トップメッセージ 2023年3月

2023年3月3日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

春の息吹に誘われて

ウグイスの鳴き出す季節

立春を過ぎ、ウグイスが鳴き出す季節になりました。皆さま、お元気にお過ごしでしょうか。

ウグイスというと、気象庁が生物季節として、各地のウグイスの初鳴きの日付を公表しています。地球温暖化でウグイスの初鳴きの時期が早くなっているということがよく言われますが、公表されたデータを見る限り、そんなことはありません。

そもそも温帯域における鳥のさえずりは、(長ったらしくてすみませんが)日長の変化が視床下部から脳下垂体に伝わり、甲状腺刺激ホルモンが分泌されて、甲状腺が活性化して、生殖腺刺激ホルモンが分泌され、精巣が大きくなって、性ホルモンが出て、鳴管の筋肉が大きくなり、さえずりが始まるのです。

自宅の庭に咲いた白梅

生物季節がずれた理由は?

けれど1953年から蓄積されている生物季節の古いデータの中で、1950〜1970年代の宮古島や先島諸島(石垣島、西表島)のウグイスの初鳴きデータを見ると、1月や2月の記録がほとんどです。1980年代になって、3月の記録が混じるようになり、2000年代になるとほとんど3月の記録です。先日、知人からなぜこれらの島の古いデータでは初鳴きが早かったのかと聞かれました。いろいろ考えてみたのですが、結局、納得できる説明は見つかりませんでした。

宮古・先島諸島ではウグイスは繁殖していません。そのかわり大陸からのチョウセンウグイス(将来は別種になる予定)と、北方から移動してきたリュウキュウウグイス(なぜ北方の個体群に「リュウキュウ」という名がつけられているのかはまた別の機会に!)が越冬しています。だから八重山の島々で早春に鳴くウグイスがいたのなら、これら越冬ウグイスなのです。

奥武蔵・東秩父の低山歩き

さて、この季節、天気がいいと梅の名所でもある、隣町の越生から飯能・秩父に連なる奥武蔵・東秩父の低山をよく歩いています。同じ山でも登山道がたくさんあるので、バリエーションを楽しめます(けど、道迷いにも注意!)。

ひとりで静かな登山道を歩いていると、シカやカモシカ、イノシシやアナグマと遭遇することもあります(クマはまだない)。春の花々が次々と咲き始めるのを見るのも楽しみです。

大高取山でであったカモシカ
大高取山でであったカモシカ
林道を歩くアナグマの後ろ姿
林道を歩くアナグマの後ろ姿

コロナ感染予防のためにも、野外に出よう

コロナも第8波が一段落し、政府もコロナウイルスの感染ランクをインフルエンザ並みにするという対応に向かっています。コロナウイルス、とくにオミクロン株は感染力が強いウイルスですが、基本的には三密環境に身を置かず、外の空気を吸う生活機会を多くすることが感染リスクを下げることにつながります。

野外では風があるし、人同士の距離も取れるので、感染して咳をしている人がすぐそばにいない限り、感染を心配することはありません。何より昼間は太陽からの強い紫外線があるので、空気中に放出されたコロナウイルスが多少あったとしても、あっという間に死滅してしまいます(私が実験したわけではありませんが、生物学者としての常識的な直感です)。探鳥会でもそろそろマスクを外しましょう。

今年も私たちは海洋プラスチック問題や風発問題、カンムリウミスズメ、シマフクロウ、タンチョウ、シマアオジの保護などに積極的に取り組んでいきます。日本野鳥の会への皆さまの温かいご支援、これからもよろしくお願いします。

傘杉峠にて

奥武蔵・傘杉峠にて

過去のメッセージ

プロフィール

日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

冬の公園で子どもたちとバードウォッチング

この冬、私が運営に携わるサシバの里自然学校の「生きもの塾」で、小学生たちを連れて近くの公園にバードウォッチングに出かけました。この公園は、里山を生かした自然豊かな公園で、中央に大きな池があり、それを取り囲むように雑木林が広がっています。そのため、水辺の鳥から山野の鳥まで、いろいろな野鳥が見られるバードウォッチングには最適の公園です。

生きもの塾開のようす

自然豊かな公園で「生きもの塾」を開催

水鳥の観察でウォーミングアップ

最初は池にいるカモなどの観察です。公園にいる水鳥は、あまり人を恐れず近くで見ることができるので、双眼鏡を使うのが不慣れな子どもたちにはうれしい存在です。尾の長いオナガガモ、頭が赤茶色のヒドリガモ、それを追いかける真っ黒なオオバンなど、少し説明すれば肉眼でも種類を区別することもできるので、子どもたちはいろいろな水鳥に興味津々。そして、少し遠くにいるカモについては、望遠鏡の出番です。光沢のある緑色が美しいヨシガモやパンダガモことミコアイサには、「きれい!」と歓声があがります。

ヨシガモ
光沢ある緑色の頭が美しいヨシガモ
ミコアイサ
「パンダガモ」の愛称を持つミコアイサ

「野鳥も人も地球のなかま」という思いを子どもたちに

次は池の周りに広がる雑木林を散策して、小鳥たちを探します。木立の中を混群で移動するシジュウカラやヤマガラ、エナガ、コゲラ、単独で地上を動き回って餌を探しているシロハラやルリビタキ。このころになると、何人かの子どもたちは双眼鏡の使い方にも慣れてきて、自分で野鳥を見つけられるようになります。

お昼を挟んでたっぷり5時間。お昼やおやつの時間は、芝生を走り回ったり、ふざけあったりすることもありましたが、それ以外はしっかり野鳥を探して歩くことができました。生きもの塾に参加する子どもたちは、文字通り生きものに興味がある子が多いのですが、ここまで野鳥に興味を持って、飽きずに見てくれると嬉しくなります。

私は、当会の創設者の中西悟堂の「野の鳥は野に」、そして会の理念である「野鳥も人も地球のなかま」という言葉が好きです。バードウォッチングを通じて、そんな思いを子どもたちに伝えて行けたらと思います。

望遠鏡を使って観察

望遠鏡で遠くのカモを見る。みんな興味津々。


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