(仮称)宗谷丘陵風力発電事業 環境影響評価方法書に対する意見書を提出しました
平成29年2月17日
株式会社道北エナジー 御中
「(仮称)宗谷丘陵風力発電事業 環境影響評価方法書」について以下のとおり意見書を提出いたします。
特定非営利活動法人サロベツ・エコ・ネットワーク
代表理事 高瀬 清
(北海道天塩郡豊富町字豊富東2条5丁目)
公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 佐藤 仁志 (公印省略)
(東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル)
日本野鳥の会 道北支部
支部長 小杉 和樹 (公印省略)
(北海道利尻郡利尻町沓形字栄浜142 佐藤里恵方)
北海道ラムサールネットワーク
代 表 小西 敢 (公印省略)
(北海道苫小牧市植苗150-3 日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリ内)
■基本的な考え方
利尻礼文サロベツ国立公園とその周辺には、国内最大の高層湿原があり、どこまでも何もない平原やそこから眺める雄大な利尻富士の景観を求めて多くの人が訪れる。また鳥類をはじめとする国内を代表する貴重な野生生物の生息地であり、渡り鳥にとっては国内有数で国際的にも重要な渡り経路となっている。特に水鳥にとって国際的に重要な中継地であるラムサール条約湿地や重要野鳥生息地(IBA)があり、また、宗谷丘陵はサハリンから北海道に渡る際の渡りの隘路(ボトルネック)にあたり、非常に重要な場所である。
私たちは、地球温暖化対策としての風力発電の導入の重要性は理解しているが、一方、他の事業を含めてサロベツ原野全体を取り囲み、また、宗谷地方全域を覆うような風力発電施設の建設計画は問題が多いと考える。加えて、現状ではこれらの地域において、水鳥をはじめとした渡り鳥の生態について明らかになっていない点が多い。
このような中で、急激な風力発電施設の建設により、今後永きにわたり、宗谷地方の自然環境および観光資源としての資質が高い自然を損なう恐れが大きいと懸念する。
風力発電施設の建設は地域社会にも大きな影響を与えるため、協議会などの開かれた場で議論を行い、地域住民やサロベツとその周辺の利害関係者が内容を充分に理解したうえで、時間をかけて建設による影響を検証すべきと考える。以下、方法書の個別内容についての意見を述べる。
■縦覧方法と住民説明会
本事業を含め、貴社による他の事業でも再三に渡り指摘してきたことであるが、準備書の縦覧や住民説明会の実施方法に問題のあることが、事業の内容の理解や影響の評価が十分になされない大きな原因となっている。現状では地域住民の意見が十分に反映されないため、事業実施後に大きな問題が起こることが予想される。
1.周知
アセス図書の縦覧や説明会の周知は、こちらで把握する限り、新聞広告とHPでのみ行われている。この周知をHP上や新聞広告に限らず、回覧やポスター掲示、チラシ配布、関係機関のHP上掲載などにより、より多くの人に知ってもらうよう努力するべきである。
2.縦覧場所
縦覧場所が、土日祝夜間に閉鎖されている役場等に限られているため、平日の日中に仕事をしている住民などが閲覧する機会がない。土日祝夜間に開館している公共施設が存在するにもかかわらず、あえてそのような選択をしなかった理由を明らかにするべきである。
3.オンラインの閲覧方法
縦覧期間のみインターネット上で閲覧可能であるが、ダウンロードや印刷ができない。数百ページもある図書をパソコン上のみで閲覧することは現実的な方法と言えない。実際には、事業に対して特別に関心を抱いているごく一部の人しか閲覧していない状況と考えられる。また、利用可能ブラウザの制限や図書の拡大縮小などのソフトフェアの機能が大きく制限されており、非常に使いにくい。縦覧期間終了後に、準備書の内容が実際と齟齬がないか精査することができないことは、影響を評価するうえで大きな問題である。閲覧期間に限らずいつでも公共施設やインターネットで閲覧可能にすべきである。
4.住民説明会
住民説明会の日程は、平日の日中と夜間であった。日中に時間がある酪農地帯であることを加味しても、より多くの参加を期待するならば、休日の日中または休日の夜間を選択すべきである。事業者の都合に合わせた日程であると考えざるを得ない。
■利害関係者への説明
環境影響評価の専門員や現場担当者が、サロベツ・エコ・ネットワークに事業内容について説明しに来たことは評価する。一方で、これまで対応した他の事業者は、我々を信頼し、図書のすべてが提供されてきた。私たちは環境保護団体であることから、環境保護にとって不利なことを行うことは有りえない。環境影響評価を行う目的の一つは、地元への説明責任を果たし、事業に対し理解を得ることである。理解を得たうえで建設的な協議をするためには、情報の共有を行うことが不可欠である。実際に、道北7事業の第1回協議会では、一部を除いて図書の提供がなかったことが理解不足につながり、すぐに建設的な議論を始められなかった大きな原因になったと考えられる。この教訓を生かして、私たちに図書のすべてを提供すべきである。
■景観
景観調査地点として、事業地が視認可能な稚内公園、大沼バードハウスを加えるべきである。メグマ沼自然公園の重要な景観は最北の高層湿原なので、調査地点はゴルフ場の駐車場ではなく、木道の西端にするべきである。
■鳥類
1.オジロワシ・オオワシ
渡り個体の正確な飛翔位置を把握するために、定点調査と合わせてレーダー調査を行うべきである。また、事業計画地内にある既存の風車周辺でのワシの利用や回避の状況を詳細に調査するべきである。ワシの渡りは気象状況に大きく左右されるが、方法書にある調査日数は少ないことを鑑みると、調査は連続した日程で行うのではなく、渡り鳥にとって条件(天気・風向き・風の強さ)が良い日を選んで実施するべきである。
2.ガン・ハクチョウ類
渡り個体の正確な飛翔位置を把握するために、定点調査と合わせてレーダー調査を行うべきである。ガン・ハクチョウ類は夜間に渡るため、夜間もレーダー調査するべきである。また、既存の風力発電施設の周辺でのガン・ハクチョウ類の利用状況や回避状況を詳細に調査するべきである。調査は連続した日程で行うのではなく、渡りの条件(天気・風向き・風の強さ)が最適な日を選んで実施するべきである。ガン類とハクチョウ類では好む渡りの条件と時期が異なるため、種に合わせて対応するべきである。
3.小鳥の渡り
宗谷地方は、日本とロシアとの間を渡る小鳥類の主要かつ国際的な渡り経路となっている。多くの小鳥が渡ることが予測されるため、レーダー調査を行うべきである。ある条件が整った日に一斉に渡るため、調査日は連続した日程で行うのではなく、渡りの条件(天気・風向き・風の強さ)が最適な日を選んで実施するべきである。
4. 死骸探索調査
事業予定地周辺に既存の風力発電施設があることから、風車の周りを最低でも月2回ずつ、渡り時期など鳥類の飛来が多い時期は月3回以上、風車のタワーから半径100m程度を5-10m間隔程度(植生による)で歩き、死骸の鳥等の種や個体数を明らかにするべきである。死体が消失する時間を加味した上で、風力発電施設への脆弱性が強い鳥類や衝突率を明らかにするべきである。また、既存施設の過去の鳥類の衝突状況を調べるべきである。これらの調査の結果を、風車による影響を評価する上での参考資料とするべきである。
■哺乳類
コウモリ類は飛行するため、計画地(付帯施設、工事用・搬入道路を含む)の周囲1 km以内を音声調査範囲、周囲5 km以内を捕獲調査範囲として定めるべきである。また、ねぐら位置を把握するための調査を行うべきである。そして、鳥類と同様に死体調査を行うべきである。
■累積的評価
既存の風力発電施設を避けた鳥類が移動経路として当事業地域に集中し、影響が増大する恐れがある。景観による影響も風車が集中することによって増大することが懸念される。さらに、本事業は既存の「宗谷ウインドファーム」に近接、また一部重複する計画となっており、「宗谷ウインドファーム」は、現時点でさえ大規模なウインドファームであることから、本事業が加わることで一層大規模なものになることが予想され、慎重な累積的評価が必要となる。このため、累積的影響の評価を、道北7事業などの他事業者の事業を含めて行うべきであるとともに、既に実施している道北協議会に含めて協議すべきである。
■協議会
これらの調査結果の評価は野鳥保護団体や地元の団体・観光関係者・地元自治体などを含めた開かれた協議会の場で行うべきである。
以上の意見について、個別に回答を求める。