トップメッセージ 2023年1月
2023年1月6日 更新
日本野鳥の会 会長 上田恵介
2023年のはじまりに
あけましておめでとうございます。
コロナもついに4年目を迎えましたが、皆さま、お変わりございませんか?
私は自分で言うのもなんですが、インフルエンザにもかからないほど自然免疫が強いと思っているので、多少のコロナウイルスを吸い込んでもかからないだろうと言う(科学的な?)確信を持っています。だから外ではマスクはしていませんが、一応、三密は避けつつ、人が集まる室内ではエチケットとしてマスクをして生活しております。
日常的には、立教セカンドステージ大学(シニア大学)のゼミ(週1回)や、NHKラジオの「子ども科学電話相談」(不定期)や朝日カルチャーセンター(月1回)での講師、役員を務めている諸団体の会合など、時々、都内に出つつ(もちろん当会の会長仕事もありますが)、その合間にbanding(鳥類標識調査)に行ったり、あちこちの山も歩きつつ、元気にやっております。
栗駒山にて
日本のガン類保護の立役者と
ところでみなさん、次の句はご存知ですか?
けふからは日本の雁ぞ楽に寝よ
「はるばると海を渡ってきた雁よ。今日からは日本の雁だ。安心してゆっくり寝るがよい」と言う、小林一茶の心優しい句です。
ガン類は明治期以降、主に狩猟により、その数をどんどん減らし、江戸時代にはたくさんいたハクガンやシジュウカラガンは、私が鳥を見はじめた60年前には、日本からは姿を消してしまっていました。その後もずっとマガンやヒシクイはまだ狩猟鳥だったのです。それが1971年に当会などの地道な運動が実って、狩猟鳥から外され、一気に天然記念物になりました。しかしその頃、ガン類の渡来地は宮城県伊豆沼と石川県の片野鴨池くらいしか残っていませんでした。
昨年10月の末に、仙台の伊豆沼と蕪栗(かぶくり)沼へ、久しぶりにガンを見に行ってきました。伊豆沼では「日本雁を保護する会」会長の呉地正行(くれち・まさゆき)さんにお会いして、一献かたむける機会がありました。呉地さんとは旧知の仲なのですが、これまではお互い忙しくて、なかなかじっくりお酒を酌み交わす機会がなかったので、とてもいい機会でした。
「日本雁を保護する会」は、昨年の7月に鳥類の保護や研究に優れた業績を残した個人や団体に贈られる山階芳麿賞を受賞しました。呉地さんたちの雁を保護する会の活動は日本における野生動物保全の事業では、まさに画期的な成功を収めた事例です。
私は昔、オーストラリアやニュージーランドでの、先駆的で鳥の行動や生態についての正確な知識に基づいた科学的な鳥類保護の取り組みを目にして、日本ではなんでこんなに保護事業がすすまないのだろうと嘆いていたこともあったのですが、日本の空にハクガンとシジュウカラガンをあっという間に復活させた呉地さんらの保護プロジェクトは世界的にも先進的な成功例と思っています。
次の日は、伊豆沼をあちこち案内していただき、シジュウカラガンやカリガネを見せてもらいました。呉地さんはこのあとジュネーブで開催されるラムサール会議で、湿地保全賞を受賞されるので、ジュネーブ行きの準備にお忙しい中でのご案内でした。どうもありがとうございました。
呉地さんたちの努力で個体数が増加したマガン(写真/PIXTA)
3年ぶり、対面での日本鳥学会で北海道へ
昨年11月の初めには、網走の東京農大オホーツクキャンパスで開催された日本鳥学会の大会に参加してきました。コロナ下での3年ぶりの大会で、全国から300人を超える鳥の研究者が集まり、久しぶりに対面で楽しく語り合うことができました。
その前日には釧路に行き、当会が運営する鶴居村の鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリを訪ねて、当会のレンジャーたちがタンチョウ保護に頑張っている話を聴くことができました。
学会の後は、中標津で獣医をやっている大学時代の同級生のN君を久しぶりに訪ねてきました。「おたがい、ええ歳になったなあ!」などと言いつつ旧交を温めました。翌日は野付半島を案内してもらって、オジロワシやコクガンの群れを見てきました。
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さて、日本野鳥の会はシマフクロウ、タンチョウ、シマアオジ、カンムリウミスズメ、オオジシギなど、今年も鳥たちの保護に力を尽くしていきます。マイクロプラスチック問題も深刻です。海岸や河川で、ゴミ拾いをするだけの活動で、問題が解決するわけではありません。基本的には製造者責任をはっきりさせて、作ったものは完全に回収する社会システムを構築せねばならないと思っています。それは日本、そして世界の石油依存の産業構造を根本から変えるということです。道は遠いと思いますが、国内外のNGO・NPOと連携して、地道に活動していきたいと思っています。
皆さま、今年も元気に楽しい活動を!
日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一
新年のご挨拶
クヌギの枝打ちで初仕事
あけましておめでとうございます。
私の住む北関東では、お正月は快晴の穏やかな日が続きましたが、みなさまがお住いの地域ではいかがでしたでしょうか。
コロナ収束の兆しは未だみえず、ロシアによるウクライナ侵略も続く中、天気とは異なり晴れ晴れした気持ちで新年を迎えることはできませんでしたが、気を取り直して、私はいつものように山仕事に汗を流しました。
特に今冬は、循環型の森づくりの実践として里山で育てているクヌギの枝打ちに取り組みました。植栽後4年ほどたったクヌギは、背丈を超えるほどに成長しました。いろいろとアドバイスをもらっている地元の製炭業者さんによると、あと3年もすれば茶道で使われる「菊炭」の原料として利用することができると言うことです。3年後が楽しみです。
自然共生サイトの先駆けとなる当会の野鳥保護区
さて話は変わりますが、昨年(2022年)12月に、国連の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)がモントリオールで開催されました。そこで、2030年までに世界が取り組む23項目の目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。その目標の柱は、地球上の陸と海をそれぞれ30%以上保全する「30by30」(サーティー バイ サーティー)です。
日本は国立公園などとして陸の20.5%、海域の13.3%を保護していますが、今回の合意に基づき拡大を進めます。その施策の中心となるのが、国立公園等の保護地域の拡張と管理の質の向上と共に、「保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM:Other Effective area-based Conservation Measures)」の設定・管理です。
当会では、野鳥の生息地の保護を目的として、土地の買取りや協定による独自の「野鳥保護区」の設置に取り組んでいますが、この保護区の理念はOECMに重なります。
当会の野鳥保護区の始まりは、1987年に北海道根室市のタンチョウ生息地7.6haを取得したことで、その後シマフクロウの保護にもこの手法を拡大し、その面積は現在、北海道内の保護区を中心に全国で約4000haに達しています。民間の自然保護地域としては国内最大です。また、自然環境の改変や立ち入りを厳しく制限し、保護区となったあとも環境の維持に取り組むなど、高い保護レベルを保っています。まさに野鳥保護区は日本が設定を目指すOECMの先駆けと言えるでしょう。
これからも、当会は地域の支部や野鳥保護団体、行政、住民のみなさまと手を携えながら、野鳥保護区をはじめとして、人と自然が共存する社会づくりに取り組みます。今年も、変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。