課題整理
大規模太陽光発電施設が野鳥をはじめとする自然環境に与える影響
~ 問題点・課題・対策 ~
公益財団法人 日本野鳥の会
主任研究員 浦 達也
気候変動は人類への大きな脅威となっていますが、野鳥に対しても種の絶滅、生息地の消失や移動、生物季節の変化など大きな影響を及ぼします。そのため当会は、気候変動の原因である温室効果ガスの排出量を、近い将来のうちに大幅に削減することが喫緊の課題であると考え、その対策の一つである再生可能エネルギーの利用を世界的に進めていくことに賛同しています。
再生可能エネルギーのうち、国内では近年太陽光発電の導入が大きく進んでおり、家庭用のものだけではなく、多くの大規模太陽光発電施設(以下、メガソーラー)の運転が開始されています。
一方、太陽光パネルが建物の屋根や駐車場などの都市環境、集約的に利用されている農地や整備された工業用地など、野鳥があまり生息していない場所に取り付けられるのではなく、森林や草原の伐開を伴う、あるいは水面を覆うなど、野鳥の生息への影響が懸念される場所に設置される事例が多数みられるようになり、各地で野鳥および自然保護上の問題が発生するようになってきました。実際に、日本野鳥の会の各連携団体の活動の中で、このメガソーラーの建設と野鳥保護の問題が取り上げられるようになってきており、ブロック会議でも、話題に上ることが多くなってきました。
そこで、太陽光発電、特に最近急速に増えているメガソーラーが、なぜ・どのように野鳥等の自然環境に影響を与えるのかについて問題点や課題を整理し、問題の解決に向けた対策および市民ができる活動について検討しましたので、以下に紹介します。
メガソーラー建設と野鳥や自然保護の問題に対応されているみな様におかれましては、このレポートが、問題点や知識の整理、地域で取るべき解決策の検討等に役立てば幸いです。
以下に、既存資料や文献等に基づき、整理してみました。まず、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーのメリットについて、参考文献(1)(2)に基づき紹介します。
[再生可能エネルギーのメリット]
・エネルギー安全保障強化:化石燃料の海外依存から脱却し、エネルギー自給率を向上させることができる。(震災後の国内自給率=4.4%)
・低炭素社会の創出:温暖化ガス削減。発電過程でCO2排出ゼロ、ラフサイクルアセスメントとしても低い。
・エネルギー関連の新産業創出…世界的な市場が拡大。国内でも急速拡大の予想。例えば、風車1基あたりの部品は1万点以上で、自動車に次ぐ部品数。
・エネルギー価格の安定性:化石燃料の価格は国際情勢の中で変化しやすい。
・資源が枯渇しない。
・コスト削減:燃料等の調達コスト、送電・輸送にかかるエネルギー消費量が削減される。
・焼却灰や放射性廃棄物等の有害物質の排出を抑制できる
・独立電源として利用できる:多数を設置する場合は、故障等で一部が使用不能になっても、施設全体や供給先への影響が小さい。災害などの有事においても、影響(供給停止の範囲や期間)が抑制できる。
[太陽光発電のメリット]
・未利用地から住宅まで、どこでも簡単に設置できる。
・故障しにくく、耐久性が高い。
・発電、設置費用が年々下がっており、近いうちに家庭用電力料金を下回る可能性がある。
・日本での導入ポテンシャルが高い。
・環境影響評価法の対象となっておらず、アセスメント不要(事業者にとってのメリット)。
次に、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーのデメリットについて、参考文献(2)(3)に基づき整理してみます。
【再生可能エネルギー(太陽光発電)のデメリット】
・割高なコスト水準:太陽光等の発電コストは火力の2~3倍 。
・供給安定性の低さ:気象条件による出力変動がある。現在、発電量は事前に予測可能。
・同時同量の必要性:常に需要に合った電力を供給できるとは限らない。
※問題解決に蓄電池設置や中央管理システム構築、電気融通が必要も莫大な費用がかかる。
・バックアップ電源の必要性:導入した再エネの分だけバックアップの火力発電が必要。
※化石燃料を使いCO2を出す火力発電の削減につながらない。
・不要解列の存在:系統に不安定な電気が大量に入らないようにするため、再エネで電気がたくさん作られても、系統に入る前に捨ててしまい、電気が無駄となる。
・設備利用率の低さ:特に太陽光や風力は、能力一杯の発電量を示す定格出力で発電することは稀で、実際に発電した量を示す設備利用率は、陸上風力で15~20%程度、洋上風力で30~40%程度、太陽光で12~15%程度。
・優遇政策の必要性:経済原理に任せると普及が進まない。導入を増やすには、固定価格買取制度等、政策面での優遇が必要。実際、再エネは電力会社により市場価格より高く買い取られるが、その差額は賦課金または補助金で支払われる。
・賦課金の高騰:今後、大量に再エネが導入されると、賦課金が上昇する。
・原発1基分の発電にも広い面積と費用が必要…原発1基分(100万kw)の発電に、定格出力で現在主流の2000kw級風車が500基必要。それには、直線で280kmの距離、面積で225km2、費用で1.1兆円が必要。太陽光だと面積5600ha(山手線より少し大きいくらい)、費用5.8兆円が必要。
次に、なぜメガソーラーの建設が進んでいるのかについて、参考文献等に基づき紹介します。
1、電力の買取価格が高いこと
まず、電力買取価格の高さが挙げられます。
○買取価格(1KWあたり)の推移と買取期間
・2009~2011年:24円
・2012年(固定価格買取制度導入後):40円(20年)
・2013年:36円(20年)
・2014年:32円(20年)
・2015年:29円(20年)
・2016年:24円(20年)※住宅用は30円
(注)年々価格が低下している理由
・パネル代等の設置費用の低下のほか、増えすぎた太陽光発電の抑制等の政策面、中国産の安価なパネルの大量導入による国内産業の不振、投機目的などへの対応のため。
※買取価格の低下は、規模の経済効果を招き、太陽光発電所の大規模化を促進している。
2、法的手続きなどが簡単なこと
環境影響評価が不要で、簡単な手続きで設置可能なことも、大きな要因です。
○設備設置に係る手続きの流れ:→①電力会社との事前協議(接続系統空き容量があるか検討)→②経産省に設備認定の申請→③電力会社への連系の申請
※一部の都道府県や市町村では、条例による環境アセスメントの実施が必要である。
※森林法、海岸法、自然公園法、農地法、農振法の該当地か確認する必要がある。
このように、手続き中に地域住民へ計画内容を公表する段階がないことが、知らないうちにパネル設置が進み、自然破壊がされるという問題を招いている。一方、環境影響評価法または条例の対象となれば、計画は事前に地域住民に知らされ、意見聴取が行われる。
3、土地所有者の意識等の問題から
土地所有者は、山林や原野を所有しているだけでも管理費や固定資産税等の諸費用がかかります。また、子孫に相続するにも相続税などがかかります。過疎化により、土地を引き渡すべき子孫がその地域にいないことも少なくありません。そのため、手がかかり利用価値の低い土地を持ち続けるより、事業者に貸して管理してもらうか、売却して現金化した方がよいと考える地主が増えていることも要因の一つです。
※事業者は実際、所有権が複雑に絡み合い、管理体制が明確になっていない場合が多い入会地(村や部落などの村落共同体で総有した土地)での建設を狙う〈4〉。
【メガソーラーによる地域住民とのトラブル事例】〈5〉
[事例収集方法]
・毎日新聞記事DB(2000年4月~2015年12月)と26地方紙データ検索システム(2013年4月~2015年12月)について、「メガソーラー」をキーワードに検索したところ、それぞれ、毎日:1460件、地方紙:3482件が該当。
・うち、地域住民との合意形成の遅れ、行政指導があるもの、防災や自然保護上の問題があるもの、訴訟に発展したものは、50事例が該当した。
[トラブルの理由]
・景観:22件
(うち、富士山麓の自然景観:16件、歴史地区周辺での景観:6件)
・防災面(森林保全に係る土砂流出や水害)の懸念:18件
・生活環境への懸念:12件
(水質汚染:4件など)
・自然保護への懸念:9件
(森林・河川・海洋の保全:5件、鳥類など野生生物保護:4件)
・その他:11件
(地域への説明不足:4件、法的手続き不備:4件、など)
[トラブルの発生地域]
長野県(9件)、大分県(7件)、山梨県(5件)、兵庫県(4件)、高知県(3件)など
※都道府県別の導入量ではなく、良好な景観や自然環境、災害リスクの存在に依存か
【メガソーラーによる野生生物保護に関するトラブル事例】〈5〉〈6〉
①茨城県坂東市 菅生沼(東京新聞 2014.09.20)
・事業者:不明
・計画規模:3ha
・理由:県有地、私有地が入り組んだ沼地の民有地で、メガソーラー開発の許可申請があり、自治会はコハクチョウをはじめ生態系の保全のため反対、市も県に開発許可を出さないよう要望。
・経過:県から開発許可は下りず、市が業者に別の土地を紹介。その後市では菅生沼の自然景観保全条例を制定し、沼での開発を規制するよう定めた。
②三重県松阪市 曽原大池(伊勢新聞 2015.12.16)
・事業者:不明
・計画規模:0.36ha
・理由:個人所有の池に設置予定があり、自然保護団体などは、野鳥の保全を訴えて反対し、要望書を県に提出した。
・経過:設置者は事前届出を行うことを県自然環境保全条例に規定する等を求めた要望書を県に提出。県では対応を検討中
③三重県木曽岬町 木曽岬干拓地(毎日新聞三重版 2012.02.28)
・事業者:商社(東京)
・計画規模:49MW(約50ha)
・理由:日本野鳥の会三重県支部などがチュウヒ等の保護のため計画に反対し、県に対して公開質問書を提出。
・経過:県の2012年3月30日の野鳥の会への返答では、県条例アセス(75ha以上の開発区域面積)とチュウヒの保全措置(H22年にチュウヒ保全区の整備完了)をすでに行っている上で、開発を開始すると説明。なお、造成後に毎年、県は環境影響調査を行っている。また、野鳥の会が毎月、県職員の立会いの下で干拓地の環境調査を行っており、両者は対話を継続中(条例アセスを踏んでいる開発であるため、野鳥の会三重県支部は仕方なく黙認しているというのが実態とのこと)。
④大分県大分市 青崎(毎日新聞大分版 2012.11.08)
・事業者:自然エネルギー事業者
・計画規模:82ha
・理由:NPO法人が絶滅危惧種であるベッコウトンボの生息を確認、県と環境省に保全を要望した。
・経過:設置者は事前届出を行うことを県自然環境保全条例に規定する等を求めた要望書を県に提出。県では対応を検討中。
⑤岡山県瀬戸内市 錦海塩田跡地
・事業者:合同会社(東京)
・計画規模:230MW(約250ha ※跡地は500ha)
・理由:日本野鳥の会岡山県支部などがチュウヒ等の保護のため計画縮小を求め、市や事業者に要望書を提出。
・経過:
H24.6;錦海塩田跡地活用検討委員会が「基本構想」を瀬戸内市へ提出
H24.9;瀬戸内市は、「瀬戸内Kirei未来創り連合体提案概要」を発表。400haに250MWの出力のメガソーラーを計画
H25.2;支部が瀬戸内市に対し、跡地におけるチュウヒ最終報告書を提出
H25.2;市は、計画のメガソーラー出力が最大230MW(250ha)になると説明
H25.2;支部は市に対し錦海塩田跡地活用基本計画提案書【環境計画編】の意見書を提出
H25.4;瀬戸内市は、「錦海塩田跡地活用基本計画」を発表
H25.4;支部は瀬戸内市に対し要望書(パネル設置面積を250haから150haへと縮小する提案)」を提出→H25.5;瀬戸内市長より「パネル設置面積をこれ以上削減するのは事業の存続の観点から困難。」と回答があった
H25.6;県に対して「錦海塩田跡地開発行為に対する自然保護協定への要望書」を、財団本部と連名で提出 (150haへの縮小、自然保護協定の締結)。また、県の自然保護課宛に「錦海塩田跡地のチュウヒ保護に向けて」を提出→県が計画250haから230haに削減し、「自然保護協定」を事業者・瀬戸内市・岡山県で締結
H26.2;地元の方々による「錦海塩田跡地メガソーラーを勉強する会」が立ち上がる
H26.5;チュウヒ繁殖で、事業者に「自然保護協定に沿い十分な配慮をする要望書」提出
H26.10;事業者より「錦海塩田跡地チュウヒ生息確認調査業務-繁殖期調査報告書」届く
H26.10;事業者に対して上記調査報告書に対する意見書を提出
H27.3;事業者「くにうみアセットマネジメント」宛てに、「オオセッカ越冬保護について」を提出
H27.3;事業者に工事がチュウヒの繁殖活動に影響が出ないよう配慮する様に依頼
H27.10;開発予定地外の自然保護区域に重機が入り改変されていた件で意見書を提出→業者側もこれを認め、重機で削った地表の復元を行った
H27.10; 「繁殖期のチュウヒ保全に関する要望書」を事業者、環境省、岡山県、瀬戸内市へ提出
H27.10;事業者が実施する環境調査報告書「錦海塩田跡地希少野生動植物モニタリング調査結果」(平成27年10月)を入手。気づいた点について、「錦海塩田跡地における繁殖期のチュウヒの保全に関する要望書」として提出
・繁殖個体の飛来から繁殖行動の終了までの期間を一括して評価。春先の繁殖行動開始時期とヒナが巣立つ初夏の餌環境は異なるのに同一視しているのは問題
・初夏育雛期の餌環境は牧草地が大きく貢献していたが、現在はパネル設置区画で整地されてしまっている
・工事による影響が大きな区域でのチュウヒ活動結果が欠落して餌採行動を過小評価する結果となっている
H27.12;事業者より、要望書に対する簡単な「回答書」が届いた
次に、メガソーラーが環境や野鳥等に与える影響について、参考文献(7)(8)に基づき整理してみます。
【太陽光パネル設置による環境や生態系へ及ぼす影響】
[環境への影響]
・太陽光を地表が反射する割合が変化し、大気の温度に影響を与える。
・地表面温度と大気境界層の状況が変化。
・微気候と水文学の変化。
・降水型の変化。
・電磁場への影響。
・土壌の侵食や崩壊。
・廃棄物の発生。
・火事。
・土地利用や土地被覆の変化(メガソーラー設置の際、大規模面積を裸地にして砂利を敷く。森林がある場所では、伐開してパネルを設置する)
[生態系への影響](※土地利用や被覆の変化に伴って発生)
・栄養動態の変化。
・遺伝子流動の阻害。
・外来植物の侵入。
・生物多様性の損失。
・生物相の変化。
・生息地の消失または断片化。
・生物の個体数や種数の減少。
【太陽光パネル設置が野鳥へ与える影響】
・直接的な生息地の喪失、生息地の改変または分断、利用場所からの締め出しや置換(特に建設時やメンテナンス時に起こりやすい) 、の3つが主に挙げられるが、太陽光発電が野生生物へ及ぼす影響は、設置場所や規模によって決定される。
・設置場所が野鳥にとって魅力的ではない場所(例;都市環境、集約的な耕作地、整備された工業用地など)では、それほど影響がないと考える。
・保護区やその近くなど太陽光パネルの設置場所がすでに野生生物にとって貴重な場所であれば、影響が起こる可能性が高い。それを避けるために、設置前に詳細な環境影響評価を行うことが必要である。
・放棄耕作地や生産力の低い農地、長期間放置された工業用地などは、太陽光パネルの設置の標的となる。一方、これらの場所は希少な動植物種が生息するようになったなど、自然保護において重要な場所になっていることがあり、その場合は太陽光パネルの設置により影響が起こる可能性が高い。
・水鳥が光を反射する太陽光パネルを水域と間違い、衝突する可能性がある。
・カゲロウ、カワゲラのように水中に卵を産む昆虫は、光を反射する太陽光パネルを水域と間違い、これらの昆虫が太陽光パネルの表面に卵を産むことが確認されている。設置場所やその周辺が、そういった昆虫を重要な食物資源としている野鳥の生息地である場合、野鳥の繁殖成功度と食物入手の可能性を減らす可能性がある。
・太陽光発電所を囲んでいる防護柵やフェンスは、いくつかの種の野鳥にとってはそれらへの衝突危険性を高める可能性がある。
最後に、問題解決に向けた対応策等について、参考文献(8)に基づき紹介します。
1、設置場所に留意
野鳥や自然保護上重要な生態系を守っていくためには、設置場所に留意することが肝要です。望ましいメガソーラーの設置場所としては、集約的に利用されている農地や整備済の工業用地等の未利用地、大規模な建物の屋根・屋上・壁面・駐車場等の人工物に限るべきです。ただし、それらの場所であっても、IBA(重要野鳥生息地)や鳥獣保護区など野鳥の保護対象地、希少種の利用場所、大規模越冬地および渡りの中継地、野鳥にとって重要な採餌場所、およびそれらの近傍の場合は設置しないことが重要です。
2、ゾーニングに基づく場所の選定
国、都道府県、市町村は、人口減少社会を基本とした国土および地域デザインや、エネルギー受給量モデルを描いたうえで、既存の景観や自然保護に関する法律または条例を改定または新設し、自然保護等の観点からメガソーラーの開発が不可能な立地を示し、直接的に立地を抑制、規制すべきです。国、都道府県、市町村、関連団体が連携してゾーニングを行い、予防的措置を講ずることが肝要です。
3、地域住民との十分な合意形成
メガソーラー開発による野鳥等の自然環境への影響を回避するため、事業者は地域住民及び地元有識者、専門家等と十分な合意形成を果たしたうえで、事業を進めるべきです。そのため、行政機関は行政指導を通して、事業者に十分な合意形成を果たすよう指導すべきです。
4、環境影響評価等法制度の整備
現在、メガソーラー発電事業は、環境影響評価法や一部を除いた都道府県および市町村の条例の対象事業となっていません。太陽光パネルの設置場所や規模によっては、自然破壊を伴い、野鳥など野生動植物へ重大な影響を与えることがあります。そのため、国、都道府県、市町村は、発電出力1MW以上や開発面積1ha以上など、一定の発電量や開発面積以上の計画については、すべて環境影響評価法または環境影響評価条例等の法規制の対象事業とすべきです。少なくとも、一定規模以上のメガソーラーの建設予定は、事前届出を義務付けるなど、手続き制度等を早急に整備すべきであり、トラブルに繋がりそうな計画を早期に把握し、必要な行政指導を行う必要があります。
5、野鳥等への影響の回避・低減・代償等の措置
メガソーラーの設置が避けられない場合でも、野鳥等への影響を減らすため、事業者が実行可能な範囲における回避・低減・代償のための措置を講ずることが肝要です。ただし、影響の回避・低減・代償は、個別の計画ごとに考慮されるべきであり、これらの対策のすべてがどのようなケースにも適応できる訳ではありません。
○回避
・IBA(重要野鳥生息地)、鳥獣保護区や自然公園、希少鳥類の利用場所、大規模越冬地および渡りの中継地、野鳥にとって重要な採餌場所、およびそれらの近傍など法的な保護地域や野鳥の生息が影響を受けやすい場所では、太陽光発電所の設置を避ける。
○低減
・太陽光パネルの区画同士の間に低木を列状に植え、水鳥などの衝突危険度を和らげる。
・併設される送電線への衝突危険度を最小化するよう、野鳥にとって目立つ標示板等を装着する。
・繁殖期など野鳥に対して影響のある季節を避けて工事を行う。
・繁殖期など野鳥に対して影響のある季節を避けて保守点検を行う。
・施設内の植生は、化学肥料や農薬を使わずに管理する。
・防護柵等が哺乳類や両生類等の動物の移動の障壁とならないようにする。
・太陽光パネルに白い縁取りと分割線を貼付し、水鳥や水中に産卵する昆虫の誘引を低減する。
○代償
・集約的に利用されている耕作地や草地での太陽光パネルの間や下および境界部を広い草地または自然草地に転換することで、生物多様性の増加が可能である。
・太陽光パネルの下を草刈や放牧により除草できるよう、十分な高さに設定する。あるいは、①草原性の野鳥が巣をつくれるよう、②特に冬期に餌場を提供できるよう、③野鳥のための隠れ場所を提供できるように、太陽光パネルの下に背丈の低い作物および種子や果実が野鳥の餌となる植物を混ぜて植栽する。
6、地元住民等の行動
地域の自然環境を守り子孫に引き継いでいくために、地域住民や地元の自然保護団体等は、次のような必要に応じた行動をとることが求められます。
・建設案件ごとに事業者や行政に要望書等を提出し、特に希少鳥類などへの影響が大きいものは、計画の中止を求める。または、太陽光パネル設置の際に適切な野鳥保護対策を実施させる。
・自然保護団体を中心に、地域住民による地域レベルのゾーニングやセンシティビティマップを策定する。難しい場合は、行政機関に策定を働きかける。
・出力1MW以上などのメガソーラーを、都道府県や市町村の条例アセスメントの対象事業となるよう要望活動を行う。すでに条例アセスメントの対象となっている都道府県および市町村においても、その規模要件を見直し、現実的な建設規模に対応でき得るものかを確認のうえ、必要に応じ、規模要件の変更等を要望する。少なくとも、早い段階での計画の地域への公表を義務付けるよう要望する。
※長野県は自然環境を守りながら再エネの導入量を拡大するため、「長野県環境影響評価条例」を2016年1月13日付で改正。新たに太陽光の発電設備を電気工作物の建設として環境影響評価の手続きを義務付けた。
(第1種事業)敷地面積50ha以上/(第2種事業)森林区域の敷地面積20ha以上
・野鳥や自然環境への影響が懸念されつつも、設置が認可された場合や、それに近い事案の場合には、影響の回避・低減・代償のための措置の実施を事業者及び行政機関に求める。
以上
【参考資料】
【太陽光発電事業を環境影響評価条例の対象案件にしている自治体】〈9〉
○太陽光発電事業を対象事業に位置付けて対象としている自治体と規模要件
・長野県(50ha以上、ただし森林区域は20ha以上)、神戸市(20ha以上、ただし緑地保全区域等は5ha以上)、福岡市(20ha以上)
○太陽光発電事業を電気工作物の新設等に含め対象案件としている自治体と規模要件
・さいたま市(A地域;5ha以上/B地域;3ha以上/C地域;1ha以上)、川崎市(出力5万kw以上)・名古屋市(出力5万kw以上)
○太陽光発電事業を「開発行為」、「工業団地の造成」等の面開発の一種として対象とすることができる自治体と規模要件
・75ha;(土地の造成)茨城県、鳥取県/(開発区域全体)秋田県、福島県、宮城県、富山県、愛知県、和歌山県
・50ha;(土地の造成)北海道、石川県、静岡県、島根県、愛媛県、熊本県/(開発区域全体)福井県、大阪府、千葉市/(その他)青森県※1、大阪市※1、広島県※1、北九州市※3
・30-40ha;(土地の造成)佐賀県、長崎県、大分県、鹿児島県/(開発区域全体)沖縄県/(その他)徳島県※1(事業種別により規模が異なる)
・20-30ha;(土地の造成)滋賀県/(開発区域全体)埼玉県、神奈川県、三重県、香川県/(その他)徳島県※1、岐阜県※2、相模原市※1
・10-20ha;(土地の造成)広島市/(開発区域全体)山梨県/(その他)名古屋市※1
・1-10ha ;(開発区域全体)豊中市/(その他)吹田市※1
・その他;京都市(16~75ha)※2
※1:個別法令に基づく許認可申請時の面積を要件とし、いずれの場合もあり得る。
※2:開発区域全体の面積と土地形状変更の面積の両方について規定している。
※3:ケースバイケースで指導している。
【再生可能エネルギー条例(再生可能エネルギーに関する普及啓発や地域での民間事業の促進のための)を持つ自治体】〈5〉
○都道府県:神奈川県
○市町村:芦別市、東神楽町、榛東村、中之条町、八丈町、鎌倉市、小田原市、
大磯町、飯田市、飯島町、多治見市、豊田市、新城市、設楽町、湖南市、大阪市、
宝塚市、洲本市、日南町、土佐清水市、唐津市
【参考文献】
〈1〉NEDO再生可能エネルギー白書.2014.(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(編).森北出版,東京.
〈2〉自然エネルギーQ&A.2013.自然エネルギー財団(編).岩波書店,東京.
〈3〉自然エネルギーの罠.2015.武田恵世.あっぷる出版社,東京.
〈4〉グローバル時代のローカル・コモンズ.2009.室田 武(編).ミネルバ書房,東京.
〈5〉研究報告-メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について.2016 .山下紀明.認定NPO法人環境エネルギー政策研究所,東京.
〈6〉日本野鳥の会岡山県支部ホームページhttp://plus.harenet.ne.jp/~wbsjokym/kinkai/kinkai_top.html
〈7〉Solar Energy RSPB Policy Briefing. March 2011. RSPB,Sandy.
〈8〉Solar Energy RSPB Policy Briefing. December 2014. RSPB,Sandy.
〈9〉太陽光発電事業の環境保全対策に関する自治体の取組事例集.2016.環境省,東京.