めて大きくなっています。現状でも利尻山の景観の中に音類風車が入っているところがあります。例えば、国道40号線北川口付近(幌延町・豊富町ドライブマップ:国道40号幌延~豊富共同型道路マネジメント会議 参照)やその西側の農道、振老沼の西側の天塩川築堤から利尻山を眺めると、風車が利尻山の景観の前にかかっています。音類は周囲を国立公園に囲まれており、利尻山の景観だけでなく海岸砂丘と砂丘林の景観に価値があります。ここは、第3回自然環境保全基礎調査により自然景観資源、日本の典型地形に指定されており、風車がなければ、巨大人工物が何もない広大な風景が広がっていたはずです。風力発電事業を推進している幌延町はオトンルイ風力発電所の景観を観光資源として宣伝していますが、サロベツと同様に巨大建造物が何もない風景が音類にある砂丘の比類ない景観的な価値を高めます。道道106号線のオトンルイ風力発電所の前にあるトイレからの景観はまさに海岸砂丘の風景の前に風車が立ちはだかる圧迫感のある状態になっています。また幌延ビジターセンター展望台やパンケ沼から海岸を眺めると海岸砂丘林の上に林立する風車群が、景観の障害となっています。このため、この砂丘のスカイラインから突き出た風車の建設は避けるべきです。
景観は環境影響評価で垂直見込み角のみによって評価されていますが、この地方では広々とした風景そのものに価値があるため、人口密集地を基準に作られた圧迫感の有無による評価基準は適切ではありません。「視認可能な垂直見込み角1度以内では何本か並んで一体として見えても水平見込み角は無視してよい」という判断基準は風車が複数並んでいることを想定しておらず、この地域の景観の価値を無視しています。風車は水平に複数が並んでいると一体のものとして見えるため、1本1本の高さではなく、全体的な水平見込み角によって評価すべきです。水平見込み角により評価すれば、各眺望点からは風車の存在は広々とした景観に対して重大な影響を及ぼしていることが明らかになるはずです。景観の評価は難しいため、古い一つの指針に依存するのではなく、地元観光業者や自然保護団体などから意見を聞きながら、協議会などで議論をし、地域の環境と意向を十分に勘案したうえで、その影響を評価すべきです。
景観調査のおいて調査地点は眺望点からのフォトモンタージュによって評価されていますが、この地域の景観は移動しながら楽しむものであるため、景観法にある眺望道路と同様に連続的な景観として評価すべきです。眺望道路として、幌延ビジターセンターからパンケ沼にかけての木道と、シーニックバイウェイの「萌える天北オロロンルート」に指定されている道道106号線を評価対象にすべきです。尚、景観の面で考えると北側のサロベツ(サロベツ湿原センターや幌延ビジターセンター)に近いほど風車による影響が大きくなると考えられます。サロベツ湿原センターの木道からは既存の音類風車が視認可能で、大型化すればさらに大きく見え、サロベツの主要な観光地における何もない広大な景観に大きな影響を及ぼすことが懸念されます。
■地形
音類の砂丘は日本の典型地形に指定されており、その地形に手を加えない状態で保全するために、事業区域から除外すべきです。
■鳥類
サロベツ地方は、日本とロシアの間を渡る渡り鳥の主要かつ国際的に重要な渡り経路となっています。ここは多くの鳥類が渡ることが予測されるため、猛禽類のみならず水禽類や小鳥類などが風車により受ける影響は大きいと予測します。このため、ゾーニング等を実施すれば明らかに風車の建設を避けるべき場所です。影響の評価に当たっては、レーダーを含む調査を行い、その影響を適切に評価すべきです。
1.オジロワシ・オオワシ
音類は日本海側を春に北上するオジロワシ・オオワシの個体群がサハリンに渡る際の主要な経路になっており、3月の多い時にはタカ柱が発生することもあります。また冬季には餌の漂着物があると、砂丘林で越冬しているオジロワシ・オオワシが海岸に集まります。このため、バードストライクが起きやすいオジロワシ・オオワシの渡りの経路や越冬地における風車の建設を避けるべきです。また、周辺にオジロワシの巣があり、繁殖個体への影響も懸念されますので、影響が大きい場所の風車の建設は避けるべきです。この地域でオジロワシの風車への衝突は確認されただけで2件ありました。建て直しにより風車の数は減りますが、大型化するため、一基ごとの影響は大きくなることが懸念されます。これらのことを考慮して風車の建設や配置を検討すべきです。
2.ガン・ハクチョウ類
ガン・ハクチョウ類はロシアと日本の間を渡り、音類も通過します。夜間にも渡るためレーダー調査を含む十分な調査を行った上で評価すべきです。また、現存する風車群がガン・ハクチョウ類に対して、障壁影響を及ぼしていることが懸念されるため、既存の風車を取り壊した後に、1年程度調査を行い、その影響を評価すべきです。
3.カモメ類
近年、北海道のレッドリストに記載されたオオセグロカモメやウミネコは音類沿岸を生息環境として利用しています。春と秋の渡りの季節にはこれらの種は沿岸だけでなく、やや内陸部を通過することもあります。カモメ類はその飛行高度等から風車に対する脆弱性が高く、大きな影響の発生が懸念されるので、環境影響評価にあたっては十分に調査を行ったうえで評価すべきです。
4.チュウヒ
チュウヒは音類周辺を餌場として高頻度で利用しており、繁殖の可能性もあり、風車に衝突する高度で飛翔することもあります。このため、十分な調査を行ったうえで、その影響を評価すべきです。また、現存する風車群がチュウヒに対して、障壁影響を及ぼしていることが懸念されるため、既存の風車を取り壊した後に、1年程度調査を行い、その影響を評価すべきです。
5.死骸探索調査
配慮書にはオジロワシのみ過去の衝突記録がありますが、他地域の調査で多様な種が衝突していることがわかっています。このため、オジロワシだけでなくのすべての鳥類を対象に、専門の調査員が十分な回数を調査し、影響評価すべきです。
■累積的影響の評価
準備書まで進んでいる道北7事業や浜里の風車事業との累積的影響を評価すべきです。
■協議会
これらの調査結果の評価は、法アセスだけでなく、野鳥保護団体や地元の団体・観光関係者・地元自治体などを含めた開かれた協議会の場で行うべきです。
以上