渡り経路の衛星追跡調査


撮影:金城道男氏

クロツラヘラサギについては、これまでに多くの越冬地、および越冬個体数の調査が行なわれてきましたが、繁殖地の位置、そこと越冬地を結ぶ渡り経路、渡りの途中に利用する中継地などについては、まだ不明な点が多くありました。
そこで当会では、1998・99年に地球環境基金の助成を受け、香港および台湾で越冬する個体に衛星送信機を装着し、渡り経路および中継地と繁殖地を把握するための調査を行いました。また2004・05年には、環境省の事業として日本で越冬する個体について同様の調査を行いました。
香港および台湾での調査では、NTTに送信機を開発していただき、関係各国のバードライフ・インターナショナルのパートナー団体と山階鳥類研究所との共同研究として実施しました。また日本での調査では山階鳥類研究所および沖縄の自然保護団体の皆さんの協力をいただき実施しました。

渡り経路の追跡には、越冬地でクロツラヘラサギを捕獲して送信機を装着し、アルゴスシステムを用いた人工衛星による追跡調査を行いました。また捕獲したすべての個体には、金属足環および目視で個体識別のできるカラーリングを装着しました。

1998・99年に行なわれた追跡の結果、香港および台湾で越冬するクロツラヘラサギは、主に中国の東海岸を中継しながら塩城まで北上し、繁殖地である朝鮮半島西岸の38度線周辺の離島、(Hambakdo、Yokdo)へ到達しました。
越冬地から繁殖地までの距離はそれぞれ約2000km(台湾)、約2500km(香港)で、渡りに要した日数は台湾からは約2~3週間、香港からは3~4週間で繁殖地に到達していました。
渡りのパターンとしては、成鳥の方が早く渡り始め、非繁殖個体などの若齢個体の方が遅く渡り始めることが示唆されました。また、追跡した個体のうち若齢の個体については、2羽が繁殖地まで渡らずに、1羽が台湾北部で、1羽が中国の塩城で越夏しました。


2004・05年に行われた追跡の結果、沖縄で越冬するクロツラヘラサギは、九州の有明海や八代海沿岸の湿地を中継し、更に朝鮮半島南部および西部沿岸の湿地を中継するか、もしくは一気に朝鮮半島まで渡り、朝鮮半島南部および西部沿岸の湿地を中継した後、繁殖地である朝鮮半島西岸の38度線周辺の離島、(Udo、Yokdo、Ryongmaedo)へ到達しました。
越冬地から繁殖地までの距離はおよそ1,400kmで、渡りに要した日数は早い個体では約5日、遅い個体では約2週間で繁殖地に到達していました。また足環の観察による結果などから、越冬地では群れで行動しているものの、渡りのシーズンになると群れ行動は解消され、単独もしくは少数個体で渡っていくことが示唆されました。