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チュウヒサミット2010 提言
チュウヒサミット2010
チュウヒサミット2010において、私たちは、イギリスで絶滅の危機にあったヨーロッパチュウヒを、環境全般の見直しと再生により、その生息数を格段に増大させ、回復させ、またその生息地を豊かな湿地環境を学ぶ場として活用している取り組みを見ました。
また大潟村では、ヨシ原と隣接する農耕地に数多くのチュウヒが生息し繁殖していること、この「湿地性里山環境」を村のすばらしい財産として認識し、保全活用していこうとしていることが報告されました。
北海道勇払原野、青森県三沢市仏沼や木曽岬干拓地の研究・観察例は、人間生活の持続可能な営みとチュウヒの生息環境の持続的な維持が不可分なものであることを示しています。また衛星追跡の結果から、チュウヒの繁殖地と越冬地のネットワークを、全体として保全していくことの重要性も示唆されました。
「チュウヒサミット2010」の参加者である私たちは、以上の成果を踏まえ、次のことを提言します。
記
- チュウヒの暮らしやその生息環境の価値をよく知り、さらに湿地環境を農業など人間の暮らしにとっても重要な環境として再認識し、普及・教育し、更なる基礎研究を進めていくとともに、人のネットワークを維持し、発展させていくこと。
- 木曽岬干拓地をはじめ、現在ある日本全国のチュウヒの繁殖地・越冬地を、基幹的な生息環境として保全を計っていくともに、生息地のネットワークとして守っていくこと。その際、湿地環境の健全な持続に必要不可欠な周辺・連続環境として田畑など人の生活環境との共存をはかり、一体的に保全していくこと
- 全国の干拓地や埋立地に復活してきた環境も含め、ヨシ原に代表される河口部湿地環境の維持・回復を計ること。
- チュウヒを種の保存法の対象に加え、法によって保護し、絶滅のおそれのある状態から回復させること。
以上
2010年7月18日「チュウヒサミット2010」参加者一同
チュウヒサミットの背景
「世界同時不況」と盛んに報道され、「低成長」「経済収縮」という言葉が溢れる昨今の状況にありながら、われわれ人類が今後も長期にわたり、地球環境の恩恵にあずかり続けるための方策の論議は、まだ世界的な合意の途上にあります。
しかし本年10月に愛知県名古屋市で締約国会議(COP10)が開催される生物多様性条約においても、多様な遺伝子の保全、多様な生物種の保全、多様な生態系の保全なくしては、私たち人類が自然の恩恵を受け続けることは不可能であることが強調されています。取って代えることのできない重要な地球上の環境要素として、熱帯林や海洋環境などその重要性そのものについては広く知られるところとなっています。湿地環境の保全は、これらと並んで最重要課題の一つです。
湿地環境の重要性については、わが国が加盟するラムサール条約でも議論されているように、「国際的に水鳥の生息地として重要な」場所としてばかりでなく、今日では、その環境が人類にとって最も重要な自然環境の一つであることが認識されつつあります。
陸域から湖沼および海洋など水域への移行帯に存在する湿地環境は、陸域から水域への物質循環の結節点に位置することから、有機物の貯留場ともなり、地球上の生物種の一番豊かな生産場所ともなっています。
主に河口部に発達し、干潟や浅海域へと連鎖していくヨシ原などに代表される湿地環境は、農業生産の場として直接的に水田など人類の食物生産の場へと改変されたばかりでなく、住居や舟などの交通手段の素材としても利用され、また豊かな漁業資源の生産場所として、人類の生存と文化の発展に欠かすことのできない、限りない恩恵をもたらしてきてくれた自然環境でした。
また、干潟や浅海と連続する環境として有機物の分解場所として、水質を浄化し、数多くの生物種の生存、発展の基盤としても機能してきました。
しかし、陸域から水域の結節点に存在する平野部の湿地環境の「開発」による大規模な喪失は、世界的にいまなお続いています。
日本においても、「戦後」の経済成長の中で、広大な浅海域、干潟と並んで河口部の湿地環境が失われ、それにともない多数の生物種が失われるか、絶滅の危機に瀕しています。
チュウヒサミットがテーマとしている猛禽類の1種であるチュウヒは、湿地生態系の頂点に位置する鳥類です。湿地環境の喪失はチュウヒの絶滅の危機をもたらすばかりでなく、河口部湿地環境の生物多様性の喪失と、連続する環境である干潟や浅海域の環境の悪化をも意味します。こうしたことから、私たちはチュウヒとその生息する湿地環境について2006年のチュウヒサミット開催以来、継続的に考えてきました。