IBAの選定基準
IBAは4つの世界共通の基準から選ばれる
IBAは、国際的な鳥類保護組織であるバードライフインターナショナル(BirdLife International)の定めた世界共通の基準により選定されます。日本国内については、これまでに日本野鳥の会の全国の支部・会員の皆さまのご協力により進めてきた「鳥の生息環境モニタリング調査」、「鳥類生息分布調査」などのデータを利用し、以下の4つの基準に基づいて選定しました。
基準A1-世界的に絶滅が危惧される種
世界的に絶滅が危惧される種、または全世界で保護の必要がある種が、定期的・恒常的に多数生息している生息地
バードライフインターナショナルの発行しているアジア版レッドデータブックに準拠した、絶滅危惧 I A 類(Critical)、絶滅危惧 I B 類(Endangered)、絶滅危惧 II 類(Vulnerable)、保護依存種(Conservation Dependent), 情報不足種(Data Deficient)に該当する種の相当数(6~10個体)が、定期的、恒常的に生息しているか、生息している可能性がある生息地を選定した。また、シマフクロウなど生息地の公表によって種の生息に不利益が生じると考えられるものについては、一部を除き記載していない。
日本に生息するアジア版RDB対象種の一覧
和名 | アジアRDBのカテゴリ | 和名 | アジアRDBのカテゴリ |
ノグチゲラ | Critical | オオワシ | Vulnerable |
オオトラツグミ | Critical | ナベヅル | Vulnerable |
ミゾゴイ | Endangered | マナヅル | Vulnerable |
コウノトリ | Endangered | シマクイナ | Vulnerable |
クロツラヘラサギ | Endangered | ヘラシギ | Vulnerable |
トキ | Endangered | アマミヤマシギ | Vulnerable |
サカツラガン | Endangered | ズグロカモメ | Vulnerable |
タンチョウ | Endangered | カンムリウミスズメ | Vulnerable |
ヤンバルクイナ | Endangered | ヤイロチョウ | Vulnerable |
カラフトアオアシシギ | Endangered | アカコッコ | Vulnerable |
シマフクロウ | Endangered | オオセッカ | Vulnerable |
アホウドリ | Vulnerable | ウチヤマセンニュウ | Vulnerable |
クロアシアホウドリ | Vulnerable | イイジマムシクイ | Vulnerable |
カラシラサギ | Vulnerable | メグロ | Vulnerable |
カリガネ | Vulnerable | ノジコ | Vulnerable |
トモエガモ | Vulnerable | ルリカケス | Vulnerable |
アカハジロ | Vulnerable | クロウミツバメ | Data Deficient |
コウライアイサ | Vulnerable |
基準A2 - 生息地域限定種
生息地域限定種(Restricted-range species)が相当数生息するか、生息している可能性がある生息地
バードライフインターナショナルの発行している「Endemic Bird Areas of the World」(以下EBA)に準拠した、生息地域限定種(Restricted-range species)が相当数生息するか、生息している可能性がある生息地。
生息地域限定種とはバードライフインターナショナルの定義する固有性の高い種の事であり、世界的な繁殖分布域が50,000㎢未満の種のことである。
「Endemic Bird Areas of the World」では、生息地域限定種(以下RR種)の主要な分布域を網羅するようにEBAまたはSA【注1】を設定しているため、IBAにおいてはこの分布域内に存在するRR種の個々の生息地を選定した。また、RR種が定期的、恒常的に生息するサイトを選定し、生息情報があるものの、一時的な記録の可能性がある場合は採用していない。
【注1】
EBA(Endemic Bird Area)は、生息地域限定種の重要な生息地域としてバードライフインターナショナルが選定した地域で、世界で218箇所が指定され、日本では伊豆諸島、小笠原諸島、南西諸島がEBAとなっている。また、SA(Secondary Area)はEBAに準ずる地域で、日本に関するものとしては本州中部低地林、本州中部山岳林、硫黄列島、及び日本・韓国の離島が指定されている。
日本に生息する生息地域限定種(Restricted-range species)の一覧
種名 | EBAもしくはSA |
ミゾゴイ | 本州中部低地林 |
ヤンバルクイナ | 南西諸島 |
アマミヤマシギ | 南西諸島 |
カラスバト | 伊豆・小笠原・南西諸島及び硫黄列島、日本・韓国の離島 |
ズアカアオバト | 南西諸島 |
リュウキュウコノハズク | 南西諸島 |
ノグチゲラ | 南西諸島 |
リュウキュウサンショウクイ | 南西諸島 |
オオトラツグミ | 南西諸島 |
アカコッコ | 伊豆・南西諸島 |
アカヒゲ | 南西諸島 |
イイジマムシクイ | 伊豆・南西諸島 |
メグロ | 小笠原諸島 |
ノジコ | 本州中部山岳林 |
ルリカケス | 南西諸島 |
基準A3 - バイオーム限定種
ある1種の鳥類の分布域すべてもしくは大半が1つのバイオームに含まれている場合で、そのような特徴をもつ鳥類複数種が混在して生息する生息地、もしくはその可能性がある生息地
アジアは15のバイオームに区分され、日本はバイオーム02(高緯度森林地帯)、及びバイオーム03(北東アジア温帯林)に属する。よってこれらのバイオームに特徴的な種と、それらの生息に必要な場所が適切に選ばれるよう選定した。
この基準は、他のA1、A2及びA4ほど明確な基準ではないが、IBAが世界の全ての鳥類の生息を保証するために設定された基準であることを考えれば、重要な選定基準のひとつである。しかしながら、日本に適用されるバイオーム種のリストはごく普通に観察される種を数多く含んでおり、選定には慎重を要する。
今回の選定は以下のような方法で行った。
1.環境省の植生分類で植生自然度(全10段階で10が最も自然度の高いもの)が8以上の植生が、1万ha以上存在するサイトを抽出した。
2.環境との結びつきが強い繁殖期に着目し、日本に適用されるバイオーム種のうち、その種の全世界の繁殖分布域の10%程度以上を日本が占める種で、かつ日本全国の分布域が20%未満(島嶼域を除く)の種を抽出した。(日本における分布域の割合を算出するにあたっては、全国鳥類繁殖分布調査のデータを使用した。)
3.1で選定したサイトのうち、2で選定された種が相当数分布するサイトを、A3基準を満たすサイトとして選定した。
また、A1、A2、A4を満たすサイトのうち、バイオーム種が相当数生息するサイトについても、A3基準を満たすサイトとして選定し、この場合のみ種名を記した。
採用したバイオーム限定種の一覧
BIOME | 種名 | BIOME | 種名 |
高緯度森林地帯 | シマセンニュウ | 北東アジア温帯林 | オシドリ、カヤクグリ、サシバ、コマドリ、ヤマドリ、サンコウチョウ、イカルチドリ、クロジ、ケリ、コジュリン、オオジシギ、コムクドリ、サンショウクイ |
基準A4 - 群れをつくる種
水鳥類の一定基準値以上の群れが定期的に渡来・生息するか、その可能性があるところ。渡りの経路上で地理的要因により、一定基準値を超える鳥が集中するところ(ボトルネック)も含む。さらにⅰ~ⅳに区分される。
- A4 i
- 群れを作る水鳥の生物地理的個体群の1%以上が定期的に生息するか、または生息すると考えられるサイト
- A4 ii
- 群れを作る海鳥または陸鳥の世界の個体数の1%以上が定期的に生息するか、または生息すると考えられるサイト
- A4 iii
- 1種以上で2万羽以上の水鳥、または1万つがい以上の海鳥が定期的に生息するか、または生息すると考えられるサイト。
- A4 iv
- 渡りの隘路にあたる場所で、定められた閾値を超える渡り鳥が定期的に利用するボトルネックサイト
- A4 i
- この基準はWetland International (2002)で示された水鳥の種について適用した。閾値はアジアのフライウエイ個体群を合算して定めた。個体数が不明な種についてはアジアの生物地理的な個体数の1%推定値を閾値に用いた。
シギ・チドリについては、その多くの種が旅鳥であるため、1%基準及び、渡りの期間中については(中継地で個体数推定値の0.25%に達する記録があれば、渡りの期間中に1%相当の個体が利用すると推定して用いられている)0.25%基準を適用した。
基準を満たす種の判断に関しては、過去5年の間に3回以上基準値を上回っている種について採用。またはこれに準ずるような種、例えば、過去5年の間に基準値を1回しか上回っていないが、基準値に近い記録がほぼ毎年確認されている場合も採用した。 - A4 ii
- バードライフインターナショナルの推定した世界の海鳥個体数推定値を使用した。個体数が不明な種については、全世界の個体数の1%推定値を閾値に使用した。
特に離島については生息数に関するデータが少ないものが多かった為、データが古いものについても過去20年程度以内に基準を満たす記録があり、これまでに個体数の減少に関する情報がないものについては採用した。 - A4 iii
- これはラムサール条約で用いられる基準と同じである。
- A4 iv
- 閾値は、地域ごとか地域間で適切なものを選ぶ。ここでは2万羽を採用した。