トップメッセージ 2023年11月
2023年11月1日 更新
日本野鳥の会 会長 上田恵介
奄美の自然
9月に奄美大島に行って来ました。奄美大島に行くのは久しぶりです。前に行った時は鳥の巣に共生する昆虫の研究で、ルリカケスとオオトラツグミの古巣を調べていました。今回の訪問の目的はヤマガラの羽の成分を調べるための捕獲調査でした。島では現地バンダーでミステリー小説家でもあるTさんの協力を得て、かすみ網(もちろん環境省の許可を得てあります)でヤマガラを捕獲することができました。
アマミヤマガラ。ほっぺたの赤みが強い
調査の後、夜の林道を車でゆっくり走ってナイトツアーもしてきました。舗装された林道だったので、アマミヤマシギは出てきませんでしたが(別の日の早朝に1羽だけ飛び立つのを見ました)、アマミノクロウサギにはたくさん出会いました。前に行った時はガイドさんに案内してもらって、たった1回しか出会えませんでしたが、今回は2時間で10頭近くを見かけました。ただ、クロウサギは道の真ん中まで出てきて糞をするのが好きなようなので、夜間の交通事故が心配です。
林道で出会ったアマミノクロウサギ。糞をしている最中
マングースバスターズの大活躍
アマミノクロウサギがこんなに復活してきたのは、環境省がマングース根絶の一大プロジェクトを進めたからです。駆除のために全島に仕掛けられたマングース専用の罠の数は約3万個。それを40数名からなるチーム(マングースバスタ―ズと呼ばれていました)が、毎日見回って、マングースの数を減らしていったのです。ハブの出る暑苦しい山中を全島くまなく見回るという、まさに気の遠くなるような地道な作業です。捕獲数が少なくなってくるとマングース探索犬を投入して、マングースの巣穴を突き止めて駆除するという作戦が行なわれました。そして2018年4月に最後の1頭が捕獲されて以降、もう5年以上にわたって1頭も捕獲されていないことから、根絶は成功したと言えるでしょう。おそらく来年あたりに根絶宣言が出されるはずです。
自然保護の先進国ニュージーランドでは絶滅寸前のタカヘをはじめとする固有種を守るために、カピチ島やチリチリマタンギ島などの小さな島で、人が持ち込んだネズミやイタチなどを徹底的に駆除し、捕食者ゼロを達成してから、固有種を国内移入して増殖させていますが、それは小さな島だからできることであって、奄美大島のような大きな島に広がってしまったマングースを駆除できるとは、正直、私も思っていませんでした。だから生態学者として、この根絶事業の成功は本当に世界的な偉業だと思います。マングースバスターズの皆様、ご苦労様でした(次は沖縄本島ですね)。
マングース用の捕獲罠
世界遺産にふさわしい生物多様性
奄美大島は、鳥では固有種のルリカケスとアマミヤマシギ、固有亜種のオオトラツグミ(ミナミトラツグミの分布北限の亜種)が有名ですが、シイ・タブの常緑樹林には、温帯域の落葉樹林と比較して相対的に鳥は多くありません。繁殖期ならアカヒゲが繁殖していますし、留鳥のリュウキュウキビタキ、リュウキュウサンショウクイ、夏鳥のリュウキュウアカショウビン、リュウキュウサンコウチョウの声が聞こえるのですが、繁殖が終わったこの時期、森を歩いても聞こえるのはアマミヤマガラとアマミヒヨドリとリュウキュウメジロの声くらいで、ときどきカラスバトの「ウッ、ウーッ」と、ズアカアオバトの尺八のような声が響くくらいです。そして気温が上がり始めると、森の中はオオシマゼミとクロイワニイニイの大合唱が響き渡ります。
このように鳥の種類は少ないのですが、奄美大島を含む南西諸島は両生類・爬虫類(ヘビやカエル)の宝庫です。今回、ラッキーなことに金作原(きんさくばる)でハナサキガエルの集団求愛行動を見ました。小さな滝の斜面に50匹ほどのカエルが集まり、「キリッ、キリッ」といい声で鳴き交わしていました。そこへ3匹のガラスヒバア(ヘビ)がやって来て、カエルを狙っている光景も見ました。
遊んでばかりいたわけではありません。ヤマガラ調査の後、金作原では環境省のモニタリング1000プロジェクトの植生調査チームのお手伝いをしてきました。まあほとんど戦力にはなりませんが、コドラートのポール持ちと、野生の勘でエイヤッと被度(植生が地面の何%を覆っているか)を決めるお仕事をしてきました。奄美大島は世界自然遺産にふさわしい生物多様性(@自然度と固有度)の高い島だと思います。
ハナサキガエルの求愛集団
日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一
「国際サシバサミット台湾」に参加して
渡り鳥・サシバの保全を進める国際会議
10月12日、13日の2日間、台湾の南端に位置する墾丁(ケンティン)国立公園で「国際サシバサミット台湾」が開催され、参加してきました。
サシバサミットは、渡り鳥であるサシバの繁殖地・中継地・越冬地が連携しながらサシバの保全を推進することを目的に、第1回が2019年に繁殖地であり私の住む栃木県市貝町で、第2回が2021年に中継地の沖縄県宮古島市で開催され、今回で3回目になります。
サシバは日本には夏鳥として渡来。九州、本州各地の里山で子育てをし、秋になるとフィリピンなどの東南アジアへ渡り、越冬する(写真はオスの個体)
私は、日本野鳥の会と市貝町でサシバと共生するまちづくりを進めるオオタカ保護基金の両方の立場で参加し、同町の町長さんや地域の皆さんとともに、活動報告やポスター発表を行なってきました。サミットには、今まで参加していた日本、台湾、フィリピンに加えて、新たに韓国(オンライン)、タイからも参加があり、サシバ保護や研究の輪が生息域一帯に広がりつつあることを実感することができました。
サシバの渡りの壮観さに感激
また、墾丁国立公園は秋の渡りの時期に南に渡るサシバが集結する台湾最大の中継地であることから、たくさんのサシバ達とも会うことができました。サミット開催中は朝から夕方まで、会場の外に出て上空を見上げるといつでもサシバの群れが飛んでおり、本当に幸せな時間を過ごすことができました。特に、ねぐらや休息場所である山から飛び立ち、山の稜線付近で数十から数百羽のサシバがタカ柱を作って次々と上昇する光景は、壮観で今でも忘れることができません。
空を覆うサシバの群れ
次回は、来年3月。サシバの中継地・越冬地であるフィリピンで開催されます。サシバの生息域である東アジアの各国や地域で保護や研究で活躍される皆さん、そして日本に戻る直前のサシバ達との再会を楽しみに、第4回のサミットにも参加したいと思います。
墾丁国立公園のサシバ観察展望台で、参加者のみなさんと