保全に向けた課題

2002年12月から翌年1月にかけて、最大の越冬地である台湾においてボツリヌス菌による大量死が起き、73羽が中毒死しました。今後このような大量死が、総個体数の約50%が越冬する台湾や、約20%が越冬する香港で起きた場合は、種の絶滅につながる可能性があります。

クロツラヘラサギの種の存続を確保する上では、香港や台湾の越冬個体群とは異なる渡り経路を利用している可能性が高い、日本の越冬個体群の保全は非常に重要です。

クロツラヘラサギの渡りの中継地については、滞在期間が短く、観察の機会が少ないことなどからこれまであまりわかっていませんでした。春の渡りの際、成鳥はごく短期間しか中継地を利用しませんが、若鳥では中継地で長く滞在する個体や、そのまま越夏してしまう個体がいるほか、秋の渡りでは成鳥も中継地で比較的長期間滞在するなど、中継地の保全はクロツラヘラサギの個体群の維持のために非常に重要な要素です。特に渡りに不慣れな若鳥や体力の弱っている個体にとっては、中継地の環境は彼らの生存率に影響します。

今後はこれまでの調査で判明した主要な中継地である、有明海沿岸や八代海沿岸、福岡湾、伊万里湾の湿地を始め、奄美大島や屋久島、種子島、韓国の済州島など、中継地となる可能性のある島々の湿地についても、環境状況を把握し保全を図っていくことが、クロツラヘラサギの安定した個体群を維持していくために重要な課題となっています。


写真:Dr. Fang Woei-horng