(仮称)笹森山風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書を提出しました
日野鳥発第2018-028号
平成30年 7月9日
株式会社ユーラスエナジーホールディングス
代表取締役社長
稲角 秀幸様
日本野鳥の会秋田県支部
支部長 佐藤 公生
秋田県潟上市天王追分86-15
公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
(公印省略)
(仮称)笹森山風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書
貴社が計画されている「(仮称)笹森山風力発電事業」における環境影響評価方法書(以下、方法書)に述べられている調査方法に関し、以下の通り意見を提出します。
記
・生物多様性の観点から、希少鳥類に対する影響評価を重要視するだけでなく、対象事業実施区域(以下、対象区域)とその周辺に生息する鳥類全体の生息環境や生物多様性も評価すべきである。そのため「重要とされる鳥」以外にも出現した鳥はすべて記録すべきであり、一般鳥類の観察にもっと力を入れるべきである。
・一般鳥類の観察法で、任意観察法の調査回数が明確に示されていないが、4月から5月の渡りおよび繁殖の時期にはもっと頻繁に行うべきである。なぜなら、5月は繁殖期のさえずり期間で小鳥類の個体を発見、観察しやすく、逆にこの時期を逸すると小鳥の同定は困難となる。また5月は渡りの途中で対象区域に一時的に滞在する鳥も多く、観察される鳥の種や個体数が日々で変わるため、詳細な調査が必要である。このように特に5月は鳥類の渡り、繁殖ともに重要な時期であるため、この1ヶ月間は天気の良い日に週2回は調査を行うべきである。
・上記と同様の理由により、一般鳥類のセンサス調査も繁殖期を通して2回では不十分である。5~6月の期間、出現種数が飽和する調査回数(一般的には4~5回)は行う必要がある。
・希少猛禽類の調査期間が短すぎる。希少猛禽類、特にクマタカは毎年繁殖を開始、または成功するわけではなく、ヒナの成長にも数年かかるため、生息が認められた場合は最低でも2営巣期、必要に応じて3営巣期に渡り調査する必要がある。そのため、方法書に記載されている調査期間は適切な生息状況確認調査とは認められない。
・希少猛禽類の定点観察法についての記述が分かりにくい。1月~12月の間、16地点で3日間連続とある。しかし、この記載内容では、全体で何回行うのか、毎月3日間ずつ16地点で同時に行うのか、それとも1月~12月までの間に1回だけ3日間行うのかが不明である。定点観測ということであれば、最低でも毎月3日間ずつ16地点で同時に行うべきである。ただし、繁殖そのものを阻害しないよう、繁殖・営巣活動を脅かすような調査を行わないように十分な配慮をすべきである。
・渡り鳥の定点観察は主に猛禽類の渡りを意図して時期を設定したものと考えるが、調査回数について、春(3月~5月)に2回と秋(8月から11月)に2回で各2日ずつでは、調査頻度はまったく不十分である。なぜなら、渡りはその年の気候や繁殖地の状況等によって大幅に時期がずれるためで、調査回数が少ないと渡りの時期を逸する可能性が高く、渡り鳥の個体数を適切に把握できなくなるからである。特に秋の渡りについては、そのピークとなる9月半ばから10月いっぱいについて、天候の良い日には週1回以上調査を実施すべきである。
・対象区域は、環境省のデータではサシバの渡りルートの空白地帯になっている。しかし、当会が知るところでは、実際には近辺で複数個体の繁殖が確認されている。貴社はそのことを念頭に置いて、調査方法を検討すべきである。
・9月から10月は猛禽類の渡りとは別項目で、冬鳥の渡りの状況についても調査すること。
・笹森山周辺はふだんから霧がかかることが多く、視界不良となる日数が年間でも多い。雨天の時はもちろん、雨が降っていなくても由利本荘市内から対象区域が見えなくなることが頻繁にある。図1および図2は、晴天時(左図)と雨天時(右図)において市街地(由利橋)から臨む笹森丘陵の様子である。悪天候時は視界が悪く、鳥はその飛行に支障をきたし、実際に日本では霧など悪天候時にオジロワシのバードストライクが多く発生している。そのため、貴社は環境影響評価の中で気象状況調査を年間通じて行い、鳥類等が視程障害を起こす可能性のある日数または時間数を測定したうえで、影響を評価すべきである。一方、鳥類調査の時に荒天となった場合には、正確に鳥の数や行動を把握できないため、調査の実施を見送り、調査した日としては日数に入れるべきではない。
図1.晴天時と雨天時の笹森丘陵の視界(冬期の一例)
図2.晴天時と雨天時の笹森丘陵の視界(夏期の一例)
・対象事業だけでなく、周辺の他の事業によって生じる累積的影響を評価すべきである。特に計画中、または建設途中でまだ稼働実績のない風力発電施設の影響は予測が困難であるが、しかし、海外事例を参考にしながら慎重な予測評価を行うべきである。他の事業の環境影響評価のデータを可能な限り入手し、累積的影響について計画の規模の大小を問わず、他施設事業者とともに協議すること。
・対象区域には主に落葉広葉樹を中心とする自然林が多く含まれているが、自然林は林床の植物の種類も豊富で、多くの生物の食料を供給する重要なエリアである。ただでさえ少なくなっている貴重な自然林を伐採することはこの地域に生息する生物に大きな影響を与えるため、対象区域として設定すべきではない。また、自然林を人間側の判断で最小限だけ残しても、自然林自体が風衝の影響を受けて弱体化するため、周りにはある程度の植林を残すべきである。
以上