海鳥と漁業の問題

海鳥の現状

エトピリカの写真
写真:石田光史

 生活の大部分を海上で過ごす海鳥は、全世界の鳥類約9,700種のうち346種にあたり、日本では、108種が見られます。翼を広げると2mを超える大型のアホウドリから、小型のウミスズメまで、大きさや形はさまざまです。足の指の間に水かきがある、海水を飲んでも余分な塩分を排泄する機能を持つなど、海洋での生活にうまく適応できる体のしくみになっています。また、陸上の小鳥と比べると寿命が長く、産卵数が少ない、集団で繁殖するという特徴があります。

 海鳥は、鳥類の中でも急激に数を減らしており、IUCN(国際自然保護連合)によると、全世界346種の約3分の1にあたる97種が絶滅の危機にあります。海洋生態系の中で高い位置を占め、また、広大な渡りをする種や世界的に分布する種もあることから、海鳥は海洋環境のバロメーターになっています。日本野鳥の会は、海鳥をシンボルに、その保護を進めることで、海洋生態系の保全に取り組んでいきます。

漁業による混獲の影響

混獲の図版
図:Artwork: Rachel Hudson Illustration

 海鳥の減少には、人間による活動が大きく影響しています。海洋環境の悪化、人が持ち込んだネズミによる卵やヒナの捕食、なかでも、漁業の際に誤って捕獲される「混獲」は大きな脅威となっています。近年、公海上での延縄漁では、国際的な協力のもと、混獲を減らすための漁具の開発や漁法の改善が行なわれていますが、まだ十分とは言えません。

 海鳥の多くは寿命が長く、卵を少数しか生まないため(毎年、あるいは1年おきに1個または2個)、成鳥が命を落とすことは、たとえわずかな数であっても、長期にわたりその種に大きな影響を与え、絶滅につながる恐れがあります。

延縄漁による混獲

 延縄漁とは、「幹縄」と呼ばれる1本の長い縄に、釣り針をつけた「枝縄」を一定の間隔で何本も付け、マグロやカツオなどを釣る漁法です。遠洋マグロ延縄漁では、幹縄の長さは、長いものでは100㎞を超え、枝縄の数も約3,000本以上になります。年間推定16万羽から32万羽もの海鳥が、延縄漁による混獲の犠牲になっています。アホウドリ類やミズナギドリ類は、海面付近で、魚やイカを捕らえて食べます。マグロやカジキなどを対象とした延縄漁では、餌として魚やイカをつけた針を海中に投入するため、誤ってその餌を飲み込んだ海鳥は、釣り針がのどにひっかかり、おぼれ死んでしまうのです。

 延縄漁による混獲を防ぐため、さまざまな混獲回避措置(ミティゲーション)が開発されています。日本の漁業者によって考案された「トリライン」と呼ばれる鳥よけは、漁船の船尾に取り付けた長い棒の先から、吹き流しやテープをつけたロープを船の後方に張り、海鳥が餌に近づけないようにする仕掛けで、混獲を防ぐ効果が高いことで知られています。そのほか、海鳥が活動する時間帯を避け、夜の間に延縄を投入する「夜間投縄」や、海鳥が餌をとる前に釣り餌を沈ませるおもりを使用する「加重枝縄」も、効果的な混獲回避措置とされています。現在、高緯度地域では、「トリライン」「加重枝縄」「夜間投縄」のいずれか2つの混獲回避措置をとることが義務付けられています。

トリラインの図
トリライン[図:越智大介(国際水産資源研究所)]

刺し網漁による混獲

 刺し網漁は、水中に帯状の網を仕掛けて「網の壁」を築き、そこを通過する魚を絡めてとる漁法です。主に近海で、カレイやイワシ、サケなどさまざまな魚種を対象に行なわれています。錨などで固定しないものは「流し網」と呼ばれます。

 年間推定40万羽もの海鳥が、刺し網漁による混獲で命を落としています。犠牲になっているのは、ウミガラス類やウミスズメ類などの潜水性海鳥です。餌を採るために潜水している時に漁網に絡まり、おぼれ死んでしまいます。

 刺し網漁による混獲については、まだ効果的な回避措置がなく、延縄漁に比べると漁業の規模も小さいため、混獲の実態がわかりにくいという問題があります。

 そこで当会は、漁業者に協力いただいて混獲回避措置の効果を確かめる実験を行なうとともに、日本近海の刺し網漁の規模を調べ、海鳥の生息域との重なりを調べ、混獲が起きやすいエリアを特定する「リスクマップ」の作成に取り組んでいます。

天売島周辺での混獲回避実験

 北海道・羽幌町の沖合に浮かぶ天売島は、ウミガラスやウトウ、ケイマフリなど8種類の海鳥の繁殖地です。その周辺海域では、ヒラメやカレイ、ホッケなどの刺し網漁、ヤリイカの定置網漁などの漁業がさかんに行なわれています。

 日本野鳥の会は、2016年より、バードライフ・インターナショナルと共同で、北るもい漁業協同組合・北海道海鳥センターの協力をいただき、刺し網漁の混獲回避策の検証実験を行っています。海鳥の刺し網による混獲を回避するために有効で、且つ漁獲に影響を与えない方法を漁業者と共同で開発し、日本国内及び海外に発信することを目指しています。

海鳥をシンボルに、海洋環境を守る‐Marine IBA

 海鳥とその生息環境を守るため、日本野鳥の会は、バードライフ・インターナショナルとともに、海鳥を指標に重要な海域を特定して保全していく「マリーンIBA(Marine Important Bird and Biodiversity Areas, 海鳥の重要生息地)」を選定しています。現在、国内には27のマリーンIBAがあります。マリーンIBAは、各国の海洋保護区やEBSA(生態的及び生物学的に重要な海域)を設定する際の基礎資料となっており、日本でも選定された海域は、環境省が進める「生物多様性の機能を維持する観点から見た重要海域」の抽出に活用されたほか、洋上風力発電の建設候補地の選定時の資料としても使われています。

海鳥を取巻く危機-プラスチックごみによる海洋汚染

 海洋へのプラスチックごみの流入は、現在、最も深刻な海洋汚染の要因となっています。これまでに、海鳥97種でプラスチックの採食が確認されました。アホウドリの仲間は、海水面に浮かぶゴミを餌と間違えて飲み込むことがあります。さらに、親鳥からの給餌により、ヒナの体にもこうしたゴミが取り込まれます。ハワイのミッドウェイ諸島は海流の関係で大量の漂流ゴミが集まることで知られますが、ここで繁殖するコアホウドリの胃から、歯ブラシやライター、ペットボトルのキャップなどのプラスチックごみがぎっしりと詰まった状態で見つかっています。

 また、ゴミに付着する化学物質が鳥の体内で影響を与える可能性もあります。放置されたプラスチックごみは、劣化して粉々になり、5㎜以下の細かなマイクロプラスチックとなります。マイクロプラスチックは、油になじみやすく、海を漂う間に化学物質を吸着し、その中には有害化学物質も含まれます。マイクロプラスチックはプランクトンを餌とする魚貝類に取り込まれ、それを食べる海鳥の体に蓄積されます。食物連鎖により、マイクロプラスチックに付着した有害物質も濃縮されるため、海鳥だけでなく海洋生態系全体への大きな脅威となっています。

 ゴミの原因となる使い捨てプラスチック製品を使用しない、ゴミ処理マナーを徹底するなど、個人でできることから、産業界、各国政府レベルでの取り組みまで、さまざまなレベルでの早急な対応が必要です。

サウスジョージア島のアホウドリの物語

 南氷洋に浮かぶサウスジョージア島は、ペンギンやアホウドリ、アザラシ、オットセイなどのさまざまな野生生物の楽園です。当会もパートナーになっているバードライフ・インターナショナル(BirdLife International)は、現地で繁殖する4種類のアホウドリ(ワタリアホウドリ、ハイガシラアホウドリ、マユグロアホウドリ、ハイイロアホウドリ)の情報をホームページやFacebook, Instagram, Twitterで紹介しています。現地入りをしているイギリス南極調査隊から送られてくる写真とともに、美しくも厳しい自然の中で繰り広げられるアホウドリの子育て奮闘記をご覧ください。

ワタリアホウドリ