(仮称)天神丸風力発電事業に係る計画段階環境配慮書に対する意見書を提出しました
平成30年5月1日
「稚内市・豊富町における風力発電事業に係る環境影響評価方法書」に対する意見書
ご意見記入用紙
ご住所 | 徳島県徳島市南庄町5丁目36-4 |
ご氏名 | 日本野鳥の会 徳島県支部 支部長 三宅 武 |
ご住所 | 東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル |
ご氏名 | (公財)日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一 公印省略 |
環境の保全の見地からご意見をお持ちの場合は、ご記入願います。
・クマタカ生息地としての懸念 |
・貴重な冷温帯樹林の生態系の野鳥に及ぼす懸念 |
・イヌワシの生息、およびサシバ、小鳥類の渡り経路から見た懸念 |
・近隣既存の風力発電施設との複合影響から見た懸念 |
・重要野鳥生息地(IBA)との重複の懸念 |
以上について、別紙に詳述する。 |
注1:本用紙の情報は、個人情報保護の観点から適切に取り扱います。
2:この用紙に書ききれない場合は、裏面又は同じ大きさ(A4サイズ)の用紙をお使いください。
・クマタカ生息地としての懸念
今回の風力発電施設設置事業に係る事業実施想定区域(以下、計画地と言う)は人家から隔離された豊かな自然が残された山岳樹林地域である。日本野鳥の会徳島県支部の調査から、同地域にはほぼひとつの谷ごとにクマタカのつがいが繁殖していると言って過言でないほど、高密度にクマタカが生息している。そのような地域に新たな開発の手を加えるということは、国内希少種で絶滅危惧Ⅱ類に指定されているクマタカの生存に対しバードストライクや生息地放棄などの重大な影響を与える恐れがある。
実際、既設の大川原ウインドファームにおける観察の結果から、発電用の風車から1~2 km付近にあった二つのクマタカの営巣地はいずれも放棄され、その生息域が失われたことが明らかになっている。
このことは、今回の計画地の谷という谷でクマタカの繁殖が確認されるため、その繁殖地から離隔距離を取って発電施設を建設しようとすると設置可能区域が非常に限られることになり、現実的に事業が成り立たなくなることを意味することから、貴社は本事業を断念すべきである。
・貴重な冷温帯樹林の生態系の野鳥に及ぼす懸念
今回の計画地は、その核になる中心区域に鳥獣保護区を有する生物多様性に優れた区域である。ここは林野庁の生物多様性の保全に向けた森林管理事業である「剣山系 緑の回廊」に連なる区域であり、風力発電事業が行われると樹林の連なりを断片化することになる。その生態系に命を宿す様々な種に対して大きな脅威を与えることになる。
風力発電施設の生態系に対する影響のひとつとして野鳥の生息域を狭めることが知られている(武田、2007~2014)。実際、徳島県においても先述の大川原ウインドファーム事業地において、風力発電施設の建設前と建設後では、生息野鳥の種数と個体数が激減したことを観察している。
この地域は、氷河期の遺残とされる冷温帯のブナ林が残された貴重な生態系をなしている。特別天然記念物のカモシカやレッドデータリストの絶滅のおそれのある地域個体群であるツキノワグマに限らず、近年極めて数を減らしている希少種のコノハズクの生息域であり、今以上にこの貴重な森林に人の手が加えられると、コノハズクはもとより、残された生態系そのものが根本から崩壊させられる危険性があり、計画地で事業を開始する余地は残されていない。
・イヌワシの生息、およびサシバ、小鳥類の渡り経路から見た懸念
本配慮書には、環境省の「鳥類等に関する風力発電施設立地適正化のための手引き」が引用されており、第3.1-23図(1)「2次メッシュにおけるイヌワシの生息分布」に示すように今回の計画地にかかるようにイヌワシの生息情報がある。しかるに第3.1-24表(1)「動物の重要な種の選定基準」に前記手引きの内容を加えていないため評価の対象に入れていない。
このイヌワシは特段に希少な大型猛禽類であり、四国内でのイヌワシの生息は絶滅状態に近い。その意味で、少しでも生息環境の改善を図るべきところにある。ところが、今回の事業はイヌワシの生息可能域を広げるどころか必ずしや狭めるに違いない。イヌワシの種の存続を少しでも考慮するならば、その計画地の選定と事業実施は再考するべきである。
また第3.1-21図(2)「サシバの渡り経路(秋季)」に示されるように、今回の計画地は秋のサシバの渡りコースにある。しかるに、p226(4.3-32)に見る評価結果においては評価を先送りし、「渡り鳥や猛禽類等の…影響を予測するには、風力発電機の設置位置の情報が必要となるため、事業計画に熟度が高まる方法書以降の手続きにおいて、適切に調査及び予測・評価を実施する」とされている。
サシバをはじめとしたタカの渡りのコースと風力発電事業開発の可能性については、徳島県下の鳴門市において適地ゾーニングの試みがなされている。その結果を見ると、タカの渡り地域においては飛翔予測エリアが広く風力発電事業の適地は極めて僅かになることが明らかになっている。
今回の計画地もサシバ等の渡りコースにある。風力発電施設によるサシバ等の渡りに対する障壁影響やバードストライク、更には夜間に渡ることの多いとされる小鳥類の渡りなどを勘案して適地選択を再考すると、今回選ばれた計画地は事業適地とは言えない。
・近隣既存の風力発電施設との複合影響から見た懸念
今回の計画地(天神丸・高城山)は雲早山をはさんで尾根が連なることから、上勝・神山の風力発電開発、そして大川原ウインドファームとの一連の風力発電事業とみなすことができる。秋、鳴門海峡あるいは紀伊水道から飛来した渡り鳥は尾根伝いに西進するものが少なからずある。剣山東方における風車の連なりは、野鳥のバードストライクの原因となり、または渡りのルートに対して行く手をふさぐ障壁影響を引き起こすことになる。これは喩えるならば、マラソン選手の行く手に落とし穴を掘り、柵を立てるようなことに近い。はるか南のフィリピンやインドネシアへと東シナ海を渡っていく小鳥類やサシバに対して無用な体力の消耗をしいることになり、天敵による捕捉も含めた渡りの成功率の低下や翌年の繁殖率の低下を招く恐れが強い。東四国の稜線が四国中央で収斂する剣山系に風車を建設するべきではない。
・重要野鳥生息地(IBA)との重複の懸念
計画地は、BirdLife Internationalによる世界的基準により(公財)日本野鳥の会が指定した重要野鳥生息地(IBA)のうち、“剣山系”と一部が重複している。IBAに指定されるというだけで、世界的に見ても重要な野鳥生息地であることが分かるが、そのような場所で風車を建設し、バードストライクや障壁影響などの影響を鳥類に与える可能性があることは、自然保護上において許されるものではない。そのため、IBAと計画地が重なる本事業は撤回すべきである。