渡邊野鳥保護区フレシマに隣接する風力発電施設建設計画への対応について
当会では2012年3月以降、北海道根室市フレシマ地区における「根室フレシマ風力発電所」建設計画(事業者:電源開発株式会社)が、オオワシ、オジロワシなど希少な鳥類の生息に影響を与えると考えられることから、同建設計画に対して見直しを求めて活動を続けています。
計画地周辺の概要
計画地のフレシマ周辺には、当会がタンチョウの保護区として2004年に設置した「渡邊野鳥保護区フレシマ」があります。フレシマ周辺は湿地と草原、湖沼からなる北海道の原風景が残された場所で、根室半島で唯一まとまった面積の森林が残っている地域でもあります。この一帯は、国内希少野生動植物種・天然記念物・絶滅危惧種であるオジロワシやオオワシ、タンチョウ、準絶滅危惧種のオオジシギなどが多数生息し、渡り鳥も多く利用する重要な場所です。
渡邊野鳥保護区フレシマの景観
計画されている発電所について
2012 年2 月に北海道電力が募集を開始した風力発電による電力買い取り枠拡大に応じる形で、電源開発株式会社によって根室市別当賀と初田牛を結ぶ太平洋岸の海岸段丘上に最大で34,500kW(2,300kW×15 基)となる大規模風力発電所建設が計画されています。
計画地と保護区の位置
ワシ類に対する影響について
これまでのワシ類の風車への衝突事例から、海岸から500m以内にある海岸段丘上の風車への衝突事例が多いことが明らかになっています(白木2012)。また、風車への衝突は把握されているオジロワシの死亡要因の第1位となっています(環境省2012)。
フレシマ周辺は、1000羽を超えるワシ類が越冬するラムサール条約湿地の風蓮湖(ふうれんこ)・春国岱(しゅんくにたい)にも近く、北側の国有林にはワシ類のねぐらも形成されています。さらに、オジロワシの営巣も確認されていることから、これらワシ類への影響が危惧されます。
オジロワシは海岸近くの風車への衝突事例が多い(白木2012より描く)
これまでの対応
2012年3月の計画公表以降、当会は連携団体や国内外の自然保護団体と協力しながら活動を進めてきました。当会のおもな取り組みは以下のとおりです。
2012年
5月
当会と日本野鳥の会ねむろで環境影響評価方法書に対する意見書提出。根室市役所記者クラブにて記者発表実施
当会独自の調査実施(2013年6月まで)
6月
日本野鳥の会北海道ブロックが建設反対の決議文採択。根室市役所記者クラブにて記者発表実施
8月
根室市役所訪問。副市長にワシ類への影響が懸念されることを説明
2013年
9月
日本鳥学会にて、ワシ類の飛翔ポテンシャルマップについて共同発表
12月
当会と根室支部が根室市長宛要望書提出
2014年
5月
北海道知事、北海道教育長に調査結果と要望書を提出。道庁記者クラブにて記者発表実施
北海道庁にて、北海道知事、北海道教育長宛の要望書を提出
調査結果について
オオワシ、オジロワシにとって、フレシマ周辺がいかに重要なのかを明らかにするため、2012年5月から2013年6月にかけて、ほぼ月1回、計32日間、のべ463時間のワシ類の飛翔状況調査を実施しました。調査では日の出から日没までのあいだ、地上定点や船上から観察を行ない、ワシ類の飛翔ルートを記録しました。
越冬期のワシ類の飛翔図。赤い線は、風車のブレードが回転する高さを飛んだときの飛翔経路を表す
この調査結果を元に、GIS(地理情報システム)をもちいてワシ類の飛翔する頻度が高い場所を予測する飛翔ポテンシャルマップを作成したところ、標高が低く、谷筋のように傾斜がきつく、海岸線に近い場所で飛翔頻度が高いことが明らかになりました。また、ワシ類は風車のブレードが回転する高度で年間3200回以上、計画地内を飛翔すると予測されました。
ワシ類の飛翔ポテンシャルマップ。赤色が濃くなるほど飛翔頻度が高いと予測されたことを示す
さらに、球体モデル(由井・島田2013)をもちいて、調査を行なうことができた範囲に風車が建設された場合の衝突数を推定したところ、平均で年間0.39羽、最悪の場合は年間1.01羽と算出されました。これらの解析結果に基づき、北海道知事、北海道教育長宛の要望書を提出しました。
ワシ類の衝突数の推定結果。赤色が濃いほど、衝突数の推定値が大きいことを表す