木曽岬干拓地に繁殖するチュウヒの保護に関する要望書を提出

 当会は2012年1月30日、国内で約60つがいしか繁殖していない絶滅危惧種のチュウヒが繁殖する木曽岬干拓地における公園化のための埋立て工事を中止し、自然環境の保全に配慮した対応をしていただくよう、三重県知事と愛知県知事に要望書を提出しました。文書は日本野鳥の会三重、日本野鳥の会愛知県支部、名古屋鳥類調査会との連名によるものです。木曽岬干拓地を生物多様性の復元モデル地域およびチュウヒの基幹的な繁殖地として保全し、今後の保全・活用策を再検討していただくという観点から、要望書を提出しました。

日野鳥発第77号
平成24年1月30日

三重県知事  鈴木英敬 様

日本野鳥の会三重 代表  平井正志
日本野鳥の会愛知県支部 支部長 新實 豊
名古屋鳥類調査会 代表  森井豊久
公益財団法人 日本野鳥の会 理事長 佐藤仁志

木曽岬干拓地の保全ならびに活用について(要望)

 東海地方におけるチュウヒの重要な繁殖地である木曽岬干拓地における生物多様性の保全に逆行する工事を中止し、自然環境の保全に配慮した対応をされたく、下記のとおり要望する。

  1. 生物多様性条約締約国会議開催を記念した生物多様性の復元モデル地域として保全すること。
    木曽岬干拓地は、現在、生物多様性の保全上果たしている大きな役割を考慮し、また現在の計画における代償措置が機能していないことを踏まえて、生物多様性条約締約国会議開催を記念した生物多様性の復元モデル地域として保全すること。湿地環境からの転換や無秩序に不特定多数の人の入り込む公園などとする計画は改め、チュウヒ等の野鳥観察や沿海部湿性草原の観察などを行える環境教育の場として、積極的に活用すること。
  2. チュウヒの基幹的な繁殖地として保全を図ること。
    絶滅危惧種チュウヒの基幹的な繁殖地として保全を図るため、特に湾岸道路以南の地区については全域をチュウヒの繁殖保全地区として、埋め立てを行なわず、沿海部の湿性草原の環境を維持・保全すること。
  3. 木曽岬干拓地の今後の保全・活用について、以下の事項に留意し、計画を再検討すること。
    (1)環境教育の場としての有効活用
    木曽岬干拓地全体を県民の環境教育の場として活用するため、適切な湿地環境の観察設備と生物多様性に関する展示等を行なえる施設を設置する。三重県にはこのような鳥類を主とする自然観察施設が他にはないので、設置の意義は高い。地理的に愛知・三重両県民の利用が考えられるので、両県による共同の設置・管理運営を検討する。設置場所は一例として、チュウヒの生態や繁殖活動を観察できる施設を湾岸道路のすぐ南に設けることが考えられる。
    (2)適切な人材の配置
    木曽岬干拓地を環境教育の場として活用し、適切に保全・管理を行なうために、上記の施設に環境教育、湿地環境の保全・管理に関する専門の知識と経験をもつ人材を配置する。
    (3)埋め立ての中止
    湾岸道路以北の区域については、来訪者の利便施設の設置以外はこれ以上の埋め立てや造成を行なわず、適切な観察路を設けるなどして来訪者が直接、湿地や草原の環境を体験できるフィールドとして活用する。
    (4)チュウヒ繁殖地への立ち入り禁止
    湾岸道路以南のチュウヒの繁殖保全地区の区域については、チュウヒの営巣を保護するため、基本的に利用者の立ち入りを制限する。現在複数の入りこみが確認されている野犬については、チュウヒの捕食者として脅威になっていると思われるので、緊急に捕獲するとともに、新たに野犬やタヌキなどの地上性の捕食者が干拓地内に進入しないよう、湾岸道路のすぐ南に2m程度の防護柵(地下50cm程度まで)と水路を設けるなどの対策を施す。堤防自体については法的に進入を規制できないので、西側堤防中央部分からの進入路については柵と施錠により管理する。また干拓地東側堤防沿いにおいて模型飛行機を干拓地内に侵入させて遊ぶ行為がチュウヒの繁殖にとって重大な脅威となっているので、これを適切な方法で制限する。

〔要望の背景及び理由〕
近年、トキやコウノトリなどの絶滅のおそれのある鳥類の保護への関心が国民的規模で高まっています。2010年は愛知県において生物多様性条約第10回締約国会議が開催され、絶滅危惧種の絶滅と減少の防止についての目標を含む、2020年までの新たな戦略計画である「愛知目標」が国際的に合意されたところです。
同年7月18日に私どもは、絶滅の危機に瀕している猛禽類であるチュウヒの保護について話し合う「チュウヒサミット2010」を開催しました。この催しにおいても、全国から200名以上の参加者があり、チュウヒの置かれている危機的な状況とその保護策に多くの人々の関心が寄せられていることを示しました。
このサミットでは、日本におけるチュウヒは、繁殖数が60つがい程度と非常に少なく、また本州以南の繁殖地はそのほとんどが人からの脅威等により不安定な状態に置かれているという危機的な状況が確認されました。これに対する保護の取り組みとして、イギリスからはミンズミア保護区における近縁種ヨーロッパチュウヒの生息数の画期的復活を実現した事例が、また日本においては秋田県大潟村から、村を挙げてチュウヒの繁殖を保護する「チュウヒの村」実現に向けた取り組みを始めることが発表され、チュウヒの保護のためには積極的な生息地の保全策が有効であることが示されました。

しかしながら、チュウヒの東海地方における重要な繁殖地である木曽岬干拓地では現在、世界や日本で高まっている生物多様性の保全に逆行する工事が進められています。
木曽岬干拓地は、木曽川河口左岸の干潟約443haを農地として利用するため、1966年から干拓工事が始められ、1973年には干陸化されたものの、農業情勢の変化と県境問題により、そのまま放置されてきました。このため木曽岬干拓地には、東海地方では極めて稀な沿海部の湿性草原が復元してきました。日本野鳥の会三重(旧称:日本野鳥の会三重県支部)と愛知県野鳥保護連絡協議会は1993年から鳥類調査を継続し、これまでに隣接する鍋田干拓地を含めて150種以上の鳥類を観察しております。また人がほとんど入らないため、営巣地やねぐらへの人の接近を嫌うチュウヒにとって好適な生息地として継続した繁殖が2001年以来確認され、また冬季にはこの他にも数多くの猛禽類が越冬し、ねぐらを取っていることを確認しています。このように、木曽岬干拓地はチュウヒを始めとする鳥類の生息のために特に貴重な場所であることがわかっています。
これらの事実に基づき、1993年以来、私どもは、貴県に対し数回にわたり、この干拓地をチュウヒの繁殖を軸とした自然復元のモデルとするよう申し入れを行なってきました。しかし、これらの申し入れを貴県当局は真剣に考慮することなく、現在、公園化のための盛り土等の工事を進めています。湾岸道路以南は、工事開始以降も依然チュウヒの複数つがいが継続的に繁殖行動をする状況が辛うじて続いていますが、2009年以降、繁殖の成功は確認されていません。これまでの調査結果から、本来3つがいのチュウヒの繁殖地の環境影響評価の中で代償措置として計画された干拓地南部の約50haの保全区だけでは、一つがいのチュウヒすら繁殖できないことが明らかです。
また、東日本大震災の災禍を受けて、「木曽岬干拓地にメガソーラー基地建設を」といった提案が出されています。自然エネルギー導入促進の必要性を私どもはよく理解していますが、太陽光発電は都市近郊の貴重な平地の自然を犠牲にしなくても行えるはずです。生物多様性の保全上、重要な自然環境を破壊しない立地で行うべきと考えます。

以上

 

日野鳥発第78号
平成24年1月30日

愛知県知事  大村秀章 様

日本野鳥の会愛知県支部 支部長 新實 豊
名古屋鳥類調査会 代表  森井豊久
日本野鳥の会三重 代表  平井正志
公益財団法人 日本野鳥の会 理事長 佐藤仁志

木曽岬干拓地の保全ならびに活用について(要望)

 東海地方におけるチュウヒの重要な繁殖地である木曽岬干拓地における生物多様性の保全に逆行する工事を中止し、自然環境の保全に配慮した対応をされたく、下記のとおり要望する。

  1. 生物多様性条約締約国会議開催を記念した生物多様性の復元モデル地域として保全すること。
    木曽岬干拓地は、現在、生物多様性の保全上果たしている大きな役割を考慮し、また現在の計画における代償措置が機能していないことを踏まえて、生物多様性条約締約国会議開催を記念した生物多様性の復元モデル地域として保全すること。湿地環境からの転換や無秩序に不特定多数の人の入り込む公園などとする計画は改め、チュウヒ等の野鳥観察や沿海部湿性草原の観察などを行える環境教育の場として、積極的に活用すること。
  2. チュウヒの基幹的な繁殖地として保全を図ること。
    絶滅危惧種チュウヒの基幹的な繁殖地として保全を図るため、特に湾岸道路以南の地区については全域をチュウヒの繁殖保全地区として、埋め立てを行なわず、沿海部の湿性草原の環境を維持・保全すること。
  3. 木曽岬干拓地の今後の保全・活用について、以下の事項に留意し、計画を再検討すること。
    (1)環境教育の場としての有効活用
    木曽岬干拓地全体を県民の環境教育の場として活用するため、適切な湿地環境の観察設備と生物多様性に関する展示等を行なえる施設を設置する。三重県にはこのような鳥類を主とする自然観察施設が他にはないので、設置の意義は高い。地理的に愛知・三重両県民の利用が考えられるので、両県による共同の設置・管理運営を検討する。設置場所は一例として、チュウヒの生態や繁殖活動を観察できる施設を湾岸道路のすぐ南に設けることが考えられる。
    (2)適切な人材の配置
    木曽岬干拓地を環境教育の場として活用し、適切に保全・管理を行なうために、上記の施設に環境教育、湿地環境の保全・管理に関する専門の知識と経験をもつ人材を配置する。
    (3)埋め立ての中止
    湾岸道路以北の区域については、来訪者の利便施設の設置以外はこれ以上の埋め立てや造成を行なわず、適切な観察路を設けるなどして来訪者が直接、湿地や草原の環境を体験できるフィールドとして活用する。
    (4)チュウヒ繁殖地への立ち入り禁止
    湾岸道路以南のチュウヒの繁殖保全地区の区域については、チュウヒの営巣を保護するため、基本的に利用者の立ち入りを制限する。現在複数の入りこみが確認されている野犬については、チュウヒの捕食者として脅威になっていると思われるので、緊急に捕獲するとともに、新たに野犬やタヌキなどの地上性の捕食者が干拓地内に進入しないよう、湾岸道路のすぐ南に2m程度の防護柵(地下50cm程度まで)と水路を設けるなどの対策を施す。堤防自体については法的に進入を規制できないので、西側堤防中央部分からの進入路については柵と施錠により管理する。また干拓地東側堤防沿いにおいて模型飛行機を干拓地内に侵入させて遊ぶ行為がチュウヒの繁殖にとって重大な脅威となっているので、これを適切な方法で制限する。

〔要望の背景及び理由〕
近年、トキやコウノトリなどの絶滅のおそれのある鳥類の保護への関心が国民的規模で高まっています。2010年は愛知県において生物多様性条約第10回締約国会議が開催され、絶滅危惧種の絶滅と減少の防止についての目標を含む、2020年までの新たな戦略計画である「愛知目標」が国際的に合意されたところです。
同年7月18日に私どもは、絶滅の危機に瀕している猛禽類であるチュウヒの保護について話し合う「チュウヒサミット2010」を開催しました。この催しにおいても、全国から200名以上の参加者があり、チュウヒの置かれている危機的な状況とその保護策に多くの人々の関心が寄せられていることを示しました。
このサミットでは、日本におけるチュウヒは、繁殖数が60つがい程度と非常に少なく、また本州以南の繁殖地はそのほとんどが人からの脅威等により不安定な状態に置かれているという危機的な状況が確認されました。これに対する保護の取り組みとして、イギリスからはミンズミア保護区における近縁種ヨーロッパチュウヒの生息数の画期的復活を実現した事例が、また日本においては秋田県大潟村から、村を挙げてチュウヒの繁殖を保護する「チュウヒの村」実現に向けた取り組みを始めることが発表され、チュウヒの保護のためには積極的な生息地の保全策が有効であることが示されました。

しかしながら、チュウヒの東海地方における重要な繁殖地である木曽岬干拓地では現在、世界や日本で高まっている生物多様性の保全に逆行する工事が進められています。
木曽岬干拓地は、木曽川河口左岸の干潟約443haを農地として利用するため、1966年から干拓工事が始められ、1973年には干陸化されたものの、農業情勢の変化と県境問題により、そのまま放置されてきました。このため木曽岬干拓地には、東海地方では極めて稀な沿海部の湿性草原が復元してきました。日本野鳥の会三重(旧称:日本野鳥の会三重県支部)と愛知県野鳥保護連絡協議会は1993年から鳥類調査を継続し、これまでに隣接する鍋田干拓地を含めて150種以上の鳥類を観察しております。また人がほとんど入らないため、営巣地やねぐらへの人の接近を嫌うチュウヒにとって好適な生息地として継続した繁殖が2001年以来確認され、また冬季にはこの他にも数多くの猛禽類が越冬し、ねぐらを取っていることを確認しています。このように、木曽岬干拓地はチュウヒを始めとする鳥類の生息のために特に貴重な場所であることがわかっています。
これらの事実に基づき、1993年以来、私どもは、貴県に対し数回にわたり、この干拓地をチュウヒの繁殖を軸とした自然復元のモデルとするよう申し入れを行なってきました。しかし、これらの申し入れを貴県当局は真剣に考慮することなく、現在、公園化のための盛り土等の工事を進めています。湾岸道路以南は、工事開始以降も依然チュウヒの複数つがいが継続的に繁殖行動をする状況が辛うじて続いていますが、2009年以降、繁殖の成功は確認されていません。これまでの調査結果から、本来3つがいのチュウヒの繁殖地の環境影響評価の中で代償措置として計画された干拓地南部の約50haの保全区だけでは、一つがいのチュウヒすら繁殖できないことが明らかです。
また、東日本大震災の災禍を受けて、「木曽岬干拓地にメガソーラー基地建設を」といった提案が出されています。自然エネルギー導入促進の必要性を私どもはよく理解していますが、太陽光発電は都市近郊の貴重な平地の自然を犠牲にしなくても行えるはずです。生物多様性の保全上、重要な自然環境を破壊しない立地で行うべきと考えます。

以上