刺し網漁による海鳥混獲回避策の洋上実験

日本野鳥の会とバードライフ・インターナショナルは、刺し網漁による海鳥の混獲回避に効果があり、かつ漁獲量に影響を与えない方法を開発するため、2019年に、国内でも海鳥が数多く生息する天売(てうり)島周辺および羽幌(はぼろ)沖で洋上実験を行いました。実験を行うにあたり、北るもい漁業協同組合と、北海道海鳥センターよりご協力をいただきました。また、Kingfisher財団から、当事業への助成をいただきました。

北海道 羽幌町・天売島の位置

実験の目的:
刺し網漁による海鳥の混獲回避に有効で、かつ漁獲量に影響を与えない手法を開発する。
実験の概要:
北海道羽幌沖と、天売島の2か所において、これまでに海外で刺し網漁による混獲回避実験で使用されたA)LEDライト、B)布製パネルをそれぞれ網に取りつけて漁を行い、海鳥の混獲を減らす効果と、漁獲量への影響の有無の検証を行った(天売島ではLEDライトの実験のみ)。

LEDライト

A)LEDライト
ケースに入れたLEDライト(水中では緑色のライトが自動で点灯し、水からあげると消灯する)を刺し網に取りつけて使用する。ケースの長さは18㎝、ライト、ケース、電池の総重量は200g。


布製パネル

B)布製パネル
海水を吸わない軽量な布製パネル(60cm x 60cm)を刺し網に取りつける。


いずれも、実際の出漁時に、実験網(LEDライトまたはパネルの装着有り)とコントロール網(LEDライトまたはパネルの装着無し)を同時に使用し、効果の比較と実験網の使い勝手の検証を行った。実験後には、所定の用紙に、網の設置・水揚げ日時、水深、魚種別水揚げ量、網にかかった海鳥の情報を記入・提出していただいた。

1.北海道羽幌沖での実験

時期:
2019年1~2月〔実験日 2019年1月20日、26日、2月16日、20日〕
実験回数:
8回(実験A、B各4回)
対象魚種:
カジカ
網の種類:
1枚網
水深:
18~23m
協力者:
北るもい漁協の漁師2名
実験方法:

A)LEDライトを使用した実験
全長910mの網のうちの210mを実験網とし、その上部にLEDライトを10m間隔で取りつけた。ライトの影響を受けないよう、490mの網を挟んで、残る210mをコントロール網(実験網と比較するための、何も取りつけない網)とした。1回の操業で網を海中に仕掛けている時間は気象条件により異なるが、22~90時間であった。
B)パネルを使用した実験
全長140~840mの網のうちの、70mを実験網とし、4m間隔で計18枚のパネルを取りつけた。続く70mをコントロール網(実験網と比較するための、何も取りつけない網)とした。残る0~700mの網は、漁師さんの判断によりつけられた。網を仕掛けている時間は気象条件により異なるが、1回の操業につき20~90時間であった。

北海道・羽幌町での実験図

2.北海道天売島での実験

時期:
2019年5~8月〔実験日 2019年5月12日、6月10日、8月9日、8月10日〕
実験回数:
4回
主な対象魚種:
ソイ、ヒラメ、カスベ、ミズダコ
網の種類:
3枚網
水深:
18~50m
協力者:
北るもい漁協の漁師1名
実験方法:

A)LEDライトを使用した実験
全長3075~3600mの網のうちの、225mを実験網とし、その上部にLEDライトを10m間隔で計23個取りつけた。ライトの影響を受けないよう、200m以上の網を挟んで、続く225mをコントロール網(実験網と比較するための、何も取りつけない網)とした。その先に、漁師さんの判断により網が取りつけられた。網は午後に仕掛けたものが深夜に引き上げられ、仕掛けている時間は1回の操業につき9~11時間であった。

北海道・天売島での実験図

実験結果:

羽幌町の実験Aでは、4回行った結果、実験網、コントロール網の両方に海鳥がかかった。LEDライトつきの実験網の混獲数計5羽に対し、コントロール網(ライト無し)では計7羽であった。混獲率(混獲数/網の長さ(km)/24時間)は、LEDライトつき0.68に対し、コントロール網は0.96であった。
羽幌町の実験Bでは、4回行った結果、パネル付きの実験網の混獲数計4羽に対し、コントロール網(パネル無し)では3羽であった。混獲率は、パネル付き1.66に対し、コントロール網は1.24であった。
なお、実験A、Bで混獲が確認された海鳥は、ケイマフリ、ヒメウ、オオハム、シロエリオオハムであった。
天売島での実験では、LEDライトつきの実験網、コントロール網のどちらにも海鳥はかからなかった。
実験回数に限りはあるが、以上の結果からはLEDライト、パネルによる混獲回避のはっきりした効果は見られなかった。

●混獲された海鳥の数・混獲率(実験網、コントロール網のみの比較)
北海道・羽幌町での実験図

なお、実験網・コントロール網のどちらでもない網(漁師さんが取りつけた網)でも海鳥の混獲があり、その数は合計15羽(羽幌町13羽、天売島2羽)であった。

その他:
1.LEDライト、布製パネルの使い勝手
今回使用したLEDライトは、大きく重かったため、軽量化が望まれる。また、水からあげると自動で消灯するはずが点灯したままになっている、気温・水温が低いためかバッテリーがすぐに切れてしまうという問題があり、改良が望まれる。なお、パネルについては、使いやすく一枚網に絡まることもなかった、という評価であった。

2.漁獲量への影響
実験回数が少なかったため、はっきりとは言えないが、LEDライトをつけた網に魚が多くかかることがあり、ライトによる集魚効果が考えられる。

おわりに:
今回の実験では、操業回数が少なかったこともあり、LEDライト、布製パネルのいずれにおいても、明確な混獲回避効果は確認できなかった。実験を行った海域は、絶滅危惧種の海鳥の生息域と重なっており、実際に実験の中でも混獲が起きているため、刺し網による海鳥への影響が懸念される。今後も引き続き、漁業関係者の協力をいただきながら、情報収集と混獲回避策の開発を進める予定である。

英文報告書 Gillnet Bycatch Mitigation Report(PDF/1.82MB)