トップメッセージ 2023年7月

2023年7月3日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

仏沼にウズラを探して

当会のサンクチュアリでもある仏沼

梅雨の真っ只中ですが、鳥たちは元気に繁殖しています。5月から6月にかけて、私はNHKの『ダーウィンが来た!』のお手伝いで青森県の仏沼(ほとけぬま)に通っていました。

仏沼はオオセッカの日本最大の繁殖地として有名ですが、オオセッカ以外にもコヨシキリ、コジュリン、オオジュリン、ホオアカなど、草原の鳥たちがたくさん生息しています。また湿原の鳥であるクイナ類(クイナ、ヒメクイナ、シマクイナ)やサンカノゴイも生息しています。

もともと仏沼干拓地は1960年代に水田利用が目的で干拓されたのですが、農業政策が減反に方向転換した結果、使われないままになり、現在の広大な湿原が形成されたものです。仏沼のような湿地環境がまとまって残っているのは、国内でも他に例がありません。そこで日本野鳥の会は、1992年、全国の会員や支持者に呼びかけ、バードソン1992を開催し、このバードソンで集まった募金で、小面積ではあるものの、干拓地のヨシ原を買いとってサンクチュアリ(野鳥保護区)とした経緯を持っています。野鳥保護区の面積は小さいものの、当会が所有していることで干拓地全体の保全を促す大きな効果がありました。その結果、2005年11月には、アフリカのウガンダで開催された第9回ラムサール条約締約国会議で「ラムサール条約湿地」に登録され、現在に至っています。

青森県三沢市北部に広がる仏沼

青森県三沢市北部に広がる仏沼

コジュリン
コジュリン

コヨシキリ
コヨシキリ

懸念されるウズラの減少

けれど今回、仏沼を訪れたのは湿原の鳥を見るのが目的ではなく、ウズラ探しでした。ウズラは、昔は関東地域以北で普通に繁殖していたのですが、いつのまにか繁殖が記録されなくなった地域が増え、全国的に減少が指摘されるようになりました。近畿地方でも冬になると淀川の河川敷や信太山(しのだやま)草原などで越冬していたのですが、それが近年はとんとみられなくなりました。

狩猟統計ではウズラの捕獲数は1980年度前後には年間4万羽を超えていましたが、2006年度には500羽程度にまで減っていました。そこで環境省は2007年から一時的に狩猟を禁止していましたが、その後も生息数が回復しないため、環境省は2013年にウズラを狩猟鳥から外し、今後は特に保護が必要な「希少鳥獣」として扱うことにしたのです。

そのウズラですが、仏沼でも以前はみられなかったのですが、近年、姿が目につくようになってきました。沼の周辺部で水田が作られなくなり、田んぼからの水の供給が減少したことが乾燥化の原因だと指摘されています。

仏沼の気温は6月上旬でも早朝は10℃以下に下がることもあります。海からの風「やませ」が吹くと気温はさらに下がります。霧が発生して、沼全体が幻想的な光景に変わることもあります。そんな中、夜明けと共に、湿原はオオセッカ、コヨシキリ、オオヨシキリ、コジュリン、ホオアカなど、多数の鳥たちの歌声に包まれます。そんな鳥たちのさえずりの中、時折りウズラの「キョッキョルルー」という声が響きわたっています。

霧に包まれた仏沼

霧に包まれた仏沼

過去のメッセージ

プロフィール

日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

無理なく、楽しく、都市農村交流

サシバの里のグリーンツーリズム

6月、私の住む栃木県市貝町(いちかいまち)では、「サシバの里協議会」主催の三つのグリーンツーリズムのイベントが開催されました。この協議会は、町内の農業者、商工業者、道の駅、自然保護団体、役場などから組織されるまちづくり団体で、私が事務局を務めています。

一つ目は「サシバの里de農業体験」。私が運営するサシバの里自然学校(以下、自然学校)内の山あいの田んぼで、地元の農家の方に指導を受けながら、手植えで田植えを行ないました。作業後は、ドラム缶風呂に入ったり、タケノコ(マダケ)取りをやったり、初夏の里山を存分に楽しみました。

二つ目は「サシバの里さんぽ」。里山ガイドと一緒に、里山をのんびり散歩するというものです。4月から月1回のペースで町内の里山を回って開催していますが、今回は自然学校が会場でした。夏を思わせる暑い日差しを避け、涼しい雑木林の中の小径を歩いて山あいの田んぼへ。池や小川で、ガサガサしてメダカやドジョウ、フナなどを捕まえて皆で観察しました。

「サシバの里de農業体験」での田植え

「サシバの里de農業体験」での田植え

「サシバの里さんぽ」で雑木林を歩く

「サシバの里さんぽ」で雑木林を歩く

町を代表するイベント「サシバの里めぐり」

三つ目は「サシバの里めぐり」。こちらは、自然学校を含む6か所の家や団体が、庭や施設を開放して観光客に里山の暮らしや自然の恵みを生かした飲食や物販、体験などを提供するものです。午前中は雨模様で出足はやや低調でしたが、最終的に来訪者が延べ200人を超えて盛況でした。

この里めぐりは、静岡県内の山間部の集落で開催されていた「縁側カフェ」を参考にして、「縁側めぐり」と銘打って2017年6月に始まりました。その後コロナ禍で中止したこともありましたが、春2回秋1回の年3回のペースで開催し、最盛期には年間延べ1000人が訪れる町を代表するイベントになりました。今年からは施設なども含めて開催することになり、「サシバの里めぐり」に改称して15回目を迎えました。

三つのイベントともに、農業や自然、暮らし、風景と言った今ある町の資源を生かして、無理なく、楽しく開催して、都市と農村の交流を推進することを目的としています。

里山では、人口減少や農家の高齢化などに伴い、雑木林や農地が利用されなくなることによる生物多様性の劣化が問題となっています。この活動を通じて、町のファンを増やし、農林業の振興や関係人口、ひいては移住者の増加などにも結び付けて、里山の生物多様性の保全につなげていければと考えています。

自然学校も参加した「サシバの里めぐり」。町の資源を生かした都市との交流イベントに成長

自然学校も参加した「サシバの里めぐり」。町の資源を生かした都市との交流イベントに成長


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